銀行というよりVCに近い「シリコンバレーバンク」

田中章雄氏(以下、田中):他のテーマについては後で話し合うとして、アーマンに移って、シリコンバレーバンク(以下、SVB)と初期段階への投資について話を聞かせてもらいたいと思います。

アーマン・ザンド氏(以下、アーマン):ありがとう、章雄。僕も中国での状況について話したいと思います。ところで、もっと中国から人を呼んで来なければいけないと思うんです。今日ここで中国について話すのは僕とフランス人でしょう。

田中:心配ないよ、中国人に見えるから。

アーマン:中国人に自国を代表してもらわないと。さて、今日はシリコンバレーバンクと、中国SVBについてお話したいと思います。

SVBは、先ほども述べたように金融サービス会社で、米国に本社があり、イスラエル、インド、イギリス、中国にオフィスを構えています。これらの国々はベンチャーキャピタルの融資の量と金額の面で世界のテクノロジー・ハブと言えるでしょう。

うちの会社はVCの後を追いかけて、何10億ドルもの投資をしています。社員は1800人、米国内外に28のオフィスがあります。SVBに勤めて15年になるんですが、この6年間は中国でのプレゼンスを高めることに務めてきました。今日は、わが社の中国におけるプレゼンスと、中国の企業やトレンドについても話をしたいと思います。

SVBが起業家とイノベーションを求めて中国に進出したのが1990年代で、2005年に上海にオフィスを設立して以来、北京と香港にも拠点を広げてきました。2012年に地元の中国の銀行と合弁事業を設立しました。出資比率が50:50の米中合弁銀行は中国の長い歴史でも初めてのことです。

われわれの目的はSVBを中国で複製すること。中国で事業を行うのは非常に困難ですが、かなり前進したと思います。

SVBがどういった会社で、Yコンビネーターや世界中のVC、アクセラレーターとどんな関係があるのか、皆さんは興味をお持ちだと思います。結局のところ、SVBは銀行ですが、顧客はすべてテクノロジー系企業であり、日々お付き合いしている顧客もテクノロジー企業のCEOやCFOばかりです。

多くの点で、銀行というよりはVCに近いかもしれないです。他の銀行はほとんどしませんが、SVBは初期段階の企業にバンキングサービスやローンやクレジットを提供しています。それは中国に限ったことではありません。

利益を出す前の企業に投資を行っている

アーマン:世界的に見ても、一般的に銀行は非常に保守的で、初期段階の企業は融資対象にしないですが、SVBは違います。ではどうしているのかというと、SVBでは3つの点を何よりも重視している。

1つ目が良いVC投資家を持っていることで、これは常に大事なことです。

2つ目が、創業者がその分野で経験があること、

そして3点目が市場参入のハードルが高いこと。どういうことかというと、企業価値がある程度高く、ハードルの高いテクノロジーだということだ。ハードルが高いということは、そのビジネスに参入する競争が厳しいということです。

それによって、SVBはかなり早い段階から、エクイティファイナンス(株式発行による資金調達)に加えて、デット・ファイナンス(銀行借入や債券発行といった負債による資金調達)を提供できることになります。

例えば固定資産がほとんどない利益を出す前の企業や、まだ製品販売する前で利益を出す前段階の企業など、それがわが社の専門です。それで……。

田中:じゃあ、まだ利益も上げておらず、赤字を出しているハイリスクな企業に融資してるんですね。

アーマン:その通り。

田中:それって銀行らしくないですよね。

アーマン:銀行らしくないし、自分たちでも自身を銀行家と考えたくはないです。だけど今日話したいと思ったのは、成功例の1つで、インフィニティ・ベンチャー・パートナーズ(以下、IVP)とも関係があるOrderWithMeという会社なんです。

これはSOS VenturesとIVPのポートフォリオ企業の1つで、2012年に紹介されたんです。この会社については、まずChina Accelerator(中国のシードアクセラレーター)のバッチ1の企業として非常に成功しています。

また、2011年のTechCrunch Disrupt(新しいベンチャー企業の登竜門的なイベント)で優勝しました。先ほど述べたSOSとIVPから300万ドルのシリーズAの投資を受けました。その後、うちの会社が紹介されました。会社は中国の杭州に拠点を置いています。

その後、製品を販売するためにシリーズB投資を必要としていましたが、シリーズBを調達できませんでした。評価額がそれほど変わっておらず、目標としていたマイルストーンに達していなかったからです。

そこでSVBの出番です。SVBは起業家のことをよく知らなければならないが、田中章雄さんと深く知り合いになるチャンスがありました。解決策を得るためにその会社と取り組みました。それで、当時は利益を出す前だったこのシリーズA企業に50万ドルのローンを提供しました。10万ドル単位でね。

その会社がマイルストーンに達するごとに10万ドルずつ増やしていって、総額50万ドルに達しました。その6ヵ月後、この会社は600万ドルのシリーズB投資を調達することができて、ローンを完済しました。

ケビン・ヘイル氏(以下、ケビン):シリーズAからシリーズBまでの期間はどのぐらいでしたか?

