文句を言われなきゃ異端じゃない

村井純氏(以下、村井):僕、この未踏の話を今日聞いて感じたことがあって。最初から関わっているんだけれども、最近見ていてね。天才プログラマーというキーワードもあったけれども、「好きなことをやらせよう」と言っていて。

さっき高校生が来ていて「先生、僕はどうすればいいですか?」と質問されて「パネルで似たような質問をされたけれども、好きなことをやれよ」と言ったら「わかりました! 学校の勉強じゃなくて、好きなことをやるんですね」と。だから「それだ! そうしたらSFCで採ってやる」と言ったらね……。

またこういうことは(ニコ生で)流れているんだよね、今日。ヤバいから、特に入試の季節に言いたかないけれども、そういう好きなことをきちんと、何て言われようと好きなことをやる。だから坂村さんが言ったの、すごいよね。好きなことをやっていて文句を言われたから異端なんだよね。

竹内郁雄氏(以下、竹内):うん。

村井:文句を言われなきゃ異端じゃないんだよ。

坂村健氏(以下、坂村):というか怖いからね。エスタブリッシュしちゃった人たちには。日本はそういう意味でいくと本当に学会はダメだったんですよ。コンピューター関係の学会がダメだと私は思っているわけ。

日本の学会が本当にダメな理由

坂村:何でダメかというと、新しいことに対しての評価軸がつくれなかったの。これは学会に限らず、さっき電気電子の悪口も言っていたように、実は慶応だけじゃないですよ。東大もダメでしょう、電気電子。

ちょっと言っておくけれども、私は東京大学に行ったときだって工学部系じゃないですからね。理学部にいたんですよ。まだ理学部のほうがまし。全然いい。理学部系の人はノーベル賞を獲っているじゃない。

何で工学部がダメかというと、エンジニアリングって、つくっちゃうと、新しいものが来ると拒絶する傾向があるんですよ。そういう意味でいくと電気電子なんて学問としてある程度できあがったから。電子工学なんていうのは。

だからそういう意味で言ったら慶応だろうと東大だろうと早稲田だろうとどこだろうと、どこ行っても大体みんな同じような教育して。だから一応完成しているわけですよ。完成しているところに関係ないやつが来ると、完成が崩れるじゃない。それがダメなんじゃないかなと僕は思うんですね。

そういう点で言ったらアメリカの学会は偉い。IEEEにしろ何にしろ、どんどん新しいことをやるような、そういう場を提供するんですよ。だから向こうの学会なんていうのは、今日やっているこういう未踏会議みたいなものが学会の場であるからね。

だからどんどん出会えるし、そういうところでリクルートも来るし、そこで発表する人だけじゃなくて質問する人に対して、いい質問をするとその後何かちょっと場が出てくるとか、そうなっていますよね。日本は違うじゃん、大体そんなふうになっていないの。

竹内:つまり日本の学会はダメだと。

坂村:ダメだ。ダメ。だからそれを改革する必要があると思いますよね。というか、もう1回つくり直さないとダメなんじゃないの、ある程度。

新しいものを評価する仕組みが必要

竹内:1回、学会を解体する。

坂村:そう。だから情報処理学会、1回ぶっつぶして、もう1回つくればよくなるかもしれないよね、はっきり言っちゃえば。情報処理学会って情報関係の学会ですよね、これ。

竹内:多分そうだと思います。

坂村:近山(隆)さん、今、情報学会で偉かったんだっけ。違う? そう、じゃあ言っても平気?

