百田尚樹氏に沖縄タイムス編集局長が反論

武富和彦氏(以下、竹富):ただ今ご紹介に預かりました、沖縄タイムスの編集局長をしております武富和彦と言います。今日は外国特派員教会の皆様に、こういう機会を与えていただいて本当に感謝しております。

沖縄の新聞社として、沖縄県内で発行していて、沖縄の民主の声に関しては、沖縄県内では思い切り発信している自負はあるんですが、なかなかそれが日本本土には伝わっていない現状があります。その辺でジレンマを抱えている中、今回沖縄の2誌をつぶさないといけないという発言をなさった百田氏の言葉には非常に憤りを感じております。

琉球新報さんと出させていただいた共同声明にも触れたとおり、政権の意に沿わない新聞、報道は許さないんだというような言論弾圧の発想に関しては、民主主義の根幹である表現の自由、報道の自由を否定する暴言だと受け止めております。

ただ1番の問題だと感じているのは、百田さんの言葉を引き出した自民党の国会議員だというふうに思っております。「沖縄の世論をゆがんでいるとして、正しい方向に持っていくにはどうすればいいのか」という質問は沖縄県民を愚弄するものであり大変失礼だというふうに感じます。

新聞社に対して潰さないといけないと言われた以上に、「沖縄の世論がゆがんでいる」と言われた、沖縄県民を馬鹿にした発言だということで憤りを感じております。

安倍政権は沖縄を威圧している

武富:沖縄の民意というのは明確です。去年の選挙、県知事選とか名護市長選とかいろいろありましたが、全て自民党が応援する候補が負けました。

ある意味そういう結果が、沖縄の民意がゆがんでいるんだということを言いたいんでしょうけれど、そういう選挙結果、民主主義で最も尊重すべき選挙結果を否定すること自体が民主主義の否定に他ならないと思います。

安倍政権は昨年11月に当選した翁長知事と長らく会おうとしませんでした。やっと会ったのが今年の4月です。それまで安倍さんが言っているのが、普天間飛行場の辺野古移設に関しては、私たちは「辺野古新基地建設」というふうに呼んでいますけれど、「辺野古が唯一だ」という言葉を繰り返すだけです。

菅官房長官や中谷防衛大臣に至っては、「この期に及んで」だとか「粛々と」という言葉を使って、威圧するような形で沖縄と向き合ってきました。翁長知事から「上から目線だ」というふうに指摘されて、最近はその言葉も使いませんが、本音の部分では何も変わっていないと思います。

そういう安倍政権の姿勢が、今回の自民党の国会議員の発言に現れたというふうに思っています。

ここ数年、沖縄のメディアに対する自民党の攻撃的な姿勢は目立っています。沖縄が政権の意のままにならないことをメディアのせいにしている形ですけれど、「メディアが世論を操っている」というと、そういうふうな見方に凝り固まっていると、問題の本質を見誤ると思います。

沖縄には、国土の0.6パーセントしかない土地に、74パーセントもの米軍専用施設が集中しております。基地があるがゆえに、米軍機が自由に爆音をまき散らかして上空を飛び交う。道路も軍用車両が走る。事件、事故が多発する。戦後70年、そういう苦しみを沖縄は背負わされてきました。

今日に至って「これ以上の苦しみはいやだ」と声を上げたのにも関わらず聞いてもらえない。現在、世論調査をしても、政府が普天間基地の移設だと称する辺野古への新基地建設に対しては6割以上の反対があります。もちろん賛成の声もありますが2割前後です。

そういう意味で言うと、住民の意思は堅いものがあります。にも関わらず、その住民の意思を捉えて「ゆがんでいる」と。「世論がゆがんでいる」と言い放つのは、あまりにも無神経ではないでしょうか。

メディアが弱者に寄り添う意味

武富:戦後の沖縄には10以上の新聞社がありましたが、今日まで残っているのは沖縄タイムスと琉球新報の2つだけです。米軍の圧政下であっても、常に民衆の側に立った報道をしてきたということが支持をされて今日に至っています。

民衆の支持がないと、新聞というのは存続はできないと思います。沖縄の新聞社の報道は、新聞社が世論をコントロールしているのではなくて、世論に突き動かされて新聞社の報道があるというふうに思っています。為政者にとって都合が悪い報道だとしても、民衆の意見、民意をしっかり受け止めるべきだと思います。

