TABI LABOのビジネスモデル
佐々木俊尚氏(以下、佐々木):ちょっと質問があればお聞きしたいかなと思います。何でもいいですよ。今日の話に関係ないことでもいいです。スマートニュースに転職したいんですけどいいですかとか、そういう質問でも。
質問者:今日の話の中で、ライターとか作家の方がどんどん減っているっていう話があったと思うんですけど、実際にネットの流れを見ていくと、何だかんだ言ってもやっぱり基盤っていうのは文章だと思うんです。
どうしてもそういったライターの方とか作家の方が必要になってくると思うんですけど、そういう方々が今後どうやって、自分たちの技術を高めていったりすればいいのか、佐々木さんに今後、ライターとか作家の方がどうやってやっていったらいいのかっていうのをちょっとお伺いしたいんですけど。
佐々木:実はTABI LABOってすごい逆転したビジネスモデルで。普通の記事も作っているし広告記事も作ってるけど、普通は広告記事って、何となく旧来のメディア業界で見ると1段下。外部のプロダクションに出したりとか、そういうイメージだと思うんですけど、TABI LABOの場合は広告が中心なんです。
一番優秀なディレクターと、一番優秀なライターを広告に投じて、質の高い広告記事を書く。それがネイティブ広告であると。そこで何百万とかの広告単価が発生するので、それで儲かればいいじゃんっていう発想。
それ広告だろって言われるんだけど、読んでる側から見ると今や広告か広告でないかはどうでもいい。我々メディアにとって今重要なのは、読者の課題解決がしたい、共同体を作りたい、繋がりたいとか、結婚は不安だとか、就活心配とかのいろいろな課題があって、その課題を解決するためにコンテンツがある。
もはやコンテンツがもう目的地じゃないんですよ。そうすると、その目的に向かってコンテンツが上手く投げ込まれて、ちゃんと提示されるっていう状況があれば、もうそれでオッケーなので。読んでいる側から見ると、すごい質が高くて、自分の目的にジャストフィットしてる記事があれば、それが広告でも構わないっていう、そういう構造になってきている。
そこできちんと広告効果と、そのコンテンツの満足度と、メディアとしての信頼度みたいなものが上手くマッチングすれば、それでビジネスはたぶん成立するであろうと。そういうところで、たぶん今後お金が回るようになるのじゃないかと。
今までのように安かろう、悪かろうの記事をバンバン出して、それで広告をベタベタ張りまくってというのはもう終わりで、質の高い記事を、質の高いクライアントと一緒に組んで、ちゃんと的確に読者に届けることによって、高い広告料金が発生し、そこでマネタイズできるっていう。そうすると、ちゃんと原稿料も払えるんです、そういうモデルに変わっていくんじゃないかなって思ってます。
質問者:ありがとうございました。
スマニューやハフィントンポストは民主主義を再構築できるか
佐々木:他の方、どうぞ。
質問者:お話ありがとうございます。今日お話を聞いてて興味があったのが、スマートニュースをなぜ作ったのか。民主主義が崩壊しかかっていて、その再構築のためだっていうのが、すごく印象に残っていて。
今、日本の流れとして、どうしても独裁国家になろうとしてるんじゃないかっていうのが私の肌感覚なんですけど、でもスマートニュースとかハフィントンポストを読んでいても民主主義が再構築されるかという、それも何か違うよねと思っていて。
大衆がこうして欲しいっていう流れが実現されるのが民主主義と仮定して、それの逆行をして、俺たちはこうしたいんだっていう権力者側の独走を止められないのが独裁主義だと思うんですけど、では新しいメディアを作る場合に、どうしたら民主主義が再構築されると思われるか、松浦さんと佐々木さんに、それぞれお聞きしたいんですけど。
佐々木:難しい。
松浦茂樹氏(以下、松浦):難しい質問が来ましたね。スマートニュースをどうして作ったのかって、僕は創業者ではないので、そうだな、ミッションを改めていうと「世界中の良質な情報を必要な人に送り届ける」ってことなんです。
じゃあ、良質な情報って何だっていう定義は、みなさんそれぞれ思うところがあると思うんですけど、1つに、これは僕の前職、前々職からの思いでもあるんですけど、良質な情報っていうのは、もう1つの良質な情報を作ることだと思っています。
出されたインフォメーションについて、それについて新しい考えを持ってくることによってアップデートされる。どんどん情報がアップデートされることで、最終的には法律がアップデートされるぐらいまで追い付いてくる。
