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Kelly McGonigal「The Willpower Instinct」(全4記事)

実はマイナス思考のほうが成功しやすい? 心理学者による意志力の実験

『スタンフォードの自分を変える教室』の著者で健康心理学者のKelly McGonigal(ケリー・マクゴニガル)氏がGoogle社で「意志力」をテーマに講演。「マイナス思考の人ほど成功しやすい」「成功を記録すると怠けグセがつく」など驚きの実験結果を紹介します。また、未来をイメージすることでモチベーションを高めるトレーニングなど、意志力を高める様々な方法を解説しました。

未来の自分から現在の自分へ手紙を書く

ケリー・マクゴニガル氏(以下、ケリー):(未来の自分から現在の自分へ手紙を書く方法について)ひとつは現在の自分に対して自分が誰なのか、どこに住んでいるか、大切にしているのはなにかを書くこと。

あるいはもう少し詳しく書いてもいいですよ、今ご自分が直面している問題についてとか。何かへの依存をやめようとしているとか、家族ともっと時間を過ごしたいとか、どんなものでもいいのですが、とにかく自分が望んだ形が実現していないものですね。そしてそれに対して「未来の自分」の視点から、現在の自分へ感謝の手紙を書くんです。

取り組んでくれたことに対する感謝の気持ち、そして具体的に何をして、それがどういう結果につながったのかを書くんですね。こうした手紙を書くことで自分の意志力を上げられる、ということが研究からわかっているんです。はい、質問どうぞ。

参加者:あまり自分に自信のない人が未来の自分は今よりひどい状態だ、という手紙を書いたとしたら、逆効果になるのでしょうか。

ケリー:そもそもそういう手紙を書かないほうがいいですね。

(会場笑)

ビデオをご覧の方のためにご質問を繰り返しますと、今自分に自信がない場合、手紙は逆効果になるのかという質問でした。つまり「自分はいつまでたっても変われないんだ」と……たとえば今負け犬のような状態の人が、自分は今後もあまり変わらないだろうと考えたとします。それで「負け犬の私へ。私はいまだに負け犬です。今のあなたも負け犬ですよね。本当に最低な人生です」なんて手紙を。

(会場笑)

そういう手紙を書くべきではないですね。研究からも悲観的な手紙よりも楽観的な手紙を書いたほうがいいという結果が出ています。

この実験結果のポイントはですね、現在と「未来の自分」が「同じ状態」でいるかどうかではありません。そうではなく、これから先も自分はいろいろな経験を経ていくんだ、という意識を持てるかという点なんです。

「未来の自分」に対してリアルな感覚を持てるか

次お話したいテーマにもつながるんですが、この2つは別物です。つまり、この先も自分の問題や不安を抱え続けているのか、解決したのか、同じ自分でいるのか、自分を変えるのか、というところはあまり重要ではありません。

そうではなくて、例えば今私に殴られたとしたら痛いですよね。では30年後に殴られたとしても今と同じように痛みを感じるんだ、ということを理解しているかどうかなんです。ここがうまくいっていない方が多い。

「未来の自分」を考えるときにそうした感情に意識を向けない、つまり未来における幸せも今と同じように現実味を帯びた、重要なものなんだ、と理解できていない方が多いんですね。

ですからこの手紙を書く際、あるいは「未来の自分」を想像する際大切なのは、「未来の自分」に対してリアルな感覚を持つこと、そして「未来の自分」も「自分」なんだと捉えるようになることです。こういう体験に直面するのはあくまで自分なんだぞ、と。現在の自分から変わっていないのか、かつて聞いていた音楽をまだ聞いているかどうか、こういった点はポイントではないんです。

自分を変えるヒントは「バック・トゥ・ザ・フューチャー」

さて、2つ目の、「未来の自分」への意識を高めるトレーニングについてお話しましょう。私はこれを 「バック・トゥ・ザ・フューチャー」、つまり未来に帰る実験、と呼んでいまして、単純に将来の自分を想像するだけのものです。

例えば日用品の買い出しをしている将来の自分をイメージする。別にご自分の目標と関係なくて構いません。買い物についてイメージするだけで、将来利益を生んでくれるような良い判断を今、できるようになるんです。スーパーの棚に何が並んでいるかとか、どんな気持ちでカートを押すのかなどを想像できるようになることが役に立つんですね。そして将来のことを現実的に捉えられるようになると、どんなものごとに対しても意志力を発揮できるようになるんです。

他の研究では意志力チャレンジと関連した具体的な未来を想像した場合ですね、いい結果になった場合の未来のイメージ、そして悪い結果のイメージも、どちらもモチベーション向上に効果があるということも明らかになっています。