「つぶさないといけない」というふうにターゲットにされたのは沖縄の2紙ですけれど、その発言を引き出したのは、繰り返しになりますが自民党の国会議員です。

彼らは「マスコミを懲らしめる」と言いました。自分たちの気に入らない報道、論説は許さないという、まさに報道の自由、表現の自由を否定する思考が根底にあります。この思想は沖縄2誌にとどまらず、いずれ全てのメディアに向けられる恐れがあると思います。

「マスコミを懲らしめるには、広告料収入が無くなるのが一番だ」と、広告を通して報道に圧力をかけるという発言があったために、日頃は主義主張の違うメディアも「言論封殺は許さない」という共通の認識で行動を共にしています。

これまで日本国内に漂っていた戦争につながりかねない危険な空気が、実は今回の国会議員の発言で、国民の目や耳に触れる形で表面化したことの意味は大きいと思います。名指しされたのは沖縄の新聞ですが、全国共通の問題が横たわっていることが認識できたかと思います。

沖縄タイムスは1948年に創刊されました。戦前の新聞人が「戦争に加担した」という罪の意識を抱えながら、戦犯的な意識を持ちつつ、戦後二度と戦争のためにはペンを執らないんだと。平和な暮らしを守り、作るという決意が出発点になりました。この姿勢は今日にも継承されており、今後も変わることはないと確信しています。

沖縄タイムス、琉球新報もそうですけれど、偏向報道という批判もありますが、沖縄タイムスの創刊メンバーの1人がこういうことを言っています。

「一方に圧倒的な力を持つ権力者がいて、一方には基本的人権すら守られない住民がいる。そういう力の不均衡がある場合に、客観公正を保つには、力の無い側に立って少しでも均衡を取り戻すことが大事なんだ」と。これが、沖縄タイムス創刊メンバーの言葉です。

この言葉は本土復帰の前の言葉ですけれど、沖縄の状況は今も変わらないものがあります。創刊メンバーのこの言葉は、今に通ずるものがあると思っています。

海外メディアに日本政府を監視してほしい

武富:普天間飛行場の成り立ちとか、基地の地主が金持ちだとか、そういう事実誤認に基づく百田さんの発言にもいろいろと言いたいことはあるんですが、それについては「社会的に大きな影響力を持つ作家が、事実関係も歴史的な経緯も知らずに発言することは謹んで欲しい」ということだけを述べて、最後に外国のメディアの皆さまに期待というか、お願いをして締めたいと思います。

外国のメディアの皆さんには、辺野古への新基地建設問題を契機に、沖縄取材をかなり頻繁にやっていただいています。そのことに関しては非常に感謝したいと思います。

日本は民主主義国家なのか、しっかり見て報道してほしいと思います。選挙結果には従うというのが民主主義の基本だと認識しますが、今の沖縄と向き合う日本政府の対応というのは果たして民主主義国家だと言えるのでしょうか。

沖縄で起きていることは、日本の他の地域でも今後起こりうることだし、米軍が駐留している他の国でも起こるかもしれない出来事です。米軍基地の問題では、もう一方の当事者であり、民主主義国家だと信じていたアメリカへの期待も非常に大きいものがありました。

しかし今のところ、日本において沖縄が置かれている差別的状況、選挙で民意を示しても一顧だにされない沖縄のことが、アメリカに十分伝わっているとは言いがたい状況があるのではないのかと思っています。

沖縄タイムスは、折に触れて英語訳を付けた特集を発行しています。これは沖縄の慰霊の日、6月23日。沖縄における組織的な戦闘が終わったとされる日に発効した新聞です。例年だと日本語だけで発行しますが、今年は英訳をつけました。

更に5月17日に沖縄県で県民大会がありました。「辺野古新基地ノー」という県民大会です。それも皆さんのほうにお配りしています。それも英訳を付けました。

以前にはケネディ駐日大使が沖縄にいらしゃったときに、英語の社説を一面に掲げたこともあります。日本国内で差別的扱いを受けている認識がありますが、日本政府に事態を改めるよう求めてもなかなか改善される兆しがない中、一種の外圧に頼る必要もあると考えています。

当事国の1つであるアメリカを中心に、より多くの方々が沖縄に足を運んで、沖縄を見て、沖縄の方の声を聞いて、沖縄の実態を肌で感じて、それぞれの国に向けて沖縄の今、沖縄県民の今を伝えてほしいと思います。以上です。ありがとうございました。

制作協力:VoXT