インラインスケート世界大会王者の安床兄弟を育てた父

安床由紀夫氏:僕の名前は安床由紀夫といいます。どうぞよろしくお願いいたします。1956年2月生まれで、今59歳です。神戸で「"g" スケートパーク」というスポーツ施設を経営しております。16歳でローラースケートのプロを目指して以来、43年間ローラースケートに関連する仕事をしてきました。

今日はこれまで自分が経験したことや、そこから得た「テーマがある人生」ということについて話したいと思います。

僕の息子は「安床ブラザーズ」といいまして、長男が栄人で30歳、次男は武士といいまして28歳です。2人とも結婚していて、僕は(いまや)孫を持つおじいちゃんなんですけれども。

今から20年前の1994年に、アメリカで初めてのインラインスケートの世界大会が行われました。

翌95年に、まだ幼い息子2人をアメリカに連れていって、世界大会に参戦させたところから、僕の人生が始まったわけなんです。

その4年後の1999年、アメリカのサンフランシスコで行われた、この業界で一番大きな「X Games」という大会で、長男が金メダルを取って以来、16年間兄弟のどちらかが常に(大会の)トップに立つという結果を出してくれております。そのおかげで、僕は多分ここに立たせていただいているんだろうと思うんですが。

それでは、まず、彼らが(ローラースケートを実際に)やっているビデオを見ていただきたいと思います。

<映像開始>

<映像終了>

試合会場に行きますと、よく「どうしたら、息子を安床ブラザーズのような選手に育てられるのか?」と質問されます。

僕は正直言って(その答えが)よくわかりません。努力と偶然が重なった結果なんで「こういうふうにしたらこうなるよ」という(確固たる)答えを持ってるわけではないんですね。

目の前のことを一生懸命にする

ただ、モチベーション、いわゆる「勝とうとする意識」「頑張ろうとする意欲」というものについて、僕はその人の持つ価値観で決まるのではないかと思うんですね。

結局、ローラースケートの試合とか、お金にあまりならないわけです。もちろん賞金は何百万かは入りますが、それにしたってこんなに危険なスポーツです。そして大きな試合じゃなかったら、何十万、何万くらいの賞金しか出ないんです。

一方で「よし、やるぞ!」っていうモチベーションは、それまでずっと培った経験とか価値観がやっぱりそうさせるんだろうなと思うんですね。

息子たちがちっちゃい時から、僕がよく言っていた言葉に「今、目の前にある一番大事なことをしなさい」というものがあります。

もちろん、息子たちは学校に行かなきゃいけないし、友達と遊びたいというのも彼らの価値観の中にあると思うんです。

結局のところ「もうそんなことは止めろ。お前は世界一のチャンピオン、というより世界に通用するスケーターになるためにこれをせなアカンやろ」という僕の価値観の押し付けなんですよね。

僕は当たり前にそういうことをずっとやってきてまして、息子たちの意志の尊重とかほとんど無視してきました。

それこそ、思ったような結果が出なければ、学校があるなしに関係なく、夜通し朝まで練習させていましたから、息子たちは次の日学校に行けるはずもありません。そんなことをずっと繰り返してきました。

ある時、息子たちが大人になって、何回もチャンピオンになった頃に、テレビの取材でインタビューに答えたことがありました。

息子たちは「あの時は一番イヤやった。せやけど、アレがあったから今がある」と当時は思ったそうですが、結果が出たことに対して一応の評価もしていましたね。

だから、そこのバランスっていうのは、親がどう判断するか、当事者の子供がどう判断するかなのかなと考えています。もし結果が出てなければ、おそらく悲惨な安床家になっていたと思いますね。

未来のことはわかりません。でも、目の前のことを一生懸命にするという姿勢は変わらないです。

指導者は理屈や理論じゃダメなんですね。身をもって実践しなければ説得力はありません。こうして話を進めていると、つい「子供の育て方」というところにスポットを当てられがちなんですけども、重要なのは「子供をどう育てたか」ではなくて「育てた人間はどういう人物像なのか」ということなんです。

