目の前にあることをただやり続けた

髙田明氏:皆さんこんにちは。最初にお断りしたいことがあるんですけども、私はこういうお話のときには、テレビのテンションとまったく違う話をします。

(会場笑)

「違うじゃないか」というように思わないでくださいね。今日はちゃんとしゃべれるのかなと思ってますが、昨日はちょっと寝不足で。錦織圭さんのアレ(試合)を見てましてね、3時過ぎに寝たんです。それで佐世保のほうから長崎空港まで行くので、朝の7時過ぎには佐世保を発ちました。

3時間ちょっとしか寝てませんので、ちょっと話がおかしいなと思ったときには「錦織さんのせいだ」と思って聴いていただければなと思います。

今日の演目「うまくいくバトンタッチ 戦略転換と世代交代の両立方法」と、すばらしいタイトルが上がってるんですけども、私は自然体、目の前にあることをただただやり続けただけでございまして。

何をやったかといいますと、御存知のとおりラジオ・テレビの前に立って商品を紹介することをやってきただけの人間でございますから、皆さんの参考になるお話ができるかはわかりません。

今日は100名ちょっといらっしゃいますので、私はこういう雰囲気のときには「同じ空気を共有しましょう」ということをよく申し上げます。皆さんと私は親類、兄弟のようなものでございまして、この1時間は仲良く、詰まったら笑いながら話をさせていただければと思います。

事業継承(バトンタッチ)というタイトルから入りますと、実は私は今年の1月15日に社長を退任いたしました。今はまったく役職が付いていませんので、ジャパネットたかたからのお給料は1円もないです。

私は今「株式会社A and Live」の代表取締役となりまして、実はそこもパートの人を含めて3人しかいないんです。何をやるかっていうのもまだ決めてないです。

株式会社A and Liveの「A」は、私は「明(あきら)」といいますがそのAなんですね。そして「Live」。「聞いたんだけども、明はまだ生きている(Alive)」と。

(会場笑)

そういう意味でA and Live、Aliveと勝手に解釈しながら、今から何をやろうかと考えようと思っているところでございます。私も66歳になりまして、昨年の65歳から高齢者に入りましたので、一番といえば一番ちょうどいいときじゃないかなというのが、事業経営者の自慢でございます。

60歳を過ぎた頃から、やっぱり企業は継続することに価値があると思いました。いくら栄えても、50年~60年、100年経って企業がダメになれば、その価値がそこで消えちゃうわけですから。

やはり企業は規模の問題ではなくて、世の中にどういう発信をしながら企業の価値を伝えるか、そして企業を継承するか。これは経営者だったら誰でも考えることであります。

ですから私は、そういう部分を60歳になって考えはじめました。それで66歳になって、元気なうちに事業を継承させたほうがいいと。

これは物の考え方で、ご年配の方ですごくパワフルに80歳90歳まで社長を務めて社員を引っ張っていく方もたくさんいらっしゃいますから、それを否定するものではありません。

でも私としたら、元気なうちにバトンタッチをすれば、アドバイスは求められればできる。まったくそこと縁がなくなるわけではございませんから。

ジャパネットたかた新社長は本音でぶつかってきた仲間

私は1月15日に退任しましたが、今テレビに出てますよね。よく(あるのが)「社長を辞めたのになんでテレビに出てるんだろう」と。

これはお断りしておきますけども、テレビのほうにちょっとやり残したことがありまして、まったく会社を離れた状態で1年くらいはアドバイスができたらと思ってます。

ですから期限が大体半年くらいになってるんですけど、そこまできたらほとんどテレビの画面からも消えようと自分で思ってまして。まあ1年間はそういう指導、また相談に乗りながら、ジャパネットの核であるテレビとかラジオを少し応援したいという思いで助けさせていただいているということです。

私はなぜ会社に残らなかったか。今の新社長は長男なんですけども、私からしたら世襲じゃないんですよ。今1800人くらい(社員が)いる中で、もっとも戦って、もっともぶつかって、もっとも議論をして本音でぶつかってきた仲間なんです。

