「自分を責めない」ことの大切さ

ケリー・マクゴニガル(以下ケリー):最初の実験は睡眠をもっととる、というものでした。今度は最近みなさんが経験した挫折や、意志力を発揮できなかった場面を思い浮かべてください。

例えばランチのときあまり健康に良くないものを食べてしまった、とか、朝運動しなかった、仕事に関係のないリンク先にアクセスしているうちに午前中が終わってしまった、などですね。最近、意志力を発揮ができなかった、いわば「意志力不足」の場面です。私自身のものをご紹介したほうがいいですかね(笑)。皆さん思い当たるものはあるでしょうか。

さて、質問したいのはその出来事について後悔する、反省する、あるいは自己批判的になることは、はたして次回の成功へとつながるのかということです。反省すればこの先、意志力を発揮できるようになるのでしょうか? そう思う方、反省すれば次回は意志力を発揮して成功できるとお考えの方、手を上げていただけます? 

逆に、反省すると余計に意志力を発揮できなくなると思われる方は? なるほど、ありがとうございます。どうやら私の本を読んでくださった方もいらっしゃるようですね。

意志力を高めるためには、反省してはいけない?

次の研究について聞くとみなさん驚かれるんです。大学でこの講義を持つようになったときも、受講生の間で一番議論になったのがこのテーマでしたね。みなさんザワザワしてしまったんです、全く納得できなかったようで。

ご紹介する研究のテーマは、将来の意志力の挫折を防ぐためには反省しないほうがいいのか、ということです。実験内容についてこれからもう少し詳しくお話ししますけれども、対象者は体重を管理したいと考えていた方。もっと健康的な食生活を取り入れたいと考えていた方ですね。そして最初の段階で、意志力不足を味わわせてしまうんです。どういうことかと言いますと、まず集まってもらって、ドーナツを食べてもらうんですね。

意志力不足をはっきり意識してもらうために、ドーナツの味も選んでもらっています。さらに水ですね。コップ一杯の水を飲んでもらって、無理に満腹な状態になってもらうんです。

そんなふうにドーナツをダイエット中の人に食べてもらうことで、意志力不足を経験させるのがまずはじめの段階。次は試食です。色々な種類のキャンディを出して、「このキャンディを全部評価してもらいたいので、好きなだけとって食べてください」と言うんですね。

もちろん事前にキャンディは全て重さを量って、どれだけの量のキャンディを食べたか調査者がわかるようにしておくんです、ドーナツを食べさせてダイエットを台無しにしてしまったうえで。

この実験にあたり研究者たちはある仮説を立てていました。参加者はダイエットに失敗した罪悪感でセルフコントロールがとれなくなるのではないか、と考えたんです。この仮説にもとづいて、失敗を経験した時に生じる罪悪感や恥ずかしさを相殺するような介入法を準備したんですね。

具体的には参加者の半分を無作為に選び、この方々には「自分を責めなくていいですよ」と暗に伝えたんです。ドーナツと試食の間に実験担当者が入ってきて「ところでドーナツを食べたことに罪悪感を持つ方もいらっしゃるようですね」と言うわけですね。そうすることで、罪悪感をまず認識してもらうということです。

次は「私たちからお願いしたことですし、それに誰だって休憩するときはありますよね」と伝えます。つまり視点を変えるんですね。最後はちょっとしたお願いを。「自分を責めないでくださいね」といった具合に。単純でしょう? 後ろめたいだろうけれど、誰もが経験すること。自分を責めないでね、という内容を伝えるんです。そのうえで試食に移ってもらうんですね。

この実験からわかったのは、「自分を責めないでね」というメッセージを受けた方々は、何もメッセージを受けなかった人たちと比較すると、試食で食べたキャンディの量が半分以下。一般的な予想とは真逆の結果ですよね。

