日本で最初の整形は、西洋風の二重瞼になるため

平林緑萌氏(以下、平林):本格的に美容整形が始まるのは、近代になってからですね。

北条かや氏(以下、北条):そうですね。第一次世界大戦で接近戦が行われて、今のような湾岸戦争みたいに、画面上での戦争ではないので、やっぱり傷つく方が多くて、顔が一番、意識的にも直したいという、トラウマにもなりますっていうことで、鼻の再建手術の技術が、第一次世界大戦以降、非常に発展したんです。

平林:まず鼻だったんですか、やっぱり。

北条:やっぱり西洋の方は鼻なんですかね。あと耳なども。

平林:それが美容整形の技術として、最初はアメリカとかヨーロッパに。

北条:初めはアメリカですね。

平林:日本に入ってきたのは?

北条:明治時代に初めての美容整形、十仁病院っていう、今もある老舗の美容外科なんですけれども、そこが二重瞼にする手術をしたんです。やっぱりそれは、西洋風になりたいというものだったと思うんですけれども。

平林:二重瞼の技術ってのは、いつぐらいにできたんですかね。

北条:そうですね。再建手術で二重にしたいっていうのがあったかどうか、ちょっとそこまではわからなかったんですけれども。

平林:でも、それも言ってしまえば切るとか縫うっていう、要するに医療的なテクニックの転用でということですよね。

北条:簡単だからこそ。二重瞼、埋没法というのはもうメスさえ入れないので、おそらく麻酔技術さえあれば、痛くないですしということで。

平林:日帰りみたいに簡単な。

北条:そうですね。最初に日本で行われたのは明治期で。それからは戦後は再建技術の応用が日本でもなされて、今に至るということですね。それで78年に美容整形外科というのが正式に、当時の厚生省に認められまして、そこから病院とか診療所がわっと増えていくんですね。

90年代後半からブームになった「プチ整形」

平林:最初は、例えば技術が先にあったという感じじゃないですか。他の外科とかの技術っていうのが美容整形のほうに入ってくる。でもいつからかはわからないんですが、今って美容整形の独自技術というか、美容整形じゃないと使わないようなものっていうのが、発展してくるような理解でいいんですかね。

北条:そうですね。90年代後半に美容雑誌がはじめて「プチ整形」という言葉を使いまして。あとは、美容ライターの中で結構有名だった外科医の方が、プチ整形という言葉を初めて使ったという、諸説あるんですけれども。

それでプチ整形っていうのは、メスを使わない、バレにくい、麻酔があるので痛くないということで、その3つがそろったのがプチ整形で。90年代後半以降、プチ整形っていうのが、流行とまではいかないんですけれども、かなりポピュラーなものになって、そのプチ整形のための技術が発展してきました。

平林:ヒアルロン酸を入れるっていうのがそうですか。

北条:ヒアルロン酸は、鼻に入れて高さを出したり、ほうれい線を消したりすることができます。脇汗を止めたいとか、あ、それはボトックスだ、すみません。ボトックスを脇に打つと汗がでなくなるので、多汗症の方が汗じみをつくりたくないっていうニーズを満たし、女性を中心に受けたという、そういうのもありますね。

ただ、プチ整形がブームになった2000年以降は、プチ整形のための技術とか脂肪吸引もそうですね。今だと痛みのより少ないダウンタイムといって、より術後の経過が速くなる技術っていうのは、もう明らかに目的が整形という。

平林:多分野から転用された技術みたいなものから始まったものが、ひとつの分野として独立して、独自の技術をつくるようになっていくっていうのが描かれてるんですけど、さらにその技術の変化とともに、意識の変化もあるっていうのが書かれてまして。

この意識の変化っていうのが、一番、僕にとって追いつくのが難しいところだったんですけど。多分、これはやっぱり男性のほうがそうなのかなっていう気がするんですけど、現実的に整形しようっていうことを検討したことがない。今井君はある?

今井雄紀氏(以下、今井):ないですね。こんな顔ですけど。

北条:今井さんに打ち合わせで、最初に整形の本を書きませんかって言われたときに、今井さんって、外見コンプレックスはないんですかって聞いたんですよ。そしたら、僕は親に感謝してますとおっしゃって。この体躯に生んでくれて、身長も高く、顔もそれなりで、歯並びもよくて……すみません、そこまでは言っていませんでしたか……。

平林:(笑)。

北条:という感じで女性にも恵まれる容姿だということで。……あ、そこまでは言ってないですよね、すみません。

今井:そこまでは言ってませんよ! たしかに僕は、そんなに外見コンプレックスはないです。もちろんありますけど、仕事をするうえで、そんなに支障のない顔と体型に生んでもらえたことを親には、ある程度感謝してるみたいな。

北条:大分、私が捻じ曲げてしまいましたね(笑)。

今井:これもちろん諸説あると思いますし、皆さん、いや、そんなことねえよっておっしゃる方もいると思うんですけど。僕、そんなに初対面で嫌われる顔はしてないっていう判断をしてるんで。

北条:営業成績を非常に上げられていたっていうのがあって、そのコツがいろいろあると思うんですけれども。後ほどまた別の機会に。

今井:確かにそうですね。はい、どうぞ。

整形を実況することでファンを増やす読モ

平林:何の話してたっけ?

