朝食から職業まで、悩ましい選択は人生のチャンス?
哲学者が教える、あなたの個性の作り方

Ruth Chang: How to make hard choices #1/2

あなたは選択を迫られたとき、迷った挙句安全策を取ってはいませんか? 哲学者のRuth Chang(ルース・チャン)氏は、人はなぜ困難な選択に直面するのか? なぜその選択は困難なのか? を解き明かすことで、困難な選択は「呪い」から「神からの贈り物」になると語りました。(TEDSalon NY2014より)

選択が難しいのは、選択肢に優劣がつけられないから

ルース・チャン氏:将来、難しい決断を迫られる場面を想像してみてください。それは、2つの職業の選択かもしれません。芸術家になるか、会計士になるか。もしくは住む場所が、都会か田舎か、かもしれません。

2人の人物のうち、どちらと結婚するか、かもしれないですね。ベティかロリータか、です。子どもを持つべきか否か。病気の両親と同居するか否か。自分のパートナーは信仰するが、自分は情熱を感じられない宗教に沿って、子どもを育てるか否か。全財産を慈善に捧げるか否か。

チャンスとは何でしょうか? それは大きく重要で、あなたにとって重大な選択の難しい決断かもしれません。難しい選択とは、悶え苦しみ、手を揉み絞り、歯ぎしりするような物かもしれません。

しかし私たちは、難しい選択とは何かということや、それが人生で果たす役割を誤解しているのではないでしょうか? 難しい選択とは何か、ということを理解すれば、私たちが各々持つ秘めた力を、解き放つことができます。

選択を難しくしている原因は、選択肢の関係性にあります。わかり易い選択の場合、一方の選択肢は、もう一方のそれよりも勝っています。難しい選択の場合、一方の選択肢は、もう一方よりもある部分では勝り、もう一方も別の部分においては勝っています。しかし総合的に見て、どちらかが勝っているということはありません。

都会で今の仕事に留まるか、田舎でよりやりがいのある仕事に移るかを選ぶ場合に苦悩するのは、都会はある場面では勝り、田舎は別の場面で勝り、どちらが総合的に見て良い、とは言い切れないからです。

シリアルとドーナツ、どちらが優れている?

全ての難しい選択が、重大なものだとは限りません。朝食に何を食べるか迷っているとしましょう。繊維を豊富に含むブランシリアルとチョコレートドーナッツとがあり、この選択においての要は、おいしいか否か、健康的か否か、だとします。

シリアルはより健康的で、ドーナッツはよりおいしいですが、どちらかが総合的に見て良い、とは言い切れません。難しい選択ですね。

それほど重大なものではない選択も、実は難しいことがあると認識すれば、重大な選択もくだしやすくなるかもしれません。朝食に何を食べるか決めることができるのですから、都会に留まるか田舎に移住するかを、決断することだってできるはずです。

人は選択に迷ったとき、保守的になりがち

さらに選択を難しくするのは「自分に能力がないからだ」と考えてしまうことです。私は大学を卒業した時、2つの職業から1つを選ぶことができませんでした。哲学と法律です。私は哲学が大好きでした。哲学者として学べる驚異は多々あり、しかもそれは、安楽椅子に座っているだけで可能です。

しかし私は慎ましやかな移民一家の出身です。学校のお弁当に、豚タンとジャムサンドが入っているだけでも贅沢だ、と感じるような家庭環境でした。ですから「安楽椅子に座りのほほんと人生を送るなんて、なんという贅沢と軽薄の極みだろう」と、衝撃を受けました。

そこで私はノートを取り出し真ん中に線を引いて、それぞれの選択肢の良い点悪い点を書き出しました。双方のキャリアにおける自分の人生を、前もって知る事ができたらいいのに、と考えたことを覚えています。

神様もしくはネットフィックス(注:米のレンタルビデオ・映像配信会社)から、2つの職業について未来のDVDが送られて来れば、決められるでしょう。2つを並べて比べ、こちらが良いとわかれば、選択はぐっと容易になるはずです。しかしDVDはありません。

どちらが良いかもわかりませんでしたので、私は難しい選択の場面で多くの人が取る選択をしました。1番の安全策を選んだのです。「失業した哲学者になるよりはまし」と弁護士になりました。

結果として弁護士は私の性に合いませんでした。向いていなかったのです。こうしてここに、今日の哲学者の私があり、困難な選択についての研究をしています。

ベストな選択肢など存在しない

未知なるものは恐ろしい物ですが、困難な選択における共通の動機的な不履行とは、困難な選択についての誤解が原因です。難しい選択においては、一方がもう片方に勝っていて、私たちが無能であるがゆえに、どちらかに決めることができないというのは誤りです。

