保育園を飛び出した保育士は、社会で何ができるのか
親への子育てサポートが世界を変える理由を語る

What can grown ups do to make the world better place? | Mai Ogasawara | TEDxShimizu

保育士の小笠原舞氏は、ある日、初対面の5歳児から「車、何乗ってるの?」といった質問をされます。そこで気付いたことは「子どもたちは社会の鏡である」ということでした。その後、彼女は子どもたちの未来、そして世界を変えるために、保育士の専門性を活かしながら社会をデザインする活動を開始します。スピーチの中で小笠原舞氏は子どもたちが自然な笑顔になる4つのルールを紹介。まずは、身近にいる子どもを笑顔にすること。そうすることで未来はよくなっていくのではないでしょうか。(TEDxShimizu2015 より)

幼児期の重要性

小笠原舞氏:みなさん、こんにちは。早速ですがこの写真、生まれたばかりの赤ちゃんの写真です。みなさんどんな気持ちになりますか? 私は見たときとっても幸せな気持ちになりました。

人はただそこに存在するだけで誰かを笑顔にすることができる。そんなことを、私は子どもたちに教えてもらいました。

でも、考えてみてください。ここにいるみなさん一人ひとりもきっと0歳のときがあったと思います。0歳でこの世に生まれ落ちて、そして広がる社会。どんな社会、どんな世界が広がっていたらみなさん嬉しいですか?

子どもたちの命のはじまりは、これからの未来のはじまり。私は保育士を通して、そしていま子どもたちと携わる中で、たくさんの気づきと学びをもらいました。今日はそれをみなさんとここでシェアしたいなと思っています。

幼児期の重要性について、これは文部科学省のホームページから取ってきたものです。

私は子どもたちと携わるなかで本当にこの幼児期の重要性を感じました。そしてこの重要性についてもっと多くの人と共有したい、もっと多くの人に知ってほしいと思っています。

さて、私は保育士をしています。保育士でこんなところに立っているんですけれども。ちょっと変わった道で保育士になりました。

大学で福祉を学んだあと、独学で保育士の試験の勉強をして資格を取りました。そのあと、保育士にはならずに一般企業に勤めて営業をしていました。

私と子どもたちとの出会いは18歳のときです。ハンディキャップを持った子どもたちのところにボランティアに行ったことからはじまりました。

そしてこの写真にあるようにネパールの難民キャンプの幼稚園に行ってみたり、働きながらも小学生たちと一緒にキャンプをする、そんなボランティアをしていました。

子どもたちと一緒に生活をしていくなかで、もっともっと子どもたちについて知りたい、この子たちの世界を知りたい、もっと人についていっぱい知りたいな、と思うようになったんです。そして、会社を辞めて保育士になりました。

保育士をしてみると、毎日いっぱい幸せでした。こんな風に子どもたちが立つようになるんだ。ご飯を食べるようになるんだ。トイレに行けるようになるんだ。

毎日、当たり前のことかもしれませんが、すごく素敵な発見をたくさんさせてくれました。

環境ひとつで子どもたちの人生が変わってしまう

保育士をやって少し落ち着くと、ふと子どもたちの周りのことが目に入ったんです。そんなとき、私はある気づきを得ました。

私たちのつくり出す環境ひとつで子どもたちの人生が変わってしまう。そしてその先に、子どもたちがつくっていく日本の未来が変わっていく。そんな風に保育士の仕事の重要性について気づいたんです。

でも、これって保育士だけだと思いますか? そうではなくて、私は、親御さんたちや社会をつくっているすべての大人たちがこういう風に意識をしたら何かが変わるんじゃないかなと思っています。

子どもたちは社会の鏡

さて、突然ですが今日車で来た方いらっしゃいますか? 何の車に乗ってますか? ちょっと突然聞いてみましたが、実はこんなことを5歳児の初対面の子に言われたことがあったんです。

正解不正解はないと思いますが、私はこのとき言葉が出なくてなぜかショックを受けました。そのときはわからなかったのですが、なぜショックを受けたのか、お家に帰って考えてみました。すると、気づいたことがありました。

子どもたちは社会の鏡なんじゃないか。そう思ったんです。

きっと、大人たちやこの社会の価値基準が子どもたちにとても影響している。そんなことを思ったときに、保育士としてできること、もちろんたくさんできることはありますが、この社会の影響力の大きさに私はすごく限界を感じました。

