生命の起源の研究が火星探索につながる?
宇宙全体の生物を扱う学問、アストロバイオロジーの魅力

生命の起源に魅せられて: 藤島 皓介 at TEDxKeioSFC #1/2

SFCで分子生物学と進化生物学を学び、生命のシステムに興味をもったのが始まりだったと語る藤島皓介氏。彼は、アストロバイオロジーのテーマの1つである「私たち生命はどこから来たのか」というシンプルで壮大なクエスチョンについて研究を重ねています。そして、昔のシステムからの研究で「タンパク質ワールド仮説」を生み出しました。様々なことに好奇心をもった常識にとらわれない思考が心に残るスピーチです。(TEDxKeioSFCより)

スピーカー

小さい頃はすべてが未知

藤島皓介氏:皆さん、こんにちは。皆さんは小さい頃、夜空を見上げて、そこに瞬いてる星たちに「宇宙人はいるか?」とか考えたことありますか? 

そういった、小さい頃に抱いた、未知たるものに対する好奇心。これはいつの時代も、私たちのロマンを駆り立てるものです。小さい頃は、周りの全てのものが未知でした。

だからこそ、経験するものは全て新しく感動に満ちていたはずです。僕も小さい頃は、冬の寒い日に、母と自転車の上にちょこっと座って、2時間も工事現場のショベルカーだけをじーっと見ていたそうです。でも、いつの日か私たちは歳を重ねるごとに、そういった新しいものに対する発見の感動とか、そもそも、そういうことを見つけてみようという行動力。そういったものが徐々に失われているのではないでしょうか? 

そう考えると、実は私たちが考えている常識は、重力のようなものかもしれません。

というのは、私たちの知識・経験値が増えれば増えるほど、常識という枠がどんどん大きくなります。そうすると、その常識という名の重力に束縛されて物事を考えてしまいがちになってしまうのではないでしょうか? 

現在、サイエンスの世界では、常識にとらわれない発想というのが非常に重要です。研究者は特に、教科書に書かれてある物事を読んで習得するだけではダメです。その知識を利用して、そこから新しい知を生み出して、常に教科書を書き換えていく必要があります。そのために最も必要なことは何か? それは私たちが本来もっている好奇心なのです。

アストロバイオロジーの3つのテーマ

私は現在、「アストロバイオロジー」、宇宙生物学という学問に非常に興味をもって取り組んでいます。アストロバイオロジーには3つのテーマがあります。

1つ目は「私たちはどこから来たのか」「私たち以外に生命はいるのか」、そして「私たちはこれからどこへ行くのか」。この3つの柱というのは、宇宙における生命の起源と進化。分布、そして未来を真剣に考える、そういった学問なんです。

私は特に最初のテーマである、「私たち生命はどこから来たのか」について真剣に考えています。この一見、シンプルなクエスチョン。突き詰めてみると非常に奥が深い。この壮大なミステリーをどうやって解いていくのか。そのために必要なのは、自分の好奇心をフルに活用して様々な知識を習得し、それを総動員して解いていく。そういったことが必要になると思います。

実際に私が、この生命の起源に興味をもったきっかけっていうのは、実はここなんです。SFCで、私が分子生物学と進化生物学を学んでいたとき、生命のシステムというものに非常に興味をもちました。現在、46億年が経った、この地球上に様々な生物が繁栄しています。例えば、私たち人間、動物、植物、あるいは昆虫。海や温泉の中に生きる微生物まで。

実は全ての生命というのは、たった1つのシステム、「セントラルドグマ」といわれるシステムを共通して使っているのです。このセントラルドグマとは、1958年に、DNAの二重らせんの発見者である、フランシス・クリックが提唱した概念です。DNAに書き込まれた遺伝子情報がRNAという分子にコピーされ、RNAに書き込まれた情報を元に、タンパク質ができる。この一連の流れをセントラルドグマと呼びます。

全ての生命。30数億年前に存在していた、共通の祖先から現在に至るまで、このセントラルドグマというものを脈々と受け継いで来たわけです。ですが、やっぱり生命の起源のことを考えると、「これ以前にどういうシステムがあったのか」ということに興味があります。

未だ残る昔のシステムの名残からの研究

ですが、残念ながら、それよりも以前の生物は、全て絶滅してしまったと考えられています。では、もう打つ手は無いのか。そんなことはありません。現在の生命の仕組みをよく見てみると、実は昔のシステムの名残が残っているのです。

