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DeNA守安社長が語る「スーパーサイヤ人理論」--死ぬ間際の状態を経験した人は成長する

IVS 2015 Springの本セッションを前に行われた特別インタビューに、株式会社ディー・エヌ・エー・守安功氏、株式会社プロノバ・岡島悦子氏が登壇。守安氏はDeNAが住友商事や任天堂など、多くの大企業とのパートナーシップを展開できる理由として、変化に対応できる柔軟性や、インターネット会社として蓄積してきた豊富なノウハウ、中で働く人材の強みなどを挙げました。

新たな事業領域に参入する意思決定

岡島悦子氏(以下、岡島):一方で、これは立ち入った話ですけど、ヘルスケアのところは(取締役の)南場(智子)さんがご家族の原体験みたいなものがおありで入っていかれたということだと思うんですけども。

その領域を決めるときには、誰かそういう強い思いを持った人が「ここは構造的におかしいぞ。うちでやりたい!」と言って(意見が)上がってくるものなんですか?

守安功氏(以下、守安):それは南場なのか、誰なのかにもよりますけど、やっぱり推進しようという人がいないとなかなか始まらないので、それが自発的に上がってくるのか、僕が担当を決めて、領域を考えてくれと依頼するのか。

岡島:それもあるんですね、なるほど。

守安:それもあるんです。そういう中において、いろんな領域が上がってきて、その中で産業の大きさとか、じゃあわれわれが何かできそうなのかとか。

あとは事業の種がないと、いくら「この産業は大きくて、変わっていきそうだね」と言っても具体的なアイデアがないと入れないので、そういう意味ではどういう産業がいいのかっていうのと、入るとしたらどういう事業からいこうというのが出てきて、それが経営会議で出てきて、揉んでいくという感じですよね。

岡島:そこをすごく伺いたいなと思っていて、おそらくDeNAさん、いろいろとモテモテじゃないかと思ってるんですよ。つまり、大企業さんがベンチャー企業の中では比較的組みやすい、信頼感を醸成しやすい。だから住商さんとか任天堂さんとか組んでいくという話があって。

一方では、中にいる方たちも非常に優秀で、実装する力もありそうっていう話でいうと、インバウンドで入ってくるものも、「こういうのやりたい」と内部から上がってくるものも、いろいろとあるんじゃないかと思うんですけども、その選別はどんな感じでやっていらっしゃるのか、可能な範囲で教えてください。

年内に10個のキュレーションメディアを展開する

守安:今おっしゃったように、今回われわれいろんな産業に入っていくにあたって、共創というテーマ。

岡島:Co-Creationというか。

守安:はい、それは既存の大企業の場合もあれば、ベンチャー企業の場合もあるんですけども、やっぱりわれわれの持っていない強みを持っていらっしゃる方と、われわれの強みを合わせてやっていこうということを中心に考えていまして、その中で、これまでわれわれいろんなパートナーさんと事業をやってきたので。

岡島:すごいパートナリング上手ですよね。

守安:結果的にそうですね、そういうふうにして事業を展開することが多いですよね。

岡島:意思決定はどういうふうに?

守安:いろんな種がありますと。社内からも上がってくるし、社外からいろんなお声掛けをいただけます。その中で、われわれゲームに次ぐ柱をつくろうと思ってやっているので、それなりの規模が。

岡島:インパクトということですかね。

守安:はい、大きなインパクトが目指せる領域なのか、その事業単体というよりは全体観も含めて、重視しますよね。そうすると、1つのアイデアというよりは、それが拡がっていくとどうなるんだろうと。

岡島:そうすると、iemoさんとかペロリさんとかを買われて、あれも特化したメディアというだけじゃなくて、横展開が見込めそうかどうかというところもあるんですかね。

守安:もともとiemoを買収するときに、これ僕が推進したものなんですけども、非常な勢いで伸びてる。いろいろ話を聞いていると、これは同じようなノウハウと横展開ができそうだ、と。

岡島:インテリア、ファッション……と。

守安:食とか。

岡島:まだまだあるんですか?

守安:今一応ね、女性ファッションでしょ、リフォーム……。

岡島:言えないのとか言ってくれるとうれしいですけど(笑)。

守安:いや、言えないのは言わないんだけど(笑)。あと6個くらいあって。

岡島:男性ファッションとかあります?

