ブログのタイトルを付け間違えた

野口綾子氏(以下、野口):それでは続いて、いよいよ第1位の発表です、一番驚いたこと、お願いします。

オーサ・イェークストロム氏(以下、オーサ):はい。実はこの話も、これにちょっとつながっていますのでお話します。昔のブログが4コマ漫画になるきっかけになったんですけれども、その授業はインターネット・コミュニケーションの授業でしたので、宿題として、ブログのデザインをして、1回の更新をすることでしたので、4コマ漫画を描こうと思ったんですね。でも日本語能力がちょっと足りなくて、1回だけの宿題じゃなくて、半年間、週末を含めて毎日更新しなくてはいけませんでした。

野口:毎日。

オーサ:毎日4コマ漫画を描くことになりました。

野口:わあ、でも大変ですよね。

オーサ:ちょっとがっかりしました。でもとにかく、そのブログにどんな名前を付けようかなと思って、日記漫画ですから、日本語のジャパン・ダイアリーズ。

野口:ジャパン・ダイアリーズ。

オーサ:そう。日本の日記を短くして、じゃあ、「ジャップダ」と付けてしまいました。それでずっとそのままだったんですけれども、学校で何か展覧会がありまして、お客さんに、いや、実はこれはものすごい差別的な言葉ですから、やめたほうがいいと言われまして、本当にショックでした。

野口:日本が好きなのに、日本の差別用語だったらショックということですよね。

オーサ:はい、ショックでした。

野口:お客さんに教えていただいたんですか。

オーサ:はい。

野口:先生は、そもそも学校の先生は教えてくれなかったんですか。

オーサ:そうですね。いっぱいいる先生から何も言われませんでしたね、不思議。

野口:不思議ですね。先生は略って、気づいていたのかもしれないですね。

オーサ:そうですね。新しい言語を学ぶときに、罠が多いということですね。

野口:スウェーデンでは何かを略して呼んだりすることって、ありますか。

オーサ:略して。

野口:プリントクラブをプリクラとか。

オーサ:ああ、ないですね。なので、そこはちょっと、いろいろと日本語でよくあるじゃないですか。特に英語の言葉を短くしますよね。だからおもしろいね、そこは日本語の特徴だなと思って。私も日本語をマスターして、それができて、激しく自己満足したんですけど。

野口:なるほど。日本人っぽく略したと思って付けたタイトルが、ショックなタイトルだったと。

オーサ:はい、ショックなタイトルになりました。

野口:それが第1位ということになりました。ということで、第3位がジャンケンの文化、第2位が箸渡しのすごい反応、そして1位が、ブログのタイトル「ジャップダ」にすごいショックを受けたということでした。ありがとうございました。

オーサ:ありがとうございました。

わからない言葉は英語を介して翻訳する

野口:このコミティアは本当にたくさんの方が自分で描いた作品を販売していますが、オーサさんの漫画の創作方法について、気になっている方、多いんじゃないかな、なんて思うんですけど。気になっているという方、いらっしゃいますか。たくさんいらっしゃいますよね。

でも、どうやって描いているんだろうって、多分気になると思うので、おうかがいしていきたいと思います。そもそもオーサさんは、4コマ漫画を描くときに、どのような手順で描いているんですか?

オーサ:そうですね、まずは何かネットに探しにいって。

野口:写真が出てきましたね。

オーサ:で、家がありましたら、手帳にスウェーデン語か英語か日本語で何か書いておいて、自分のためだけですから、よく言語のミックスになってしまいますね。

野口:いわゆるネタ帳ですよね。

オーサ:ネタ帳ですね。そのアイデアから、まずはスウェーデン語とかでスキット(台本)を書きまして、スウェーデン語から日本語の翻訳は多分、難しいですから、時々、スウェーデン語から英語にスキット、翻訳して、その後は日本のスキットを書きますね。