そしてさらに、このような言葉。よく聞くかもしれませんが。

例えば「うちの子、落ち着きがないのよね」と言う親御さんたちがいたときに、私は「好奇心旺盛でいろんなことにチャレンジして素敵な子ですね」と言ったのですが、なかなかこう、すとんと落ちない感じがしました。

もしかしたら親御さんたちも、何かの社会のプレッシャーからそんな風に思ってしまっているだけなのかな、なんて思いました。

またあるとき、電車に乗っていたときに、これよりももうちょっと厳しめの言葉で子どもたちに話をしているような方を見つけました。

そのとき、私はすごく心が苦しくて、子どもたちの心の声や、今思っていること、それはどこに行ってしまうんだろう? 誰が聞いてくれるんだろう? 

そう思ったときに、私は保育士としてもっと子どもたちに寄り添って、何か声を聞いてそれを発信できないだろうか。そんなことを思いました。

親への子育てサポートができたら、もしかしたら子どもたちの未来が変わるかもしれない。そして日本、世界が変わっていくんじゃないだろうか。そんな風に思ったんです。そして保育園を辞めて外に飛び出すことにしました。

とは言っても「どこの保育園ですか?」と当たり前に聞かれます。でも私はそうではなくて、保育園のその先の社会をフィールドにした保育士として、子どもみらいプロデューサーという新しい仕事をつくろうと決めました。

保育士の専門性を持って、子どもの未来を、もっと広く社会を変えていけないだろうか。そんなことを思って外に飛び出たんです。

そして転々といろんなコミュニティを渡り歩いているうちに、ひとりの保育士に出会いました。彼女もまた保育士として子どもたちの未来のことを真剣に考えて、社会を変えていきたいという強い思いを持ったひとりでした。

私たちはすぐに意気投合して、何か子どもたちのためにできないか、保育士やいろんな大人たちと子どもたちの未来について話すような会をしました。そしていまでは保育士2人で起業して会社をやっています。

保育士の専門性を活かし、社会をデザインしていく

私たちは保育士の専門性をフルに活かして、社会をデザインしていく。さまざまな企業さんやさまざまな方と手を取り合いながら、子どもたちにとって本当にいいもの、こと、人。そんなものをデザインしていけないだろうか。そんなことを日々考えて仕事をしています。

そして、私たちが大事にしている子どもは保育園の子どもだけではなく、この社会にいる子どもたち。そして日本を越えて世界、地球にいる子どもたちすべて大事な命です。

そんな子どもたちのために、私たちは保育士としてできることを発信しています。そんな社会デザインの1つの事例を少しご紹介させてください。

今、言ったように、保育士の専門性を少しだけおすそ分けできる場所をつくれないかなと思いました。それは保育園を越えていろんな方に、私たちが見てきたたくさんの子どもたちの良さやいろんなケース、そしてたくさんのご家族、それをシェアできないか。そんな風に思ったんです。

そこで大事にしたことがいくつかあります。まず子どもたち、特に乳幼児期の子どもたちはひとりで外に歩いて行くことができないので、親御さんたちが行きたいと思うような環境を設定しなければならないなと思いました。はじめに選んだ場所が、カフェでした。

大人も子どももお互い幸せな気分だったり、少しリラックスできたり。そんな環境をつくるためにカフェという環境を選びました。

そしてここで大事にしたことがあります。それは、大人も子どもも両方ともが学びがあったり楽しみがあったり何かリラックスできたり、素敵な気持ちになるような環境を設定するということです。

例えば、大人の人には私たちが育児相談をしたり、何かおいしいものを食べてもらったり、ちょっとだけ子どもと離れて少し自分だけの時間をつくってもらったり。

そんなことをするだけで親御さんたちはスッと心が楽になります。子どもたちの隣に笑顔でいられるような環境をサポートしようと思いました。

そして、子どもたちのほうはというと、こんな感じです。

まあ日常にあるもので設計をしているんですが、そこにもわけがあります。子どもたちは何もなくても遊びます。みなさん思い出してみると、子どもはいろんな場所にいますが、そこにあるもので遊びます。