実は1980年代に入って、この中央にあるRNA。この遺伝情報の運び屋の専門だと思われていた分子が、自身が折り畳まれることによって、タンパク質のように、触媒反応を担えるということがわかりました。また一方で、RNA自身はDNAと非常に似ているので、遺伝情報の格納庫としても機能することができるわけです。

つまり、このRNAという分子だけで、このセントラルドグマの概念を全てカバーすることができるということから、実は、生命はRNAのスープから生まれたんだという、「RNAワールド仮説」というものが現在幅広く支持されています。

ですが、実はこのストーリーには大きな落とし穴があります。RNAの最小単位であるヌクレオチドという分子が、どうやってできたのかというのは未だに大きなミステリーなんです。このヌクレオチドの構造を見てみましょう。

ヌクレオチドの構造

生化学的な観点から見ると、この分子は、実は非常に複雑だということがわかります。ヌクレオチドは、塩基と呼ばれる部品、糖と呼ばれる部品、そしてリン酸。この3つの部品から成り立っています。個々の部品というのは、実は隕石の中だったり、あるいは原始地球を模倣したような環境の中から少量だけ見つかっていますが、この3つの部品を全て組み合わせたヌクレオチドを作るのは、非常に困難であることがわかっています。

さらに問題なのは、ヌクレオチドは私たち生命に必須な水の中で実は不安定なんです。分解されやすいんです。ということは、このヌクレオチドが原始地球において、分解されずにさらに繋がっていって長いRNAの鎖を作ったとは、なかなか考えにくい。

では原始地球において、このヌクレオチドの合成だったり、伸長反応を担える他の分子は無いのか、と考えると、一番最初に思い付くのはタンパク質。そしてタンパク質の基本構成因子である、アミノ酸なんです。このアミノ酸の構造を見てください。

タンパク質ワールド仮説

ヌクレオチドに比べて、非常にシンプルです。さらにこのアミノ酸は「脱水縮合」といって、周りから水が無くなると、触媒反応無しにアミノ酸同士で繋がって、短いタンパク質の鎖、ペプチドを作ることができるんですね。

ということは、原始地球において、実はこういった、アミノ酸が繋がってできたペプチドが最初にあって、そのペプチドがRNAをあとから作ったということが考えられないでしょうか?

実は、このアミノ酸はどれくらい自然にできるのか。私たち生命というのは、我々のタンパク質、例えば、筋肉だとか皮膚。そういったものは全て、20種類のアミノ酸を組み合わせて成り立っています。これらのうちいくつかが、例えば隕石から見つかるのか。

これまでの研究から、ここの赤の数字で示しているように、20種類のうちの一部のアミノ酸は既に隕石から見つかってるんですね。さらにおもしろいことに、ユーリー・ミラーの実験に代表される、例えば、原始大気の中でプラズマ放電をさせて、高エネルギーを与えて、無機物から有機物を作る。そういった実験でも、このアミノ酸の一部は、作られるということがわかっています。

これは何を意味するか。つまり、私たちの体を構成するアミノ酸の既に半分が宇宙空間に普遍的に存在しているということなんです。

ということは、こういったアミノ酸が、実は宇宙空間でできたようなアミノ酸だけから成るタンパク質が最初にあって、それがあとからRNAを作ったとしたら。タンパク質が最初にあった「タンパク質ワールド」。これが実はあったんじゃないか、というふうなことが考えられるわけです。

原子タンパク質を作る研究

そこで私は現在、実験室で合成生物学という手法を用いて、こういった原始タンパク質を作る研究をしています。方法はいたってシンプルです。

宇宙から見つかったアミノ酸だけを繋いだペプチド。このペプチドに対応するDNA配列を100種類ほどデザインします。DNAの合成は非常に簡単ですし、切ったり貼ったりするのが楽なので、DNAのパーツを試験管の中で組み合わせて人工的な遺伝子を作ればいい。そうすれば、こういったタンパク質が簡単に作れる。そういうわけです。

一つひとつのペプチドは、レゴでいうところのブロックのようなものです。つまり、一つひとつは単体では機能が無いかもしれない。しかし、そのブロックの様々な組み合わせの中から、ある一定の確率で機能を持ったタンパク質、レゴでいうところの、例えばお城や飛行機のような、意味のあるデザイン。そういったものが取れてくるはずです。

