脚本家・冲方丁氏が描いた“草薙素子” とは--過去シリーズ「攻殻機動隊ARISE」を振り返る

攻殻機動隊REALISEプロジェクト発表会 #2/3

2015年6月12日、同月20日公開予定の映画「攻殻機動隊 新劇場版」を目前にひかえて都内で行われた「攻殻機動隊REALISEプロジェクト」。「攻殻機動隊の世界は実現できるのか」をテーマに、監督・神山健治氏と脚本担当・冲方丁氏、研究者の稲見昌彦氏、南澤考太氏の4人が公開ブレストを行いました。現在さかんに研究が行われている人工知能やAIを攻殻機動隊の世界に近づけるには何が足りないのか? 自動運転の自動車など、実現されつつある技術を例に出しながら語り合いました。

ヒューマノイドロボットと共感できるのか

モデレーター:多分、次のテーマにかかわることかもしれませんけど、もしかしたらゴーストが、飲食を欲したりとか、コミュニケーションを欲したりとか、ゴーストが人間らしさというのを持つような、インターフェイスを持つようなプログラムって持っているんでしょうか?

神山健治氏(以下、神山):ただ、こればかりはわからなくて、肉体を捨ててみたら、そういったものが全くいらないというふうに感じるかもしれないし……。

モデレーター:わー! それもすごいですよね。

神山:こればかりは、そういう未来が来てほしいなという希望もあるんです。どこか、肉体と精神は不可分であると思いたい部分も、作品を作る上ではあって……。

稲見昌彦氏(以下、稲見):ただ、自分と同じように感じていると信じられるから共感できるというのはありますよね。

神山:そうでしょうねー。

稲見:ヒューマノイドのコンテストとかでも、転んだ瞬間に「モノ」に戻るんですよね。

全員:あー。

稲見:つまり、全く痛がらない。最近は受身も取れるんですけど、痛がったりというのが無いので……。

神山:なるほど。

稲見:突然「モノ」に変わるんですよ。それはもしかすると、おいしいものを食べたりというシーンがあるかもしれないのも、実は、義体やロボットというのが、我々の社会に入るために、実は不可欠な儀式だったかもしれないという気もしますね。

神山:あー、そうですねー。

稲見:やっぱり、向かい合って話すためのコミュニケーションと、共感するコミュニケーション、両方ありますよね。その後者のほうを現実化する時に、こういう身体が必要だったかもしれないという気がしてきましたね。

南澤孝太氏(以下、南澤):そういった意味では、リアライズプロジェクトというふうに考えたときに、そういったところって多分、こういう文脈が無いとなかなか手がけないところなので。

ロボット本体も大事なんですけれども、義体が社会に溶け込むために必要な技術みたいなところも、もしかするとちょっとやっていくとおもしろいんじゃないかという気がします。

モデレーター:確かに。社会に溶け込むインターフェースがどういうものがいいのか……。

南澤:普通にロボットを作っていると、なかなか手がけない部分なのかなと。

神山:最初は必要不可欠として、必要なものとして作られるんだと思うんですよ。そうすると義手も、なるべく元の自分の手に近いものを一度は目指すんだけど、おそらくそこにファッション性とかが入ってきて「自分の手とそっくりじゃなくていいんじゃない?」とかね。そういうふうに変化していくのかなという気がします。

モデレーター:確かに、コスプレイヤーが義手を使うとか、作るとか、先ほど話もしていましたけれども、そういう世界にいくかもしれませんよね。さて、インターフェースとしての義体とロボット(について話して)きましたが、次のセクションにいきたいと思います。

電脳空間と現実空間の違いについて

モデレーター:今、インターフェースの話をしました。次は、電脳、人工知能のほうに入りたいと思います。またVTRがあります。今度は『ARISE(アライズ)』を観ていきたいと思います。

(映像が流れる)