失敗や意志力不足に直面したら反省をする必要がある、自分を許してしまうと余計に状況が悪くなる、余計に自分を甘やかしてしまうはずだ、と普通は考える。ですがこの実験と、他にも同様のたくさんの実験があるのですが、どれも得られたのはこういった予測と全く逆なんです。

後悔しやすい人ほど依存症になりやすい

これは現在の意志力研究のなかでもっとも有力な理論となっています。つまり意志力不足に直面したときに自分を責めれば責めるほど、また同じ失敗を繰り返してしまう、あるいはもっとひどい失敗をしてしまう、というものですね。

例をあげますね。酒癖の悪い人たちを対象とした研究がありまして、このなかで対象者たちに自分の飲酒量と、飲酒した翌朝の罪悪感を記録してもらったんです。

どんな結果が得られたかといいますと、一番反省していた人たち、恥じらう気持ち、あるいは後悔の気持ちが強かった人たちのほうが、朝起きてからすぐお酒を飲みたいと感じ、さらにその夜や次の夜の飲酒量が増えていたんです。反省や恥ずかしいと思う気持ち、後悔の気持ちが、問題の原因から余計に離れられなくする要因になってしまった、というわけです。

他の依存症、たとえば禁煙についても同様の結果が出ています。初めて禁煙失敗を味わったとしましょう。そんなとき自分を責めれば責めるほど、何かで自分を慰めないといけなくなる。何で慰めるかというと、やめようと思っているものそのものですよね。喫煙をはじめ、そもそもは自分を慰めるための行為ですから。

ギャンブルについてもまた同じです。ギャンブルに負けた後悔や反省の気持ちが強いほど、またお金を借りて負けた分を取り戻そうとする。その挙句、さらに大きな額を失ってしまう可能性が高いんです。

怠け癖も同じですね。これは依存症ではないですけれども、何かを後回しにしたことについて自分を強く責める人ほど、次は余計に長く先延ばしにしてしまうことが研究からわかっています。

どの例も示していることは同じ。ストレス、罪悪感、恥を感じているとき……このようなとき、私たちは短期的な満足感や誘惑、そして不安の影響を受けやすい意識状態に陥る、ということです。

本来であれば脳や体はこの逆の状態である必要がありますよね。つまり自分の長期的目標を認識しておく、そして「意志力のあるほうの自分」でいるべきです。ですが罪悪感や恥が増えるにつれ、脳は「もうひとりの自分」モードに入ってしまう。こうなると怠ける、あるいは喫煙や飲酒といった誘惑が一気に増えてしまうんですね。

失敗したときに必要な自分宛てのメッセージ

さてそれでは、「自分を励ます」ことについて考えていただきたいと思います。ドーナツの研究もほんのちょっとした介入でした。大掛かりなものではなく。今はいろいろプログラムができていまして、失敗に備えて自分宛てのメッセージを作るんです。怠けてしまったとき、遅刻してしまったとき、一週間禁煙していたのにタバコを吸ってしまったとき、こういった場合にですね、作っておいたメッセージを出して、自分が悪い状態に陥ることを防ぐわけですね。

このメッセージの3つのステップをご紹介しましょう。まずは、自分の考えや気持ちを意識すること。罪悪感、自己不信、反省、自分に対する怒りでもいいですが、こうした感情を意識することです。どうしてかと言いますと、罪悪感からまた誘惑に負けてしまう大きな原因は、この気持ちから逃れたいからなんです。あまりに強い感情なので、何か別のものに注意をそらしたくて、その結果余計に問題が悪化してしまうんですね。

次のステップは誰もが同じような性質を持っている、ということを理解することですね。何か自分には問題があるのではないか、と感じるとモチベーションや意志力に影響が出てしまいますから。

自分自身になにか問題や弱さがある、といった考えですね。こうした意識を持ってしまうと、モチベーションや自分の強みを活かせなくなってしまいます。そこでこのステップが必要となるわけです。