どちらが良いのか最初からはわからないのですから、よりリスクの少ないオプションを取るほうが自然でしょう。全ての情報を満載した上で双方の情報を並べても、選択は依然として困難なままです。

選択が困難なのは、私たち自身や、私たちの無知が原因ではありません。「ベストな選択肢」などというものが存在しないことが原因です。

さて、ベストな選択肢がないのであれば、つまりどちらかの選択肢に天秤が傾かないのであれば、その選択肢には明らかに同等の価値があるのです。要するに困難な選択において言えることは、選択肢に同等の価値があるから難しいということです。

でもそんなことはありえません。もし選択肢が同等であるならば、どちらかに決めるにはコインを投げればよい、という話になるからです。キャリアや住居、結婚相手を決めるのにコインを投げる、などということは間違っていますよね。

2つの選択肢は決して同等ではない

選択が困難なのは選択肢が等価値だからだ、とは考えられない理由がもう1つあります。仮にあなたが、2つの職業の選択に迷っていたとします。投資銀行に就職するか、グラフィックアーティストになるかという選択肢です。

このような選択における決定の因子は様々で、仕事の面白さ、経済的安定、育児に割ける時間の有無などが考えられます。アーティストとしてのキャリアを選べば、絵画表現の形における最先端をいけるかもしれません。

銀行家の道を選べば、最新鋭の財産運用ができるかもしれません。自分が両方とも好きで、どちらが良いと言いきれない仕事を2つ、想像してみてください。

さてここで、片方に少しだけ「旨味」を加えてみてください。

仮に銀行があなたに来てもらいたくて、月給を500ドル高く提示したとします。この差額は、銀行員をアーティストの仕事より魅力的にするでしょうか? 必ずしもそうではありませんね。高い月給は銀行の仕事を前よりも良くはするでしょうが、アーティストに勝る、と言い切れるほど良くはしません。

もし片方の仕事に改善が加わっても、それがもう一方より魅力的だとは思えないのなら、元々2つの職業は同等ではなかったのです。仮にスタートが同等であるものであれば、片方に改善が加われば、もう一方に勝るはずです。これは困難な選択の真相ではありません。

科学的な数値と、心理的な価値を比較しがち

さてパズルです。2つの職業があります。どちらも片方より良いとは言い切れず、同等でもありません。私たちは、どのような選択をすればよいのでしょうか? しかし何かが変ですね。選択そのものに問題があり、比較は不可能なのでしょうか? そんなことはありえません。比較不可能な2つの選択肢から選ぼうということではありません。

私たちは、2つの職業のメリットを比較検討しているのです。数字の9と、目玉焼きのメリットとを比べるのではありません。2つの職業の総合的なメリットの比較検討は可能で、私たちはしばしば実行しているはずです。

選択がパズルのように混乱してしまうのは、私たちが深く考えずに価値を仮定してしまうからだと考えられます。私たちは知らず知らずのうちに、正義や美、親切心などの価値を、科学的に計れる長さ、質量や重さなどと似たようなものと見なします。

「2つのスーツケースのうちどちらが重いか?」などの、価値を念頭に入れない比較の命題を1つ、想定してみてください。そこに可能性は3つしかありません。一方のスーツケースの方が重いか、軽いか、同じ重さかです。

重量などの特性は、「1、2、3」などの実際の数字に置き換えることができます。そして、この2つの数字の間には、3種類の比較の可能性があるのみです。どちらか1つの数字の方が、大きいか、小さいか、同じかです。価値は付加されません。

選択肢に同等の価値があっても、その価値の種類は異なる

私たちのようにポスト啓蒙時代に生まれた人間は、科学的思考は世の中の大切なこと全ての鍵を握っていると考えてしまいがちですが、価値の世界は科学の世界とは違います。一方の世界は数字で計ることができます。もう一方はできません。

私たちは、長さや重さによりはっきりと定義づけられる世界が、こうあるべきであるという曖昧な世界と同じ構造を持つ、と考えてはいけないのです。

子どもの笑顔やパートナーへ抱く愛情など、私たちが大切に思う何かを、数字に置き換えることはできません。同様に選択肢の可能性は、良い、悪い、同等であるなど、3つのみということもありえません。