アーマン:この場合は約18ヵ月だったかな。あってますか?

田中:大体ね。

アーマン:この会社の現金が2週間しかもたないというところまで減ったことがあります。「章雄、一体どうなるんだ」と何度も電話しました。章雄は「心配するなよ。会社は何とかなるよ」と答え続けました。

もちろん、結局はシリーズBを調達することができました。ですが、いつもそうとは限らないので、企業評価が本当に重要なんです。このような会社は、恐らく50万ドルで売れると思うし、担保付き貸し手のためにも多分貸した分を取り戻せるでしょう。

さて、エキサイティングなことですが、つい最近、1ヵ月前にこの企業は2,800万ドルのシリーズCを発表し、SVBは50万ドルのローンから、融資限度額を1,500万ドルに引き上げました。

それ以来会社はアメリカに移り、章雄のファンドとSOSベンチャーズだけでなく、アジアのSVBにとってもまさにサクセスストーリーで、アジアにおける関わりとアジアのエコシステムにおける成功例と言えるでしょう。

リスクを負わずにお金を得ることができるアプリ

アーマン:それでは、SVBが支援している中国のエキサイティングな企業をいくつか紹介しようと思います。

1つ目が僕のお気に入りの会社でTrade Heroといいます。この会社はシンガポールで創業しましたが、主な市場は中国です。実際、グローバル市場企業で、どこでも通用すると思います。クライナー・パーキンス・コーフィールド・アンド・バイヤーズとIVPから支援を得ています。

基本的にバーチャル株取引の会社なんですが、この中で株取引をしている人がいたら、このアプリをダウンロードすることを強くお勧めします。ダウンロードすると僕が功績を認められるからね(笑)。

このスクリーンショットを見てもらいたいんですが、この会社に登録するとすぐに10万ドルの仮想通貨がもらえます。

日本、中国、アメリカでも、世界中のどの証券取引所でも株の取引を始めることができる。成功するとランク入りするようになるんです。ランキングトップのトレーダーとその成功ぶりを見てください。

ランク入りすると、これらのトレーダーを「フォロー」して、取引の様子を追うことができます。

その様子を通知してもらうためにはユーザーは1ヵ月1ドルを支払わなければならないんです。ユーザーが1ヵ月1ドルを払うと、トレーダーは50セントをもらえる。こうしてリスクも負わずに、お金を得ることができます。

取引が非常に上手いということを示せば、ユーザーはお金を払ってフォローして、リアルにお金を得ることもできるんです。

田中:ねえ、最近Trade Heroファンドの代表者と話をしたんですが、君のほうがずっと説明が上手ですよ(笑)。君がTrade Hero社に入ればいいのに。

アーマン:彼はいい人ですよ。それで、考えてみると、この種のアプリは世界中どこでも通用するし、世界中どこでも予想することでお金は稼ぐことができます。最近では「フットボールヒーロー」というヨーロッパサッカーの結果を予想し、お金を賭けるという方法があります。

高い確率で予想が当たる人は、他の人たちがフォロワーになり実際にお金を稼ぐことができるというものです。とてもお勧めです。

中国では「どこで買うか」より「一番安い」が重要

アーマン:次に好きな企業は、韓国人が創設した中国企業「バンオマイ」です。help me to buyという意味で、ネットの検索企業です。

いくつものeコマース企業が層になって存在しており、タンバン、ティモ、ジンドン、ユネモなどが層のトップにあります。

どんな商品でも、他のサイトにいかずにまずバンオマイで検索をかけてみると、同じ商品を販売しているすべての会社の価格をこのサイトで見ることができます。

このような価格マッチングは最近どこのサイトでもやっていると言われるかもしれませんが、バンオマイが他と違うところは、同じ商品を売っている中国企業にサイトを通して価格競争をさせ、同じ価格に割引額、同じショッピングカードで支払うことができます。