冲方丁氏(以下、冲方):はい。すごくテーマの範囲が大きすぎて、どこから語ればいいかわからないんですけれども。まず、もちろんエンターテインメントなので、キャラクターに沿ってこういったものを表現したんですが。まず、(草薙)素子の電脳空間、これは2つ課題があって、1つは以前、電脳空間と現実空間をどこまで変えて描くかと……。

どっちがどっちの空間かわからなくなるんじゃないかというので、いろいろと変えるのが普通だったんですけど、あんまり変えなくていいや! と。

素子の(現実空間と)電脳空間の姿とか、それはもう、視聴者もわかるだろう! そういう時代だろう! という絵的な判断がありました。

冲方丁が描く「主人公・草薙素子」

冲方:もう1つは、素子のキャラクターを表現するのに、シリーズの初期では、自分しかいないんです。自分しかそこにあるものの意味がわからないような非常に閉鎖的な空間で……。

それが仲間が増えていくたびに、だんだんチャットルームみたいに部屋ができあがって、椅子が置かれるようになって、壁とか、仕切りとか、人が見てもわかるような空間になっていくと……。それがやっぱり電脳空間の特性として、個人のパーソナリティーが現れる空間として描いています。

一方で、人工知能。こちらも、人工知能なんだか人間なんだかわからないという……。それで、わざわざ区別をつけようとしたんですけれども、もういいや! 区別しなくていいだろう! と。

音質を変えたりとか、コイツはあからさまにAIです! という表現をしなくても、AIが何であるか多くの方々がご存知なのでそこは区別をしない! という描き方をしております。

モデレーター:どうですか? 南澤さん。電脳、人工知能に関しまして……。

南澤:そうですね。電脳というと、今、本当にバーチャルリアリティーというのがすごく普及していて、それぞれ皆さんが、自分達の好きな電脳空間というのを、実はもうクリエーションし始めているのかもしれない……。

自分達の理想としている体験というのを、ある意味1つの形にして、それを他の人に伝えていく、あるいはネット上で公開して他の人に体験してもらうことで、自分の世界というものに人を呼び込むというのは、もしかしたら少し始まりつつあるのかもしれないですね。

一方、AIに関しては、最後のロジコマに素子が、会話の、コミュニケーションエンジンを積んでいるシーンって僕はとても好きで。

さっきの話にも少しつながるんですけれども、AIも世界とのインターフェースの身体というのがきっと必要で、そのときに、ロジコマだったりタチコマだったり、という身体を持っているとして……。

もともとのロジコマって会話は無かったので、まだちゃんと世界とつながっていなかったんだけれども、会話することができるようになってキャラクター性というのが生まれて。

そうするとその中でいろんなものを体験して、学習して、AIそのものが成長していくという、身体を得ることによってAIが成長していくという概念が僕はすごく好きで、それが実際にできていくとおもしろいだろうな……。

IBMのワトソンのように、ネット上のデータを集めた人工知能というのは、結構、実現化してきましたけれども、その次にもしかすると、身体を持たせるということ、経験を積むということは必要になってくるかもしれないなと思いました。

ロジコマ・タチコマが複数いる理由

モデレーター:確かに。ちょっと、素人のような質問かもしれませんが、なぜ、ロジコマ、タチコマは、複数いる必要があるんですか?

神山:んー。

冲方:便利だという……。

モデレーター:どう便利なんですか?

冲方:今回の『ARISE(アライズ)』では、ロジコマはロジスティックスという物を運ぶ、台車がいっぱいある、しゃべって歩けるデカイ台車という位置づけなんですけど、それがだんだん機能を獲得していくと。

これはシリーズの都合なんですけれども、主人公達が発展していく過程として、備品が充実していくというのを絵的に見せるために、だんだん一体、もう一体と増えていくという感じで描いています。

モデレーター:それぞれのロジコマ、タチコマのAIは、ストーリー上にもあったと思うんですけど、みんな同じ(情報を)共有しているんでしたっけ?

