産み方は女性自身が決めるもの--900人以上の分娩を見守った産婆が語る、幸せな出産とは

How you bear is how you live - your choice: Kazuko Sako at TEDxKyotoChange

畑の中で未熟児の状態で生まれた直後に産婆さんに引き取られ、一命を取り留めた経験を持つ左古かず子氏。命の恩人の産婆さんのような働きをしたいという思いで助産婦になった彼女は、あたたかくて自然なお産を実現すべく、助産院を開業。その後はブラジルで助産婦教育を行うなど、日本のみならず、海外でも助産に関するさまざまな活動に取り組んできました。左古氏はスピーチの最後に「産み方は自分自身で決めて良い」と、女性や家族に向けて語りました。(TEDxKyotoChange2012 より)

畑の中で瀕死の状態で生まれた

左古かず子氏(以下、左古):今(2012年)からちょうど66年前の、今日のようにとっても寒い凍てつくような冬空の日に、私は畑の中で生まれたんですね。

2000gにも満たない未熟児で生まれましたので、呼吸も上手にできずに瀕死の状態だったようです。

父は、母が野良着の中に産み落とした私を拾い上げて、ほっかむりをしていたタオルの端をビリっと切りまして、おへその緒をしっかりくくって、すぐに鎌でおへその緒を切って、すぐさま私を懐の中に入れて母はリアカーに乗せて、畑から近かった産婆さんのお家に駆け込みました。

産婆さんが私の顔を見て「あぁ、この子はもう助からないかもしれませんね」とおっしゃったら、両親は「あ、いいんです」って言ったらしいんですね。

(会場笑)

そういう時代だったんですね。

でも、お産婆さんは「とにかく一度預からせてください」とおっしゃってくださったようで、昼間お家にいらっしゃるときには、私を一日中胸に抱いて、自分がお仕事に行かれるときには、家族に私を託してくださって。

また、寝間で寝るときには、寒くないように一升瓶にお湯を入れてそれを布でくるんで、私の周りに並べて暖かい環境を作ってくださったようです。   上手におっぱいを飲めなかった私は、3ヵ月の赤ちゃんを育てていらっしゃる産婆さんのお乳を頂いていました。

産婆さんは一生懸命おっぱいを絞ってくださって、それを脱脂綿に染み込ませて私に飲ませてくださったんですね。こんなふうに、そのお産婆さまと家族のかたの献身的なケアで私の命は救われたのです。

3ヵ月経ったときに私は、産婆さんに抱かれて家に戻りました。「もう大丈夫ですよ」と産婆さんが家族に渡そうとされると、私が生きていたことがビックリだったようで、家族全員が「えー! 生きてたの!?」って言ったんですね(笑)。

(会場笑)

産婆さんは第二の母のような存在だった

産婆さまが「この子に名前をつけてあげてくださいね」と言ったら、おじいさんがすぐに「産婆さまのお名前を下さい!」と言ってくれ、それで産婆さまと同じ「かず子」という名前が付けられました。

命は救われたんですけれど、虚弱であったことは確かでしたし、産婆さまは私の体のことをとっても心配してくださいました。村で遊んでいると、私にこっそりアメ玉をくださったり、お砂糖のかたまりをくださったり、栄養状態にとても気を使ってくれたんですね。

私にとってその産婆さまは、第二の母のような存在でした。自然に産婆さまの後を追うようになりまして、村で遊んでいて産婆さまの姿が見えると追いかけていくようになりました。

そうすると産婆さまは「赤ちゃんのお風呂を見るかい?」と誘ってくださったり「今日、今から赤ちゃんが生まれるよ。お家の人がいいって言ってくれたら入って見るかい?」とか言ってくださって。

私はそれがうれしくて何人も何人もの赤ちゃんのお風呂を見せていただいて、お産もたくさん見せていただきました。村では、私は産婆さんについてくる子だということで有名になっていたようです。

(会場笑) 

その産婆さんの赤ちゃんのお風呂をされる手は、もう本当に綺麗で、お湯の中でお魚が泳いでいるような手つきで、本当に素敵だなぁと思って見ていました。

お産のときには、産婦さんの体を優しく優しく撫でていらして、その手が輝いているように見えたのですね。「あぁ、お産ってこんなに優しくて素敵なんだ」というのが、子ども心に私の胸の中にストンと落ちてきました。

「とにかく産婦さんに優しくしてあげる」が座右の銘に

小学校4年生くらいでしょうか。産婆さまが「あんた、大きくなったら何になるの?」と聞かれて、私はすぐさま迷わず「産婆さまのようになりたいです」と言ったのを覚えております。

ずいぶんと周り道をしたんですが、28歳になったときに、助産婦学校に入学することができました。そして、一年間の勉学を終えて、助産婦の免許をいただくことができたのですね。

