世界的装丁家のチップ・キッド氏が語る、デザインにおける「わかりやすさ」と「わかにくさ」の使い方

The art of first impressions — in design and life

村上春樹の小説をはじめとした、有名作家の装丁を多く手がける、グラフィックデザイナーのチップ・キッド氏。彼はどのようにデザインを考え、決断を下してきたのでしょうか。キッド氏はデザインをする時に心がけていることは「明瞭さ」と「不可解さ」の使い分けだと語ります。彼が今までに手がけた表紙や広告を例に出しながら、デザインに込めたこだわりについて解説しました。デザイナーを目指す人、クリエイティブな仕事に従事する人必見のスピーチです。(TEDSalonNY2015 より)

不可解なデザインは解読したくなる

チップ・キッド氏:×××××、××××、×××××××、×××。何って言ったでしょう? はっきりしゃべっていないので、分からなかったでしょう。

しかし、十分説得力のある言い方だったので、少なくとも皆さんの興味を引けるくらい謎めいていたかなと思います。

明瞭か不可解か? 私はグラフィックデザイナーとして毎日の仕事の中で、そして、ニューヨーカーとして日常生活の中で、この2つのバランスを取っています。これは私を絶対的に魅了する2つの要素なのです。

ここに例を挙げてみましょう。

まず、これが何か分かる人は何人くらいいますか? そうですか。

では、これが何か分かる人は何人くらいいますか? 分かりました。天才チャールズ・シュルツ(スヌーピーでおなじみの漫画『ピーナッツ』の原作者)が線をもう2線加えてくれたおかげで、7つの線から感情豊かな命が作り出され、50年に渡って何億人ものファンを魅了してきました。

実はこれは、私がデザインしたシュルツの作品や芸術をまとめた本の表紙で、この秋出版予定なんですが、これが表紙の全てです。これ以外に印刷された情報や目に見える情報は何1つありません。

そして、この本のタイトルは「必要なものだけ」です。ですから、これは私がデザインを認知する時やデザインを作り出す時に、下さなければいけない決断の象徴のようなものです。

さて、明瞭についてですが。明瞭性は核心に触れます。率直で、正直で、偽りはありません。私たちは自分自身にこう問うでしょう。

(いつ明瞭になるべきか?)

さて、読めても読めなくても、このようなものはとても明瞭でなくてはいけません。明瞭ですか?

これは都会で見かける明瞭の良い例で、私は非常にこれを気に入っています。なぜなら、私はいつも時間に遅れ、いつも急いでいるからです。数年前に街角でこのメーターを見かけるようになった時、私はとても興奮しました。

ついに何秒で道を渡りきれば、車に轢かれず済むか、これで分かるようになったのですから。6? それなら渡れるでしょう。

(会場笑)

それでは、明瞭が陰と陽の陽だとして、今度は陰である不可解さを見て行きましょう。不可解さの定義はもっと複雑なものです。不可解さは解読されることを要求し、それが上手く作られている場合は、私たちはとても解読したくなるものです。

(いつ不可解になるべきか)

第二次世界大戦中、ドイツ軍はこれを解読するのに必死でしたが、出来ませんでした。

村上春樹の小説の表紙デザインに込めた思い

ここに、村上春樹氏の小説のために私が最近デザインした作品の例があります。私はかれこれ20年以上も、彼の本のデザインをしてきました。

今回の小説は、ある若い男性に4人の親友がいたのですが、大学1年目が終わると突然、何の説明もなく彼等に仲間はずれにされ、困惑するというものです。

友人の名前には、それぞれ色を意味する日本語が含まれています。そこで、アカ、アオ、シロ、クロとお互いを呼び合っています。多崎つくるは名前に色が含まれてないため、あだ名は「色無し」で、彼は今までの友人関係を振り返り、自分たちがまるで手の5本の指のようだったと回想するのです。そこで私は、それを抽象的に表現できるようなものを作りました。

しかし、実は物語の表面下ではもっといろいろなことが起こっており、この表紙の表面下でも様々なことが起こっているのです。4本の指は東京にある地下鉄の4路線に変わります。これは物語の中でとても重要になってきます。