竹内:あそこに、やんちゃ理事がいるよね。

坂村:(笑)。というか、そういうような評価をちゃんとしてあげないと、若い人たちにしてもかわいそうで、いいか悪いかもわからなくなっちゃいますよね。だからそういうものを認めるということを、ある程度システム化していかなきゃいけないわけですよね。

それが今までなかったのは、いいか悪いか言うのがなかなか難しいんですよ。そこに僕はひとつ問題があるんじゃないかなと思っているんですけれども。でも慶応偉い。こういう勉強しなくてもいいというようなことを言って、しかも本人もあんまり勉強しなかった人をちゃんと偉くしているじゃない。

竹内:(笑)。

坂村:それは偉い。そういう点は、慶応の環境情報部はすごいなと思いますよね。

村井:環境情報行く前に俺、東大にいたんだから。でも勉強のしかたというのが、やっぱり好きが中心で、ものをつくるとか、変えたいとか、飛びたいとか、何かそういうのを夢中になってやるのは大事だよね。

でも僕は一方楽観的なところもあって、大学もそういうふうになってきているよね、前に比べればね。だから学会も、もちろんそうやってよくなっているでしょう。よくなっているというで、しょうがないかなと。

むしろこの国で、そういう新しいことをやろうということになかなかうまく動けないのは、どっちかというと産業じゃないですかね。行政はもちろんだけれども。

日本は人材の流動性が低すぎる

坂村:行政と産業というよりも、何でダメかといったら、僕は答えは1個しかないと思っていて、日本は人材の流動性がないんですよ。

だってものすごい勘違いしている人がいて、今、日本のいろんな再生をやっているから、「うちの村には谷があるんです。だからシリコンバレー」とか言う。「いや違う。谷があるとかじゃない。行ってみればわかるけれども谷なんかない、あそこはすごく広いんだ」と言ったんだけれども、そういう勘違いをしちゃっている人がいてね、

そういう表面だけ真似たらできると思っているわけ。でも、シリコンバレーは何でいいのかと言ったら、要するに人材が流動しているんですよね。

竹内:そうですね。

坂村:それが日本にないから、さっき発表した人のも聞いていて僕は思った。何でアメリカに行っちゃうのか。アメリカが何でいいのかと言ったら、人が採れるんですよ。

だから竹内さんがやっている、この未踏会議をやったときに僕は思うんだけれども、日本人が馬鹿かといったらそんなことはないと思う。活躍している人はたくさんいるし、ある程度のアイディアも出る。

それからお金はというと、最近少しよくなってきた。ファンディングもある。それから経済産業省とかIPAとかなんかもある。そういうところが最初の取りかかれるぐらいのお金は出そうとかという話も出ているんだったとすれば、じゃあその後どうなっちゃうのと言ったら、ある程度人がいないとできないですよね。

急激に例えばGoogleだって、どこだって見てみればわかるけれども急激に人間がふえるんですよ。バーッと。でも日本で雇える? 雇えないよ、ここじゃ。だって大きな会社が人材をロックしちゃっているから。だからそれもなかなか難しい。

そういう意味でいくと大きい会社の人材ロックをちょっと開けるか、またはもうちょっと人が動くような雰囲気をつくらないと、ベンチャーを育成したいならダメ。じゃなかったら、そういう意味でいくとなかなか難しい。最後は人間がいないとダメなんですよ。

エンジニアには金を出せ!

村井:そりゃそうだよね。でも人間が、特にエンジニアが流通しないというのは、何で流通しないかというと、この間ちょっと夏野さんと別のところでちょっと話をしたんだけれども、プログラマーとかエンジニアがいるじゃん。僕もシリコンバレーができたときから仲間や同期がみんなあの辺でバンバンやってる。でも、みんなCEOをやったような有名な人を言うでしょう。

でも実はその影というか、脇にプログラムを書いているスーパーエンジニアがいるんだよ。ジェームズ・ゴスリンなんて有名だけれども、あいつはCEOじゃないんだよ。JavaだってNewSだってEmacs(イーマックス)だって全部書いている彼の給料はやっぱり、僕知っているけれども、CEOの3倍ですよ。

竹内:CEOの3倍?