野口:じゃあ、もうひと手間じゃなくて、ふた手間。まずスウェーデン語、それを英語に訳してから日本語に訳す。

オーサ:はい。

野口:えー、大変ですね。

オーサ:大変ですよね。今はちょっとスキットを書く方法が変わりまして、直接、日本語で書くことになりましたが。

野口:それは、もうやっぱり日本語を勉強して慣れてきたからということですよね。

オーサ:はい。また何か日本語でわからない言葉がありましたら、すぐに調べますので。

野口:なるほど。

オーサ:その後はネームを描きまして、担当編集者、山崎さんに送りまして、赤字ばかりのネームがまた戻って、もう1回、日本語に直しまして。

日本人でも使わない難しい漢字をネームに書くことも

野口:山崎さんとお二人のやり取りで、これなんて書いてあるんだろうとか思ったりすること、ありますか。

山崎旬氏(以下、山崎):正直、結構あります。

野口:そうですね、赤字ばっかりだと。

山崎:なんかおもしろいのが、日本人でも使わないような難しい漢字とかを、すごくよくネームで書いてくることがあって、そこがオーサさんの特徴でもあるので、おもしろいなと思うんですけど。さすがにこれは意味がわからないというのは、直してから本にしています。

野口:オーサさん、日本人でもあまり使わないような難しい漢字は、どうやって勉強しているんですか。

オーサ:インターネットから勉強します。何かこれ言いたいなと思いましたら、調べますけれども、でも合っているかどうか、わからないんですよね。辞書はロボットみたいなものですから、本当に合っているかどうか、わからないじゃないですか。私も、そうです。

野口:辞書で変換された文章をコピペというか、コピーして。

オーサ:そうしますね。

野口:なるほど。

オーサ:でも本当に私、日本語に直すのは大変な仕事です。申し訳ございません。

山崎:そんなことないです。

独特のタッチで絵を描く理由

野口:下書きは大きい画用紙で描くんですね。

オーサ:はい。でも最近は、実は全部デジタルになってしまいました。

野口:そうなんですね。

オーサ:はい。これを描いたとき、締め切りが結構厳しかったので、やっぱりデジタルのほうが早いじゃないですか。でも、日本にも素晴らしいソフトがありました。

野口:どんなソフトですか。

オーサ:「ComicStudio」ってご存知ですか。

野口:いや、わからないです。

オーサ:えー、コミスタと言いますよね。

野口:でも、ああっておっしゃっている方も。

山崎:最近はものすごくたくさんの方が使っている漫画のソフトです。

野口:そうなんですね。

オーサ:素晴らしいです。いろいろ背景とか、とっても簡単に描けますので、とっても便利です。実は最近、海外にも大変人気です。スウェーデンにいる他の漫画家の同僚とか、みんな使っています。でも海外で販売されているときには、ComicStudioじゃなくて、Manga Studioと言われます。

野口:あれ、日本で英語だったのに、海外で販売すると日本語になるんですね。

オーサ:はい、逆ですね。漫画の魅力ができたのか、出せるように名前の変化があったらしいです。

野口:そうなんですね。オーサさんが好きな漫画は『ウテナ』とかじゃないですか。オーサさんが選ぶイラストのタッチは独特と言いますか、ザ・少女漫画というタッチとは違うじゃないですか。こういったタッチのイラストにしたのは、なぜですか。

オーサ:エッセー漫画って、普通は結構、簡単に描きますよね。簡単にと言いますか、シンプルできれいとか、読みやすいのが認められていると思いますので、そういうスタイルをやってみましたが。でもやっぱり、ゆるキャラはとても苦手ですから。

野口:苦手なんですね。

オーサ:意外と描くのが難しいです。

野口:少女漫画というキラキラした絵のほうが得意ですか。

オーサ:かもしれません。よくわからないんですけれども、ちょっとリアルなスタイルになってしまいます。

野口:そうなんですね。

オーサ:あとはやっぱり私にとっては、漫画というのは背景がとてもきれいなんですよね。ちゃんと背景を描きますね。日本人の漫画家はそういうことが、本当にレベルが高いですから、ちゃんと背景を描かないと漫画じゃありませんと思いまして、結構、背景も考えます。

