デザイン都市・名古屋が世界から認められる理由--思い出や文化を生かした街づくりの新しい形

まちを演出する: 伊藤孝紀 at TEDxNagoyaU

建築家の伊藤孝紀氏は10代のころに頭蓋骨を複雑骨折するほどの交通事故を経験したことをきっかけに、決断、行動、努力、継続、想いといった5つの想いを抱きながら社会のために生きることを決意しました。現在では名古屋の街のデザイン、演出に取り組んでいます。彼は壊して作るのではなく、今あるものを生かした街づくりをすることや、一人ひとりが街のことをよく知り、小さなことからでも主体性を持って参加することの大切さについて語りました。(TEDxNagoyaU2013 より)

街は生き物と同じ

伊藤孝紀氏(以下、伊藤):皆さん、こんにちは。

会場:こんにちは!

伊藤:今日は街の演出について話したいと思います。まず最初に、皆さんに質問させてください。皆さんは自分が住んでいる街が好きですか? どうですか? あ、(会場内の挙手が)少し。

じゃあ、街の独自の慣習だとか文化、成り立ちだとかお祭り、伝統行事。こういったものを知ってますか? また、外国人に自分の街を自慢できますか? どうですか?  

戦後、焼け野原から万博やオリンピックを誘致することで、国家戦略のもと高速道路や新幹線ができてきました。

経済の高度成長に支えられて、高層ビルや複合施設、大規模な再開発が行われてきました。そして皆さんの街が今ここにあります。

現在の街を見ると車や電車、人々の往来、さまざまな情報が行き交っています。テレビ塔やミッドランドから街を見おろすと、まるで細胞が循環しているようで、生きているようにも見えます。

まさに、街は生き物と同じなんです。

それなのに、街では壊しては作ることばかり行われている。残念なことに、大切な思い出や文化的に価値あるものまで壊してしまう。

私の専門はデザインです。しかし、壊して作るのではなく「今ある街をどのように生かしていくか」。こういう視点でデザインに取り組んでいます。

その実現に向けて、演出っていう言葉をキーワードに挙げています。

街の演出とは、潜在的に眠る価値を見出すこと

演出とは、原作の物語があって、その物語を生かすことです。原作の物語をドラマ仕立てにしていくのか、映画、演劇、ミュージカルにするのか。そしてどのように観客を楽しませ、素敵な空間を感じてもらうか、その中で収益をどのように上げていくか。

そしてその収益を次にどう繋げていくか。これが演出の役割です。

この役割を街作りに置き換えてみます。原作である既存の街並みがあります。そこで市民がどのように楽しんでいけるか、楽しめるか。そして素敵な景観、魅力的な仕掛けをどのように作れるか。

そしてその中で、どのように儲かる仕組みを提示できるか。そして儲かった収益をどのように次に街に還元していけるか。そういうことを考えていくことです。

街を演出するとは、まさに既存の街を壊すことではなくて、その街に潜む魅力を、潜在的に眠る価値を見出すことです。

そして見出されたその価値を、その後顕在化させていく。そして顕在化した価値に新たなストーリーを作っていく。それが街を演出することです。

交通事故がきっかけで決心したこと

どうして私がそういった「演出」っていうことに着目するようになったか、少し話をさせてください。

私の頭蓋骨の前頭葉には1部分、人工骨が入っています。17歳、高校2年生の冬です。大きな交通事故に遭遇しました。

雨の日に高速道路でハイドロプレーニング現象が起こって、車が止まることなく壁にぶつかって坂を横転し、屋根が飛び、私は頭を打っていました。

気づくと昏睡状態の中、もちろん記憶もなく、集中治療室の中にいる自分を確認しました。

頭蓋骨が数ヵ所、複雑骨折していましたが、硬膜内出血ではなく硬膜外出血であったこと、そして事故の現場のすぐ近くに総合病院があり、たまたま当直していた医師が脳の神経科のプロフェッショナルだった。それが幸いしました。

しかし10代の私にとってそういった現状を受け止めるにはあまりにも過酷で、正直頭の中に浮かぶのは、絶望という言葉しかなかったです。

ある日、同い年くらいの女の子が入院してきました。私は勇気を持って「おはよう」と声をかけました。しかしその子からの返答はなかった。車椅子を引いているおばあさんが「この子もあなたのように、1週間前までは元気だったんだけど、横断歩道で轢かれて今は何も感じない」(と言いました)。

私はそのとき、五体満足で自分が生きていることを実感しました。くさい言葉かもしれません。「私は生かされている。何かのために、社会のために生きていこう」そう、10代の私は決意したんです。