村井:CEOの3倍。サン・マイクロといったら、みんなそうだから。そうするとプログラマーにものすごい投資しているでしょう。エンジニアに。これがもう1個の理由で、だから流動できるというのもあって。

つまり基本的に日本でプログラマーで、ただただプログラム書いているぞといったら40歳になったら行き場がなくなるよと夏野さんにこの間言われて。でも、40歳になったらマネージャーになるとか、社長になるとか、そういうことをやらなきゃいけないというのはそもそもおかしいと思うんだよね。

それで何で流動できるか。40になっても50になってもいいプログラム書けよと言う必要はないのかもしれないけれども、20、30のときにいいプログラムを書いてすごい給料をもらっていたら、後の人生設計はかなりできるでしょう。

僕の友達にはいっぱいいますよ。僕と同じ歳でプログラムしか書けなくて、ほかでは絶対稼げなくて、今はプログラムを書いていないけれども幸せな人生を送っているやつがいっぱいいるんですよね。というわけで、やっぱりプログラマーに金払えですね。

竹内:そのとおりですね。

坂村:そういうことはあるかもしれないけれども、でもろくでもないプログラムを書いているやつもいるからね。

竹内:(笑)。

村井:そりゃいる。

大学も流動性を高めるべし

坂村:プログラマーだからいいってもんじゃないもんな。ちゃんとコード読めますからね、こっちも。それと日本人ってどうしても自虐的になるから言えば、やっぱりもう一つ悪いのは大学。要するに再教育に対しての意欲がない。

竹内:再教育?

坂村:うん。というのは向こうだとやっぱりテクノロジーとか何かってどんどん進むから、もう1回勉強しようというのを、動いていると思うんだけれども、働いて、またちょっと大学に行って、また働いてという人がたくさんいますよね。

そういう人たちが入りやすいように大学がなっているんですよ。だけど今の日本の大学は入りにくいよ。1回卒業しちゃったからもう1回って。村井さんのところはちょっと違うかもしれないけれども。一般的には、ちょこっともう1回再勉強しにいくなんていうのも、あんまりないですよね。

それと人材の交流をアメリカは非常にやっているから、大体MIT出てMITの大学院に行くやつなんて聞いたことないもん。日本なんて人材をロック。これもまた古い学部が悪いんだよ、そういうので言うと。

だから大学を出たやつが大学院でほかの大学に行くと、「ええ、そんなところに行くのか」なんていうような、そういうふうになっちゃうわけ。要するにロックしちゃうんですよ。

竹内:しますね。

坂村:みんながロックなの。みんながクローズになっちゃっているの。だからもっとどんどんオープンにするような環境をつくって、どんどん人も動いて。例えば極端な話、東大出て東大の大学院に行くんじゃないんだよ。東大出たら慶応行くと。慶応出たら東大に入るとかね、もっと言っちゃったら早稲田行くとか。他だってたくさんあるんだから。

そこでも人材が動くんですよ。人材が動くから逆に言うとGREのようなものでテストをしたりしているし、IEEEもまっとうなカリキュラムをつくるんです。何でかと言ったら同じ大学で、そのまますーっと行くわけないからなれ合いがないでしょう。

EU、ASEANでは大学同士の交流が進んでいる

坂村:CMU(カーネギーメロン大学)みたいなところだったら、大学院だけですからね。そうしたらスタンフォード出てからCMUに行ったときに全然そろわなかったら困っちゃうとなったらしくて、やっぱり標準カリキュラムが必要で、どこも標準のカリキュラムがあるわけ。日本の学会なんか、ろくなカリキュラムつくってないじゃないかと言っていて。……これ何、何かで放送されているの? 

竹内:されています。

坂村:やばいな。

会場:(笑)

村井:されてる。

坂村:今の取り消しというわけにはいかないの? ちょっと取り消し(笑)。いろいろ頑張っています、みんな(笑)。ひよったりして(笑)。

村井:でも坂村さん、今、アメリカと日本の大学の関係、シリコンバレーとの関係って出てきたけれども、今年からASEANの大学がEUみたいに同期し始めたね。それで(タイの)チュラーロンコーンとか(インドネシアの)ITBとかが、学生のモビリティーができるように日にちをずらして、カリキュラムも互換性ができて。

