よしもと主催の「ツッコまれピッチ!」に参加

司会:それでは田中社長よろしくお願いします。みなさん拍手でお迎えください。

田中邦裕氏(以下、田中):初めまして。さくらインターネットの田中と申します。この雰囲気の中で真面目な話をするというのはなかなか厳しいところもあるんですけど、真面目な話をしたらいいんですかね?(笑)

司会:いやいやいや、もう、自由に。

田中:起業秘話って言ってね、漫才みたいなことはできないですから(笑)。新手のNSC(吉本総合芸能学院)じゃないんで、起業秘話落語みたいなことができるようになればと言うのは思わないですけれども(笑)。

この間たまたまビジネスプランコンテストがあった時によしもとさんが主催のやつがあったんですね。「ツッコまれピッチ!」というやつで、ピッチをしながらツッコまれるっていうとんでもないやつがあったんです。

よしもとの子会社の社長とかですね、ブログで有名な山本一郎さんとかがずらーっと並んでですね……。今日はみんな5分間きっちりやって頂いて、審査員も行儀のいい人ばっかりだから別にツッコむようなことなかったんですけども。

そういうツッコミを入れながらスピーチをする、みたいな大会があって。さすがに東大生なんかビクビクしてましたけど。それに比べると今日は非常にオーディエンスの方も行儀の良い方ばかりですね。さすが天王寺区はちゃうな、と言うふうに……。

(会場笑)

ちょっとその薄い笑いがどういうこと意味してるのか……(笑)。みなさん大阪の人やと思いますからご存知の通り、区によって全然違いますからね。

今度あの、都構想ですか。天王寺区がどこと合併するかでみなさん戦々恐々としてるというような話もありますけど、政治的なことはもうこれだけにして(笑)。今火傷しそうになったんで(笑)。ということで、ツッコまれながらやったほうがいいですかね?

司会:それいいんじゃないですかね! どうでしょう?

(会場拍手)

学生時代はロボットエンジニアを志していた

田中:起業秘話ってなんか真面目な話になるんでちょっと、真面目な性格なものですからそれはちょっとあの……シーンとなって(笑)。ご容赦頂きまして。

真面目な話に戻りますけど、私生まれは大阪の桃谷にあります警察病院で、戸籍を見ると天王寺区出生と書いてあるので、一応天王寺にゆかりがあると言ってもいいんじゃないかと思うんですが、実は育ちはほとんど奈良です。

奈良の大和郡山に10年住んでまして、そこの近くにあった高専、高等専門学校……。ちなみに高専ってご存知のかたどれくらいおられます?

(参加者挙手)

あ、ご存知だったんですね(笑)。説明割愛させて頂きます。ロボコンを見てましてですね、ロボットが世の中を変えるんじゃないかなと思ったんです。

それで将来エンジニアになるんだということで、高専に行きました。実は奈良高専じゃなくて、兵庫県の北のほうに実家が引っ越しまして、京都の舞鶴というところにある舞鶴高専に行ったんですけれども、その時にロボットに情熱を持って入学したんですが、不景気だったんですよね。

ロボットエンジニアは将来あんまり明るくないと。就職率がとてつもなく下がって、私93年に入学したんですけれども、その時就職氷河期で卒業してもたぶんエンジニアはできないと、そういうふうな時代でした。その中で出会ったのがインターネットでして、16の頃ですかね、インターネットに初めて出会いました。

もう今どきはね、若い子とかって、(参加者の1人に呼びかけて)ね? 小さい頃からね、インターネットあったと思いますけど。そんなことないですか?

参加者:たまごっちとか。

田中:たまごっちは……(笑)。

(会場笑)

参加者:携帯でチケットを買ったらたまごっちが宇宙に行けるよ、みたいな……。

(会場笑)

田中:僕らのたまごっちってアクセサリーみたいなこう、丸いやつで……。とにかく最近のたまごっちはオンラインになってると(笑)。衝撃ですねぇ。まあそんな中でですね……。すみません、たまごっちとは思わなくて(笑)。

インターネットで世界を変えられると思った

実はですね、インターネットが僕好きになっちゃいまして、インターネット大好きで、「インターネットで世界が広がれば」みたいなものがうちの社是なものですから、この話をするんですけども、「インターネットが好きってなんですか?」って最近20代とか10代の人に言われるんですよ。

インターネットってもはや手段になってですね、インターネット自体でモチベーションを上げるっていうよりも、(モチベーションは)インターネットの外にあって、(インターネットは)使うものだと。うちの事業で説明させていただくと、インターネット自体を作るっていうのがうちのビジネスなんですね。

みなさんサーバってご存知ですか? サーバって聞いたことある方どれくらいおられますか? ありがとうございます。(参加者の 1人に呼びかけて)やっぱり聞いたことないですか、サーバ。