そういう中で私は「この人に託せば、企業を100年200年(続くように)やってくれるかな」と。1800人の中から選んだトップがたまたま長男だったと、それだけのことなんです。

一番ぶつかりました。本音でぶつかりました。そういう中で、どれだけぶつかっても負けずに自分の信念を貫いたことに敬意を表して、託したんです。

託すってことは、期待がありますよね。当然、私も29年間社長をやってきましたから、不安がないかときかれれば不安がないことはないです。しかしどうでしょうか。まったくの不安をなくして継承するということはあるのでしょうか。

事業の継承……まあトップの交代だけじゃなくても、部長さんでも課長さんでも部下に全部任せていくということは、不安のメジャーと期待のメジャーの差だと僕は思ってるんです。

私の場合は明らかに期待のほうが大きく上回った。社長もまだ36歳という若さですから、まだまだ66歳の私みたいな経験はありません。でも、その中で非常に熱心に勉強する人ですから、そこに期待をかけたいということでジャパネットを退いたと。

じゃあ、私はなぜ退任したときに顧問相談役とか会長にならなかったかという話をします。これも私の考えなんですが、もしも私が会長という役職に入ったとすればどうでしょうか。

理念共有できる人を後継者として選ぶ

今までジャパネットが育ってきて、1500億円という規模にまで全国の皆さんに支えられてきましたけども、私のほうを見て動きませんかね? 全国の皆さんは。

これでは託したことにならない。託すのだったら全部託すと。悩んだら相談してもらえばいい。だから私は退いたとたんに、100%といっていいくらい経営の話もゼロという状態です。ただただテレビの前に立ち続けているという、こういう状態でございます。

何をもってバトンタッチしたかという、私が一番大事にしたことがあるんです。いろんな業種の皆さんにやってほしいことだなと思うんです。どの仕事にも価値がありますよね。企業というのはお金儲けも(大事)ですけど、価値を消費者の皆さんに理解していただいたときに初めてお金というリターンが入ってくると思ってるんですね。

はっきり言えば、企業は何のために世の中に存在していますかと。私たちの事業活動というのは、何のために毎日一生懸命働いているんですかと。やっぱり世の中に対しての貢献ですよね。

私たちはモノを販売する会社ですけども、モノを販売しながらモノをモノとして考えてない。私にはそういう考えがあるんですね。モノを通して、それが人の人生を変えてくれるという感じがしてるんです。本当に、モノはモノじゃないんです。

この辺もお話しさせていただきたいと思うんですけども、企業のミッションをしっかり引き継いでくれる人。理念。この理念共有というのは一番大事です。

引き継ぐとき、自分の部下を自分の地位にしようと思うときには、企業の理念・価値というものを共有しなかったら、どんなにその人がスキルがあってもダメだと思うんですよね。

大きいGE(General Electric)という会社がありますよね。あそこにジャック・ウェルチさんという方がいらっしゃって、そのあと(ジェフリー・)イメルトさんという方が代表をなさってますけども。

ジャック・ウェルチさんの本を拝見すると、誰を社長にするかというときにも3年くらいかけて候補が5人くらいいる中から絞り込んでいくんですよね。

最後の最後になってひとりを部屋に呼んだ。それで、その人に「託す」という話をするんですけど、その部分を拝見して「そうだなあ」と。

GEという価値を本当に世の中に出してくれるか、企業の理念、ミッションというものを本当に感じる人を選んでいかないと、いくらスキルがあるっていっても違うんじゃないかと思います。

スキルよりも大事なことは「価値の共有」

ここにいらっしゃる方はご結婚なさってる人がほとんどかと思いますけども、男性の皆さんに私から質問を投げかけてもいいですか。どうですか「奥様を娶(めと)るって幸せだと思うという方は手を挙げてください」と言ったら挙げますか? 今の奥様で幸せだという方は手を挙げてくださいませ。

(会場挙手)

ほら、ここにいる人は皆さんそうでしょ? だからここにいらっしゃると思うんですよ。それが価値の共有なんですよね。やっぱり若いときには、男は何でも恋愛に例えて言うんです。僕は若いときには恋愛は絶対無理だったんですよ。

