世界最後の秘境で見つけたもの

小野淳氏:こんにちは、株式会社農天気の小野と申します。今日は農業の話をします。農業の中でも、皆さんの暮らしのすぐ近くにある「田んぼ」や「畑」が私のフィールドです。「都市農業」と言われています。

私も20年前は大学生だったんですが、まずはそのときの話をさせてください。アマゾンでの話です。当時はアマゾンといったら、ドットコムじゃなかったんですね。

(会場笑)

当時アマゾンといったらこれだったんですね。「ギアナ高地」というところがありまして、アニメ『カールじいさんの空飛ぶ家』でカールじいさんが風船で飛んでいったところなんですけど。

「世界最後の秘境」とも言われてました。ここに誰も登ったことのない山があるらしいということで「ジャビテブイ」という山なんですけど、写真もないと。「じゃあ行ってみるか」ということで出掛けてみました。

アマゾンの奥地の町から、セスナで1時間くらいかけて、さらにエンジン付きのカヌーで1泊2日。アマゾンの最奥地です。そこで私たちは、大変衝撃的なものを目にします。こちらです。

ジャビテブイの麓にある小さな村に「原チャリ」があったんですが、この原チャリに「愛媛県今治市」って書いてあったんです。

(会場笑)

「俺たち世界最後の秘境に来たはずなのに、愛媛県かよ」と。この話にはオチがあるので次に行きます。

これは、ある国の国会議事堂です。国会議事堂の横に穴が空いています。

これは、セントラルステーション。電車が燃えてしまって、当然走っていません。

オリンピックスタジアムも燃えてしまっていて、周りは墓地に囲まれていました。これは、1998年のボスニア・ヘルツェゴビナ、旧ユーゴスラビアですね。紛争によって20万人の方が亡くなり200万人が難民になったと言われています。

世界はヘンテコリンだ

私は大学の卒業旅行でここに行きました。国の首都がこの状況ですから、人々の暮らしもどうなっているだろうと心構えをしていました。

そしたらですね、ものすごいウェルカムな感じだったんです。こっちは貧乏旅行なので、塹壕(ざんごう)とかに泊まりながら、野宿をして旅をしていたんですけども。

「お前、汚い格好してるな。パンおごってやるよ」とか、警官に呼び止められたと思ったら「いっしょに酒飲もうよ」とか言われるんです。

映画館では「忍者大決闘」という古い映画をやっていて「なるほど、この国は平和になっているんだな」としみじみと思っていたんです。ところが、この後に隣のコソボというところで、また紛争が始まります。最終的にはNATOが介入して、空爆にまで発展して、また多くの人が死にました。

先ほどのアマゾンで見た愛媛の原チャリにしても、ボスニア・ヘルツェゴビナの非常に和やかな人たちの争いにしても、私が思ったのはこういうことです。

「世界はヘンテコリン」だと。つじつまが合わないことだらけ。そのヘンテコリンに魅せられて、大学を出てからは、テレビの番組を作る仕事に就きました。

8年ほどやったんですけども、いろんなところに行かせていただきました。南アフリカのスラムに行ったり、ヒグマを追いかけたり。結構おもしろかったんですけど、何か物足りなかったんですよね。

テレビって、けっこう制限が多い世界で。たとえば、30分の番組だとCMを抜いて23分とかなんですけど。この23分の中で社会問題だったり、環境問題だったりを表現しようと思ったら「起・承・転・結」をキレイさっぱりまとめないと、全然意味が伝わらないんですよ。全然ヘンテコリンじゃないんですよ。ちゃんとしてるんです。

でも僕は、もっとヘンテコリンなことがしたかったんです。それに触れてしまった人が、何かに侵されてしまったかのように、世界に飛び出していくような。それで30歳でテレビの仕事を辞めました。

ブロッコリーの花の数は3万3千個

ようやく、ここから農業の話です。

(バッグから野菜を取り出す)

これ、何でしょう? 何でしょうって、ブロッコリーなんですけど。

(会場笑)

ブロッコリーって「ブロッコリーの花」なんですよ。つぶつぶの1個1個がブロッコリーの花のつぼみです。さて、この1本のブロッコリーには、つぼみがいくつあるでしょうか? わかります? 当てずっぽうでいいんで。

会場:2万とか?