そしてここに色のない路線が他の色のある路線を横切っていて、物語の中でも実際彼はそうすることになるのです。彼はそれぞれの友人に歩み寄り、彼等がなぜ自分を仲間はずれにしたのか、聞き出そうとするのです。

そして、これが私のオフィスの机に置いてある立体的な完成品です。この不可解な見た目が人々を惹きつけ、なぜこのような見た目なのかを解読し、理解したいと思ってもらえるよう、このような表紙にしたのです。

意味がありそうで、実は意味がない言葉のおもしろさ

(視覚的な言葉)

これは、もっと身近にある不可解なものを使う方法です。それはどういうことか? こういうことです。

(他のものに見せかける)

視覚的な言葉とは、ある物を別の物に使うことで、全く違うように見せる時に使う方法です。これは、デイビッド・セダリスのエッセイ本に私が使いたかった方法です。その時の本のタイトルはこうでした。

(あなたに必要な美しさの全て)

さて、これの何が大変かというと、このタイトルに意味は全くないということです。本の中のどのエッセイとも関連していないのです。著者の彼氏が夢の中で思いついたそうです。すごいですね……。

(会場笑)

普通なら、私はタイトルに基づいたデザインを考えるのですが、この本のタイトルはこれだけです。特に何の意味もない不可解なタイトルだけなのです。そこで私は考えてみました。

何か意味がありそうで、実は意味がないような短い文章をどこで見かけるだろう? と。それから間もなく、ある晩中華料理を食べ終わったらこれが運ばれて来たのです。

「ピンときた! 興奮が止まらない!」と思いました。

(会場笑)

かねてから、私はフォーチュンクッキーのおもしろいほどに不可解な言葉の表現が大好きでした。何かとても奥深い意味がありそうなのに、よく考えてみると全く意味はないんですよね。これなんかは「未来を無視することでどれだけのことを得られたか、知る人はほとんどいない」と書いてあります。……そうですか。

(会場笑)

しかし、この視覚的な言葉の方法はセダリスの本に活用できました。フォーチュンクッキーのメッセージがどんな形か皆よく知っているので、もうクッキーさえ必要ありませんでした。この不思議な表紙と大好きなデイビッド・セダリスの本なら、皆きっとおもしろいだろうと思うわけです。

("詐欺" エッセイ 著者デイビッド・ラコフ)

デイビッド・ラコフは素晴らしい作家で、彼は最初の本を「詐欺」と名付けました。なぜなら、雑誌の仕事でやったこともないことに挑戦させられたからです。

彼は細く背の低い都会的な男性なのに、GQマガジンからコロラド川でラフティングをするよう命じられ、やりきれるかを試さなければいけませんでした。

彼はそのことについて書きましたが、自分が誤解されているような、詐欺師になったような気になったのです。そこで私も、この本の表紙が内容を誤解させるような、そして読者に反応してもらえるようなものにしたいと思いました。

イラッとしながら書きなぐった文字が表紙に採用

その考えは、私をグラフィティへと導きました。私はグラフィティに心を奪われています。都会に住む人なら誰でもグラフィティを至るところで見かけると思いますが、どのグラフィティも全て異なるデザインです。

この写真はロウアー・イースト・サイドの歩道にあった変圧器を撮ったもので、異常なほど書かれています。これを見て「わぁ、なんて素敵な都会の飾りなの」と思う人でも、「これは違法な所有物の悪用だ」と思う人でも、1つ誰にでも共感して言えることは、誰にも読めないということです。そうですよね? ここに明らかなメッセージはありません。

これは地下鉄で私が最近撮った写真です。たまに多くの猥褻なものや、ふざけたものを見かける事がありますが、私はこれはとても興味深いと思ったのです。

このポスターはAirbnbのサービスが素晴らしいといったようなことが書かれていますが、誰かがマジックでそこに自分の意見を書き込んでいます。とても注意を惹かれました。

ここで私は思いました。これをどうやってこの本に適用しようかと。そこで私は本を手に取り、読み始め、この男は自分が言っているようなやつじゃない、詐欺師だと思ったのです。

そこで私は赤いマジックを取り出し、イラッとしながら表紙に堂々とこう書きなぐりました。

デザインは完成です。

(会場笑)

これが採用されたのです!

