「国際勇気ある女性賞」とは

小酒部さやか(以下、小酒部):本日はお忙しい中お集りいただきましてありがとうございます。マタハラNetマタニティハラスメント対策ネットワーク代表を務めさせていただいております小酒部さやかです。

今日は本当にビッグネームの方々が集まっていただいて、ちょっとはや巻きにお話させていただけたらなと思います。

まず最初にメディアの方々にお願いがございます。ひとつは今お手元に配らせてもらっています。

国際勇気ある女性賞について、こちらの内容を資料としてお使いください。そしてこの中にミシェル夫人との写真がございます。

実は、本来であれば授賞式はミシェル夫人と国務長官が毎年出席されて、ミシェル夫人からトロフィーを授与されるはずでした。

ところが、今年の勇気ある女性賞は大雪のため授賞式が中止になってしまいまして、翌日レセプションという形でラッセル特使から私はトロフィーを受け取りました。

ですので、メディアの方々というか、日本国内でミシェル夫人と私がいる写真というか、映像が届けられておりません。

ですので是非この機会にミシェル夫人との写真を届けてもらえたらなと思います。

それではまず、国際勇気ある女性賞というのはいったい何なのかと。多分みなさんご存知ないですよね。私も自分が受賞してはじめてこういう賞があるんだということを知りました。

この国際勇気ある女性賞は2007年に制定されたもので、国務省が出している国際的な女性関係の賞では最大のものになります。にもかかわらず、日本はこの賞の存在を知らない。なぜかと言いますと、先進国が受賞することは極めてめずらしく、今まで発展途上国の方々が受賞してきました。

受賞者は命の危険がある人ばかり

今回の受賞者もアフガニスタン、バングラディシュ、ボリビア、ブータン、中央アフリカ、ギニア、コソボ、パキスタン、シリア、ここに日本が入ったということです。そうそうたる発展途上国の方々が集まっています。

ちょっとご紹介させていただきますと、例えばアフガニスタンの女性なんかは、アフガニスタンの空軍で女性で初めてキャプテンになられた方ということで、今回受賞されました。

また、シリアの方はアサド政権と戦って活動されている女性の方で、その方はご主人が政府にとらわれて殺害されてしまったというような方です。

また、今回一番注目をあげていたのが、ギニアの看護師さんなんですけども、エボラ出血熱にご自身もかかって、回復されて、自分がエボラ出血熱にかかったにもかかわらず、また病院に戻って看病にあたられているという女性です。

本当は本日このような記者会見を開くのではなく、行く前に記者会見を開きたかったんですけども、国務省が開かせてくれませんでした。

その意味は、国務省がプレスリリースしてからというふうに私は言われていたんですけれども、他の受賞者の方々とお会いして初めてわかりました。

みなさん、命の危険がある方ばかりなんです。なので、まずはアメリカに集め、受賞者の身の安全を確認してから発表するというような流れということだったそうです。

受賞後も私は普通に日本に帰って来ましたけれども、ルートを変えて帰られている方ですとか、内々に帰るような方々が大勢いました。そのような賞だということをわかっていただけたらなと思います。

日本は国際女性デーを意識していない

今回日本人では初めての受賞ということで、今日話させていただきたいことは、国務省から表彰されて、私としてはすごく嬉しいことなんですけども。

是非日本社会に受け取っていただきたいのは、この発展途上国の中に日本が並んだんだということを真摯に受け止めていただきたいなと思っています。

今回この授賞式はどのように選抜されたかといいますと、世界中の大使館からその国で約1名選出されて、約276名の中から10名がファイナリストに選ばれました。

3月8日が国際女性デーということに制定されているんですけど、3月8日が国際女性デーだということをご存知な方どのくらいいらっしゃいますか?