日本漫画は擬音語が多い

野口:なるほど。やっぱりこだわりがあるんですね。日本の漫画で擬音を学んだってお伺いしたんですけど、日本とスウェーデンで、違うなと思うところってありますか。

オーサ:いっぱいあります。

野口:例えば。

オーサ:実はコミック、欧米コミックに比べましたら、本当に日本の漫画は擬音語が多いんですよ。すごいびっくりしましたね。なんかひとつのフラグじゃないですよね。例えば雨の擬音語は、何ですか。

野口:ザーとか、シトシトとかですね。

オーサ:いっぱいありますよね。

野口:いっぱいあります。

オーサ:なので、どこが正しいか、全然わからないんですよ。

野口:スウェーデンだと何と言うんですか、雨は。

オーサ:雨は、あんまり音はないような気がしますね。

野口:音で言わないんですね。

オーサ:はい。でも実は私もローマ字で擬音語は、あんまりきれいに書けないと個人的に思いますので。この前も漫画を描いたときに、できるだけ書かないようにしました。

野口:書かないようにしているんですか。

オーサ:はい。でも日本人の友達に聞きましたら、擬態語とか擬音語とかじゃない漫画というのは、音を消したまま英語を見ることですよ、とか言いましたので、もう本当に大事ですよね。

野口:でも、なんかちょっと違和感がありますよね。ドラマとかでも、音楽によって盛り上がり方が違うように、漫画でもやっぱり擬音が、字で書いてあるだけで、臨場感とか、なんかリアルな感じが伝わってくるので。

牛の鳴き声はスウェーデン語で「ミュー」

野口:なんか山崎さんとのやり取りで「えっ、これ何」という擬音語はありましたか。

山崎:ありましたね。これは本を読んだ方は知ってると思うんですけど、オーサさんがスウェーデンの話をしているときに、スウェーデンの田舎にある牧場のシーンが出てきて、牛が鳴いているシーンがあるんですよ。本の中ではちゃんと、モーという擬音になっているんですけど、最初、オーサさんから来たネームでは、擬音がミューという。

野口:かわいい、かわいくなっている。

山崎:これって何ですかって聞いたら、なんかスウェーデンではミューって牛が鳴くんですってね。

オーサ:そう、そう、ミューって。

山崎:それがすごいおもしろくて、残すか、修正するか、すごい迷ったんですけど、ちょっとびっくりするだろうなと思って、そこはモーに変えさせていただきました。

野口:そうなんですね。でもミューだと、牛の影に隠れて、なんか猫とかいるのかなって、思っちゃいますよね。

オーサ:全然違います。

野口:そうなんですね。でも確かに、よく鶏がクックドゥードゥルドゥーとか、英語だと、日本だとコケコッコーなので。

オーサ:全然違いますね。

野口:全然違いますよね。なんかそういった感じで擬音語は多分、国によって違うだろうなというのは、すごいわかります。

オーサ:要するに擬態語をするときには、なんかシャッフルみたいなものですよね。何になるか、よくわからない。

野口:ちょっと、賭けというかね。

オーサ:合っているかどうか、わからないです。

野口:ということで、オーサさんに今のコーナーでは漫画制作に関することをお伺いしました。ありがとうございました。

オーサ:ありがとうございました。

自分の漫画キャラの声優を演じた

野口:さて続いては、オーサさんの創作の舞台裏をのぞいてきましたが、漫画の執筆以外に、オーサさんは最近あることにチャレンジされたそうですね。

オーサ:はい、ありましたね。

野口:どうしたんですか。

オーサ:アフレコを初めてしてみました。

野口:へえー、アフレコ。実は最近公開されたんですけど、どんなきっかけでアフレコをなさったんですか。

オーサ:実は日本の不思議からいくつかの4コマを選びまして、モーションコミックとして作成することになりました。そのとき自分の、私らしい、たどたどしい日本語は多分、声優さんには言いにくいじゃないですか。難しいといいますか。なので、自分のセリフは自分でやってみましょうという話がありまして、ちょっとだけやってみました。