新聞もその役目を果たしていると思うんです。新聞の論説とかの部分で働きかけていって、そこから法律が変わったっていう事例もあると思います。同じような形で、インターネットのメディアだって、そういう事例が今後どんどん出てくると思いますし、パブリックアクセスみたいなやり方も今、実際されているわけです。
そういう可能性の部分でいうと、もちろんものすごい遠いかもしれません。でも遠いからといって、その可能性を否定したら、その時点で何も始まらなくなると思うんです。1個1個積み上げでもいいから、ボトムアップっていう世界観は守りたい。
良質な情報をひとつひとつ、伝えることも含めてやっていくことで、僕と佐々木さんが話したことについて「うん、そうだよね」で終わるんじゃなくて「じゃあ自分こうするよね」っていうのが、1個1個の新しい繋がりになっていって、それが最終的により良い世界観を作っていくっていうふうに、僕は頑なに信じているので、そういうことを目指してやるべきなんじゃないかなと思います。
議論のプロセスをテクノロジーが補助する未来
佐々木:民主主義の定義って、なかなか難しいんですけど、いろいろな考えがあって、1つ言われているのは、多数決の原理が民主主義ではないと。多数決で決まってしまうと、常に悪い決定も起きかねないよねと。
ただ大事なのは、多数決に至るところで徹底的に議論をすることである。多数決の場合の少数派の意見が、そこで消されてしまうって結果になるんだけど、議論の過程で少数派の意見をいかに取り入れるか。
その上で最終的に多数決を取るかっていうところが、実は民主主義の本質である。つまりそこの議論こそが民主主義。プロセスこそが民主主義であるっていう考え方は、討議民主主義っていう、最近の政治の概念の1つとしてあるんです。
そういう討議の場、討議っていうのは闘う技術って書かれる。闘って議論し、そういう場を作ることが民主主義であるっていうことを考えると、僕はこういうメディアが、今まで単に情報を作り、コンテンツを作り、それを配信するだけではなくて、そこに初めてインターネットのテクノロジーを、今までにない総合的な議論の場、こういうリアルの場も含めて、様々にコミュニケーションできるようになってきている。
そのコミュニケーションすること自体がイコール民主主義であるっていうふうに捉えているので、こういう場所ができて、そこで議論し、ここでいろいろな議論をしたことが、ここではこれで終わるかもしれないけれど、どこかに繋がっていて、次々連鎖的に波紋が広がるっていうことを、取りあえず期待したいかなと思う。
「そんなことできるわけねえだろ」っていうこと言われるんですけれど、それをいったら何も始まらないので、1個1個やるしかないかなというふうに思っています。それは松浦さんと同じ結論ですね。
質問者:ありがとうございました。
日々の情報インプットのコツ
佐々木:他に質問ございますか?
質問者:ありがとうございます。今、スマートニュースさんも含めて、いろいろなWebを介したメディアがあって、逆に情報を消費する側としては、可処分時間っていうような言い方も最近あると思うんですけど、あまりにもインプットをする要素が多すぎて、どう優先順位を付けていったらいいのかとか、そういったことにやっぱりすごく戸惑うことがあるんです。
結局たくさん情報を消費しても、それを次の形に自分の中で組み替えていけなければ、ただの消費で終わってしまうような感覚があって、これからメディアがどんどん増えていく中で、どういうふうに消費するように組み立てていけばいいかなということについて、お考えをお聞かせいただきたいと思います。
松浦:そうですね。自分の情報インプットのやり方をちょっと話すと、もちろん自社メディアは読みますけど、さっき言ったように「弱いつながりと強いつながり」があるじゃないですか。
こういう業界内だけで話すっていうよりも、外でいかに情報を吸収してくることが大事っていうのは心がけています。雑誌も基本的にテクノロジーに寄りたがるんですけど、女性誌とかもガンガン読むようにしていますし、テレビとかも、よくみんなバラエティしか見なくなったって言いますけど、テレビ作っている人って、いいお金もらっていて、テレビの番組って、すごい人数とかで作ってるじゃないですか。
コンテンツとして優秀なんですよ、テレビの番組ってそうは言ったって。そういうところを、ちゃんとした観点で見るっていうのも大事だと思うので、テレビももちろんいろいろと見るようにしています。ラジオも聞くようにしてます。あと弱いつながりでいうと、僕は習い事に行きます。
佐々木:何を習ってるんですか?