……ちらほら。やはり、3月8日が国際女性デー、女性の日っていうのを日本は意識していないっていうところも少し問題なのかなと。

この3月8日は女性デーで今年40周年だったんですけども、アメリカの国務省はそこへ向けて授賞式を開いていたっていう背景がございます。

こちらが今回受賞にあたって国務長官、副国務長官の受賞に関する発表です。私の活動、去年の7月にマタハラNetを立ち上げさせていただいたんですけども、9ヵ月間で国務省までたどり着きました。

多分これほど爆発的に注目をあびた団体っていうのは他にないんじゃないかなっていうふうに思っています。

たまたま時代の追い風の中にたまたま私が立っていたと。いうところで、今回選んでもらえたのかなと。

マタハラという言葉が去年流行語のトップ10に選ばれまして、国会でもマタハラ問題ということが言われるようになりました。

このような国際的に議論を巻き起こしたということが、今回の受賞に繋がったと見ていると、国務長官はおっしゃっています。

日本よりも先にアメリカが手を差し伸べてくれた

今回は受賞とともにもう一つ私にはプログラムが課されてまして、インターナショナル・ビジター・リーダーシップ・プログラム、IVLPというプログラムを受けておりました。

この賞もなんじゃらほいといいますと、国務省が人選をして選ばれた方々がその自身の活動をより充実させるために、アメリカ国内でいろんな文化人の方だとか研究者の方だとか、お会いさせてもらって自分の活動の為に勉強してくださいというようなプログラムを受けました。

私は最初ワシントンに飛んで、その次にミズーリ州のカンザスに飛びました。 その後ニューヨークに飛びまして帰国したっていう、2週間のプログラムだったんですけども、私がお会いさせていただいた方は、例えばドメスティックバイオレンスっていう言葉を作った判事ですとか、あとは女性労働問題に詳しい弁護士さんたち、それから私と同じような女性の市民活動をしている方々とお会いさせてもらいました。

このプログラムも結構そうそうたる著名人の方が受けられていて、例えば鳩山由紀夫元首相ですとか、細川元首相ですとか。

あと文化人でいくと村上春樹さんとか、ノーベル賞の大江健三郎さんとかが受けているという、こちらのプログラムも大変すばらしいものでした。

私の中で私の活動に日本が最初に手を差し伸べてくれるというよりは、アメリカが最初に手を差し伸べてくれて、私にここまでの教育をさせてくれるっていう。そこがすごいなと感じました。

海外に行ってすごい聞かれたのが「なぜ経済先進国の日本でマタハラなんかが起こるんだ」ってことを、どの人と会っても聞かれまして。

国務省に行ったときは国務省の中の国務次官とか補佐官とかもろもろの方に会わせてもらうんですけども、そこでも毎回聞かれました。

なんでマタハラが横行するんだと。その度に私が答えさせていただいてるのが、マタハラが日本ではびこる理由は大きく2つありますと。1つは性別役割分業意識、もう1つが長時間労働の問題ですと。

女性は一枚岩ではない

今日の午前中に厚労省で記者会見させていただきまして、マタハラ白書というものを発表させていただきました。

マタハラNetにはですね、現在110名を超す相談者からの連絡が寄せられています。また、こちらのマタハラ白書は1月16~26日の10日間で約200件近いデータを集めまして、分析させていただきました。

こちらのデータをもとに、性別役割分業の意識と長時間労働が問題なのではないかというふうに、マタハラNetでは捉えさせていただいてます。

マタハラ白書からの抜粋なんですけど、長時間労働の背景ってどんなかっていいますと、マタハラ被害にあった女性で8時間以上の勤務が多いと、それから深夜におよぶ残業が多い働き方だというのが合計44%になっております。

