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障がい×起業・雇用──「寝たきり社長」佐藤仙務氏と「働く」を考える(全3記事)

社長も社員も難病で寝たきり 19歳で起業した寝たきり社長が語る「働く」意義

10万人に1人の難病を患いながらも19歳で起業した「寝たきり社長」こと仙拓社長の佐藤仙務氏とサイボウズ社長の青野慶久氏が、「障がい×起業・雇用」をテーマに対談。講演の前半では、佐藤氏が障がい者としての自身の歩みと、起業した経緯について紹介します。「働くことこそが僕という存在の証明になる」と語る、佐藤氏の仕事論に迫る。(障がい×起業・雇用──「寝たきり社長」佐藤仙務氏と「働く」を考える より)

僕にできるのは、話をすることと親指を1センチ動かすことだけ

司会:ただ今よりサイボウズ式勉強会「障がい×起業・雇用──『寝たきり社長』佐藤仙務氏と『働く』を考える」を開催いたします。

本日ご講演いただくのは、株式会社仙拓の代表取締役社長 佐藤仙務さんです。愛知県の東海市から、はるばるお越しいただきました。これより佐藤さんの講演、その後、弊社の青野との対談、続いて、質疑応答の時間とさせていただきます。では、佐藤さんよろしくお願いします。

佐藤仙務氏(以下、佐藤):皆さん、こんにちは。株式会社仙拓の代表をしております佐藤仙務と申します。今日はお忙しい中、お集まりいただきありがとうございます。

本日は、今、画面に出ております「働くということ。19歳で社長になった、重度障がい者の物語」ということで、働くことという、ちょっと抽象的なテーマではあるんですけど、何で僕が会社を立ち上げたか、佐藤仙務にとっての働くというのは何なのかなというお話をさせていただき、皆さんにとって、障がい者にとって働くって何だろうなということを考えていただく会となればと思いますので、よろしくお願いします。

では、私の簡単な自己紹介をさせていただきます。今ご紹介いただいたとおり、愛知県の東海市というところから本日はやってまいりました。年齢は23歳です。そして株式会社仙拓の代表取締役社長をしております。

そして、ちょっとここはインパクトがあると思うんですけれど、僕は生まれながらにして体に障がいを持っていて、どんな障がいかは、また後ほどご説明させていただきたいなと思うんですけれども。

要は、僕ができることは、こうやってお話をさせていただくということと、あと両手の親指を1センチ動かすことです。この親指を駆使して、普段パソコンを動かし仕事をしております。

生まれてはじめて仲良くなった男の子が、のちの共同経営者に

では簡単に私の生い立ちからご説明させていただきます。1991年に、男3人兄弟の3番目の末っ子で生まれました。上の兄2人は特に体に障がいを患ってはいません。僕が生まれてちょっとしたあたりから、母が、「あれ、ちょっと何かこの子の成長のスピードがおかしいんじゃないか」ということに気が付いて。

だいたい10カ月とか1歳ぐらいになったときに、病院で診てもらって病気がわかりました。僕の病気は脊髄性筋萎縮症という、10万人に1人が発症するといわれる難病です。

どんな症状か簡単にいうと全身の筋肉がどんどん痩せていってしまう難病です。ALSという難病があると思うんですけど、あの難病に近いところがあって、どんどん自分の体を動かせなくなっちゃう難病です。

今の写真に写っている、真ん中のオーバーオールの人が僕です。後ろが母で、隣に車いすに乗った男の子がいると思うんですけど、彼は僕が生まれて初めて関わったというか、つながった障がいをお持ちの人で、今の共同経営者の松元という者です。

彼もまた同じ脊髄性筋萎縮症という難病を抱えています。偶然にも最初に出会った障がい者が自分と同じ難病を持った男の子でした。同じ会社を運営する仲間になるとは僕も当時、まったく思っていなかったです。

障がいの子っていうことで、普通の子どもと同じように小学校とか中学校とか、そういった学校に通うことは珍しかったので、特別支援学校に通っていました。

小・中・高とずっと通っていて、やっぱり同じような障がいを持った仲間というか、友達がいるので、自分が変わっているとか、不便だなと思ったことは、そんなにはなかったんですけど。

会社で働き、お給料をもらうという当たり前のことがしたかった

自分が高校3年生、今から学校の外に出て社会に飛び立とうというときに、僕もこんな状態ですけど、会社に行って働いて、お給料を得て、そういう当たり前のことがしたいなと思っていたんです。

でも今の世の中、僕のような障がいを持った人というのを雇ってくれる会社はなかなかなくて。いろんな会社に声をかけたり、障がいを持った人が働く、作業所にも声をかけたんですけど、普段ほとんど寝たきりの生活をしている僕を雇ってくれるというところはなくて。

