「子ども時代のトラウマが寿命を20年縮める」小児科医が驚きの実態を指摘

いかに子供時代のトラウマが生涯に渡る健康に影響を与えるのか #1/2

幼少期の不幸体験によって生活習慣が悪化するのは、脳の働きに変化が現れるからだと指摘する、小児科医のNadine Burke Harris(ナディン・バーク・ハリス)氏。子ども時代のトラウマが寿命を20年縮めるという調査結果を上げ、決して他人事ではないこのデータを受け止める勇気が必要だと訴えます。(TEDMED2014より)

幼少期のトラウマが、心臓病・肺がんのリスクを3倍にする

ナディン・バーク・ハリス氏:1990年の半ば、アメリカ疾病予防管理センターとカイザー・パーマネンテは、アメリカの死因トップ10の7つにおいて、それらの病を患うリスクを劇的に上げる原因を発見しました。

その多量摂取は、脳の発達、免疫機能、ホルモン系、さらにはDNA構成にまで影響します。もし「それ」を多量摂取してしまうと、心臓病と肺ガンに生涯かかるリスクは3倍になり、寿命には20年の差が発生すると言うのです。

にもかかわらず現代の医者達にはまだ、それに関する検査や治療の準備ができていません。これは殺虫剤や食品添加物の話ではありません。その原因とは「幼少期のトラウマ」のことです。

それはどんなトラウマでしょうか? テストに失敗したとか、バスケットボールの試合に負けたとか、そういうことではありません。非常に深刻で浸透性のある脅威で、文字通り体内に浸透し、生理的な機能を変化させてしまいます。

虐待やネグレクト、精神障害や薬物依存を抱える親との生活などがこれにあたります。

ADHDと誤診されるほどのトラウマを抱えた子ども達

長い間、私は教わった通りに患者に接してきました。社会問題なら社会サービス、精神問題なら精神衛生サービスを参照するというものです。ある時、今までの方法を考え直さざるを得ない出来事がありました。

研修医の期間を終えた私は、自分が必要とされ、変化を起こせるような場所を求めていました。そして北カリフォルニアでも最高峰の私立病院、カリフォルニア・パシフィック・メディカルセンターで働くことになり、ベイビュー・ハンターズ・ポイントという場所で共同のクリニックをオープンすることになりました。

そこはサンフランシスコでも最も貧しく、サービスが滞っている場所です。それまでそこには、1万人の子ども達に対して小児科医が1人しかいませんでした。私達がそこでビジネスを始め、患者の支払い能力にかかわらず最高のケアをしたりして、それはもう非常にうまくいきました。

典型的な健康に関する不均衡に狙いを定め、医療へのアクセス、予防接種率、ぜんそくの入院率、それらに関して掲げた目標を全て達成し、私達自身も非常に満足でした。

しかあるとき私は不穏な徴候に気づき始めました。ADHDと診断された多くの子ども達を、あらためて私が徹底的に環境や身体面の調査をしたところ、そのほとんどの患者にADHDが当てはまらなかったのです。その子ども達は、別の何かと取り違えるほどの深刻なトラウマを抱えていたのです。私は重大な何かを見落としていました。

私が研修医になる前、公衆衛生の修士として学んでいるときに、こんなことを学校で教わりました。

「医者として子どもを診療した時、同じ井戸で水を飲んだ100人中98人が下痢の症状を訴えた。そのとき、次から次へと抗生物質を処方し、ひたすら処方箋を書くのか? それとも、実際にその井戸へ行き『井戸がどうなってるのか?』と考えるのか」  

幼少期の不幸体験が、成人後の健康に大きな影響を及ぼす

それから私は、不遇な子ども時代が脳や身体に与える影響について、手にできるものは全て読み漁りました。そしてある日、私のオフィスへやってきた同僚がこう言いました。

「バーク博士、これ見ましたか?」

彼の手には『幼少期における災難経験に関する研究』というリサーチ資料がありました。そしてその日が、私の臨床方法、ひいては私のキャリアそのものを変えることとなったのです。不運な幼少期の経験に関する研究は誰にとっても重要な情報です。