健康になりたいという人たちを対象に、健康状態を改善しなかったらどうなるかを考えてもらった研究もあります。この努力をしなかったら十年後どうなるのかといったことを、かなり具体的に考えてもらうんですね。

そして別のグループでは健康を改善できたらどうなるか、どんな状態になるか、ということを考えてもらったんです。そうすると、どちらのグループも未来について考えてもらったわけですが、どちらも対象者の方々は健康改善のために努力をされるようになったんです。

皆さん映画の「バック・トゥ・ザ・フューチャー2」はご覧になったことありますよね? 主人公が悪いバージョンの未来といいバージョンの未来に行く場面があって……まあやめましょう、この例えも時代遅れでしょうかね(笑)。

(会場笑)

成功よりも失敗を意識する

さて、あと2つご紹介したい介入があります。これに関しては皆さんに手を上げていただきたいと思っています。イメージを持つ、という話をしてきましたけれども、意志力を上げるためには失敗と成功と、どちらのイメージを持ったほうがいいと思われます? 失敗の方がいいと思う方、手を上げてください。逆に成功のほうがいいという方は? 

皆さん典型的なアメリカ人的な考え方をお持ちのようですね。

(会場笑)

そう思われる方が多いんです。ですが実は、失敗を想像したほうが成功を想像するよりもずっと効果的。もちろん成功を想像するのが悪いわけではありませんよ。でも失敗をイメージしたほうが高い効果が得られるんです。ではまたある介入の例と、今度は理論についてもお話ししますね。

この研究では若い成人女性と中年の、もう少し年齢が上の女性のうち、全く運動をしていない人、かつ運動をしたいという目標を持っている人たちを対象としました。この方々のうち、一方には典型的なアドバイスを受けてもらいました。「運動はいいことで、こういう理由でするべきで、目標を見据えつつ、運動している自分を想像しましょう」といった、よくある形のものですね。

もう半分にはですね、「障害状態」と呼ばれる状況に割り当てて、この中で対象者には自分たちが失敗している姿を想像してもらいました。「どんな状況だと運動をしないのか」「障害は何か」「何が起こるのか」「起きたらどう対応するのか」。こうしたことを毎日書いてもらうんですね。運動しないのはどんなときなのか、どう自分に言い聞かせて運動しないことにするのか、それはいつどのように起こるのか、起き始めたらどう対応するのか、といったことです。

つまり参加者の女性のみなさんには自分の失敗を調査するいわば探偵のようになってもらうんです。そして毎日、新たに気づいたことをもとに書き直しをしてもらいました。「あとでやると言い続けて運動を後回しにしているうちに、気づいたら寝る時間になってしまいました」ですとか、「仕事が忙しかったうえにスニーカーがなかったので運動しなかった」などですね。このことで自分がどんなプロセスを踏んで失敗するのかがはっきり認識できるようになったんです。そしてその後、失敗を予測できるようになったんですね。

結果をお伝えしますと、参加者の運動時間は短期間で倍になりました。お話しした方法で失敗を予測し始めてもらった最初の週から、運動時間が倍の週102分になったんです。これだけの運動量があれば精神的にも身体的にも、かなりの健康効果が期待できます。

一方であまり進歩が見られなかったのは一般的なアプローチを受けた方の女性たち。「運動はいいことです、ぜひ運動しましょう!」的な指導を受けた人たちですね。

16週間、つまり4ヶ月経過後も、自分の失敗を予測していた方の参加者は運動量を維持していました。それに対し、一般的なアプローチを受けた女性たちは半分程度の運動量しか達成できていませんでした。

成功を記録すると怠けグセがつく

みなさんこれを聞くととても驚かれるんですよね。成功を記録しているとかえって怠けに繋がってしまう。これは色々な研究からも示されていることですが、あまり信じてもらえないですね。

成功を記録していくのが大事だと皆さんお思いなのは、うまくいったことを書き記すといい気分になるからですよね? いい気分になって、よし、チェックマークをいれよう! となるんだと思います。済んだことを消していきたいがために「やることリスト」を作る人もますからね。うまくいったことを書いて記録しておくといい気持ちになるわけですが、みなさんその感覚をさらなる成功へのモチベーションだと勘違いしてしまうんです。

ですが実際には、自分の成功を認識したり、自分がどれだけ進歩したかを意識すると、かえって目標と矛盾した行動をとってしまう、ということが研究から明らかになっています。

例えばダイエット中の人を対象とした研究で、こんな例があります。実験者が「今のところかなり順調に体重が減らせていますよ。もう少しで目標達成です、いい調子ですよ」と対象者に伝えるんですね。