その助産婦の免許証を、両親ではなくて、産婆さんに一番に見せに報告に行きました。とても喜んでくださって「よく頑張ったねー! 年取ってたのに」って言われて(笑)。でも「本当に良かった。おめでとう!」って言ってくださいました。

しばらく間を置いて、何をおっしゃるのかしらと思ったら「あのね、助産婦は賢くならなくていいのよ。勉強なんかしなくていい。とにかく産婦さんに優しくしてあげてちょうだい」とおっしゃったんですね。この言葉が私のその後の助産婦人生の座右の銘になりました。

そして病院で働くようになりまして、病院で働いている間、900人の方のお産に出会わせていただくことができたのですけれども、私が描いていたお産のイメージとは全く違いました。

ほとんどの産婦さんは分娩台に仰向けに寝かされて、お産の時間を操作するお薬は普通のように使われていました。私は、優しくということを心に刻んで働いていましたのに、何もいいお手伝いができなくて、とても心が痛みました。

なんとか頑張ってみたいと思ったんですけども、なかなか、あたたかくて自然なお産の実現が難しかったです。

妊婦さんの診察は赤ちゃんと一緒の「2人の診察」

もともと私の命の恩人の産婆さんのような働きをしたいと思って助産婦になりましたので、10年間を区切りに病院を退職いたしました。

そして、地域で開業することになったのですね。開業して間もなく、妊娠5ヵ月の妊婦さんが、自宅分娩のお手伝いをして欲しいという依頼をしてくださいました。

その方のお家にはじめて妊婦さんの診察にいったのですけれども、その妊婦さんはお腹の中の赤ちゃんに向かって「助産婦の左古さんだよー。今からあなたとお母さんの2人の診察をしてくれるからね」とおっしゃったんですね。この「2人の診察」というのに私はびっくりしたんです。

もちろん妊婦さんの診察は、お腹の赤ちゃんとお母さんの診察ではあるんですけれども、このような言葉で具体的に学校でも、病院でも習いませんでしたし、聞いたこともなかったんですね。

あらためて、妊婦さんの診察は、お母さんとお腹の中の赤ちゃんの診察をするんだから、お腹の中の赤ちゃんにもきちんとご挨拶をしないと、と思って、ご挨拶をして自己紹介をして診察をさせていただくように心がけました。

その方の自宅分娩は本当に素晴らしいお産で、家族に囲まれて、家の中を自由に動き回って、立ったり座ったり、叫んだり泣いたり、ご主人にも甘えたりしながら、本当に自分自身をいい意味でさらけ出してお産してくださって、私までたくさんの幸せをいただいたのを覚えております。

「私はこういうお産をしたかったんや!」とあらためて思いましたね。その一方で、あの病院で出会った900人の産婦さんたちに心の底から謝りたいと思いました。もっともっと心を尽くすべきだったと。本当に大きな反省が残ってしまいました。

それから3年くらい経ったときに、入院分娩をお受けできる助産院をスタートさせました。そこでは、約900人近いご家族が本当に自然であたたかくてリラックしたお産をしてくださいました。

今からそのひとつの家族の方のお産を見ていただきます。どうぞ。

<映像開始>

<映像終了>

いかがでしたでしょうか。

(会場拍手)

私は、日本の女性も、そして世界中の女性も、こんなふうに幸せなお産をしていただきたいな「私のお産は幸せだった」と言っていただけるようなお産のお手伝いをしたいなと思ってやってまいりました。

ブラジルのお産をなんとかしたかった

開業して10年経ったときに、ブラジルではとても非人間的なお産をされているというのを知りました。私立の病院では、90%以上の方が本当は必要のない帝王切開術で赤ちゃんを迎えていらっしゃるということも聞きました。

同じ地球上に住んでいながら、一方ではとても幸せなお産をする人もいる。でも、もう一方では人間としては心が痛むようなお産をさせられているというのも知って、なんとかならないかしらと思って心が騒ぎました。

そんなときに、JAICAから「ブラジルに行って、日本のお産のいいところを伝えてくれませんか? そういうプロジェクトをしているので参加してほしい」というお話がありました。

実は私は、とっても飛行機恐怖症なんです。

(会場笑)

ですから、今までどんなに素晴らしい魅力的なセミナーや学会が海外で行われるといってお誘いがあっても、全部断ってきたんですね。

でも、ブラジルの話のときには別でした。迷うことなく「行きます。行かせてください!」と答えてしまっていました。

なにかしら大きな力に突き動かされているような気がして、私の体中の血が騒いだんですね。1998年から夏限定で3回、ブラジルに渡ることになりました。

飛行機が怖い私は、機内では寝ているしかないと思い、リキュールをしこたま飲みました(笑)。

(会場笑)