生かされている命を社会のために生かしたい

そういった私の姿勢と自分自身の取り組みがブレないように、5つの言葉を使いました。

まず自分の想いを整理し決断すること。決断したら、次にすぐに行動に移すこと。その行動は一生懸命、切磋琢磨すること。

そして努力も一度きりではならないので、継続すること。継続していくとどんどん疲れていってしまって、最初に描いた想いだとか夢を忘れてしまう。そういった想いをちゃんと確認すること。

決断、行動、努力、継続、想い。この、どれが今自分に足りないか、自問自答するために作った言葉です。

あるがままに生かされている命を、社会のために、街のために生かしたい。それが私が生きる原動力であり、私自身も救う、私自身も生かすことであり、街の演出に繋がっています。

名古屋は世界から認められたデザイン都市

さあ、話を名古屋に戻してみましょう。名古屋のことは、皆さんどれくらい知っていますか? どうでしょう? 天むす、金鯱、味噌カツ、ナナちゃん人形。

実に、名古屋は先人たちの知恵と英知が結集している素晴らしい街なんです。例えば今、映画でやっている『清須会議』。このあとですね、徳川家康によって清洲越しが行われる。そして金鯱のある名古屋城ができた。

しかし戦争のために全部が焼け野原になってしまった。しかし焼け野原の中、一番最初に復興計画を作って、そしてその都市計画を実現したのは名古屋なんです。

久屋大通り公園には、日本初となる集約電波塔である名古屋テレビ塔ができ、それは復興記念のシンボルであり、来年には60周年を迎えます。

栄南にある大津通りでは、1970年に最初に歩行者天国が行われました。それは銀座のホコ天と同じ時期なんです。

新幹線を迎え入れた名古屋駅は、世界で一番面積の広い駅ビルを誇っています。そして地下街も、名古屋が一番最初だったんです。

さらに、名古屋がデザイン都市であることを皆さん知ってますか? 知ってる人、どうでしょう? 

1989年にデザイン博が行われて、そのあと20年間のデザインの活動が認められて、2008年には世界のユネスコからクリエイティブデザインシティということで、デザインの称号をいただいてるんです。

まさに世界から認められたデザイン都市なんです。

私はデザインを名古屋の中心に行っています。アクセサリーのような小さいものから、都市計画のような大きなものまで、多岐にわたっています。

どうですか? 一見、見るとバラバラのデザインに見えます。節操なくいろいろやってるんだなと、もしかしたら思うかもしれません。

ところが、この一つひとつに実は共通していることがあります。それは、既存の町にある物だとか空間だとか、職人の技だとか、企業が持つ技術力をどのように生かすか、という視点で、そしてその生かすために、新しい価値や物語を作るということをしているんです。

そしてそれが演出です。

例えば、コミュニティサイクル。交通系ICカードを世界で初めて使った個人認証と決済をやっています。そうすることによって、既存の交通機関との連携をスムーズにするよう演出しているんです。

緑化のプロジェクトです。

都心部には1割以上のアスファルトの路面駐車場があります。このアスファルトの上に緑化をすると、生物多様性……昆虫だとか野鳥だとかが戻ってくるんです。

さらに、子どもたちが環境学習できる場でもあり、災害時には避難の場所になるような機能も付随しているんです。

テレビ塔に「ありがとう」のメッセージを送ると、テレビ塔がそのメッセージを受けてパッとライトアップする。素敵じゃないですか?

そういった、世界初となるテレビ塔を使った市民参加型のイルミネーションまで演出しているんです。

誰しもが街を演出できる

メガネは通常、視力を矯正するか、ファッションのアイテムです。しかし、このように組み合わせることによって、付けてる人たちが繋がりを感じることができる。

それは、メガネがコミュニティのツールになるということです。そんな小さな繋がりや気づき、それを演出することが街作りの第一歩に繋がるんです。

街作りというとスケールが大きくて、皆さんはどうやって取りついたらいいのか、考えていいのか、参加したらいいのか、なかなかわからない。難しい。

1000分の1だとか1分の1っていうことで考えてしまう。しかし重要なのはヒューマンスケールで、皆さんが感じたり、体感したり、体験したりするような仕掛けをどれだけ演出できるかっていうことなんです。

日常の中の街で、素敵だな、すばらしいな、豊かだな、幸せだなって思えることってどこでしょうか? 何でしょうか?

おそらく、自分が住んでいる街をよりよく知ること、そして小さなことからでも、主体性を持って自らが取り組む姿勢ではないでしょうか。

決して街作りは政治家や行政や、専門家だけが行うものではありません。誰もが主役となり、身近なことから自分の街を誇りに思えるように演出できるはずなんです。

決断、行動、努力、継続、想い。皆さんが皆さんの手で、街を演出してみませんか? できるはずです。

これで私のプレゼンテーションを終わらせていただきます。ありがとうございました。

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