中国にあるすべてのeコマース企業から一番安い価格で購入することができます。アメリカではこれは無理ですね。みんなアマゾンで買うからです。もし同じ商品で1ドル値段が違うとしても、知らない企業では買わないでしょう。

たった1ドルのために、ユーザーパスワードや新しいカウントのためにメールアドレスを登録するなんてしないでしょう。しかし、中国ではほんの少しの価格が違うだけでも、一番安いものを買います。

このサイトが機能しているのは、中国では価格重視で買い物をしているからでどこで買うかは重要ではありません。このサイトはとても魅力的で、すでに数百万人ものユーザーがいます。

旅行もできるし、ファイナンスサービスも受けられるし、このオンラインで何でも買うことができます。3番目の企業は、Sino Lending Companyで、中国語ではゲンロンと呼ばれています。中国で最初のピアツーピア(P2P) です。

田中:アメリカでいうと、レンディングクラブでしょうか。

アーマン:その通りです。昨年は、中国で2500ものP2P企業がありました。以前はグル―ポンという名前で、2年前までは5000以上ものグルーポン企業がありました。

この理由としては、参入障壁が低いということが挙げられます。実際に、彼から借りまた違う彼に貸す、というように私もすぐにP2Pはできます。今中国に存在する2500のP2P企業はこのように生まれました。すべてマニュアルです。しかし、Sino lending Companyは違います。

ファウンダーが、世界でもトップ2に入るアメリカのP2Pレンディング企業の人です。彼は中国に来て、この企業を創設しました。アメリカの同じテクノロジーを中国に持ち込みました。

成功した理由は、従業員は少しだけでより多くのテクノロジーを使い、ボロワーとレンダーを生み出しています。

トレンドは「ジャック・マー効果」

アーマン:いくつかの中国で見られるトレンドについて話しましょう。まず、これまで話してきた企業のようにテクノロジーの会社の評価は、私が中国にいるここ6年間で中国が一番に高くなってきています。

これは世界中どこでも言えることですが、中国ではそれがとても速いペースで出ており、来年には評価が下がることが予想されます。

現在の私たちがいるポジションというのは、VCやパートナー、投資家NVCからトレンドを見ることができます。最近のマーケットを見てみると、どんな会社でもインターネット上でユーザーにとって妥当な価格より50~70%高い価格を出ています。

来年はどうでしょうか。ここ2年間で資本不足になると予想しています。なので、今のうちに投資資金を稼ごうと言っています。

そしてトレンドは、ジャック・マー効果です。ジャック・マーは、10年前にヤフーから支援を受けグローバル企業にしようとしました。私が初めて中国に来たときは、多く中国企業が中国独自の方法で経営していました。会計帳簿、政治、所有権で問題があった時、中国独自の方法で解決してきました。

しかし最近、中国企業はレブロンのような中国企業ではなく、デイワンのようなグローバル企業にしたいと考えています。どの企業もシャオミやアリババ、ジンドンになりたいと張り合あっています。これは、中国だけでなく他の国にもいい影響がありそうですね。

3つ目のトレンドは、コピー市場であるということ。次に中国に何がくるかはアメリカを見ればわかります。アメリカで成功したことは、次に必ず中国でやります。

KickstarterやIndiegogoなどがその例です。もちろんコピーと言っても中国にあった方法でやるので、中国の市場の方がうまくいきます。新しいことが続々と出てくる中国ですが、長期的に見てこのコピー市場を変える必要はないと今は思います。ありがとうございました。

スタートアップが失敗する第1の理由は「チームの崩壊」

ケビン:私は、トレンドとスタートアップについてちょっと違う角度から説明します。ここ数年の背景について話しているのが多いですが、変化について話します。Yコンビネーターは、2005年から700以上のスタートアップ企業を創設しています。

私たちの企業には、300億ドル以上価値のある企業も含まれおり、3つの企業は10億ドル以上、20の企業は1億ドル以上です。私たちはどんな会社が上手くいき、失敗するのかデータがあります。よく周りから次はどんなすごい企業がでるのか?