それでも何度も何度も墜落する夢を見て、そして30時間かかってブラジルに着いたときには、もうフラフラでした。

でも、私の中の血が騒いで、懲りもせずまた翌年もその翌年も、3回も行ってしまったんですね。ブラジルのお産をなんとかしたいという思いが強かったのです。

ブラジルでは、准看護婦さんという、お産の現場で働いていらっしゃる方のトレーニングから始めようということになりまして、1年目はそれに取り組みました。

彼女たちの素晴らしさは、実行力と行動力なんですね。日本のお産のビデオを見ていただいたり、お話をしたり、実際にお産のことを役割分担しながらロールプレイングなんかしたりしますと「わかった! これはいいことだ!」というふうに納得すると、もうその日のうちに現場でやってのけるという実践力なんです。

ですから、毎年夏にブラジルに渡りますと、どんどんブラジルのお産がいいふうに変わっていました。プロジェクト終了の5年目のときには、もう「助産婦のいない国、ブラジル」ではなく、助産婦教育が始まっていました。

助産院ゼロだったのが、100くらいに増えておりました。見事に人間的なお産に向かって走り出したなぁという確認をすることができたんですね。

喜怒哀楽を思いっきり出し切ったお産をしてほしい

本来お産というのは、女性の多くは自分の力で赤ちゃんを生み出す能力を持っています。そして、赤ちゃんも自分の力で生まれてくる力を持っているんですね。助産婦が産ませるのではなくて、お母さんと赤ちゃんが力を合わせて産み、生まれるのです。

妊婦さんや若い女性の多くのかたは、お産は「痛くて辛くて苦しい」と思っていらっしゃる方がずいぶん多いように思います。

でも決してお産は、辛くて痛くて苦しいだけのものではないのです。自然なお産には、かならず痛みと痛みの間にお休みがあるのです。

よくテレビで報道されるような、急激に耐え難いお産が始まるようなお産はありません。徐々に徐々に痛みが強くなってきて、そして最後に赤ちゃんが生まれるんですね。

ほとんどの女性はそれを乗り越えていけるはずですし、私が出会った女性たちはみんな乗り越えていってくださいました。

私は、できるだけお産を、あるがままの姿でしていただきたいと思っています。痛かったら痛いと言っていいし、泣きたかったら泣いていいし、喜怒哀楽を思いっきり出し切ってお産していただきたいなと思っています。

あるがままを出し切った丸ごとを、私たちは受け入れたいと思っています。あるがままを出し切ってお産された方、赤ちゃんを大事にされたお産、自分も大事にされたお産をされた方は、その後の人生が大きく変わっています。

子育てにもいい影響があらわれています。赤ちゃんがいよいよ生まれるという瞬間に、家族がガチッと固まって、ひとつの大きな絆が生まれることもあります。

どのようなお産をするかは、女性自身で選べる

ときどき、とても感動的なお産に出会うこともあります。いよいよ赤ちゃんが生まれるというときに、とても素敵な夢見心地の表情をされる方や、セクシーでうっとりするような表情でお産をされる方がいらっしゃるのですね。

そういうとき私は、その産婦さんの邪魔をしないように静かに見守ります。赤ちゃんがお生まれになってから、しばらくして「とってもいいお顔をしていましたよ」と言うと「本当に心地よかったの! もうすぐにでも産みたい!」とおっしゃる方もいっぱいいらっしゃるんですね。

このようなお産は、人生の選択と同じで選ぶことができます。どこで、誰と、どんなふうに産むか。たとえば、自宅であったり、助産院であったり、病院であったり、そして、夫と一緒に子どもたちも一緒に。

自由に動き回って、立って産んだり、座って産んだり、お風呂の中で水中出産、海辺で産んだっていいんです。それは、お産をする主役の女性が選べるのですね。

ぜひ、大切なお産を他人任せにしないで、自然分娩ができる体に整えてほしいと思っています。そのためには、食べ方はとても大切です。生活スタイル、一日の過ごし方、気持ちの持ち方、いろいろと見直ししていただいて、頑張ってほしいなと思っております。

私は、産婦さんとご家族のために頑張っておりましたけれども、赤ちゃんというのは、自分の力で生まれてくるというのは先ほども申しました。

お産では、赤ちゃんはある意味命がけで出てくるんですね。その命がけで出てくる赤ちゃんのために、お母さんとしては、自分の命をかけてあげてほしいと思います。

その赤ちゃんとお母さんの支えを、ご家族や私たち助産婦がするべきなんだと思っています。

そうすることで、その後の家族の有り様ですとか、人生が豊かになることにつながるような、そんな思いでお産のお手伝いをさせていただいております。

それらはすべて、お母さんやご家族が決められたらいいと思うのです。産み方は、生き方です! 決めるのはあなたなんですね。

どうもありがとうございました。

(会場拍手)

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