守安:男性ファッション、ありますよ。あと、食と旅と子育てみたいな。子育てはこの間始まったのかな。今6個やっていて、年末までに10個にするというので。

岡島:あと4つ。

守安:あと4つ以上ですね。

岡島:なるほど。逆に言うと、社内でそういうのやりたいですというのも、挙がってくるかもしれないですね。

守安:社内公募みたいなものをやっていますので、そこで手が上がって、やりたいというのがどんどん上がってきますし、あるいはベンチャー、スタートアップの方で「自分たちでやってるんだけど、一緒にやりたい」というお声掛けもいただくので、内部からつくってくものやインバウンドも含めて、ガーッとつくっていく。

大企業がDeNAと組むことのメリット

岡島:社内での意思決定は、今おっしゃったインパクトであるとか、いろんな観点で順位付けをされて、きっと全部おやりになれるわけじゃないので、それからやる。一方では、外から入ってくるものもたくさん来てるというお話なんですけども、外からそれだけいろんなお話が来る理由はなんですか?

守安:いくつかあると思うんですけども、特に既存の大企業はそうだと思うんですけども、インターネットに対応しなければあかんと思ったときに、なかなか内部でそういう人材がいない。

岡島:しかもどこからやっていいかよくわからない。

守安:これ、われわれインターネットの会社で、そういうコミュニティにいるとどこでもそんなに難しくなくできるんじゃないかと思うんだけども、これがやっぱり相当難しいとおっしゃる会社があるので、今後の時代を考えるとインターネット化していかないといけないんだけども。自分たちじゃできないよね、餅は餅屋に任せようというところが増えてるんですよね。

それだけならいっぱいあるじゃん、って感じなんですけども、特に任天堂さんや住商さんの場合はそうですけども、ある程度の規模のある会社だと、自分たちの基幹になるサービスだと、ちっちゃいところだと怖いですよね。ある程度体力のある所じゃないと、こわい。そうなると、名前を出すのはあれですけど、たくさんあるわけじゃない。

あと、もう1個の軸が、例えばヤフーさんとか楽天さんになると思うんですけども、当然そういうノウハウもあるし、人もいっぱいいますよね。でも話を持っていったときに、何かしようとなると、おそらく「楽天○○」とか「Yahoo!○○」とかになる。

岡島:ブランディング。

守安:はい。じゃあ、ブランド名称どうするんだとか、会員の帰属みたいな感じの話をすると、オプションの組み方は結構限られてくるんじゃないかなと。それに比べたら、われわれ、圧倒的な強いサービスがない裏返しでもあるんですけども、いろんな柔軟な組み方ができる。

岡島:黒子側でもいいですよと。

守安:岩田(岩田聡氏:任天堂元代表取締役社長)さんにも黒子って。

岡島:黒子って言ってないっていう(笑)。

守安:黒子って言ったか覚えてないんですけど、そういうニュアンスですよね。

岡島:一緒にやるパートナーとしては、自分たちが全面に出なくてもいいやっていうことで。そうすると、業界を変えていけるパートナーとしてやっていきたいと。

守安:そうすると、限られている。その上で、いろんな業態の業種の方とか、いろんな規模の会社の方とか、ある程度大人の……といえばあれですけど、いろんなプロトコルで会話ができて、っていうのを踏まえると、あんまりないんじゃないかなって。結構ユニークな立ち位置にいるなっていうのを最近思ってですね。

岡島:いいですね。しかも、これをやっていくと「あ、これやってるからDeNAさんと組むと大企業でも大丈夫だ」っていう前例にもなっていくので、ほかの方たちも組みやすくなっていくっていう。

守安:はい、安心していただける。

エンジニアのリソース配分

岡島:なるほどね、いいですね。一方で、実装していくときにはエンジニアもいっぱいついてらしてということで、DeNAさん本当にエンジニアが豊富というか、タレントプールになっていらっしゃると思うんですけども。

よくある話っていうのは、ゲームのところにもすごくいいエンジニアがいる、でも新規事業でもこのエースを使いたいと取り合いになる。こっちは新しいところだからおもしろそうだけど、まだ全然稼いでない。こういうリソース配分っていうのはどうされてるんですかね?