北条:コンプレックスのお話ですね。整形したいほどのコンプレックス。男性はやっぱり、よりゲイの方のほうが整形したいっていうふうになるというお話は、うさぎさんからもお聞きしました。

それはなぜかというと、恋愛市場でゲイの方々は、見た目が重視されるからだと。うさぎさんの説なんですけれども、男性で整形する人が、特に中高年で少ないのは、うさぎさんの言葉をお借りすると、いったん男性は結婚してしまうと、収入がある限り、外見でどうこうということはないと。

今井:逆に言うと、結婚するまでがひとつ、顔が役目を果たすというか。

北条:なので若い男性で、女性にモテたいからと、ひげを脱毛するっていう方は、医療脱毛だと整形に入るので、最近、本当に増えております。やっぱり、見た目で判断されちゃう側のほう、例えばホストさんとか、整形が当たり前になっているようなケースも多いですね。

平林:わからないなりに読んでいったんですけど。整形に対する意識っていうのが、変化があるっていう。特に女性、若い女性を中心にすごく意識の変化が起こっていて。以前はすごい隠さないといけないというか、みんな隠すようなところがあったんだけれども、わりとオープンにしちゃう人がいるっていうのが、一番最初に出てくるんですよね。

北条:そうですね。特に読者モデル、ギャル系の子たちですね。ギャルの子たちは読者モデルとして登りつめるために、ファンを獲得しなければならないということで、整形までするっていうことは、コンプレックスを持ってる私をさらけ出すっていう行為なので、ファンが強烈に付くんですよね。

今井:共感するということですね。私と一緒なんだという。

北条:そうなんですよ。この本の冒頭では、「小悪魔ageha」のモデルさん、読者モデルの双子が整形を実況するというエピソードがあるんですけれども、Twitterで。結構、血が出てたりとかして、その写真をアップして、それがネットで5,000リツイートぐらいされまして。

アンチも付いたんですけれども、一方で同じような女性たちからは、私も整形したいんですけど、どこのクリニックでしたんですかとか、熱烈なファンも付いたという行動があって。

それ以降も黒ギャルと言われる、また新たなギャルが出てきてるんですけども、その中のはるたむっていう方とか、整形をします! って言って、しましたって言って、今こうなりましたと長期的にレポートをすると、ブログのアクセスが上がると。

そういう形で、意識的にか無意識的にか、ファンを獲得するために、整形をするように見えるギャルの子たちが増えてますね。一般の女性の中でも、あの子がやってるんだったらとか、そういう形で、モデルケースになってハードルが下がることはあると思います。

ゼロ年代半ばまでの理想の顔は「浜崎あゆみ」

平林:あと、理想の顔みたいな話が結構あるんですけど。ゼロ年代の半ばぐらいまでの時期っていうのは、浜崎あゆみがひとつの理想の顔だったっていうような話がありますよね。日本人にはなかなかないような。

北条:目頭の上から二重が始まっている幅広平行二重という。おそらく女性であれば、自分の目をどうしたいかっていうのは、女性誌を見ると奥二重さん用のメイクとか、一重さん用のメイクとか、外人さん顔のメイクというか、二重ごとにメイクが違うので。

自分の二重がどういう二重だなっていうのは、女性であれば、結構メイクに関心のある方であれば、特に意識していると思うんですが。その中で浜崎あゆみの登場というのが、エポックメーキングだったんですよね。

彼女がデビューしたのは90年代後半だったんですけれども、それ以降、彼女がギャルのカリスマになるにつれて、メンヘラ女子ももちろん巻き込んで、一大ムーブメントになってったわけですけれども。

その中で、これは高須クリニックの方がホームページで書いてることで、今、美容整形の二重手術を希望する女性のうち、50%が浜崎あゆみさんのような目になりたいと。

今井:今、2015年現在。

北条:そのホームページの情報はまだ載っているので、おそらく最近でもそうだと思いますね。あゆの名前を出さないとしても、やっぱり幅広平行二重が、今の20代から30代前半の女性たちにとっては、一種のモデルになってるんですね。