今EUがそうじゃないですか。そうするとASEAN域内の大学で、途中どこ行ってもいいやみたいな、そういうふうにし始めた。いくつか去年から始まっているところはあるんだけれども、これが今年から始まっていて。それであと2年ぐらい経つとASEANの大学、東南アジアの大学はみんなそれになっちゃうよね。同期して流通する。だから今言っていたことは……。

坂村:それ、すごくいいよね。

村井:起こっちゃう。だから我々も今突然2期制だったのを、なんちゃって4期制にしたりしながら、そういうASEANとの人事交流ができるように一生懸命変えているんだよ。

SFCは慶応の中でも異端の存在

坂村:慶応やれよ。慶応ならできるよ。

村井:違う違う、SFCだけですよ。

竹内:SFCだけなの(笑)。

村井:また、まずいこと言っちゃった。今の取り消し(笑)。まずSFCからやらなきゃいけないというのがあって。でもそういう意味ではアメリカだけじゃなくて、東南アジアといったら坂村さん、昔から言っていたじゃない、TRONのあれで。結構インドネシアとか強い大学ありますよね。

坂村:だからやっぱりアジアにしろ、ヨーロッパにしろ、そうですけれども、何か今言っているように流動させようという努力をしているんですよね。日本がこれをやらないと遅れちゃうと思いますよ。だってやっぱりクローズで滞ったらダメだと。

イノべーションがどうやったら起きるかと言ったら、やっぱりクロスがないとダメなんですよ。それとやっぱりマッシュアップしているわけだから、みんなは。

竹内:村井さんのところのSFCは国内とは流動はやらないの? 国内は難しい?

村井:もちろん、いいですよ。もちろん制度を変えているんだから、短い時間で単位が取れるようにしようとか、短い時間で学位が取れるようにしようとか。

坂村:4学期制にしたときに、日本もそういうことを一挙にやればいいんだよね。だから、秋入学も許そうとかとやっているときに、カリキュラムもできるだけ標準化するとかね。

村井:我々は24年前から秋学期とかやっていたから。だからそういう意味では少しできるんだけれども、国内のピアがいないわけよ。

竹内:そうね。今ね。

村井:だから国内での流動性ということじゃなくなるというのがあるんだけれども。あとビザを出すとか。留学生ビザとか、こういうのも結構難しいなと思ったから、そういうのも短期で、この期間だけ行って、あとは遠隔で授業を受ければ単位が取れるとか、そういうようなこともなかなかできていなかったのを、今できるようにし始めたんですよね。

そうすると大体これをやっておけば、SFCでやると初めは「何か変なことやってんな、SFC」とか言っているんだけれども。

竹内:つまりSFC自体が異端ということね。

村井:10年経つと、だんだん「SFCで失敗しないから、まあいっか」と言って始まるんじゃないかなと思ってやっているんですけれどもね。

竹内:なるほど。まさにSFC自身が国内の異端であるということね、そういう意味ではね。

村井:よく言えば。

竹内:よく言えば(笑)。

村井:俺じゃない。

竹内:俺じゃない(笑)。そうですか。

情報処理学会も頑張っている

竹内:ちょっと思い出したんですけれども、さっき情報処理学会にえらい文句をタラタラだったじゃないですか。でも一応擁護しておくと、社団法人未踏の外部理事に喜連川(優)さんという人がいて。

坂村:知っていますよ。

村井:僕も知っています。

竹内:あの人、情報処理学会の会長なんですよ。彼になってからものすごく変わったの、いろんなことが。

坂村:わかる、わかる。最近、僕も弁護してあげれば、さっきのちょっと言い過ぎたかもしれないけれども、学会も変わろうとしているんだけれども……ちょっと遅くてもしょうがないな。

竹内:時間かかりますよ。

坂村:遅くても、やっぱり時間がかかるんだろうから……うん、偉い(笑)。

村井:(笑)。何だかすごいね、ニコ生の威力だね、こういうのはね。

竹内:喜連川さんに、お褒めの言葉が出ました(笑)。