でもどうしても僕も働いて世の中の役に立ちたいし、働くという当たり前のことがしたいなと思っていたときに、ちょうど自分のモヤモヤというか、悩みというか、そういったものを松元に話していて。

松元もやっぱり同じ障がいを持っていて、同じような状態でした。彼も働く場所がなくて、ただ家で過ごしている。そんな生活を送っていたので、僕は本当にもったいないと思っていました。

松元はデザインとか、そういう知識に長けている人間だったので、本当にもったいないなと思って、じゃあ僕ら2人で組んで会社を起こそうということで、2人で仙拓というホームページと名刺を作成する会社を立ち上げました。

障がい者が会社を興せば、勝手に仕事の依頼が来ると思っていた

面白いのは、その時から自分で自分のことを「寝たきり社長」と呼ぶようになりました。会社を立ち上げたのはいいんですけど、やっぱり僕らみたいにほとんど身動きの取れない障がい者というのは、外回りの営業とか、そういったことはほとんどできない。

僕は障がいを持っていたら、会社を起こせばどんどんみんなが仕事をくれるんじゃないかという甘い考え方を持っていたんですけど、そんなことは全然なくて、会社を起こして待っていても仕事は来ない。

最初は身内とか親戚から仕事をもらっていたんですけど、だんだんそれにも限界が出てくる。本当に仕事がまったくない状態になって、どうしようとなったときに、もっと自分のことを周りのみんなに知ってもらえれば、もしかしたら応援しようと思ってくれる人がでてくるかもしれないと思いました。

自分で考えて、新聞とかテレビとか、そういったマスメディアに自分たちのことを発信して、セルフコーディネートをして、何とかいろんな人に仙拓という会社の存在を知ってもらおうとマスメディアに声をかけました。

そうしたら、いろんな人に知ってもらえるようになりました。今では本当に北海道から九州まで、いろんな人から仕事の依頼を頂きます。仙拓の主な業務内容なんですが、今、名刺の作成、あとホームページの作成をさせてもらっています。

仙拓の名刺の一番の特徴は、渡したときにインパクトのあるデザインです。これは僕の名刺なんですけど、ポップと言いますか、ああいう感じのデザインになっています。渡すときにちょっと目を引きます。

あと仙拓の名刺は材質にもこだわりがあって、こちらの材質はカメレオンといって、光の当たる角度によって色合いが変わります。普通の名刺じゃない、ワンランク上の名刺を目指して制作しています。

あとホームページも、制作しています。もともと松元はWebデザイナーになるのが夢ということだったので、彼のオリジナルデザインでやっています。障がいを持っているので、普段インターネットをやる機会が彼も多くて、いろんなサイトを見ては、もっとこうしたら見やすいのになとか、もっとこうしたら操作性が上がるのになと考えています。

そういった僕らならではの経験を生かしたWebサイトを作っています。

子どもの頃からの夢は本を出版すること

もう一歩先に行きたいなと考えたときに、僕は子供の頃から自分の本を将来出したなという夢を持っていました。子供の頃、乙武さんの『五体不満足』という本がはやっていて、その本にすごい刺激されたのです。

『五体不満足』

彼は21歳で本を出したみたいで、僕も同じ21歳で出しました。最初の本は『働く、ということ』。本日のテーマと同じなんですけど、僕がなんで会社を立ち上げて、立ち上げてからどんなことがあって、これからこんな会社にしていきたいということをまとめた本を2012年に出しました。

『働く、ということ』

その後、カラーのほうの『寝たきりだけど社長やってます』という本は去年の6月に出版させていただきました。『働く、ということ』のリニューアルなんです。会社2年目までをまとめた『働く、ということ』とに、4年目までを追記し『寝たきりだけど社長やってます』という本にしました。

『寝たきりだけど社長やってます』

やっぱり本を出させていただくと、いろんな人に読んでもらいたいとか、本当にいろんな出会いとかつながりというのが増えます。サイボウズさんともご縁の最初は、僕が社長の青野さんに自分の書いた本をどうしても読んでもらいたいなと思って、自分でFacebookで声を掛けさせていだき、本をご一読いただいたことです。

本日のこういった場を提供していただくこともできました。本当に僕の人生にとって、本を出すということが大きなものとなりました。

いろんな出会いがあったんですけど、その出会いの中で一番、僕にとってインパクトがあったのは、やっぱり安倍総理とお会いしてお話させていただいたことです。こちらの写真は、先日新宿御苑で行われた「桜を見る会」の写真です。総理も僕の『寝たきりだけど社長やってます』をご一読いただきご招待いただけました。

もし自分が会社を起こさずに、家でただ何もしてなくて行動を起こさなかったら、こういったところの出会いもありませんでした。やっぱり働くことで出会いがどんどん広がっていって、自分が今まで見えなかった世界が見えたかなと思っています。