「苦手だ、苦手だ」と思って。彼女も25歳までいないという男だったんですけど。今この歳になって、私も女房と結婚してよかったのは「価値」なんですよね。ジャパネットという会社も私1人のものじゃないと。女房と三十数年間、一緒に一生懸命やってきた結果でございまして。

恋愛は、若いうちは女の子が「ジャニーズ系がいい」とかそんな話をしますけど、本当は顔とかそんなのは関係ないんですね。お金も関係ない。価値。その人間の価値。

そしたら絶対に幸せな人生を送れる。刺激し合う幸せ「刺激期」というのがあるらしいんですよ、恋愛には。でもそれが結婚して10年、20年、30年経ったら価値の共有「価値期」に入る。この価値期を持続することが、最高の結婚であると思うんです。

私の知り合いの方ですけども、相当な企業のトップで国の機関のトップにも就かれた方とちょっと懇意にさせていただいて、1回食事をしたんですよ。私はお酒に酔って演歌を歌ったんですよ。向こうはワインとかシャンパンを飲みながらカンツォーネを歌われるという、これくらい違うんです。

これくらい共有するところがなかったんですが、一番感動した話がありましてね。その方は「見合いを30回した」とおっしゃる。「でも、30回したけど本当に今の女房と結婚して最高だった」とおっしゃるんです。これが、まさしく価値を共有したということだと思うんです。

ちょっと話を戻しますと、企業のミッションとか理念を共有してくれる人。その人に権威を譲渡して継承していくときには、その価値をわかってもらえる人というのがスキルよりも何よりも一番大事なんじゃないかなと思うんですけど、いかがですかね。

部下がたくさんいらっしゃって、その中で「この子はすごく力がある、ちょっと上がってきたらすごい子になるよ」というのがいませんか? やっぱりそういうところが一番大事な部分じゃないかと思うんです。

両親から受け継いだあいさつと礼儀正しさ

「マインド」と「スキル」というのが人間の中にあるんですけど、私がどうやって今の社長と共有してきたかというのを(お話しします)。

私の生い立ちを見てみて、よく取材で聞かれるのが「お父さんお母さんに影響を受けたことはありますか」。私の中ではやっぱり父親だったと思うんですよ。昨年父を亡くして、母は今年91歳になります。長崎県の平戸という小さな町で写真屋をして、私を育ててきました。

6歳~7歳の頃、カラーがない頃の記憶があるんですけど、暗室という白黒写真を焼くところに入って。そしたらその当時写真がブームになって、(人が)いっぱい集まってきたんですよ。そのおじいちゃんおばあちゃんにずっとかわいがられてきたんですけども。

ただただ、そういう両親とかおじさんおばさんを見てきて、人間力とか人間性というものをすごく学んだような気がするんです。子どもながらに。だから私はあいさつをするとか目上の人を敬うとかいうのは、自然に当たり前のように教育された気がするんですよ。

「おはようございます」「お疲れ様でした」というのは当たり前のあいさつなんですけど、今は当たり前が当たり前じゃないというのがありますよね。これは我が社の中では脈々と息づいています。

今日も社員、従業員のところを回ってるんですけども、ウチの社員は皆さんから言われることがひとつあります。「とにかく礼儀が正しい」です。

礼儀とあいさつがすごくできるので、本社がある長崎の佐世保から東京に進出してなかったときに、大きくなってきたら東京や大阪から大手さんが来ますよね。「なんで社長のところはこんなにあいさつするんですか? いやあ、みんな気持ちが良い笑顔ですね」って言われる。

「それが当たり前でしょ?」「いや、当たり前じゃないですよ。ウチの会社なんて部下があいさつもしてくれませんよ」って会社さんが結構いらっしゃるんですよ。

こういうところは非常に大事な部分があると思ってて、だんだん大きくなったらそういうところも出てきますんでね。やっぱり経営の方針としたら、それぞれをしっかり見ながら経営していかなきゃいけないと思うわけです。