年間80万頭の野生動物が殺される--女猟師による命の重さを伝える「けもかわプロジェクト」

「けもかわ」でつながる想い | Haruka Ino | TEDxMatsumoto #1/2

「有害鳥獣」と呼ばれる野生の獣たちをご存知ですか? 農業や林業に害をなすという理由から、年間約80万頭の鹿やイノシシが殺処分され、何にも利用されることなくただ廃棄されています。その現状を嘆いた女猟師の井野春香氏は、獣の命に感謝し「暮らしの中で大事に使っていく」ことを伝えるため、「けもかわPROJECT」を立ち上げました。命の尊さ、重さを伝える、あたたかなプロジェクトの紹介です。(TEDxMatsumotoより)

野生生物は年間約80万頭が殺される

井野春香氏:みなさん、こんにちは。まず突然ですがみなさん、この写真の景色がどこかわかりますか?

ここは、長野県の南信州にある村の風景です。この字、わかりますかね?

長野県民でも読める人は少ないかと思います。この字、実は「やすおかむら」と読みます。この泰阜村で私は暮らしています。この村で私が始めたことですが、「けもかわPROJECT~女猟師のおくりもの~」という題で、プロジェクトをやっております。

これを始めたきっかけはこの子でした。

この動物、知っていますか? ニホンジカです。私は高校時代、このニホンジカを高校で育てました。それがきっかけで、私はニホンジカが大好きになりました。

そして、鹿を好きになったと同時に、有害鳥獣という言葉を知りました。有害鳥獣という言葉をみなさんは知っていますか? 長野県では当たり前のように使っていると思うのですが。日本においていろいろな野生動物、鹿だとか、イノシシ、猿、クマ、いろいろな動物がいます。

いろいろな動物がいる中で、日本では田畑を荒らしたり、あるいは林業に影響を与えたり、いろいろな生態系に影響をあたえて大きな問題になっています。

そんな中で、大きな問題を与えている鹿やイノシシといった野生鳥獣を「有害鳥獣」とよんで、捕獲するように国から言われています。約80万頭、これは日本で1年間に獲られている獣の数です。

そしてその多くは、お肉として食べられることもなく、皮などを活用されることもなく、山に埋められているという現状がありました。私はそれを知った時とても衝撃的で、自分が大好きな鹿のために、どうにかできないかな? 何かできないかな? と思いました。そこで立ち上げたのがこのプロジェクトです。

獣×かわいい×皮で「けもかわプロジェクト」発足

みなさん「けもかわ」の意味、なんとなくわかりますか? 「獣、かわいい」と「獣の皮」この2つを合わせた造語が「けもかわ」という言葉です。「獣、かわいい」の「かわいい」には、昔もともと、言葉の意味としては、「不憫だ」とか「気の毒だ」といった言葉の意味があったらしいのですが、今は「愛らしい」、「愛おしい」といった言葉で使われています。

その「かわいい」、「愛らしい」、「愛おしい」を含んだ言葉の中に、「恵み」という言葉があります。この「恵み」といった言葉、「けもかわ」、「獣、かわいい」の中には、獣は山の恵みである、自然の恵みであるという言葉も含めて、意味としてつけています。

名前ってすごく大事ですよね。この「けもかわ」という言葉が、私の活動の1番最初にくる言葉です。なのでこの言葉を看板にして、いろんな人に自然と想いを伝えていっています。

そしてサブテーマでつけている「~女猟師のおくりもの~」。この言葉の通り、私は猟師です。私はこんな格好をしてますが、普段はこんなふうに指定のオレンジ色のベストを着て、オレンジ色の帽子をかぶって下はもんぺで、上は長袖を着て足は地下足袋を履いて、そんな格好で山に入っています。

これは泰阜村の猟師さんたちと山に猟に行った時の写真ですが、こんなふうに山を歩いて獣を獲ったりですとか、鉄砲を撃って獣をとる方法と、あとはこれ、罠で取る方法があります。