松浦:ウクレレとか。
佐々木:ウクレレ(笑)。楽しそうですよね、でも。
ミクシィ全盛期には毎週のようにオフ会にいっていた
松浦:そうじゃないと業界外の人と会えないんですよ。主婦とか、いわゆる一般的な人とかに会えないので、そういうところに行って、いわゆる普通の話をします。「そういうの流行ってるんだね」って。
もちろん「ラッスンゴレライ」っていって、ネットで見てれば流行っているものが出てくるから、それはそれでわかるんですけど、そうじゃなくて、もうちょっとリアルな話、消費税の話とか、主婦目線の実感って、話してみなきゃわからないって場合があります
そういう意味で、常に知らないフィールドに、リアルに溶け込むっていうのはちょこちょこやるようにしていて、さっきオフ会っていいましたけど、僕はミクシィの全盛期、オフ会って本当に毎週行っていました。
簡単にいうと、フィールドワークですね。もちろんインターネットで情報を集めるとか、テレビみるとか、そういういわゆる従来的な手法もあるんですけど、フィールドワークって案外重要だと思うので、そういうのを心がけてみるといいかなと。
質問者:ありがとうございます。
佐々木:意外とコミュニティっていうか、繋がりって狭いっていうふうに日頃感じることがあって、家が代々木上原にあって、TABI LABOも代々木上原にあって、前の家が目黒でとか、すごい狭い世界で。
Twitterで何かシェアすると、だいたい誰かから突っ込まれて「佐々木さん、それ中目黒主観ってやつですよ」っていう、中目黒主観って何だって話になるけど、そういう何か都会の東京辺りのちょっと洒落た感じのコミュニティは、そういうふうに呼んでいるんだけど、それってでも、すごい特殊なわけですよ。
日本全国から見ると。アメリカのニューヨークの都市文化がアメリカ全体においてすごく特殊であるのと同じぐらいに、この辺の東京文化って特殊だから、そうじゃない文化圏の人と話してる感覚でどう学ぶかって結構すごく大事で。
松浦:そうなんです。見ていると、佐々木さんならやっぱり登山周りのコミュニティっていうのは結構おもしろいんじゃないかなと思うんですよ。
佐々木:そうですね。なるべくだからいろいろな、今のウクレレじゃないですけど、いろいろな線をたくさん増やすようにしています。
地方と東京の文化が完全に分離している
佐々木:ちなみに僕からいうと、何で日本の雑誌が売れなくなったか理論っていうのがあって、これ僕の持論なんですけど、昔は東京で作った文化が、雑誌とかテレビで自動的に地方に波及して行ったんです。
だから東京の渋谷辺りで雑誌を作って、それにオシャレなファッションを載せると、半年後に茨城の水戸辺りでそれを着ているみたいな、そういう感じのイメージだったんだけど、これが、この2000年代に入ってから、マイルドヤンキーなんて言葉もあるぐらいで、地方の文化と東京の文化が完全に分離して、勝手に進化し始めた。
例えば東京の人はこういう服を着ていますけど、地方の人はしまむらを着てる。ここにいる人でしまむらの服を着ている人いませんよね。お尻にLOVEって書いてあるようなやつ。そういうような文化の分断みたいなのが起きてきて、そうするともはや東京のオシャレな雑誌、地方の人は読まないんです。
地方の人が読んでいる雑誌を作り得た出版社が、唯一宝島だった。あともう1個潰れちゃったけどインフォレストっていうような、なんかそういう雑誌のようにオーディエンス・ディベロップメントできないで「俺たちの作った東京の最先端、格好いいんだぜ」って言ってた上に、そういう落とし穴に落ち込んでいった部分っていうのは、やっぱりあるんじゃないかと。
宝島は僕あまり詳しくないんだけど、インフォレストさんには昔知り合いがいて、彼らと話すと、徹底的にマーケティングですよ。だから今、松浦さんが話されたような、どうやってリサーチするか、徹底的に数字で見た出版社です。
だから小悪魔agehaとか一時成功したわけです。だからそういうのをやってる人が同じ紙の媒体をやっても、やはり成功はしている。会社は潰れちゃいましたけどね。そう言われると、どこのメディアも結局同じで、紙かネットか電波かっていうのは実はあまり関係ないんじゃないかなっていう感じがします。