冲方:基本(的に)共有ですか? (神山氏に確認して)並列ですよね。個体が増えると、学習した個体にそれぞれ差異が出て、片方が学習した内容を、もう片方もトレースするという、そういう意味で、共有、並列という表現をしています。

モデレーター:なるほど。そうすると、作り方にもよるかもしれませんが、差別化みたいなもので、あるロジコマ、タチコマだけがエリートになってみんなを支配する、そういうことは起こらない世界観なんでしょうか? どういうマナーがあるのかな?

神山:要はそうならないために、ミッションが終わった後、全員同じ教養レベルに戻していくっていうか、全体(のレベル)を上げていくということなんでしょうね。

現代の人工知能やAIを攻殻機動隊の世界に近づけるには

モデレーター:どうでしょう? ドクターの立場からして。今、いろいろ人工知能やAIと言われていますけれども、この攻殻機動隊に近づけるために何が足りないのか? 今、どれ位のレベルだというふうに考えられますか? ドクター?

稲見:まず、まだ「不気味の谷」は、両方とも越えられませんね(笑)。今、描かれている世界は、両方とも、不気味の谷は越えた前提で、例えば電脳空間にしても、人工知能にしても、我々には容易には区別がつかなくて、むしろ、理想的な形と申しましょうか……。

我々が普段住んでいる世界とか、接している他の知性と変わらないように感じているという感じなんですけれども、まだ両方ともそこは難しい。

リアリティーを上げていく、もしくは、1つ今、可能性があって、空間の解像度とか、声色を変えていくよりも、コミュニケーションによってリアリティーを上げるという考え方……。

それだけでパッと止まって見ていると違うんですけれども、催眠術にかかるみたいに、話すとかインタラクションしているうちに対象の存在を信じられるという方法があるので。

もしかすると後者を、先ほどもコミュニケーション問題の話がありましたけれども、(コミュニケーションを)とることによって、ディストーション、不気味の谷をスキップすることができるかもしれません。

神山:なるほど。僕が攻殻で描いていたとき「不気味の谷」ということが一番頻繁に言われていたときだと思うんですけど。

タチコマみたいな、ああいうペットみたいな姿をしていると「不気味の谷」に落ちずに済むんですよね。だけど、もともと人間の形をしていないし顔も無いから、でも、なんとなく、ここが顔かなぁ……、という気がしてくるんですよね。

自動車もなんとなく顔に見えてくるじゃないですか。この車かわいいな、とか、怖そうな車だな、とか。そういう形で、まず人工知能に、例えば、iPhoneにsiriが搭載されたときに、みんな最初おもしろいから使ってみるんですけど。

もちろんどんどん進化はしていると思うんですけど、まずは、対話以外に人工知能が経験値を上げる方法が、今まだ無いと思うんですけど。

あえてAIが、人間の形をしていなくていいと思うんですけど、要するに触覚ですよね、触ったりとか、対峙した時とか、空間認識だったりとか、物理的移動をしてみることを経験させることで、より人間に近づく可能性があるのかなと。タチコマを描いている時はそんなイメージで考えていましたね。

電脳化の第一段階は既に完了している

モデレーター:ありがとうございます。 今ちょうど神山監督のコメントをいただきましたので、2本目の電脳、人工知能のVTR『攻殻機動隊 S.A.C.』からまいりたいと思います。よろしくお願いします。

(映像が流れる)

神山:当時、まだTwitterなんて無かったんですけれども、なんとなく、今でいうタイムラインの概念だったりとか、物理的には会っていない人たちが、距離的なハンディを乗り越えて会話するということは願ったわけなので、可視化するために描いたんですよ。

今見ると、すごくTwitterだったりFacebookに近いものをイメージしていたなーとは思いますけどね。

モデレーター:あと監視カメラのハックとか、最近IoT部門で言われてきているけれど、すでにここで行われていたのはすごいなと改めて思いますけど……。

神山:そうですねぇ。当時、技術的には本当にできるんだろうか? と思いながら、まあ、できるだろう、いずれできるようになってしまうだろうなぁということで描いてましたね。