守安:最終的にはバランスを見ながら決めていくということにはなるんですけども、これも企業の文化で、エースから抜いていくみたいなことをやるんですよね。

岡島:なるほどね。

守安:それによって、その下にいて、本来エースがいると育たない人間が持ち上がってくるというのを経験しているので、そういう意味でそれをみんな文化としてわかっているので、「何か新しいことをやるよ」というと、「じゃあ、出そうか」とか。

あとは社員のキャリアを考えた場合に、ウィルを早くして、「こういうのをやってみたい」という人がいればそこにあてようかとか、比較的そこはうまく進んでるかなと思います。

岡島:いいですね。2種類の会社さんがあって、コロプラさんなんかも「できる奴はどんどん動かしていく」って感じですけど、いくつかのベンチャーさんはそういう話を聞いて、エースを抜くとここ(抜かれたチーム)がずぶずぶになっていって、今までの収益の柱が落ちていく、みたいな感じもあるので。その意味では次の層、その次の層もタレントプールがいいんですね、DeNAさんは。

守安:うちも業績は落ちてるんでアレですけど、それでもやっぱりその下は頑張るんでね、何とかしていこうという文化でずっとやっているので、みんながマイナスになるというよりは、それで何とか頑張っていこうと。

岡島:しかも、サービスをつくるときにも、エンジニアわりとカツカツにして、飢餓状態にするというか、あまりたくさんつけないんですよね。

守安:そうですね。特に新しいものの立ち上げは、大企業さんでやるときは、ゼロベースでやるときよりちゃんとしないといけないこともあるんですけども。

とはいえ、いきなり何十人もかけて、SI(システムインテグレーション)っぽく要件がちがちに固めて、つくるかっていうとやっぱりそうじゃないので。そうなると少人数で、エンジニアがサービスまで考えてつくっていこうよと。

岡島:サービスも一貫してつくる。大体、エンジニアの方と企画の方が?

守安:エンジニアと企画、当然セットになるんですけど、僕はやっぱりエンジニアは言われたものをつくるんじゃなくて、どういうサービスにすべきかとか自分で考えてくれと。エンジニアが考えたほうが早いんですよね。

岡島:それは守安さんの経験からよくわかってるっていう。

守安:はい。

岡島:説得力ありますよね。

守安:考えて物つくって、自分でやったほうが早いんですよ。ある一定の小さいところっていうのは本当に少人数でやったほうが絶対早いので。

岡島:自立的に「こういうのやりたいです」「じゃあ、やってみなさい」って言って、上がってくるものもあるんですね。

守安:はい。

岡島:なるほど。

現場から上がってくるサービスの成功事例

守安:あとは、さっきの意思決定のところで、全部上で決めているのかっていう話題があったんですけども、実は大きな投資をするだとか、この大きな産業にいこうとなるとそうなんですけども、ある領域の中でいろんなチャンスってあるじゃないですか。その中で、そんなにお金をかけないでできることもあるので。

岡島:さっきのキュレーションメディアの横展開などはそうですよね。

守安:はい。投資額も少なくて、リソースもそれほどかからないものは、どこかで決済するというよりも、現場で立ち上がってきて、いつの間にか始まっているみたいなのもあります。

岡島:のろしが上がるみたいな(笑)。

守安:そういうのがね、上がって成功すればうれしいですよね。

岡島:いいですね。そうやって上がってきた事例でおっしゃれるのはあるんですか?

守安:そうやって上がってきたのは、それこそ僕が前作ってたモバゲーとかアフィリエイトとかそんな感じだったんで。

岡島:なるほど。それはご経験上、さっきの大きい領域はそうですけど、上で「こういうのやってね」と言うよりも、さっきのエンジニアの方が主体的に「こういうのつくりたい」という思い入れを持って進めてきたもののほうが筋がいい……。

守安:いや、よくわからないじゃないですか、やってみないと。

岡島:よくわからないですよね。

守安:よくわからない中にボカーンっと投資するのは怖いんで。そこはある一定の投資金額を精査してやりましょうというのはありますけど、「よくわからないなら、つくっちゃおうぜ」みたいなのも。

岡島:やってみて、ある程度……。

守安:できそうであれば大きく投資をするし、ダメだっていうことなら早めに閉じるし。

岡島:一定のレベルになってきたら、マス広告をやるということも含めて、自然体のリソースをもっと使って。

守安:「これはいけるね」ってなってきたら、それは人も張るし、予算もつけて大きくしていこうぜ、っていう。

DeNAの人材が育つ「スーパーサイヤ人理論」

岡島:そういうふうに伺っていると、DeNAさんは業界の中でも人が育つ素地があるというか、ずっとみんなが修羅場に立てるっていう、成長の場がある感じがするんですよね。