(会場笑)

著者も気に入り、出版業者も気に入り、このままこの本は世界へと出版されました。地下鉄でこの本を読んでいる人や、この本を持ち歩いている人を見ると、皆どこかしら頭がおかしく見えておもしろかったですよ。

(会場笑)

日の丸に込めた「危険」の意味

(“裏切り” 小説 ジェームス・エルロイ著)

ジェームス・エルロイは素晴らしい作家であり、私の友人でもあります。もう何年も一緒に仕事をしてきました。ブラックダリアやLAコンフィデンシャルといった代表作が最も有名でしょうか。

彼の最近の著書のタイトルが「裏切り」です。これはとても謎めいた言葉で、意味を知っている人もいれば、そうでない人もたくさんいるでしょう。この本は1941年のロサンゼルスが舞台で、日系アメリカ人の刑事が殺人の捜査をする物語です。

そこで真珠湾攻撃が起こり、それまでの彼の人生もすでに過酷であったにも関わらず、それを機に人種差別の問題が増えるのです。そして日系アメリカ人の収容所が早急に作られ、彼が殺人事件を捜査しようとする間にもたくさんの緊張状態や災難が降りかかるのです。

私は最初、これを文字通りに表現し、真珠湾攻撃をロサンゼルスのイメージに加え、世界の終末的な夜明けを街の地平線上に描こうとしました。そしてこれが、真珠湾攻撃の写真をロサンゼルスに組み合わせたものです。

編集長が「これもいいとは思うんだけど、もっと単純にしたらもっよ良くなるんじゃない」と言ったので、私はいつもそうするように画板に戻りました。しかしそれと同時に、周囲の環境にも目を向けました。私はミッドタウンの高層ビルで仕事をしており、

毎晩オフィスを去る際、外に出るためこのボタンを押さなければいけません。そうすると重いガラスの扉が開き、エレベーターへと行けるのです。ある夜、突然私はこれを見て、今まで考えてもみなかった見方をしたのです。大きな赤い丸、危険。

私はこれはとても明らかで分かりやすく、きっとすでに何億回も使われている方法だろうと思いました。そこでグーグルで画像検索をしてみたのですが、この様な本の表紙は他に見当たらなかったのです。これで問題は解決しました。

絵的にもっと興味深くなり、アメリカとロサンゼルスに日が昇るというアイディアが、より大きな緊張感を作り出しました。

イラストを用いた表紙

("飲み込む" 人間の消化器系見学 著者メアリー・ローチ)

メアリー・ローチは素晴らしい作家で、つまらなくなりそうな科学の研究を使い、彼女はそれをとても楽しいものにするのです。この時の場合は、人間の消化器系についてでした。私はこの本の表紙をどんなものにしたらよいか思案しました。

これは自撮り写真です。

(会場笑)

毎朝私は洗面所の薬品戸棚の鏡で自分を見て、自分の舌が黒くなっていないか確認します。黒くなければ、大丈夫ということです。

(会場笑)

皆さんも、ぜひやってくださいね。この時私は考え始めたのです。ここが私たちの消化器系への入り口ですよね? 皆さん同意してくれると思いますが、人間の口の実際の写真は、少なくともこの写真は、不快な感じがします。

(会場笑)

そこで、表紙にこのイラストを書きました。もっと見た目がよく、消化器系へ進入するならここからがいいと思わせてくれるようなイメージです。

(会場笑)

まぁ、ここまで言えば十分でしょう。

(不便な不可解さ)

明瞭と不可解が混ざるとどうなるでしょう? よくあることです。それを私は不便な不可解さと呼んでいます。

地下鉄に降りると、私はよく地下鉄に乗るんですが、桁のところにこんな紙がテープで貼ってあるんです。そこで私は「あーどうしよう」思うわけです。電車はもうすぐ来るし、私はこれがどういう意味かを解読しなければいけない。