それに近い環境をつくるために、あえてリサイクル素材など手に入りやすいもので構成しています。

ここで子どもたちが自分が表現したいこと、自分が好きな素材を知って自分らしく表現して何かをつくり出していく。もしくは何かで遊んでいく。

そんな環境をつくることを大事にしています。そしてお母さんお父さんたちにも遊びのヒントを持って帰ってもらえるように、お家でもできるような簡単な素材にしました。

今お話した設定がそろうと、こんな風に遊びが展開していきます。

これは初対面の子どもたちです。自分たちで遊びをつくり出して、つながりあって、楽しむ。周りにいる親御さんたちはそんなことを見て、何かを感じて帰っていく。そんな場所づくりをしました。

子どもたちが楽しんでいると、これはSNSの効果もあったんでしょう、3回めにして60家族が来てしまってカフェに入らなくなってしまいました。そこで私は考えました。どうしたらこれを続けていけるんだろう、と。そんなとき、またひらめいたんです。

子どもたちが住む世界=この社会すべて

子どもたちが住む世界はこの社会すべてだから、使っちゃいけない場所なんかないし、行っちゃいけない場所もない。いろんな場所でこれをやったらどうだろうか。

そんなアイデアを1つ、走りながら企画しながらそこにいる子どもたち、親御さんたち、そして保育士たちのいろんな声を聞いて形にしていくことにしたんです。

例えば公園ではこんな形で。

なかなかお家でこんなことできないと思います。それを思い切りやらせてあげられるように保育士の仲間たちに協力してもらったり、自由にできるようにごみ袋を着てもらって。

そんな環境をつくっています。でも先ほどの素材やルールや環境の設定など、基本的なものは一緒にしました。

ほかにも、こんな風に商店街で販売したり。あとはライブハウスで思い切り楽器で遊べるような環境をつくりました。

ここで、親御さんたちが周りにいるんですけど、やっぱり子どもたちは親御さんたちの自分の好きなことや連れて行ってくれる場所、そのなかで自分の世界を選択するというようなまだまだ小さい子たちなので、自分たちで外に出て選択肢を広げていくことはできないかもしれません。

ということで、家族まるごと自分たちではできない体験やなかなか外に一家族では行けないような企画を保育士たちと一緒にやっていくことにしたんです。

子どもたちが笑顔になる4つのルール

すべてのイベントで一緒のルールがあります。それをいまからご紹介します。たった4つだけしかありません。それが行われるとこんな風に子どもたちが自然に笑顔になります。

そうしていくと親御さんたちは何回も来ます。「うちの子ここに来るとすごく笑顔が素敵で、もっとこういう機会をつくってあげたい」とか「お家でこれをするにはどうしたらいいんだろう」とか、親御さんたちも今度は自発的に自分たちで考え始めるんです。そんなルールをご紹介します。

1つめ。大人だから子どもだからと決めつけないこと。大人も、できることもできないこともあります。同じように子どもも、できることもできないこともあります。

人間として同じです。なので、完璧な人もいません。だからこそ、ここはフラットで誰もが自分らしくいられる、ということを設定しています。

2つめ。頭ごなしに否定をしないこと。いまいろんなところで禁止事項が増えていますが、私たちがやるときには否定語を使わないようにしてもらっています。

もちろん危険なときには止めますが、走ってほしくないところを走っていたときに「歩いてね」と言うこともできるんです。私たちが発する言葉に注意を傾けてもらって、どんな言葉を子どもたちにかけるか、そこに意識をちょっとだけ置いてもらうことを2つめに置いています。

3つめ。まず共感すること。たぶんみなさんも経験あると思うんですが、子どもたちって大人がちょっと理解できないようなものをつくって自信満々で見せてきたりしませんか?

そんなときに「なにそれ?」っていうのか、それとも「ああ、なにか丸めてつくったんだね」というのか。共感してあげることで子どもたちはその先にいろんな説明をしてくれたり、いろんな世界を発信してくれるんじゃないでしょうか。

最後、4つめ。価値観を押し付けないこと。例えば、チューリップを黒で書こうとします。みなさん止めますか? もしかしたらその子はチューリップの影を先に書いたかもしれません。そういう風にしてちょっと大人が見守っていくと、また子どもたちの世界が広がる可能性が増えていきます。