この罠は笠松式罠といって、泰阜村で多く使われている罠なんですけれども。こんなふうにワイヤーを罠の土台にかけて、ギュッと引っ張って罠をしめます。

そして、獣が歩いてくる道にこの罠を埋めて隠して、そこに獣が通ってくる、あの棒が獣の脚だとすると、獣の脚が入ったときにカシャンと締まって獲られるという仕組みになっています。私はこの方法で獣を今、獲っています。

日本の文化に根ざした「けもかわ」の歴史

そうして獲られた獣たち、南信州泰阜村では鹿が主には獲られるんですが、100年以上も昔からお肉を食べる文化がありました。実は今も食べ続けられているし、お肉を売っているところはたくさんあります。

なので、お肉をどうにかするといったことは私の中にはなくて、もっと別の形で、鹿のこと、有害鳥獣のことに関われないかなぁということを考えました。そして、気づいたのはこれです。

これは真っ白いのですが鹿の皮です。皮というのは、実は昔から日本の中で使われていて。これは手袋っぽいやつなんですが、昔からある武道、弓道ですね。弓道のこっち側の手につけて使う道具です。

こういったものですとか、あるいは鎧の中に使われていたり、あるいは尻皮(しりかわ)として山に入っていったり、いろんな形で暮らしの中にありました。つまり、「けもかわ」は日本の中に、昔から文化の中にあったものなんだなぁということを感じました。

獣の命を暮らしの中で大事に使う

大事にしているのは、「獣の命、いただきます」ということです。これを伝えながら活動しています。なので命を頂くということはやはり、暮らしの中で大事に使っていくことで伝えられるのかなぁということで、まず最初に作ったのはこちらの、今私もつけている名札です。

村の職員の人たちにこれをつけてもらっています。これは鹿の皮でつくったものです。ただ鹿の皮で作るだけではおもしろくないので、4つ合わせると村のマークができる、そんなものにしました。

そこにはきちんとメッセージも込められていて、村というのは小さな村で、やっぱり職員一人ひとりの力が重要で、村の人一人ひとりの力が大事なんですね。なので、そんな一人ひとりの力が合わさって村ができているんだよ、という意味でこのデザインにしました。

こんなふうなものを作ったり、あとはパスケースですね、これを作ったり。こちらは県の方の名札、そして携帯クリーナーストラップ、室内履きのスリッパ、ベビーシューズ、こんな暮らしの道具をいろいろと考えて作り上げていきました。

暮らしの道具、いろいろなものがあるんですが、今私が手につけているもの、こちらもその鹿の皮で作ったものです。見えますか?

これはさっき出したこの商品たち、これらは皮の綺麗な部分で作っています。野生動物なのでもちろん傷があったりとか、痛みがあったり、皮の厚さに個性があります。

それらの作った商品の端にできた皮、端切れで、私は「冬に手首が寒くなるし手が乾燥してしまう」「いろいろなハンドルを握ったときに滑ってしまう」あるいは「鉄砲を持った時に滑ってしまうかもしれない」ということで、

でも指先の感覚を残しておきたい、そんな思いから「あ、端切れでこういうふうに巻いたら、なんとなく手袋の形だね」ということで、この手袋を作ってもらいました。こうやって日常的に使っていたりですとか。

動物の皮でつくる楽器

あとはこちらですね。これ「ジャンベ」というアフリカの太鼓を参考にして作った太鼓なのですが、こちらはこういった皮とはまた違う方法で作られています。

この手につけている手袋や、画面に出ている商品たちは全て工場でなめされた、つまり柔らかくして、ちょっと成分を変えて、長く使えるようにしたものです。

こっちの皮は鹿から取った生の皮を、お肉を削いで、毛を抜いて乾かした、それだけのものです。昔からジャンベはヤギの皮で作られてきたのですが、これは猟師さんが、和太鼓を作る猟師さんが作ってくれた鹿の皮のジャンベです。ちょっと音を鳴らしてみます。どんな音がするか聞いてみてください。