ご丁寧にどうも。ここでの問題の1つは、必要だと思われる情報を彼等なりに区分しようとしているのでしょうが、正直全く出来ていないですね。これは私たちには必要のない不可解さです。

ここでは便利な明瞭さが求められています。そこで、趣味の範囲でですが、私がこれを作り直してみました。

内容は全て同じことです。

(会場拍手)

ありがとうございます。今でもMTA(メトロポリタン・トランスポーテーション・オーソリティーの略)からの連絡待ちです。

(会場笑)

実は、彼等が使っているより少ない種類の色を使っているんですよ。4と5を緑で塗ることさえ考えつかないなんて、本当ダメですね。

(会場笑)

最初に目に入るのが、運行に変更があるということ。そして、2つの文が冒頭、中盤、終盤と、分かりやすく何が変更され、どうなるのかを説明しています。こんなに簡単なんですよ!

(会場笑)

ダイエットコーラのキャンペーンにクレームが殺到

(便利な不可解さ)

いいでしょう。これは、私の大好きな不可解な物、包装です。

ターナー・ダックワーズがリデザインしたダイエットコーラ缶は、私にとっては正真正銘の芸術です。芸術品であり、美しい。私がデザイナーとしてこんなにも感心している理由の1つは、彼がダイエットコーラの視覚的な言葉を使っているからです。

書体、色、銀色の背景……そして冒頭のチャーリー・ブラウンの話に戻るように、必要不可欠な部分だけに削ってあるのです。どうやったら、それが何か分かるだけの十分な情報を提示しつつ、なおかつそれをすでに知っている人の知識を称賛出来るのか?

といった感じです。見た目も素晴らしいし、デリカテッセンのお店に入ったらいきなりこれが目に入ってくる……素敵だと思います。

そしてこれは次のことを………。

(不便な明瞭性)

更にがっかりさせるでしょう。少なくとも私はそうです。さて、もう一度地下鉄に降りますが、これが発売された後、これらの写真を私が撮りました。タイムズ・スクエアの地下鉄の駅です。

コカ・コーラが広告スペースを買い占めたようです。いいですか? 多分皆さんの中には、この話の続きがどんなものか知っている人もいるかもしれません。

「あなたは、ニューヨークへ引っ越してきた。服を背負って、お金をポケットに入れて、夢を見つめて。あなた、コーク(コカイン)してますね」

(会場笑)

「あなたはニューヨークへ引っ越してきた。経営学修士と共に、きれいなスーツ1着と、とても強い握手。あなた、コーク(コカイン)してますね」

(会場笑)

これ本当ですよ!

(会場笑)

柱だって全部使われてますが、こちらはヨーダモードに変わっています。

「コーク(コカイン)使用中」

(会場笑)

(失礼ですけど、私が何を使ってるって?)

このキャンペーンは大失態でした。消費者からの大反発を受け、すぐに撤去され、インターネット上ではこれのあからさまなパロディで溢れかえっています。

(会場笑)

それから、「してますね」の後の点はピリオドではありません。トレードマークなんです。よくやりましたね。

ちょっと普通じゃないですよね。どうやったらあんな謎めいて美しく、完璧な包装を作れるのに、メッセージを我慢できないほど、明らかに間違えられるのか、私にとっては信じがたいことです。

今日は、私の仕事において明瞭さと不可解さをどうやって使うのかという見識を、少しでも皆さんに知っていただけてよかったと思います。

多分これで皆さんも日常生活をもう少し明確にしようと思い直したり、もしくはもっと不可解になって、いろいろと共有しすぎないよう気をつけようと思い直した人もいるかもしれませんね。

(会場笑)

今日の講演で、皆さんに1つ覚えて帰って欲しいものがあるとすれば、これです。ぶらぶらぶら、ぶらぶらぶら。

(『判決を下だせ』著者 チップ・キッド)

×××××、××××、×××××××、×××。

ありがとうございました。

(会場拍手)

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