電脳ということはもう、携帯電話からスマホになった段階で、ある種、第1弾目の電脳化は完了してしまった気がするんですよね。

モデレーター:われわれが、外部に電脳を持ったということですか? スマホとか、車が。

神山:うーん。脳が直接ネットワークにつながるというのが電脳の概念だったんですけど、まだ、その技術はできあがっていないけれども。

スマホで、電車に乗りながら、全然別の人と、複数の人と同時に会話を行っているとか、そういったことがリアルに起きているわけで、もうその辺は、ある種電脳化の第一段階は、僕はもう完了したんじゃないかと思うんですよね。

モデレーター:うんうん。

南澤:どのレベルというよりは、経験値のレベルでは多分進み始めている。

神山:だから、そこに今度AIがどのように介入してくるのかなというのが次の段階なのかと思うんですよね。まだsiriさんなんかで、もうちょっとスマホを別の使い方をしながら、siriさんにもうちょっとこんなことをしてもらいたいんだと思うんだけど、まだそこまではやってくれないので……。

そうすると支援型のAIというのは、スマホから外部に(もしかしたら)いく可能性もあるんじゃないかなぁというふうに、僕なんか思うんですよね。

モデレーター:それって、例えばアップローズとかセンサーを使って、というような、siriの音声だけじゃなくて、センサーもとってどんどん進化していくんでしょうか?ちょっと違うんですか?

自動車にAIが搭載されたらどうなるか

神山:今、自動車って、スタンドアローンなんですけれども、自動車にAIが搭載されると、駐車場に置きっぱなしになっている車が移動先に勝手に来てくれるとか。そういうところまでいって初めて、攻殻機動隊の世界のAIにようやくたどり着けるのかなぁとは思いますね。

モデレーター:素敵ですね。

冲方:持ち主が酔っ払ってなかなか帰って来ないと、車が自発的に迎えに来たり……。

モデレーター:素敵ですねー。今すぐ欲しいです(笑)。

南澤:自動運転の研究だと、その辺かなり進んでいて、公道というところまではまだいってないんですけど、自動車メーカーさんの敷地の中では本当にそういう実験を始められていて、多分……。

神山:実際、日本の自動車メーカーさんとかでも開発は進んでいるんでしょうか?

南澤:そうですね。すごく進んでいます。AIが物理的な形というか、機能というか、世界に何か影響を与えるような物理実体を持つというのが、1つ重要なファクターになってくる……。

神山:そんな気がする。まだ、人工知能というのが、どこか、我々が目にすることができないところにある感じがするんですよ。それがもし身近に、僕らの日常に入り込んでくるとしたら、例えば、1つは自動車なのかなーと思うんですよね。

モデレーター:なるほど。

稲見:経験は共有できるというところが、実はAIを、人の進化以上に加速するキーな気がします。例えば自分の持っている車が自分のことを知るのは、多分できるんですけど。そうじゃなくて、そこら辺にあるものがが、駐車場の状況とかも含めて全部共有される。

つまり、我々1人は自分の一生分しか経験は蓄えられないんですけど、それが世界で何万、何千とあるものが、勝手にいろいろと動いて経験して、しかも全部共有されるというのは、今までの生命体には無かった学習の仕方です。

神山:すごい進化ですよね。

モデレーター:そうですよね。

南澤:まさに、タチコマが自我を獲るまでの過程というかそういうところが。

神山:一夜にして人間を越えてしまうかもしれないわけですよね。

稲見:もしかしてIoTと言われている技術も本質は、AIと戦った時に破棄されるかもしれない……。

モデレーター:なるほど。でも、一気にガッと越えてしまったときにシンギュラリティ(技術的特異点)ですかね? あったときに、われわれはどういうふうに対応すればいいのかなぁなんて思いながら……。

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