カイザーのビンス・フェリッチ博士と、アメリカ疾病予防管理センターのボブ・アンダ博士が共同で、17,500人にも及ぶ成人にACEs(幼少期における災難経験)についての調査を行いました。

ACEsとは、肉体・精神・性的虐待、肉体的・精神的ネグレクト、親の精神病、物質依存、投獄(親との別離や離婚)、DVを指します。イエス1個につきACEスコア1点が加算されます。彼らは、ACEスコアと健康結果を関連づけました。そこで発見したものは、驚くべきものでした。

2つの理由からです。まず1つは、ACEsがほとんどどのケースに見られたこと。67パーセントもの人達に何らかのACEがありました。8人に1人の12.6パーセントには4つまたはそれ以上です。

2つめは、ACEスコアと健康結果に用量反応関係が見られたことです。ACEスコアが高いほど健康結果は悪いというものでした。

ACEスコアが4つまたはそれ以上の人はスコアが0の人と比べて、相対的に慢性閉塞性肺疾患に罹る確立が2.5倍ありました。肝炎も同じ確立です。うつ病に関しては4.5倍。そして自殺傾向は12倍にもなるのです。

ACEスコアが7以上になると、肺ガンのリスクは3倍、虚血性心疾患は3.5倍です。ちなみに虚血性心疾患はアメリカの死亡原因ナンバー1です。

幼少期のトラウマによって脳の働きに変化が現れる

でも当然、中にはこの手のデータを見て「荒れた子ども時代を過ごしてた人は、人より飲酒や喫煙で身体壊すようなことをしやすい。それは科学じゃなくて、ただ単に行いが悪いだけ」と言う人もいます。

しかしまさにそここそが、科学が必要な領域なのです。幼少期の災難経験がどう脳や身体に影響を与えるかについては、私達はかつてないほどの知識に恵まれています。

物質依存によって、脳の側坐核という「喜び」と「報酬」を司る部分が影響を受けます。学習に必要な、衝動のコントロールと実行的機能を司る前頭前皮質も抑制されます。恐怖反応を司る扁桃体には、MRIによって明らかな違いが確認できるのです。

多くの不運にさらされた人達が健康にとってハイリスクな行動をとってしまう原因には、こうした明らかな神経学的理由があるのです。この事実は非常に重要です。

しかし健康にとってハイリスクな行動をとらなかったとしても、まだ心臓病に罹ってしまう可能性があります。その理由は視床下部・下垂体・副腎系に関係しています。闘争や逃避反応を司る脳と身体のストレスのシステムです。

成長期における高頻度の災難が脳を麻痺させる

どう働くのかを説明しましょう。森で散歩中、熊に遭遇したとします。すると即座に視床下部から脳下垂体へ信号が送られます。それが副腎に「ストレスホルモンを解放しろ! アドレナリンを出せ! コルチゾールを出せ!」と信号を送り、心臓が高鳴り、瞳孔を広げ、気道も開きます。

そうして熊と戦うか逃げるかといった準備ができるのです。すばらしい機能ですね。あなたが森にいて、そこに熊がいたのなら(笑)。

(会場笑)

でもその熊が毎晩家にやってきたとしたら? これらの機能が何度も何度も働くことによって、命を助けるための適応機能が、健康を脅かす過剰な反応へと変わってしまいます。

このような繰り返し起こるストレス反応に、子ども達は特に繊細です。なぜなら脳と身体が成長のまっただ中だからです。高頻度の災難は脳の構成や機能だけでなく、免疫機能、ホルモン体系、さらにはDNAの読解や転写状況にも影響します。

幼少期のトラウマによって脳の働きに変化が現れる

この情報は、私のこれまでのやり方を根底から覆しました。病気のメカニズムを理解し、何が悪影響で、しかもそうさせる原因がわかっている時、科学をもってしてそれを防いで対処するのは医者の役目なのです。まさにそれが私達の仕事です。

そこで私達は、ACEsとストレスによる衝撃を防ぎ、検査して治療するための青少年健康センターをサンフランシスコに作りました。そこで全ての子ども達の身体健康状態をチェックしました。