今井:おもしろいのは、どこまで共感されるかわかんないんですけど、多分男性にとって、すごくきれいだとかすごくかわいいって思うものとは、ちょっとずれてるんですよね。

北条:石原さとみさんとか綾瀬はるかさんみたいな女性って、奥二重なんですよ。全然目が大きくないんですけれども、なんか唇がセクシーだとかお肌がきれいだとか。

平林:女性のほうが、目にこだわりを持ってる気がする。

北条:そうなんですよ。インタビューでも女子大生が、目って大きければ大きいほどいいじゃないですか、みたいなことを言っていて。私もそうですよね、なんて言って盛り上がって、今井さんがちょっと引いてるっていう状況もあったんですけれども(笑)。

平林:最近、中国もすごい整形が盛り上がってるんですけど、やっぱりものすごく目を大きくするんですよ。それで、ウェイボーって中国版のTwitterがあるんですけど、男はそこで、「これやばい、目が気持ち悪い」みたいなことを言ってるっていう。

なんでそこにずれが生じるのかなっていうのは、ちょっと興味深いですけどね。3つめの体験のほうに移行しちゃいますけど、読者の方っていうか一般の方のインタビューの中で、整形して、自分がクラスメートとかの男から、かわいい女の子のカテゴリーに入れてもらえるようになったみたいな。それがまだ気になっていたにもかかわらず、やっぱり、みんなすごく目のほうにいってしまうっていう。

絶対にばれないよう徐々にするか、一度でメスをいれるか

北条:1人、23歳の女の子にインタビューさせていただいたときに、彼女が最初、一重だったのを、最初に目頭を切開して、ちょっと目と目の間を近づけると、大人びた上品な顔になるんですよね。

そのあとで埋没法で二重にしたところ、大学に入ったタイミングで、非常にモテるようになったと。自分でもわかるぐらい、男性の反応がわかるように変わったとおっしゃっていて。男って単純だなって思いました、みたいな発言がありまして。それが、その目の大きさによるものだった、と彼女は分析をしてたんですよね。

平林:どうなんですかね。目の大きさなのか。

北条:でも、彼女の目は今井さんも同席してたんですけども、ギョロっていうよりは、どちらかというと石原さとみさんっていう。彼女のポリシーとしては、あゆの目よりも自然な二重にしたいっていうニーズでされた方だったので。

平林:いわゆる整形する方たちの中の流行とは、ちょっと違う感じにしたってことですね、その子は。

北条:ただ、流行も2タイプあるなと。絶対にばれたくないので、片目ずつやるっていう方もいますし、そういう場合は、やっぱりあまり大きい二重にしちゃうと腫れもすごいので。

メスを入れると、それだけダウンタイムも長くなってしまって。お水系の方には2か月仕事を休めばいいので、できるだけ大きな二重にして、ダウンタイムを取るっていう方もいらっしゃいます。

会社員の方とか学生で、春休みしか時間がないっていう方は、ちょっと幅を狭めにして、これでしたらなかなか腫れませんよっていう、そういう2つの潮流があります。なので、二重幅が大きければいいっていう人と、ばれたくないので小さくてもいいっていう、2つあります。

今井:ばれたくない理由ですごいなと思ったのが、整形した方のなかに社会人1年目の方がいらっしゃったと思うんですけど、その人が大学生のときに段階にわけて何度かしたと。10回ぐらいしたのに、お父さんには一切ばれてないんだって。お母さんには事情を説明していて、術後はおそらく部屋にひきこもるんですけど、その間、お父さんにはほとんど会わない。すれ違っても下向いてるとかで。それで終わって、お父さんになんか顔変わった? って言われても、成長だよって(笑)。

北条:大人っぽくなったって。

今井:そうそう。メイク変えた、みたいな。

平林:自分が父親だったら、わからない自信あるもん、本当に。

「上京して垢抜けた」で整形はごまかせる?

北条:外科医の方、中村うさぎさんの主治医の方に、うさぎさんに近づくために高梨クリニックさんに初めインタビューをさせていただいたんですけれども、非常におもしろくて。患者さんの症例写真を見せていただいたんですね。もともとは和風のお顔だった看護師さんが、ギャルになっていく様子が、ほぼ別人になっていくのを全貌写真で見せていただいて。

この方って、親御さんは気づかないんですかって聞いたら、いや、全然気づかないんですよって言うんですよ。帰省するたびに、その方は名古屋から東京に出てこられたということで、東京に出て洗練された、垢抜けたからだという(笑)。

お鼻を高くしてプロテーゼっていうのを入れたりとか、二重を切開で結構大きくしているような大掛かりな手術をしているんですけれども、垢抜けたっていうレベルには、私からは見えなかったんですよね。