また、有休すらとれない環境、産休、育休どころじゃないんですね。毎年1~2日しか取得できなかった。一度も取得したことがないっていう方々が合計約42%もいます。

このデータ結果を基にしても長時間労働というのがマタハラの背景にあるってことがわかっていただけると思います。

もうひとつは「女性が一枚岩ではない」っていうのも、なかなか社会の理解が進まなかった点じゃないかなと思います。

女性が分断してしまう、ある方々は専業主婦を選ばれる。私たちは仕事と両立したい。

もうひとつの方々は妊娠や結婚は諦めて、バリキャリ組っていうんですかね。こういうふうに女性が分断されてしまっている。

すると受け取る上司からしては、片や「辞める」って言ってる。片や「続ける」って言ってる。君はおかしいんじゃない? なんで流産しても会社来るの? っていうふうな受け止め方になってしまう。

やっぱり女性が一枚岩ではないっていうのも、なかなか理解が浸透しなかった理由の一つかなというふうに思っております。

日本でマタハラが改善しない理由

アメリカではマタハラのような問題が起こったのが40年以上前。フランスの密着取材も受けたんですけど、その記者さんたちが言っていたのがグランドマザーの時代だと。

フランスでは特にマタニティハラスメントをするような概念や言葉すらないというふうにおっしゃってました。つまり日本は30年以上遅れているってことですね。

今年(男女雇用機会)均等法30周年記念なんですけども、30年経っても何も変わっていないんだってことを、もうちょっと考えなければいけない。今年こそ変えなければいけないんじゃないかってふうに思ってます。

アメリカなんかですと、裁判文化なのでマタハラ問題なんかがあると裁判バンバンやるんですね。

そうすると、向こうは解決金がすごく高いので企業が何億ってとられたりすることもあったということで、企業がヤバいヤバいというふうに変わっていった。そこで女性の権利っていうのが確立していったんですね。

日本でマタハラが改善していかない理由は、ひとつは罰則が無い。妊娠を理由にした解雇や退職などを違法っていう法律はあるんですけども、法律違反を犯したときの罰則、ぺナルティがほぼ無いんですね。

ペナルティとしては企業名公表なんかがあるんですけども、行使されたことが一度も無い。裁判もほとんど無いんですね。

企業に対して100人、訴えてやるって企業に言ったとして、そのうち本当に裁判をひらく人って1人か2人って言われてます。じゃ、1人か2人が勇気を振り絞って裁判を起こしたとしても、解決金がものすごく日本は低いんですね。

普通に解雇、それが解雇無効だったっていう場合ですら、だいたい給料の半年分が相場って言われてます。

もうすぐわかるような額ですよね。つまり企業にとっては、お金さえ払えば逆に辞めさせられちゃうってことにもつながるんですね。

こういうお話をすると、国務省の方々とかアメリカの研究者の方々に「じゃ、君どうやって解決するの?」と、「どうやってこのマタハラの問題を解決するの?」って不思議がられます。

そのときに私が答えたのが「唯一ひとつ光があるんです」ここだけなんです。私が答えさせていただいたのは「日本には恥の文化があるんです」と。「マタハラ=恥ずかしいと思ってもらうことなんです」って答えさせていただきました。

そして日本は黒船に弱いというところがありまして、文明開化のとき、第2次世界大戦でマッカーサーが来たとき、日本はガラッと大きく変わりました。そこで日本は発展を遂げてるんですよね。

今回の勇気ある女性賞、まさに黒船というふうに使わせてもらいたいなって私は思ってます。

ミシェル・オバマ夫人は問題のある国を選んで訪問している

こちらがミシェル夫人との写真です。18日にミシェル夫人初の訪日だということでいらっしゃいました。

そのときたまたま18日家でテレビをつけていたんですけども、とある情報番組でテレビの中のコメンテーターが、ミシェル夫人は今まで自国に問題のある国を選んで訪問していると。

何でこの時期に日本に来るんですかねって答えていたんですね。

私、ガクガクガクってきてしまって、「自国に問題がない」なんて思っているの? 日本にはマタハラという大きな女性問題がある。

女性の問題っていうのは、人権の問題なんです。

アメリカではそう捉えてもらえるんです。にもかかわらず、「ミシェル夫人なんで来てるんですかね」ってテレビでコメンテーターが言ってたのが、やっぱり私がこの写真、この絵を届けられなかったからかなって。ちょっと自分でも自分のせいだなってふうに思ってしまいました。