だからそういうものを取り払って、一旦ゼロベースで全体像を設計する。コンテンツをないがしろにするわけじゃないですもんね。コンテンツは大事なんだけど、同時にそれを届かせる、今まで全くやってなかった残り半分もきちんとやらなきゃいけないんだよねっていう。
松浦:残り半分をちゃんとやらなきゃいけないよねっていう。本当にF1レーサーだけでF1はできないので。車を作ることもちゃんと考えて、そうすると車の知識とかF1がどういうふうな形で動いているんだっけっていうところに、ちゃんと考えが至ってますかっていう話だから。
佐々木:今まではもう動物的本能でF1の車をガーッと運転していた。
松浦:それはそれでありだと。昔のF1って、たぶんそうだと思うんですよ。とにかく車のチームを組んで、エンジンをバンって開けていけば、空力とかが出てきて、今たぶんF1ドライバーって車走らせる能力だけじゃないと思いますよ。
佐々木:そうですよね。もう何かものすごい基盤をいじってる感じが。スイッチがたくさんあってっていう世界ですよね。
仮説立てのコツはフィールドワークにある
佐々木:時間がだいぶないんですけど、もう1人だけ。
質問者:ありがとうございます。今、一般企業のオウンドメディアといわれるような自社メディアを運用していまして、僕は元々がライターなのでライティングをするんですけど、やっぱりPVとかセッションとか、いろいろな分析をなるべく頑張ろうとして、どうやって読まれているかっていうのを向上させようとしています。
けれども先ほど松浦さんがおっしゃった、仮説を立てられないっていうのは自分でも感じていて、浅いなって自分自身で思ってしまって全然何が起こっているのかわからないっていうのがよくあるんですけど、そういう能力をメディアの人間もどんどんこれから身に付けていかなきゃいけないとは思うんですけど、どうやったら身に付くのかなっていうのが全然わからないので。
松浦:なるほど。仮説立てのところでいうと、インプット。1つはさっき言ったようなフィールドワークをやるべきだと思うんですね。あと編集者の人は、いろいろなもの編集できちゃうんですけど、結局当事者が当事者の発信するのが一番いいので、例えばオウンドメディアでやった時に、その企業の人が出てくるのが嫌がる場合もあるんですけど、首に縄でもつけて引っ張り出して、製品を作った思い入れとか、口下手でも何でもいいから吐き出させて、文章にしたほうが、その思いをダイレクトに届かせたほうが、まずはいいかなとは思うんですね。
まずそういう部分から始めていって、当たるストーリーが出てくると思うんですよ。当たって、何で当たったんだっけっていうところを素因数分解することによって「じゃあ、こういう要素が大事なのね」って掴み方がわかってくれば、ある意味、方程式がここで出来上がりました。あとはその係数に様々な要素を突っ込んでいくやり方が1つあると思います。
佐々木:いろいろなことやらないと仮説は立てようがないので、今までやったやり方や決まりきった同じルーティーンにしてしまうと、それは仮説なんかに入れようがないわけだから、リーンスタートアップって、リーンって最近のビジネス用語で引き締まったって意味なんですけど、今までのように長大な事業計画を立てるんじゃなくて、まずちょっとだけやってみて、そのちょっとだけやってみたことを検証して、これで上手く回っているってわかったら、それをさらに伸ばす。駄目だと思ったら方向転換して他のものに変えるとか、そういう小刻みな検証と実行の繰り返しによってビジネスを展開していくのが、今の新しいアントプレナーシップであると。
『リーンスタートアップ』って本が、一昨年ぐらいに日経BPから出たんですけども、そういうことが書いてある。あの本はおすすめなので読まれるといいと思いますよ。だからそういうやり方で仮説を立てていくっていうのがいいんじゃないかなと思います。そろそろ時間なので、これで終わりにしたいと思います。松浦さん、どうもありがとうございました。
松浦:ありがとうございました。
佐々木:おもしろい話になりました。
高山:これにてLIFE MAKERSプレイベント終了になります。佐々木さん、松浦さん、ありがとうございました。