なぜなら、もし私の患者がACEスコア4だとわかったなら、ACEスコア0の患者に比べて、肝炎や慢性閉塞性肺疾患は2.5倍、うつ病は4.5倍、自殺の確率は12倍であるということが、診察室ですぐに確認できるからです。

そしてACEスコアが確認できたなら、それを軽減すべく多岐にわたる学問領域からのチームが助けることができるのです。自宅訪問、介護支援管理、精神衛生、人的治療、もちろん薬物治療も受けられます。 

それと同時に保護者へのACEsとストレスの教育も行います。電化製品や鉛中毒の説明と同じです。ぜんそくや肥満にもっと本格的な治療が必要なのと同様に、ホルモンや免疫システムに合わせてケアの管理も行います。

科学の理解は大きなムーブメントを起こす

科学を理解した時に起こることが他にあります。科学を知ると、声を大にして人に言いたくなるのです。科学はベイビュー地区だけの話ではありませんから。みんながこのことを知ったら、定期検診、多角的治療、より効率的な診療プロトコル確立の競争となるでしょう……。残念ながらそれはまだですが(笑)。

それは同時に、私にとって大きな学びでもあります。今まで単純に最善だと思っていた診療行為そのものが、今では1つのムーブメントとして捉えられるからです。前全米小児科学会会長のロバート・ブロック博士は「幼少期における災難経験は、国家が直面しているのにかかわらず認識されていない、最大の脅威である」と言っています。

多くの人々にとってこれは恐ろしい観点でもあります。この問題の範囲もスケールも非常に大きく、アプローチすることさえ大きな難関のように感じられてしまします。

しかし私にとってはそんな状況だからこそ、希望が見えるのだと思います。正しい枠組みの中で、大衆の健康危機なのだと私達が気づいた時、解決のための正しいツールを使い始めることができるのです。

この国には、喫煙や鉛中毒やHIV/AIDSなど、大衆の健康危機を発表するにあたりかなりの功績があります。しかしそれらをACEsや害ストレスでも実践するには、相当の覚悟と取り組みが必要になります。そしてこの国のこれまでの対応を見ると、まだ真剣に捉えてはいないと考えざるを得ません。

「他人事ではない」と気づいているから線引きする人々

そもそも、私達は自分に関係がないからといって線引きをしてしまうのです。それは一部の子どもや地域の話だからと。でも本当は、それはおかしいことです。なぜなら、データは自分に関係ないとは言っていないからです。

もともとACEsの研究は70パーセントが白人で、70パーセントが大卒の地域で行われていました。そしてその人達と話せば話すほど、自分の考えは逆だったのでは? と思うようになりました。

もし今ここで「家族に精神疾患を抱えた方がいるか?」と聞けば、何人かの手が挙がるでしょう。さらに「家族にお酒を飲み過ぎる人がいるか?」もしくは「厳しい躾が正しいと考える親がいたか?」と聞くと、挙手の数がやや増えるでしょう。

つまりこの室内でさえも、多くの人が関連する問題だということなのです。そして私は、私達に関係するからこそ線引きしたがるのだということに気づいたのです。どこかの地域に目を向けたほうが楽かもしれませんから。直視するくらいなら病むほうがいいと言った具合に。

現実を受け止める勇気が必要

幸運なことに科学は進歩し、ざっくりですが経済的な現実がそうはさせてくれなくなってきています。幼少期の災難は生涯に劇的な変化を与える。科学ははっきりしています。

今、幼少期の災難が病気や早死にへと発展していくのを妨げる方法を、私達は理解しだしています。ACEスコアが高い子ども達も、30年後には行動的症状は出なくなり、ぜんそくは誘発されなくなり、高血圧や早期心臓病やガンなどは、かつてHIVやAIDSにかかると6ヶ月で死ぬと言われていたくらいに、あり得ないこととなるでしょう。

未来の人々が現在の状況を見て「これすぐ治せるよね」と言うようになるでしょう。これは治療可能ですし、克服可能です。

現在必要なたった1つのことは、それを直面する勇気を持ち、これは現実問題で皆に関わることだという考えをもつことです。そういう私達自身がムーブメントなのだと私は信じております。ありがとうございました。

<続きは近日公開>

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