せっかくこんな大きい賞をもらえて、私は運があるんだか運が無いんだか、授賞式が大雪になって中止になってしまうっていう。この絵さえ届けられれば今回のミシェル夫人の訪日とミシェル外交との意味ってのが、もう少し日本の中で考えてもらえたのかなというふうに思ってます。

ですので是非、メディアの方々にこの写真を使ってもらいたいなというふうに思ってます。

今回ミシェル夫人はこうやっておっしゃってました。

「開発途上国だけでなく、日米の女性たちも今なお、家族とキャリアのバランスをとるのに苦労している」

「プロフェッショナルと献身的な母親と、両方同時になれないという時代遅れの通念に苦しんでいる」

というふうにコメントを出されてます。つまり日米ということを言ってるということは、アメリカでももちろんマタニティリーブの問題ってあるんですね。

今回の自分のアメリカ訪問と、ミシェル夫人の言葉を受け止めたときに、私の中ではこう思いました。

アメリカでも日本でも女性は常にキャリアと家庭との間で格闘しているんだなと思ってます。アメリカには制度はない。

マタニティリーブ、アメリカは12週間なんですね。ですけども、女性が働く権利が確立している。日本は制度はある。けれども、女性が働く権利が確立していない。

オバマケアなどをすすめるアメリカとしては、日本とアメリカの良い所と改善すべきところを交換しあって、両国にとってより有意義な進化を遂げたいというふうにとらえているんじゃないかなと私は個人的に思いました。

ミシェル夫人の今回の外交の目的は、日本と手を取り合って発展途上国の教育を進めようということだったとおもいます。

最初のペンギンのように、誰かが飛び込まなくてはならない

最後にリーダーファーストペンギン、最初のペンギンっていうお話、みなさんご存知ですか? 知ってる方どのくらいいらっしゃいますか?

これ、私大好きなお話なんですけど、英語圏では最初のペンギン、ファーストペンギンって言葉があるんですね。ファーストペンギン、最初のペンギンっていうのは勇気の象徴なんです。

ペンギンたちが、氷上で押し合いやってる、あの様子ってすごいかわいらしいと思うんですけども、実はあの背景にはだれかひとりが最初に飛び込まなければいけないっていう宿命が裏にあるんです。

みんな押し合い、へし合いやって、お腹も減ってる。だれかひとりが海に飛び込まなければ食べ物がとれない。群れ全体が死んでしまう。

最初に飛び込む誰かっていうのは、その下にオットセイがいたり、シャチがいたり、もしかしたら食べられてしまうかもしれない。

誰かが食べられたら、だれも飛び込まない、というような背景が裏にあるんですね。でも最初に、だれかひとり飛び込まなければ結局群れ全体が死んでしまう。

だから、ファーストペンギン、最初のペンギンってのは勇気の象徴なんです。

アメリカには、英語圏にはこういう言葉があるんですけども、日本も勇気を称える文化ってのはあるはずです。

今回のトークセッションに来てくださったファザーリングジャパンさんとか、サイボウズの青野さん、経営者の方々とか、私たちが集まって、今日話しさせていただくゴールは、働き方改革なんです。

みんなゴールは長時間労働を見直して、ワークライフバランスの重要性を認識してもらいたいというところなんです。

マタハラNetの私たちとしては、マタハラ問題が切り口、ファザーリングジャパンさんはイクボスが切り口ということになってます。

ファーストペンギンの話をさせていただいたのは、みなさんの職場もそれぞれいろんな問題をかかえていると思いますけども、みんなそれぞれ、一人ひとりが働き方改革者だと思ってもらえたらなと。

みんな一人ひとりがファーストペンギンということを心に思って、これから自分たちの企業の労働環境の改善に努めていってくださったらなと思います。私からは以上です。ありがとうございました。