それで別れ際に、チョコレートが欲しければあげますよ、と伝えるんです。このように自分の成功を認識した場合、みなさん高い確率でチョコレートを受け取ってしまうんです。

怠け癖についても同じ研究結果が出ています。自分がどれだけ進歩したか把握して、満足感を得てしまうと、高い確率で怠けてしまう。これは「ゴールスイッチの仮説」と呼ばれていまして、意志力チャレンジは2人の自分の間の競争である、という考えに基づいたものです。

どちらも確かに自分なのですが、この2人のうち一方が満足感を得ているな、と脳が認識すると、脳は望ましくないほうの目標を優先してしまうんですね。そしてそちらへと引っ張られてしまうんです。

とはいえ、自分の成功を意識するのはよくない、とは言いませんよ。ぜひ両方やってほしい、ということです。

マイナス思考は意志力を発揮する原動力になる

もう少しこの点についてお話ししますね。

なぜマイナス思考が役に立つかですが、目標があるのにマイナス思考でいるなんて全くアメリカ的発想ではないですよね。ですが、マイナス思考をぜひ意志力の原動力としてとらえていただきたい。自分は難しい課題も克服できると楽観的に捉えている方は、諦めが早いうえに失敗する可能性も高いという研究がありましてね。なぜこうなるかというと、こうした方々は自分の挫折にショックを受けてしまいがちだからなんです。

失敗について考えることは、こういった状況と向き合うために役に立つんです。実際に失敗したとしてもあまりショックを受けずにすむ。そして自分自身に何か問題があるとか、この先もうまくいかないんじゃないかとか、そうした考えに陥らずに済むんですね。

他にも面白い研究結果がありまして。これはもうお話ししておりますけれど、ポジティブ思考でいるとポジティブ思考と自分の進歩、両方に関わることですけれども、自分がやろうと思っていることに対して楽観的な予測を立てていると、結局予定を後回しにしてしまいがちなんです。

たとえば「明日運動しよう」と思っている人は今日何か不健康なものを食べる、そして結局ジムに行かない可能性が高い。ですが自分の将来の行動について想像するだけで、人は今とる行動を変えられる可能性が高まるんですね。明日も今日と同じくらい、誘惑に負けそうになるかもしれない、忙しいかもしれない、イライラするかもしれない、と意識するだけで今日意志力を発揮する原動力になるのです。

理想を高く設定しすぎていないか

さて、どうしてもお見せしたかったものがありまして。これは意志力研究のなかでも特に面白い発見だと思うのですが。

米国の証券取引委員会から詐欺に問われた会社のうち、実に75%が楽観的な方針に基づいて行動していたことがわかったんです。それに縛られてしまったんですね。収益予想に対してかなり楽観的に考えていたせいで、最初の挫折を味わったとき、途方に暮れてしまった。そして数字をいじってしまった、というわけなんです。

誰しもが同じようなことを自分の目標と関連してやってしまうでしょう。理想を高く設定しすぎる。それで現実に合わせて期待値を調整しようとしない。スタンフォードでもよく見ますよ。大きな変化を起こしたいとか、かなり大きな目標を持っているんですが、小さな目標を設定しようとは考えない人。そんなもの作っても仕方ない、と思うようで。だから大きい目標にするか、諦めるか、なんでしょうね。

それでその大きな成功目標を持ったまま問題に直面し始めると、理想にしがみついたまま何も変えようとしないんです。そんなわけで、自分をですね、目標を持っている小さな会社として捉えてみてください。問題にぶつかりはじめたとき、まずやるべき大事なことは、自分の期待値を調整すること。そしてどんなプロセスで失敗が起きているのか、真剣に分析することです。

さて、こちらは既にご紹介した研究を少し発展させた例です。女性たちに取り組んでもらった「書く」トレーニングですね、目標のために費やす時間が倍になった。これは毎日やらなければいけないトレーニングでした。

まずは目標を認識することです。そしてそこからどんなポジティブな結果が生まれるのか。モチベーションを上げて、そのあとはどうするのか考えないといけませんからね。そしてどのように目標に向かって進むのか、どういったステップを踏むのか定める。そのうえで今度は逆に、うまくいかないのはどんなときかを考えるんです。

いつ、どこで、どんな理由で? 失敗を防ぐために、事前にできることは? 実際に失敗が起きたらどうするのか。こんな風にしっかり7つ手順を考えなくても構わないのですが、どんな目標に対してもオススメの基本的なエキササイズですよ。目標をストレステストにかけてみる、とでも言いますかね。目標をもって、何かをやることにしたら、それをテストにかけるんです。そしてどんなとき目標を達成できなくなるのか、失敗してしまうのかを考えるんです。

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