守安:そうですかね。

岡島:まぁ本人たちは辛いんだと思いますけど。

守安:修羅場というか、僕はね、「スーパーサイヤ人理論」っていうのがあって。

岡島:(笑)。

守安:何度も死ぬ間際の状態を経験したと。でも死ぬってときに、仙豆を渡してあげると、そこでぐーんぐーんと。

岡島:一皮ぐっと剥けると。

守安:そうなんですよ。これ、うまくちゃんと話をしないと「それ、ブラックやんけ」と言われるんで(笑)。

岡島:(笑)。でも心肺機能が高くなってきますよね。

守安:個人的には失敗したら死ぬんじゃないかと。でも会社から見たら、死にやしないんですよね。

岡島:致命傷にならない。

守安:個人として死ぬんじゃないかというくらいの経験をすると、基礎能力が上がっていくというか、精神面も含めて、能力がやっぱり上がっていくと思うんで。

「永久ベンチャー」を掲げるDeNAの企業文化

岡島:なるほどね。他社さんとかともよく話してるんですけど、DeNAさんって人が辞めないよねと。離職率が高いイメージがなくて。それは社内にそういう成長の機会がたくさんあるからなのかな。

守安:いろんな事業をやっているので、「ちょっとこれ自分のキャリアと違うかな」と思っても、違うところにアサインするのが比較的しやすいというのはあるかもしれないですね。

岡島:現場にもある程度裁量が任されていて、いろんな揺らぎが、大企業と触れ合ってみたりとか。ちょっとオープンな感じですよね、クローズドじゃなくて。

守安:そうですか?

岡島:組み方としては。今流行りの複雑系、いろんなところにカオスがあるんだろうなっていう。

守安:提携の仕方もいろんなスタイルがあるので、柔軟に考えて「これを実現するんだったら、完全買収なのか、ちょっと出資なのか、提携なのかも含めて。

岡島:そう考えると、あまり怖いものなしですかね。

守安:いや、怖いものは特にないですけど(笑)。

岡島:(笑)。やっぱり皆さん、もっとアーリー系のベンチャーに若手が出て行くとか、マネジメントレベルの人引き抜かれちゃうとかあるわけじゃないですか。因果応報というか、自分たちも同じようなことやってきたから。そういう怖さもあまりなさそうな気がするし。

守安:でも、今スタートアップのブームなので、そういう意味では「自分でつくりたい。出たい」っていう人はいますよね。その中でも、われわれもいろんな事業をやるので、まず社内でそういうのができないのかと考えてもらって。

岡島:リソースあるから、本当は社内のほうがやりやすいかもしれないですよね。

守安:そうですね。何のためにスタートアップしたいのか。「新しいサービスをつくりたい」、それならうちでやってもいいんじゃないかと。

岡島:また説得、リテンションするのうまそうですもんね。

守安:そんなことない……(笑)。

岡島:なんかすごく口が上手な方たちがいっぱいいる気がするので。

守安:そんなことないです。

岡島:「うちでやったほうがいいんじゃない?」っていう武器もたくさん持っていらっしゃるから。

守安:それで、じゃあやりましょうっていう人もいるし、やっぱりうちでやる領域じゃないよねと。だったら、外に出ても応援するよって感じになりますよね。

岡島:ファンドで出すというようなことも、おやりになれるということですよね。

守安:はい。

岡島:永久ベンチャーみたいなこともおっしゃっているので、皆さんのお悩みっていうのは、ある程度のところまでいくと、だんだん大企業的になってきて、持続的に非連続の成長をしていくということが徐々に失われていく。そこをDeNAさんは超えている感じがするんですよね。

守安:そこはね、本当はね、1つのサービスでずっといけばいいんでしょうけどね。そのほうが楽ですよね。

岡島:そんなことないですよね。今のビジネスモデルの短命さからすると。

守安:やっぱりビジネスのサイクルがある程度とすると、新しいものをつくっていかないといけないし、つくり方もそのときどきで変わっていくので、考えてトライしていかないといけない。

岡島:PDCAはすごく回していらっしゃる感じですよね。高速回転な気がする。

守安:とりあえずね、チャレンジしないことには何も生まれないので、そういう意味では失敗もいろいろ経験してますけど、いろいろやってますね。

岡島:なるほど。最後に、総括的にコメントというか、メッセージがあれば、お願いします。

守安:今本当に、ようやく日本のアプリでもヒットが出てきて、世界でも、特に中国でうまくいき始めて、かつ任天堂さんともパートナーシップを結んで、ゲーム事業がダウントレンドから何とかなりそうだというのが見えてきて。

新規のところも、ヘルスケア、自動車含めていろんなものを張り始めているので、非常におもしろいフェーズにあるんじゃないかなと思ってますので、何とかゲーム事業をその次の柱というのをつくっていきたいなというふうに思っています。

岡島:今日はありがとうございました。

守安:はい、ありがとうございました。

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