と聞かれ「私たちは1つのことしか予想できないんだ」と言います。賢く、野心的で、良く働く人がいるチームこそ次の10億ドルを稼ぐ企業になるでしょう。

では、まずスタートアップはなぜ失敗するかの理由を説明します。マーケットや競争、経済的要因が理由ではないんです。第1の理由は、チームの崩壊です。

2014年には、3000企業の応募があり、翌年2015年は5000企業もの応募がありました。失敗している企業のアプリケーションを見てみると、共通してチームでセットアップに失敗しているのです。

少しセットアップの方法ができていない理由を見てみましょう。2つ理由があるのですが、1つ目はファウンダーが1人であることです。もし当てはまる方がいらっしゃいましても、これで企業が終わるわけではありませんし、大きな企業にするのが不可能と言っているのではないのです。

ただとても大変だということです。たくさん理由はあるのですが、ファウンダー1人で企業を立ち上げる人はいますが、本当大変なので「他の人と一緒に働いた方がいいよ」とアドバイスします。

また、1人だと企業の結果について疑問点も出てきますので、もう1人ファウンダーを探してみてはどう? と言います。

あなたが企業のCEOだったら多くの人を雇わなくてはいけないですよね。恐らくあなたの野望は大きく1人では抱えきれないのほどの仕事があるとします。80億ドル企業だったらたくさん雇わなくていけないということですよね。

シリコンバレーのような連鎖反応を起こすために必要なこと

田中:Yコンビネーターでは、過半数は複数のファウンダーがいるのですか。

ケビン:Yコンビネーターのほとんどの企業は、複数のファウンダーがいます。1人だけのファウンダーは珍しいです。まったくないわけではありませんが、10企業ぐらいは1人のファウンダーです。

田中:1人だと不利で、複数のファウンダーがいたほうがいいということですね?

ケビン:そうです。大きな不安点として、アイデアが小さ過ぎて自分のところでしか成功とは言えないことや、人間関係が得意ではないので投資や従業員をどうやって探すかということがあります。

他の問題として、株式の持分比率についても問題があります。例として、1人のファウンダーは90%、もう1人は10%。3人ファウンダーがいても、1人が90%、他の2人が5%ずつという企業があります。

田中:これは日本でよく見られる現象ですね。

ケビン:そうなんです。だから今日これをお話しします。日本だけでなく、多くのアジアで見られる特徴ですね。ファウンダーの中ではお互いの配分がわかります。

まず、ファウンダーの90%の人が、3ヵ月かけてアイデアを練ったとします。この3ヵ月というのは、価値がありますよね。ファウンダーの90%なんですから。他の10%のファウンダーはどうでしょう。90%と10%ずつが分配なんですよ。企業が5年ぐらい続くとしましょう。

10%です。2人に100%努力したか? と聞いてみても2人ともはい、と言います。みんなが100%努力しても均等な配当は、これなんです。皆さん忘れ気味ですが、アイデアというのはあまり意味がありません。

実行できるものこそがその会社のキーとなるわけです。世界どこでスタートアップするのにも、すべての仕事はあなたたちの前にあるということを知っていてください。

5年の会社と先ほど言いましたが、素晴らしい会社は10年は続くと思います。例外も1つあります。

なぜ、アジアやその他地域の企業はシリコンバレーにようにいかないのでしょうか。

シリコンバレーは、核分裂反応や核連鎖反応のようだということで知られています。核分裂反応は一部が他の一部にあたり反応が起こり、この反応によってさらに違う反応が起きます。

PayPalはこれのわかり易い例になりますが、tesla、LinkedIn、YouTube、Yelp、500startupsなどの素晴らしい会社を持っています。

これだけでなくGoogleでもうTwitter、Instagram、Foursquare、 Pinterest、Friendfeedがあります。Facebookでは、Quara、Asana、MemSQL、Path、 Pinterestです。

株式持分が、この連鎖反応を起こします。シリコンバレー以外のところでは、企業がうまくいっても全員がお金を稼げるわけではありません。

私はこれが一番の問題だと考えます。しかし、これは企業を見て、アドバイスし、話を聞いているこの部屋にいる人たちで変えることができるのです。私たちにとって他の利益は、スタートアップ企業は優秀なポートフォリオ企業が創設しているのが多くということです。

Dropbox、AirBnb、Stripe、Herokuがまさにそうです。ポートフォリオのいい例として、Kikoがあります。Ebayが2000ドルで売り、2007年にはマイケルとカイルがファウンダーとなりjustin.tvができます。ジャスティンとマイケルはsocialcam とEXECを、Twitch、 カイルはCRUISEを作りました。

私たちは投資家として企業を成功させる手助けをする責任があります。

もし私たちが持続可能なスタートアップ連鎖反応がほしいなら、創設者と従業員が同じ質を持つことが大切。平等ということに寛大ということは、エコシステムのためだけに良いのではなく、ビジネスにも良いということですね。