「これは変化のためのプロセスの一部であって、こういうことが起きるのは自然なこと。怠けてしまうときもあれば、酒などにまた手を出してしまうときもある。完璧な人なんていない」と考えるんです。そして問題は自分にあるのではなく、あくまでプロセスにあって、大事なのは起こったこと自体よりも、それに対してどう対処するかだ、と意識することがとても大切です。

最後のステップは、批判するよりも励ます、ということ。これまで指導した人を思い浮かべてみてください。ここで指導した人やインターン生、あるいはお子さんですとか、友人ですね。こうした人たちが挫折を味わっていたらどうされます? 

自分に対しても同じように向き合っていただきたいんです。そうすると目標を再認識したり、ミクロな視点、つまり自分はダメだと思ってしまうような考えではなく、もっと大きな視点に立つことができるようになります。「なぜまたやってしまったのか」「自分は馬鹿だ」「いつまでたっても変われない」といったような考えではなく、自分に対して二人称的な視点から、いわばいい友だちのような立場ですね、話しかけてみるんです。

この方法をとると、つまり自分に対し話しかけて向き合うアプローチですね、これはたとえば禁煙に対しても、ニコチン置換療法と比べ効果が高いことが研究からわかっています。挫折に思いやりで対処するということは、それだけの力があるんです。

「未来の自分」について考える実験

さて、こちらの円をご覧ください。全く重なっていないものから、かなりの割合が重なっているものまでありますね。皆さんにはどの円のセットが現在のみなさんをよく表しているか、そして今から例えば30年後、あるいはご自身のお好きなところで構わないのですが、そのときの自分はどのセットで表せるかを選んでいただきます。

こちらが現在の自分、そして一方のこちらが30年後の自分。この場合は今のあなたと30年後のあなたにはかなりの違いがあるということです。一部重なりもありますが、今後かなりの変化が起こると。あるいは端にあるこちらの円のセット。こちらは今の自分も30年後の自分もあまり変わらない、ということを表しています。

それでは皆さん選んでみてください。このグラフのどこに自分がいるのか、考えてくださいね。ローリングウェーブをやってみましょうか、Googleの傾向がちょっと気になるので。自分の円セットを私が指したら、手を上げてください。ここの方。こちらは? ここは? こちらの方。はい、こちらは? いいですね、皆さん平均的なバラけ方をされてます。

ありがとうございます。どこにご自身を位置づけたかが重要な意志力チャレンジ、たとえば健康、お金、そして道徳的な行い、これらは関係があるんです。意志力があまりないグループに分類されてしまってもあまり悲観する必要はありませんよ。意志力のある状態にどうやって自分を持っていくか、コツをご紹介しますので。

それでは最初の介入をお話しますね。これはスタンフォード大で実施されたもので、対象はまだかなり若い学部生。仮想現実を用いた実験でした。ラボに学部生に入ってきてもらって、そこに各学生に似せて研究者たちが精密に作った3Dアバターを準備しておいたんです。

たとえば私がラボに入ったとすると、そこで定年を迎えるくらいの年齢の、自分の3Dアバターに会うんですね。かなりよくできた仕組みになっていました。仮想現実装置をつけたうえで映像や音声を見たり聞いたりするわけですけれども、未来の自分とテーブルに向かい合わせで座っているような形なんです。

それでカメラが装備されていてですね、たとえばこうして私が左手を動かすと「未来の自分」も手を動かしているように見える、あるいは私がしゃべると「未来の自分」がしゃべり返してくるように見えるんです。

この研究は学生たちに「未来の自分」に対してインタビューをしてもらう、というものでした。「ケリー、最近どうですか? 今のあなたにとって大切なものは何ですか?」といった具合ですね。

それでアバターに答えてもらうんです。つまり、定年間近の未来の私に、自分にとって大切なものの話をしてもらうと。これを1時間くらい続けてもらって、未来の自分のことを知ってもらうんです。