参加者:いや、聞いたことあるけど、ツッコまれたら言われへんなと……。

(会場笑)

田中:挙げなかったからツッコミしてしまいました(笑)。サーバというのは何か漠然とはみなさんご存知だと思いますけども、実際どういうものかっていうのはご存知ないと思うんですね。

最近特になんですけれども、インターネットって使うもの、サーバも使うもので、インターネットってどうやって作られているんだろうかとか、サーバってどうやって作られているんだろうかとか、そもそもそれって誰が提供してるの? っていうのをみなさんあまりご存知ないと思うんですよ。

そういう意味で言うと、うちのビジネスっていうのは、サーバを作って、サーバをお客様に提供して、インターネットを作って、インターネットを提供する、っていう仕事をしています。

なので最近若い学生さんとかに話をすると、インターネットが好きって言われると、それは道具が好きって言ってるようなものだから、「ハサミ好き」って言ってるようなものですよと。「包丁好きだ」って言ってるようなものですよと。いやぁなんか変な人ですねって話をされるんですけども。

やっぱり我々みたいに、インターネットはその当時はインターネット自体を作るっていうのがビジネスになる時代でしたし、私自身もインターネットで世界が広がるというのが私の中で情熱の源泉でした。

それでまあ、ロボット技術者にこのままなっても就職先もないし、世の中も不景気真っ只中でしたし、あんまり明るくないと。ただインターネットだったら、何か将来良くなるかもしれない、世界を変えられるかもしれないし、自分の身も立てられるかもしれない、ということで一念発起したのが18の頃でした。

私ロボコンやりたかったのでロボコンもやっていたんですけども、いつしかインターネットのほうに方向性は向きまして、それでさくらインターネットを起業するということになります。

もうそれが19年前のことで、18で起業して19年経ってますので、人生の半分以上さくらインターネットに捧げているというようなことがあります。まずこれを紹介させて頂きたいと思います。

会社の成功はビジネスプランでは決まらない

今日お話したいことのポイントは2つありまして、1つは情熱の話。あともう1つは人の繋がりの話です。

今日ビジネスプランコンテスト、先ほど審査させて頂きました。正直審査させて頂くということ自体おこがましいなと思ってですね、一人ひとりがすごく情熱を持って作ったビジネスプランを、我々が勝手にこれはいいとか悪いとかポイントを付けること自体申し訳ないなというふうに思っています。ただ役割なので、それは担当させて頂いて今回審査させて頂いたわけなんですけども。

正直、アメリカで成功しているベンチャー、ビジネスプランが最初にありました。何%の人がそのままのビジネスプランでやってるか、ご存知ですか? 

実はアメリカで成功しているベンチャー企業のビジネスプランっていうのは1割以下しか最初のビジネスプランと一緒じゃないんですね。要は9割以上のビジネスプランは途中で変わっていると言われています。

なので、いくらいいビジネスプランを作っても成功するかどうかというのはわからないわけです。何を言いたいかというと、僕は成功するために重要なことのたった1つのポイントは情熱だと思っています。何のためにそれをやるという気になったのか。

私はインターネットが好きだった。インターネットに初めて触れた時に、自分のサーバは京都の舞鶴にあったんですけど、大阪の電気街に来てインターネット体験コーナーがあって、そこで自分のサーバに繋いだんですね。

アドレスを入れて、そこに画面が表示されて、掲示板を作っていたので掲示板に書き込んだんですね。舞鶴にいた友達がそれに返信をしてくれたんですね。……当たり前のことですよね。

でも当時はその当たり前が当たり前じゃなかった頃です。インターネットを技術としては知っていたんですけども、インターネットを使うと多くの人が……何もお金を払ってなかったんですよ。

当然舞鶴に置いていたサーバも学校のサーバを借りていましたし、こっちにあったインターネット体験コーナーも店頭に置いていただけですよね。

みんなが、インターネットって、すごくハードル低く参加ができて、その参加している人同士がどんどん情報をやりとりしていくと。インフラは技術的にすぐ作れるんですけども、作ったインフラの上で起こるこの将来へのワクワク感にすごく感動したんですね。

会社の目標は変わるけど、目的は変わらない

私、人生で一番感動したことは何かって聞かれると、すごいオタクっぽい話なんですけど、「インターネットで友達とチャットができたこと」なんですね。普通のことなんですけども、私の中ではすごく重要な価値観として残っています。

起業して何かサービスをやる時に、お金儲けが目的になってしまうとそれはたぶん成功しません。もちろん目標ではあると思います。目的と目標って違うじゃないですか。

目的っていうのは「何のためにやるか」なんですね。なので、たぶんずーっと10年やっても100年やっても普遍的に変わらないもの。それが目的として定められるべきだと思います。