私たちは、良い、悪い、同等という可能性の他に、困難な選択がなぜ発生するかを説明してくれる、新たな4番目の関係性を構築しなければなりません。私はこのような場合の二者択一は、「同等」であると考えます。

二者択一の選択肢が「同等」である場合は、自分がどれを選ぶかは重要なポイントとはなりますが、一方の選択肢はもう一方より良い、とは言い切れません。選択肢は、同じ価値となり得ます。同一線上に並ぶのです。同時に価値の種類としては、別物なのです。選択が困難なのは、これが理由です。

合理的な選択ばかりの世界は、狂気に満ちている

この様に困難な選択についてきちんと理解すると、私たちが自分自身について知らなかったことが見えて来ます。私たちにはそれぞれ、大義名分を作りだす能力があります。ちょっと想像してみてください。全ての選択が容易にできる世界を。それはつまり、最善の選択肢が常に存在する世界です。

仮にベストの選択肢などというものが存在すると仮定すると、それはあなたが取るべき選択です。なぜなら合理的とは最悪の選択ではなくよりよい選択、つまり最も大義名分に叶った選択を成す、ということだからです。

そのような世界には、ピンクの靴下ではなく黒い靴下を履き、ドーナツの代わりにシリアルを食べ、田舎ではなく都会に住み、ロリータではなくベティと結婚する、もっともな大義名分があります。容易な選択肢のみに満ちた世界とは、私たちを大義名分の奴隷にする世界です。

そのように考えれば、「与えられた大義名分の元でこの趣味に没頭するべきだ」「この家に住むべきだ」「この仕事に従事するべきだ」などと考えるのは、正気の沙汰とは思えません。

大義名分は自分で作り出そう

同等の選択肢、つまり困難な選択に直面した時には、その趣味や家、職業を選ぶ大義名分を、自分自身で作り出すべきです。選択肢が同等である場合、私たちが間違っているかどうかを決める人から与えられた大義名分は、どうすべきか声を上げて教えてはくれません。

困難な選択の真っただ中で、私たちは基準を想定する力を発揮し、つまり自分自身で大義名分を作る力を発揮して「田舎暮らしのほうが都会のそれより良いのだ」と決められる人間になるべきです。

同等の選択肢の間でどちらかを決める時、私たちには非凡なことができます。私たちは自分自身の真の姿を、選択に動機づけることができます。「ここが私の立ち位置です」「私はこんな人です」「私は銀行家に向いてます」「私はチョコレートドーナッツを食べます」と。

困難な選択に対するこのような反応は、合理的です。しかし、それは人に与えられた大義名分によっては決められません。自分自身で決めた大義名分によって支えられたものです。

このような人物になるべきだと、自分自身で決める大義名分を、自ら作り出した場合には、心の底から真の自分になることができます。ある意味、自分の人生の作者になることができる、とも言えます。

ですから困難な選択に直面した時には、どちらの選択肢がより良いのかと頭を壁に打ち付けるほど悩む必要はありません。ベストの選択肢などは、存在しないのです。大義名分をよそで探す代わりに、足元で合理的理由を探すべきです。

困難な選択とは、呪いではなく神からの贈り物である

私は何者になりたいのか? あなたはピンクの靴下を履き、シリアルが好物の、田舎暮らしが大好きな、銀行家になりたいと決断するかもしれません。私は、黒い靴下を履いた、都会暮らしの、ドーナツが好物のアーティストになりたいと決めるかもしれません。

困難な選択において、私たちがどう行動するかは、私たち次第なのです。

困難な選択において、自分自身で基準を確立できない人は漂流者です。思い当たる人はいますよね? 私は漂流して弁護士になりました。弁護士になる情熱はありませんでした。弁護士には向いていませんでした。

漂流者は、他人が自分自身の物語を書くことを許可してしまいます。漂流者は頭をなでて褒めてもらいたい、怖いから止めよう、簡単な選択肢に流れようなど、賞罰のメカニズムで自分の行動を決めます。

困難な選択から学びうること、それは情熱を感じる物、自分が実際になれる物に感応し、困難な選択を乗り越え、そのような人物になりなさいということです。

困難な選択とは、苦しみや恐れの源では絶対にありえません。その人物の状態を褒め讃える貴重な機会です。私たちの選択が正しいか誤りかを支配する大義名分は、時には尽きてしまいます。

しかし困難な選択とは、個性を持った人間としての自分自身を成す、大義名分を作りだす力を持っています。それゆえに、困難な選択とは呪いではなく、神からの贈り物なのです。

ありがとうございました。

<続きは近日公開>

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