現在、研究室では、こういったブロックを10個以上繋ぐことに成功しています。100種類のブロックが10個以上繋がったときの組み合わせ数というのは、実は10の20乗にも及びます。

この途方もない数のタンパク質の中から、もしRNAの構成成分であるヌクレオチドを作るタンパク質が取れたならば、これは現在幅広く支持されている、RNAのスープからRNAが最初にできて、タンパク質ができて、セントラルドグマができたという「RNAワールド仮説」を、最初に実はアミノ酸があって、そこからタンパク質ができて、それがRNAを作って、最終的にセントラルドグマができたという「タンパク質ワールド仮説」に書き換えることができるんです。これが私が今チャレンジしているミッションです。

では、仮にこの「タンパク質ワールド仮説」があったとして、これは地球上だけで起き得たのでしょうか? そんなことは決してありません。先ほども言いましたように宇宙空間にはアミノ酸が普遍的に存在しています。

ということは、地球以外の環境でもこの「タンパク質ワールド仮説」をベースにして生命が誕生していても、おかしくないんです。例えば私たちの太陽系の中でも、そういった惑星の候補はいくつも存在します。

38億年前、火星には海があった

例えばこの惑星。既に勘のいい方はお気づきかもしれませんが、これは38億年前の火星です。当時の火星には海がありました。そして、この38億年前というと、既に地球上で生命が誕生していたとされています。

この当時の火星には、隕石がたくさん降って、アミノ酸もきっとそこに存在していたでしょう。そのアミノ酸のプールの中から火星生命が誕生していたとしても不思議ではないのです。

こちらの画像は、火星周回軌道衛生「マーズ・リコネッサンス・オービター」という衛生が捉えた、現在の火星の大地から染み出す水の画像です。既に海は干上がってしまいましたが、現在の火星の地下には大量の水が眠っていることが明らかになりました。

ということは、現在でもこの火星の地下にひょっとしたら火星生物がいるかもしれないのです。そう考えると、ワクワクしませんか? 

実際にNASAが今月、8月にマーズ・サイエンス・ラボラトリー、通称キュリオシティという火星探査機を着陸させました。このキュリオシティの目的の1つは、火星における有機物の探査です。私たち生命の元となる有機物があるかどうか。ひょっとすると、来年の今頃にはキュリオシティから「アミノ酸が見つかったよ」というニュースが届くかもしれません。

とにかく、この地球から遠く離れた惑星でも、こういった生命の起源や分布に関する研究・調査というのが既に始まっているのです。

人類はどこへ向かうのか

さて、話を少し戻しましょう。研究の中で出て来た合成生物学。実はこれは、アストロバイオロジー第3のテーマでもある、「私たち人類はどこへ向かうのか」ということに非常に密接に関わっています。

というのもNASAは2030年半ばまでに、人類を火星に送り込むという計画を立てています。実際に私たちの研究所では、人類の将来の火星移住計画の実現のために、研究を進めています。そのときに重要になってくるのが、DNAを1から合成したり、組み合わせたりする合成生物学です。例えば、あなたが火星に行くとしましょう。

どういった物を持って行くでしょうか? 食糧、水、エネルギー生産や住居のための資材。例えば、今1kgの物を宇宙ステーションに持って行くのに、数十万円掛かると言われています。それを火星に持って行くと、そのコストは桁違いでしょう。そこで私たちの狙いというのは、実は有用微生物。自然界にある、有用な遺伝子を組み込んだ有用な微生物を宇宙での生活に利用しようということです。

幸い、火星には二酸化炭素、水、日光があります。なので、光合成をする細菌や藻というのを火星上で育てることが可能です。ですので、こういった微生物に有用な遺伝子を導入して、例えば、食糧のためのビタミンを作るような藻であったり、酸素を効率よく生産する藻であったり、あるいは粘着性の高いタンパク質を作らせて、火星の土からセメントを作る。そういったことも可能になるのです。

将来的にはDNAの情報だけを火星に送信して、火星で一からDNAを合成して生命を作るというのも夢であります。

最後になりますが、私が伝えたかったことは、とにかく常識にとらわれない発想をもってくださいということです。地球から見た地球と、宇宙から見た地球というのは、全く違うものです。ですので、皆さんがもっている好奇心というフィルターを通して、身の回りにある、様々な素朴な疑問の中から、本当に取り組みたい、人生におけるテーマみたいなものを見つけていただければいいなというふうに思います。

本日はご清聴ありがとうございました。

<続きは近日公開>

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