最後に、普段どうやって実際に仕事をしているかを映像で、見ていただいて、僕の講演は終わりたいと思います。

働くことこそが存在の証明になる

(映像開始)

ナレーション:「HOPE for tomorrow」、希望を語ること。それは夢に近づくこと。今夜は佐藤仙務さんの希望の物語です。重度の障がいにもかかわらず仕事へと向かう佐藤さん。生後10カ月で脊髄性筋萎縮症を発症。全身の筋肉が徐々に萎縮し、自分では動かせなくなってしまう難病です。

佐藤:両手の親指が1センチ弱ですね。

ナレーション:今はその親指を駆使してパソコンのマウスを器用に操作、自らWebサイトの制作会社を立ち上げ社長を勤めています。

佐藤:ひと言で言うと働く場所がなかったという。まず障がいを持っている人って、働ける場所っていうのがない状態で、重度の障がいを持った人というのは、より一層働く場所がないので、だったら自分たちで会社を起こして仕事をしようという。

ナレーション:18歳のとき、同じ病気の幼馴染と会社を設立。パートナーの松元さんが制作を担当。佐藤さんは顧客との窓口となり、営業面を担っています。

:僕らは今できていないことがあって、障がい者雇用なんですよ。

ナレーション:最近では、一流企業の経営者から相談が来るほど注目される存在になっています。しかし、なぜ働くことにこだわるのでしょうか。

佐藤:子供の頃ってずっと入院ばかりしていて、自分がこのままで終わっちゃうのかなっていうのをずっと思っていて、佐藤仙務という人間がこの世の中にいるってことを皆さんに知ってもらたいなというのが。

ナレーション:働くことこそ存在証明。そんな佐藤仙務さんのホープ、希望とは。

佐藤:やっぱり自分が働きたくても働けなくて、会社を起こしたんだけど、社会の障がい者雇用を変えたいですね。

ナレーション:近々新たに重度の障がいのある人をお二人、社員に迎える予定だそうです。「HOPE for tomorrow」、あなたがいつかかなえたい夢は何ですか?

(映像終了)

佐藤:ありがとうございます。

司会:ありがとうございました。では続きまして、サイボウズ株式会社代表取締役社長、青野との対談に入らせていただきます。サイボウズの青野は、先ほどもご紹介がありましたけれども、昨年より仙拓さんの顧問も務めております。では「障がい×IT新しい働き方・サービスの可能性」と題しまして、お二人でのトークを開始します。

いきなりFacebook申請がきて、本が送られてきた

青野慶久氏(以下、青野):皆さん、こんにちは。サイボウズの青野と言います。今日はもう完全に脇役なんで、でしゃばりすぎないようにして(笑)。ちょっと2人のつながりのお話をご紹介させていただきますと、昨年の7月、まさに本が出た直後だと思うんですが、佐藤さんからFacebookのお友達申請が来ました。私もう毎日何人もFacebookの申請が来るんで、あまり正直見てなくてですね、とりあえず承認みたいな感じだったんですね(笑)。

その後メッセージをいただいて。「僕、こんな本を書いたんです。もしよかったら読んでもらえませんか」って。『寝たきりだけど社長やってます』っていう本が来て、なんと怪しい人だと(笑)。なんというすごい押し売りだと思って、でもとりあえず読んでみようかなと思って、じゃあ送ってくださいぐらいで読み始めたら、僕、泣いちゃいまして。

先ほど、働くということが存在証明だというところがあって、じゃあ稼いだらどうしたいんですか、みたいな話があったときに、お母さんにご馳走したいです、みたいなことが書いてあって、もう号泣ですよ。

子供3人持つ身としてはね、働くということの人間の根源的な欲求、誰かの役に立ちたい、それの表現として働くってあるんだなと思ったときに、やっぱりちょっと心揺さぶられまして、その後、2人でちょっと盛り上がって、顧問をさせていただいた。あれは、でもすごい勇気が要ることじゃないの?

佐藤:会社を立ち上げるとき?

青野:会社を立ち上げるのもそうだし、人にどんどん自分からアプローチしていくというのは、私だけではなくて政治家の方にもアプローチされますし、あれは勇気が要るんじゃないかなと思うんですけど。そこは佐藤さんの中ではあまり障壁にはなってないのかな?

佐藤:そうですね。やっぱり僕もちょっと自分の中で躊躇するというのは、多少はあるんですけど。昔だったら自分から連絡を取ることというのはできなかったと思うんですけど、今の時代だからこそ、ネットを使って人にアクセスすることができるので、これは活用しないともったいないなという思いは僕の中で強いですね、気持ちとしては。

青野:なるほど。そこはやっぱりITの力もあるし。それがあるんだったら、もう「使わな損」と。

佐藤:損ですね。

青野:ポジティブですね。

佐藤:ありがとうございます。

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