両者は似ているようで少し違います。安床ブラザーズからしてみると「親である僕という人間はどういう人間」かということが重要になってくるわけですね。

(一流の)選手を育てるには二つの環境を整備する必要があります。一つ目は練習する環境、二つ目はその成果を発表する環境となります。

練習する環境がより充実すれば、選手の実力も上がっていきます。でも、その成果を発表する場が一地域なのか、日本国内なのか、世界なのかで、選手のモチベーションは変わってきます。

だから「世界に連れていってやる」という環境を指導者が作ってやることが重要だと思います。

人生のテーマを持つことで、生きる目的がハッキリする

僕は22歳の時に大きな起点を経験しました。その頃はまだ独身です。大阪中央市場の魚屋で働いていたんですけども、僕は毎日朝1時に起きて、地方から来たトロ箱という魚の入った木箱をトラックからトラックへと積み替えるという仕事をやってました。単純労働ですがしんどいです。眠たいです。

そういう眠い、しんどい、つまらない仕事をずっとやってる時にはたと気が付いたわけです。「これ、自分のトレーニングにしよう」と。

作業服をジャージに、長靴をジョギングシューズに替えて作業に取りかかると、これまでみたいに「しんどいな」と思うようなことはなく、むしろ結構はかどるんですね。このように「仕事をトレーニングにしよう」という発想の転換で、かなり気持ちが楽になった経験があるんですよ。

ここで、皆さんに「テーマ」について考えていただきたい。テーマっていうと「テーマソング」とか「テーマパーク」とかいろいろありますが、辞書には「行動や創作などの基調となる考え」だと書いています。

僕自身は、(テーマとは)「こだわり」のことだと思うんです。1994年、38歳の時に、台湾の故宮博物院を訪れました。ここには、中国大陸の宝物がたくさん展示されてるんですけども、その中に象牙の一本彫りで「多層球」というものがあります。

多層球は、象牙の玉の中に(より小さい)珠が14個入ってるんです。どうやって作っているのかというのも不思議なんですが、なんとこれ完成までに120年かかってるんですよ。

もちろん、1人の人間が作れるわけもありません。何代も何代も何代も何代もかかって、この「象牙の1本彫り」という繊細な作品を完成させています。

それを見て「俺にもコレできへんかな?」と思い当たったのが、それまで16歳からずうっと続けてきたローラースケート(だったわけで)「コレや。よしっ、俺のテーマはスケートにしよう。スケートにこだわって生きよう」と思い定めることとなりました。

やっぱり儲かる仕事ではありませんので、辛いことも苦しいことも「もう止めようかな」と思うこともあります。

でも、そういう時も「スケートで生きていくんや」というテーマを持っていますから、頑張れるんですね。石にかじりついてでもみたいな感じですよ。

これじゃアカンって時は「どうやったらよくなるだろう?」って(頭をふりしぼって)考えるんですね。もし、自分にそういうテーマがなかったら「アカンなぁ、転職しようかなぁ……」ということに多分なってたと思うんですけど。

多層球というものを見た時に、僕は、自分のテーマというものがハッキリわかりました。おそらく、皆さんもそういうテーマを見つけて持っていけば未来が明るくなるんじゃないかと思います。

僕のテーマはスケートと言いましたけども「安床」という名字をいえば「あぁ、あの安床か」スケートといえば「おぉ、安床というのがおるな」と(いった具合に)、世界の皆さんが認知してくれればいいなと思います。

テーマを持つことで、生きる目的がハッキリします。困難な事が起こっても強く生きられます! ブレない! 人生が楽しくなるんです。

きっと皆さんの中にもテーマというものが探せばあると思います。きっと見つかると思うんです。皆さんも今一度振り返って、そのテーマを持ってどうぞ未来を明るく生きていただきたいと思います。

ご清聴どうもありがとうございます。