小野:おっ! すごい、天才! 3万3千個なんですよ。これは3万3千個のブロッコリーのつぼみです。じゃあ、この3万3千個が一気に花開いたらどうなるか、見たことある方いらっしゃいますか? こうなります。

これ、実物のほうがもっとすごいです。写真だと半分も伝わらないですね。

これが何かわかる方いらっしゃいます? いない? 良かった。これね、大根の種なんですよ。大根も植物なので、当然花が咲いて、実ができるんですけども。想像したことがありますか? 大根に花が咲いて、実ができているところ。

しかも、この実はおいしいんですよ。かじるとシャキシャキで。でも、実に残念なことに、私がここでいくら「おいしい」って説明しても、写真を見せても、味は伝わらないんですよね。

日常生活にもヘンテコリンな世界は広がっている

何が言いたいのか? つまり、世界はヘンテコリンというのを伝えようと思ったときに、カメラをかついでアマゾンとかに行く必要はないということなんです。私たちの日常生活も、ちょっと脇道にそれただけでも、ヘンテコリンな世界は広がっていると。

しかも、このヘンテコリンを触ったり、口にしたり、体に刻むことができるんですね。よくよく考えてみると、皆さんの「心」とか「体」って何でできてますか?

これ(ブロッコリー)ですよね。毎日食べているこういった物で、皆さんの心と体はできています。つまり、これが皆さんを作っている原材料。しかし、先ほど聞いても皆さんがわからなかったように、私たちを作っている原材料を私たちはほとんど知らないんですよ。これは、けっこういいネタを見つけたなと思いまして。

ブロッコリーの種って、すごい小さいんですけど、その小さな種を地面にまいたら、それが大きくなって食べることができるって、よくよく考えたら不思議じゃないですか。

でも、こういう話を真面目にしようとすると、ついつい「食育」とか「土と触れる喜び」とか、何か説教くさいなと思うんですね。僕はそういうのは、あまりおもしろくないなと思いまして。僕の畑では、こういうことやってます。

(会場笑)

それから、ケバブを食べながらイスラム教の人たちと仲良くなったり。

畑にイケメンが集まったりとか。

どうですかね皆さん。たまには、人間以外と付き合ったほうがおもしろいですよ。

それから、田んぼで泥まみれ。田んぼを裸足で歩くと、爬虫類の背中を歩いてるような感じなんですよ。すごい気持ちいいです。でも、残念なことに泥が2、3日、耳からこぼれてきます。少し臭いです。そして、今年力を入れたいと思っているのが、こちら。

忍者プロジェクトを畑でやろうと思っています。「どこが農業なんだ」というツッコミが欲しいところですが。

うちの畑にくると、変な生き物がいて、変な植物があって、いろんな初めてがある。しかも、お腹が空いたら食べることもできる。そういった場所をこういうふうに呼んでいます。

「農園地」。

農園地というのは、野菜を育てるだけじゃなくて、いろんな世界との出会いを育てる場所だと思っています。それを全部引っくるめて、僕のやっている都市農業なんですね。「畑だからといって、野菜を育てなきゃいけないと誰が決めたんだ」というと、ちゃんとそうした法律があるんですね。

(会場笑)

畑では野菜を育てないといけないんですけども、こういうことやってもいいじゃないですか。皆さんどうですか? この日本に暮らしていて、日本ってちゃんとし過ぎているじゃないですか。そう思いませんか?

私は娘が3人いるんですけども、このまま日本で健康に育つと、すごく真面目でいい子に育っちゃいそうで、すごい心配しているんです。

(会場笑)

もっと、ヘンテコリンでいてもらいたいと。これ(ブロッコリー)が私たちの日常生活だとすると、その世界の周りには、ヘンテコな世界が宇宙みたいにワーッと広がっているわけですよ。そこに僕らの日常生活から、宇宙まで、ネジを回し込むように突き刺して、トンネルのような役割をする。

そういう、違った世界のトンネルになりたいなと思ってます。そういったものを、東京でたくさん作っていきたいなと思っています。

ただ、先ほどから何度も申し上げたように、こういったようなことっていうのは、喋りとか写真だったりということでは、半分も伝わらないと思っています。そういうのは、もっと伝えたいという気持ちがあったから、私は農園地をやっているので、ぜひ、畑に遊びに来ていただければなと思います。

もしくは、皆さん自身が、皆さんの日常生活のすぐ近くにヘンテコな世界を作っていただけたらなと。僕はそのほうが、僕の娘たちにとっても楽しいんじゃないかなと思います。

ありがとうございました。

(会場拍手)