(井野春香氏、ジャンベを演奏する)

こんな音がします。これは大きめの音なので、わりと低い音がしますが、こっちの小っちゃい太鼓ですね、小っちゃい太鼓は、こんな感じの音がします。

もちろん皮なので、場所によっていろんな音があります。生の皮なので、湿気がある日は緩んだりとか、あるいは音が変わったり、いろんな音を出してくれます。こんなふうに、音楽も皮で生まれていきます。暮らしの中を音と、あとはいろんな触った感じですとか、いろんなもので満たしてくれる、豊かにしてくれるものなんです。

命の大切さを伝える場を目指したい

これらを作っているのが村のお母さんたちです。私と協力隊の仲間2人、そして村の小さい子どもを持つお母さんたちに手伝ってもらって、今作っているんですが、これをお母さんたちにした理由、何でだと思います?

私は泰阜村に来て、というより長野県に来て1番感じたのは、男性と女性とでコミュニケーションの取り方が全然違うな、ということです。男性は、1番必要なのはお酒とおつまみ、これがないとコミュニケーションがなかなか取れません。本音が言えないんです。

女性の場合はお酒とおつまみはそんなに要りません。何が要るのかといえば、お茶とお菓子、あと漬物ですね長野県は(笑)。これがあると話が弾んでコミュニケーションがとれるようになるんです。

さすがに商品を作っていく上でお酒を飲みながらというのはいかないし、できるならば楽しい場でありたい。私は母親にもこれからなっていくであろう身です。たぶんなると思います。なのでそんな時に、きっと子どもが産まれたら子育てもしっかりやりたい、でも小さいときって保育園にもなかなか預けられないし、一生懸命やっぱり自分で子育てをしたいと思う。だから、たまに空いた時間で何かできるような、そんな仕事の場を作りたいな、と。

でも、ただ家に1人でこもってやるのもちょっと寂しいし、いろんなお母さんたちとワイワイしゃべりながらやれたら楽しいだろうなぁということを思ったときに、小さい子どもたちのいるお母さん、この人たちに手伝ってもらうのが1番いいだろう、ということにたどり着きました。

実際、今製作を、これ始めた頃の感じなんですが(写真)、

これは写真なので全く声は伝わってきませんが、これを作っている最中、ずっとお母さんたちはしゃべり続けています(笑)。私も一緒にしゃべるんですが、やっぱりまだしゃべり慣れていないので、つい手が止まってしまうんですが、お母さんたちはずっとしゃべりながら、しっかり手も動かして、しっかり仕事をしてくれています。

なのでこんな場を作ることで、子育てもできて仕事もちょっとできて、なおかつお母さんたちが楽しめて、子どもがそんなお母さんの姿を見て「けもかわ」のことを知っていく、命のことを伝えていける、そんな場ができたらいいな、ということを考えています。

「けもかわPROJECT」。今はまだまだ走り出しのプロジェクトです。できて2年しか立っておらず、ようやく仲間も増えてきたところです。お母さんたちが最初は1人、2人だったのが、3人、4人になって、仲間を呼んできて今は7人まで増えました。

猟友会のみなさんたちも、泰阜村だけで50人以上の方たちがいます。そして村の方達が応援してくれて、県外の方達も応援してくれて、そんなふうに今、広げていっています。これからきっと繋がるであろう人たちと、そしてきっと今ここで話を聞いてくれているみなさんもたぶん応援してくれるであろうと信じています。

「けもかわPROJECT」はこれから先、どんどん想いを伝えていくために活動をしていきますが、みなさんもどうぞ応援よろしくお願いします。そして、またお会いできる日を楽しみにしています。今日はありがとうございました。

<続きは近日公開>

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