ただ目標っていうのはしょっちゅう変わるものです。例えば、売上1000万を目指すぞって言って1000万になったら次じゃあ1億にいこう、10億にいこうだとか。

また社員数はどれくらいにしたいとか、店舗を100店舗にしたいとか、いろんな目標を掲げられると思いますけど、それは「目的」ではないと、みなさんに声を大にしてお伝えしたいですね。

私失敗談もたくさんありまして、19年もやっているので倒産しかかったことも本当にたくさんあるんですね。その中でも一番大変だったのが、2005年に当社は上場したんですけども、上場した後にすっごいたくさんの人が群がってきてですね、当然お金があると思われるので、たくさん新しいビジネスを紹介してくるんですよ。

実は96年に起業した時から「インターネットで広がる世界を作る」というのが社是だったんですけども、1999年頃ですかね、ネットバブルがやってきました。ネットバブルがやってきて、その時目的であってはならないはずの、資金調達して上場するっていうのがいつしか会社の目的になっていた時期がありました。

なので、目的はあくまでもインターネットを使ってそれが世界を広がるっていうことなんですけども、目的がすり変わっちゃったことがあるんですね。

目的を見失うと会社の上場がゴールになってしまう

まあもうネットバブルってすごいんですよ。今もプチバブルになりかけてますけれども、やっぱり突然学生がですね、何百万何千万何億というお金を、自分のものじゃないんですけども、それを言うと人間性変わっちゃうのか、よくわからないですけど、目的をしっかり持っていないと、いつしか上場することが目的となってしまいます。

実際当社もそういう状況だったと思います。会社が大阪に出てきて2年後ですかね、すごい大量の、5億円ぐらいをベンチャー・キャピタルさんから集めることができました。そうなるといよいよケツに火がついて上場させないといけないと。

それで上場するに至るんですけど、上場するって目的だったんですよ。上場した時点で目的達成できちゃうわけなんですよね。目標だったらよかったんです。その次じゃあこうしよう、ああしようってなるんですけど、突然何でしょう、「人生の目的を失った」という表現がよくあるんですけど、会社の目的を失った会社というのは非常に右往左往しやすいんですね。

結局2009年に債務超過になりましてですね、債務超過っていうのは全部資産を売却しても会社が清算できない状態で、上場してますので上場廃止になる基準だったんです。何とかそれは本業に回帰して復活できたんですけども、その時に非常に強く思ったのは、やっぱり何のために我々は仕事をしてるのかという所をはっきりさせる、ということでした。

会社が倒産するのは社長が諦めた時

話を戻すと、やっぱり根本にあるのは、なぜそれをやったのか? という情熱だと思います。その情熱は会社が傾きそうになっても続きます。会社が倒産する時ってどういう時かと言うと、諦めた時だって私最近よく言うようにしています。

お金がなくても、頑張って何とか調達して、それこそベンチャー・キャピタルさんに駆け込むというのもあるでしょうし、何か支援をお願いしにいってもいいだろうし、その時にいろいろ資金調達の方法というのはあると思います。

正直銀行さんもなかなか貸してくれないと言いつつ、本当に自分がなぜこれをやりたいのか、それに共感できるビジネスプランであれば、貸して頂けると思いますし、とにかく、会社を潰すのを決断するのはあくまでも社長自身、創業者自身だというのが私、経験則からはっきり申し上げたいことです。

なので、やっぱり情熱がないビジネスプランっていうのはなんぼよくできていても、成功するかどうかはわからない。ビジネスプランっていうのは必要条件ではあると思います。

ちゃんとしたビジネスプランがないと失敗する可能性は高まりますけども、でも十分条件と呼ばれるものは、やっぱり情熱、エネルギー。何のためにそれをやるのかという創業者の思い。そういったものが中心になるということをまずは伝えさせて頂こうかなと思います。

私が途中で目的を失って、別の目的を目指してそれを達成した後に会社が右往左往したということになぞらえた上で、やっぱり情熱があって、思いがあって、私はインターネットがもっと広がればいいなと思っているので、この思いをもとにこれをお伝えできればいいなと思います。

インターネットがなくなったらどうするか

ちなみによくインターネットがなくなったらどうするんですか? って話をされるんですね。実は上場している会社で社名に「インターネット」って入っている会社は3社しかありません。インターネットの会社って多そうに思うんですけども、実はインターネットを「使って」ビジネスをしている会社というのは多いんですけど、インターネット自体の会社というのはあんまりないんですよね。

そういった意味で言うと「インターネットがなくなったらどうするんですか?」というのは結構現実味のある話なわけなんですけど、その時に決まって申し上げるのは、インターネットがなくならないようにその魅力を伝えたりだとか、それで広がるお客様を育てていく、それ自身がすごく重要なことなんですよという話をさせて頂いています。