たった4つだけです。子どもの隣で私たち大人がどんな風にいるか。どんな環境を選んで、どんなものを置いて、どんな言葉をかけるか。

それで、子どもたちは持っている力をどんどん外に出していくことができます。それが子どもたちにとって一番重要なんじゃないでしょうか。

さて、このあいだ実施したイベントを1つご紹介させてください。これはスカイプでフィリピンのストリートチルドレンの子どもたちと交流したイベントです。

日本側の3歳くらいの男の子でした。紙皿に洗濯バサミを付けてライオンをつくりました。「これ見て! ライオンだよ」と、向こうの子に見せたんです。

そしたら「本物見たことある?」と向こうの子は言いました。日本の子たちは「あるよ。動物園に行けばいるじゃん!」と言いました。すると、向こうの子たちは「僕たちはお金がないからライオン、見たことないんだよ」と、にこやかに明るく教えてくれました。

私はそのとき思ったんです。子どもたちは環境を設定してあげるだけで、遊びの先にこのように学びを得ていく。それこそが、学びの本質なんじゃないかなと思いました。

もし私たちが貧困のことやフィリピンのこと、ストリートチルドレンのことを伝えようと思っても、きっとライオンの話は出てこないと思います。

このときにはもしかしたら子どもたちは理解していないかもしれませんが、きっといつの日か、同じことを聞いたりとか何かのタイミングで、この日のことを1人でも思い出してくれたらいいなと思います。私たち大人の役割とは、そんな風にいろんな選択肢を子どもたちに与えることじゃないかなと思うんです。

遊びは人と人をつなぎ、人と世界をつなぐ

そして、この写真。みなさん何を感じますか?

子どもたちの視線、どこにありますか? これ、遊びと言いますか? 私たちはこれも遊びだと思っています。子どもたちはカラーセロファン1つでいろんな光の世界や、このようにコミュニケーションをとりながら人のことを知ったり、いろんなことを観察しています。

遊びの可能性というのをすごく感じているんですけれども、やっぱり何かをつくり出すことだけが遊びではなくて、子どもたちからすれば何かを掴むこと、何かを触ること、何かを壊すこと、すべて遊びなのかもしれません。

そういう風に大人たちが考えたら、もっと子どもたちの遊ぶ場、遊び方が増えていくんじゃないかなと思っています。

遊びは人と人をつなぎ、人と世界をつなぐ。子どもたちはこの世界に生まれ落ち、自分たちで遊びながらいろんな世界の扉を開いていくんじゃないかなと思っています。

さて、そろそろ最後になりますが、もう1つ私が1歳児クラスの担任をしていたときのことをお話します。1歳児クラスの15人の子どもたちのなかには、まだはいはいの子もいました。

そして、まだなかなかうまくおしゃべりができない子たちの集まりでした。でも、そこで起こったことに私はすごく心が動きました。

子どもたちは毎日、思い切り笑って、思い切り泣いて、思い切り人と喧嘩して。言葉がなくたって、人と人とがつながっていきます。そんな子どもたちの光景を見たとき、多様性社会ってもしかしたらこういうことを言うんじゃないかなと、本質の部分を感じることができました。

子どもたちはそういう力をもともと持っています。大人たちがどんな環境をつくるかで、そういう力がそのまま大きく育っていくか、それともそうでなくなってしまうか、決まってしまうのかもしれません。

もし、その力をそのまま伸ばすことができたら、きっといまこの地球にあるいろんな問題、差別や貧困や戦争やいろんな問題がなくなるんじゃないか。そういうことを彼らは教えてくれました。

その力を守っていくために、先ほど言った4つのルール、これは子どもたちだけではなくて、友だち、夫婦関係、そして家族、もしかしたら企業のなかでもそうかもしれませんが、大人だから、子どもだからと決めつけないこと。

頭ごなしに否定をしないこと。まず共感すること。価値観を押し付けないこと。ぜひみなせん、1つでもできれば、今日からやってみてください。

さて、最後になりますが、今日もどこかで新しい命がたくさん生まれています。みなさんはどんな社会を子どもたちにプレゼントしたいなと思いますか? そしてその社会はきっと私たちの幸せにもつながってくるんじゃないかなと思います。

今日は私のこのアイデアをシェアすることで、誰かが誰かのために何かできたり、少しでも気づきを持って一歩前に進んでくれたら、きっと未来はもっと良くなるんじゃないかなと思っています。

ご清聴ありがとうございました。

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