平林:東京、すごいってことですね(笑)。

北条:東京に出たから、名古屋のお父様から見たら、おしゃれになってっていうふうな感じで。

平林:でも、本当にちょっとずつやられたら、わかんないだろうなと思います。嫁がちょっとずつしても、わからないんじゃないかな。

北条:奥様、いらっしゃるんですか。奥様はちなみに、整形には全然興味は。

平林:全く興味ないと思いますね。化粧にさえ興味がないんで。

北条:そういう方もいらっしゃいますよね。

平林:やばいと思います。

北条:本当はそっちのほうが健全だっていう意見もあって。すっぴん至上主義っていうんですけど。

平林:これ読んで思ったのは、他人の目を気にしすぎるのも、つらいものがあると思うんですね、意識の面からいうと。別にしなくてもいいのにっていう人でも、すごく気にしちゃうみたいな、小さな欠点が気になり出すと、すごくそれが肥大化していってしまうっていう。

北条:そうですね。そういうタイプの方もいらっしゃいますね。

自分の見た目は自分のものではない

平林:逆に、もうちょっと化粧したほうがいいんじゃないかな、みたいな場合もあるのかもしれません。どこに合意点を見出すか、みたいな。だから、あっちもこっちも整形しようっていうか、これで最後って思うけど、整形を重ねてしまうっていう子が出てくるじゃないですか。

それはそれで、どこかで客観性を見失っているような部分があるのかなって気もするし、かといって、すごく服が汚くてもいいとか、清潔感すらなくてもいいみたいなのも、客観性を失ってるような気もするし。そこにこの本のテーマみたいなところがあると思うんですけど。

この本では顔ってことになってますけれど、広くいえば多分、自分の見た目っていうのは自分のものでなくて、他人から規定されるものなんだっていう、そこにすごくギャップがあるんじゃないかなと思うんですけど。

ちょっとややこしい話になるので、お客さんにとって興味があるかどうかわからないんですけど、行き過ぎちゃうと、社会的に外見で全てが判断されるようになると、みんな整形しなきゃいけないみたいな。

そこまで極端に行くかどうかわからないんですけど。とはいえ、外見とか見た目で判断してるものって多いじゃないですか。要するに、人間だけじゃなくてiPhoneとAndroid、どっちがおしゃれかとか。どっちが見た目的に優れているか。

北条:消費社会では、やっぱり見た目がアイデンティティを規定するようになっていく部分がありますものね。

平林:でもそれが行き過ぎちゃっても、みんながしんどくなるだけなんじゃないかなという気もするんですけど。だから、どの辺で落ち着けたらいいのかっていうのが、それはもちろん個々人で決めるしかないようなとこなのかもしれないですけど。

北条:そうですね。そのテーマに関しては、本の後半で結構自分なりに考えて。私が、いろいろ整形に関わる方を取材して思ったのが、美の基準っていうのをどこに置くかって、幸福かどうかっていうのは本人の主観でしかないじゃないですか。

勘違い女は幸せ?

北条:本の中で勘違いブスっていう人たちについて書いたんですけれども。例えば、木嶋佳苗さんっていう方がいらっしゃいますよね。彼女は非常に太っていらっしゃるし、目は埋没法で二重にしているらしいんですけれども、太っちゃったんで。

二重幅すら、もうわかんなくなっちゃったみたいな、明らかに見た目がそんなに美人ではないのに、彼女は幻想の中で、すごく私は美人っていうところに耽溺しておられる。ブログを見てもそうですよね。

平林:結構、文才ありますよね。

北条:そうなんですよ。セレブっぽく自分を演出するプロデュース能力。それが自己のイメージで、彼女は幸せだったとは思うんですよね、自分の顔がどうかっていうのは、他人からしか見えないという議論が哲学でもあって、本の最後でそれに触れているんですけれども。

だから自分の顔って、例えば私なんかも写真を撮っていただいたりすると、「うわっ、嫌だな」とかって思うんですけれども、結局それって、自分の顔が他人のものだから苦しいんだろうなと思うんですよね。

私が判断しないんですよ、自分の顔は。他人からしか判断されないので。自分の、他人に預けてしまっている顔というお話を最後にしているんです。だからこそ、その他人に預けた顔が褒められれば、とても嬉しいですし、一方で、他人のものだから、傷つけないようにちゃんとしないと、磨かないとと思っていると苦しい。

ものにたとえると、他人に預けちゃった自分の顔みたいなものを、常にきれいにしないと他人は不快だろうから、常にお化粧してないと、整形できれいにしないとって思ってると、つらいと思うんですよね。

平林:しかも、それを他人に預けざるを得ない、みたいな。