なので、自分たちの食いぶちを失わないために自分たちが頑張るというのは当然のことだと思いますので、そこにも思いから発生する事業の根源がある、ということをお話したかったというわけです。

最後に、そろそろ時間なので、(司会者のほうを見て)すいません真面目な……(笑)。

(会場笑)

もっと笑い入れたほうがいいのかなって(笑)。

エネルギーは人とのつながりから生まれる

最後にお伝えしたいのは、やっぱりこういう場に来て、なんとなくエネルギーを貰っていったほうがいいと思うんですよ。昼間と違って部屋も暖かくなってきましたし、最初ちょっと寒かったんですけども、そういう身体的な暑さ寒さじゃなくて、なんとなく内に秘めたる「何か事業やってみたいな」とか「今事業やってるけどもうちょっと頑張れるかも」とかですね。

そういうのは私が直接みなさんにお伝えすることはできないんですけども、お互いにこう触れ合った時に、摩擦って熱を生みますので、その単に同じ場に居合わせただけじゃなくて、そこでお互いにコミュニケーションを取ることで、エネルギーを得て帰るということはすごく重要だと思います。

エネルギーというのは社内とか家庭の中でも得られると思うんですけども、ともすれば家の中にいても会社にいてもあまり会話がなかったりだとか、深い会話を何か気を使ってできなくなったりするんですよね。

摩擦がなく単に触れ合っているだけだとエネルギーって増さないんですけども、触れ合って摩擦が起こると熱が発生するじゃないですか。それって家庭内においても会社においてもどこにいてもそうだと思うんですよ。

なので、会社内、家の中でもやっぱりお互いが触れ合うことによって、エネルギーが発生するし情熱が生まれると思いますし、でも家庭内だとか会社だけでは吸収し得なければ、こういう場に来て自分で発言してもいいでしょうし、発言を聞いてエネルギーが増えてもいいでしょうし、ディスカッションをしてエネルギーが増えても、それは何でもいいと思うんですけど。

とにかく人と人との繋がり。その中でエネルギーを生んで、健全に自分のモチベーションを上げていく。そういったことがすごく重要だと思っています。

私もともとは話下手だったんですよね。ただ人前でどんどん喋ることで、前よりはだいぶましになったつもりなんです。人前で話す、人の話を聞く。

それによって自分自身も高めないといけないし、もともとがどちらかと言うとネガティブなほうなんですけど、やっぱりポジティブになんとなく、生きられるようになってきたというのがあります。

なので、ここ起業秘話って書いてますけども、どちらかと言うと、人からエネルギーを貰って元気に仕事すればなんとなく会社もしっかりと発展できますよ、ということをお伝えしたいのと、もともと自分がなんでその仕事してるんだろう? というのを忘れずに人と触れ合うことによって、相手にもエネルギーを与えられるでしょうし、そういったエネルギーを高められるようなことがお互いにできればなと思っています。

余談ですけど、国会ってよくあんなね、ディスカッション、すごい罵り合っても全然エネルギー上がらないのってなんでなんだろう? と不思議なんですけども(笑)。

(会場笑)

やっぱりお互い認め合うということも重要なんだろうなというふうなことを感じてまして、単に摩擦を発生させるだけだと、エネルギーを生むというよりは、失っていく方向になるんですけど。そういう健全な、こういう場でもですね、さっき優しい質問だなという話あったじゃないですか。審査員が優しいって話。

僕ビジコンで本当に腹が立つのは、すごい偉い先生とかが出てきてですね、「このビジネスプランのこの数字を何パーセント上げるにはどうするのか?」とかですね、すごいエネルギーを奪うことを言わはるんですね、審査員なのに。

ぜひ登壇される方には、せっかく天王寺のこのビジコンに出られたわけなので、優勝する方、優勝しない方もいろいろおられると思いますけど、とにかくこの場に来てエネルギーを貰って帰って欲しい。

最後結びの言葉としては、やはり天王寺区のビジネスプランコンテストなので、みなさまが成功された暁には、「人生の転機は何でしたか?」と聞かれた時に、「天王寺のビジネスプランコンテストでした」というふうに言って頂いてですね、「とりわけその時の審査員のみなさんのコメントが人生に役立ちました」と言って頂ければ、私たちもこれ以上の幸せはございません(笑)。

(会場笑)

ということで、これからも、私が言うのも大変僭越ではありますけども、エネルギーを高め合うということ。そしてエネルギー自身を自分で貰い、相手に与えること。そしてその根源にあるのはやはり自分がなぜその仕事をやっているのかということ。

そしてそれは人の繋がりの中から得られるような、起業家人生というのをお互いに生きられればな、ということで結ばせて頂きます。

ありがとうございました。