野口:はい。モーションコミックというのは先ほど、今、オーサさんがおっしゃったとおり、漫画をちょっと動かしたものですが。今、もう配信されていて見た方もいらっしゃると思いますが、そのときはオーサさんの声ではなかったんですよね。

オーサ:はい。

野口:別の声優さんが担当していたんですが、今日は特別にオーサさんがアフレコしたバージョンを初公開できることになりました。これ、私、個人的にもすごい楽しみなんですよね。実は台本が来たときから「えっ、まじ」と思ってすごい楽しみにしてたんです。

オーサ:いやー、そうか。

野口:オーサさん、アフレコをしたときに苦労したことってありますか。

オーサ:はい、ありました。なんでかと言うと、才能がゼロです、俳優の。

野口:えー、そうなんですか。

オーサ:はい、本当にそうです。

野口:なぜ、そう思ったんですか。

オーサ:いや、漫画家ですからね。俳優とか声優に向いていないですね。

野口:そうか。なんかこう、アニメの声優さんのようにはうまくいかなかったんですね。

語尾に「だ」をつけちゃう外国人の日本語

オーサ:でも本当に思ったより難しかったんですよね。あとは恥ずかしい話なんですけれども、自分が描いた漫画なのに、読めない漢字もありまして。

野口:かわいらしい。

オーサ:勉強しなくちゃいけませんでしたし、どうしてもスラスラ読めませんでしたよね。英語の部分がちょっと、1回だけありまして、それはスラスラ、問題なくてアフレコできましたが。

野口:日本語はやっぱり難しい。

オーサ:難しいんですよね。日本の声優さんは多分、世界の第1位にお上手だと。前からもそう思ったんですけれども、自分の経験の後、もう何と言いますか、再尊敬しました。

野口:そうなんですね。それでは、そんなエピソードもお伺いしましたが、オーサさんの渾身のアフレコ、モーションコミックを見てみたいと思います。どうぞ。

(映像音声開始)

外国人の日本語がよく間違っているところは「今日は暑いだ」「これから朝ご飯を食べるだ」「昨日は疲れただ」友達言葉を話すとき「だ」を付けちゃうだ。先日、とても驚いたのは、友達が間違って私をライングループに追加をしちゃったとき。

「今週、オーサのサプライズパーティをやるだ。皆、来るとうれしいだ」「ハハハ、おもしろいだ」「来るだ」「ケーキを作るだ」私の日本語が冗談のように使われているだ。「いやー、癖ってうつるよね。この間ついオーサみたいに、疲れただって言っちゃって、友達に笑われたよ」

野口:いかがでしたか。

オーサ:下手ですね。

野口:えー、そんなことないですよ。すごいぴったり、なんかこう、今、才能がなかったとかおっしゃっていたから、どんななのかなと思ったら、すごいお上手でしたよ。

オーサ:いや、でも、この4コマだけは多分、1時間ぐらいかかりましたね。何回も何回も同じセリフを言うことになりまして。

野口:そうなんですね。

オーサ:結局、じゃあオーサは代役さんが必要ですよね、と言われまして。でも代役さんと言いますと、ほかの声優さんと一緒にやることですよね。1回、プロの声優さんにセリフを言っていただいたことがあるんですが、でも、やっぱりちょっと時間がありませんでしたので。

野口:そうなんですか。今のは1時間かけて録った、本当に渾身のアフレコだったんですね。でも本当にお上手でしたよね。こちらのモーションコミックは随時、<a href="http://www.ensoku.club/pc/contents/article?id=1206"target="_blank">ENSOKUというサイトで公開されていきますので、ぜひ皆さん、見てみてください。オーサさんがアフレコしたアニメを公開いたしました。

北欧女子オーサが見つけた日本の不思議 (メディアファクトリーのコミックエッセイ)