メガネ型ディスプレイの検証

私たちが今やっているようなことの中で、ちょっとだけ動画をお見せします。

(メガネ型ディスプレイをかけた状態で人差し指を上に上げながらジェスチャーをしている)

これは大阪の「ブリリアントサービス」という会社が作っている、「グーグルグラス」の先にあるようなものですね。グーグルグラスって口で言ったりなんですけど、これはジェスチャー。こうやって、「あー」とか「いー」とか。今やっているのは、これで写真が撮れますとか。

彼らはこの検証を私たちの徳島でやって、1週間ぐらい前にバルセロナのモバイルショーみたいなとこで絶賛されて帰ってきました。これを町に持ち込んで、私たちと一緒に「まず、完成品ができる前に検証してみましょう」と言っています。おじいちゃんおばあちゃんの意見を取り入れるのがどういうことになるのかっていう。

でも、まだ製品化までは1、2年かかるんじゃないかと言われていますが。一番奥に座っているのがスウェーデン人の開発者。

彼が仕組みを考えて、持ってきて、「これでOKってやったらメールが飛んでくよ」とか「こうやったら写真が撮れるよ」とかいうことをずっと半日ぐらいやり、これがどういうふうに役立つのかみたいな検証を実際にずっとずっと続けて。

左側にいる男性がディスカッションの時にどんな言葉が出てきたか、みたいなものをずっと書き取っているんですけども、やっぱり開発者がここに来るとすごく驚くんですよね。何に驚くかというと、自分たちはそもそも何を見て開発してきたんだろうかと。

開発者はユーザー視点を見失いがち

つまり、自分たちは「パソコンにつながっているものがどんどんちっちゃくなればいいなぁ」「ちっちゃくなって目の前にあればいいなぁ」みたいな方向性で作ってきたんだけど、そもそも自分たちの作りたいもので何を実現したかったんだろうか、というのがスッポリ途中で抜けちゃってるわけです。

100gのものを50gにしたいし、50gのものを30gにしたい、あるいはこれだけ大きくてパソコンにつながっているものから線をとにかく無くして完全なウェアラブルにするっていう、そういうことがどんどんどんどん目的になって、「そもそもこれって何があったら役に立つんだろう」ってことから(開発者は)離れていっているわけですね。

そのとき、おばあちゃんが「自分たちはそもそもこの姿勢(人差し指を上に上げる)を何分やるんですか」ってことを言ったんですね。開発者、そこにも気付いていないのかって話ですよ。

あと、私がずっと言っていることを「あいうえお」で書いてくださいって言ったら、絶対3分と持たないですよね? 3分と持たないのに、ここでずっとタブレットに入力することを研究しているわけです。

でも、その指摘に彼らはすごく驚いたわけですよ。このブリリアントサービスさんって、昔からすごく面白いことされているところで。NTTドコモの「しゃべってコンシェル」の仕組みを実際に作っていて、もう次から次に先のことをやっている素晴らしい会社なんですけども、そういう会社のお二方がおばあちゃんに「これって疲れるよね」みたいなことを言われると「はぁ?」ってなるわけです。

でも、おばあちゃんたちってただ「疲れるね」っていうふうに言ってるだけじゃなくって、「でも例えば、寝たきりの人がこの状態だったら素晴らしいよね」とかアドバイスしてくれるわけですよ。

「このグラスが進んでいく先はここかも知れないね」とか、「支点があれば疲れないね」とか。「ここって辛いよね」って言ってたら、開発している人たちも「今、僕、気づいたんですけど。これ、満員電車の中で使えないですよね?」って。

「当たり前だよ! 痴漢に思われるじゃん!」っていうことが開発中にスポッと抜け落ちて、そのまま進んでいくこの環境って何なんだろうと思っていて。私たちは今、この仕組みが非常に面白いと思ってやっています。あと、私たちが今やっている会社「たからのやま」は新しい価値観を探る場所でもあり、「価値交換の変換」ということを検証しています。

お金を介さない「贈与経済」

皆さんも、評価経済とか、何とか経済で価値観変わってきますよ。っていう話は頭ではわかっていると思うんですけども。

実際私たちは先ほどのような仕組みをリサーチという形で、市場で検証の事業として。「共同開発」って言葉の下にある「貨幣経済」っていうのは、東京とか都会側だと、ここは開発の現場に当たり、ここでお金が動いています。

「ITふれあいカフェ」と市場の間では商品開発とか検証のためのお金が動いているわけですが、上の徳島の高齢者と私たちの「ITふれあいカフェ」の間はお金が動いていません。

でも、「ナレッジの供与」と書いてあるのは、私たちは普段「もうとにかく来てください。いろんなことを教えます。でも、教える中で、皆さんが困っていることがあったら教えてくれればいいし、東京から来た人たちが何か皆さんの知恵が欲しいという時には与えてもらえればいいので、とにかく来てください」って言ってるんですが、それって実はお金が動かなくても、いわゆる経済用語でいう「贈与経済」なんですよ。

贈与経済っていうのは、まず見返りを持つんじゃなくて、give、give、giveの状態でお金を介さずに何かを与えていくものです。そして、教えられた高齢者っていうのは、やっぱり贈与されたものに対して自分たちもなにか等価交換をしたくなる。

人間は与えられるだけではなく、主体になりたいわけですよね。なので、その時に、私たちは「お金はいらないから、皆さんのニーズをください。皆さんの反応をください」と言うんです。

私たちの「ITふれあいカフェ」でも、1年間であれだけの人を雇って回すのにそれなりの金額がかかるし、お金でしか解決できないこともあります。私は相当な価値のものをお金を介さずに交換していますが、お金でしか手に入らないものはやむを得ずではないんですけどもお金で交換して。

でも、ナレッジとか新しい創造性といった、いろんなものが回るような価値造りを今やっているつもりでいます。そうやって考えると、先ほど言った人口7,000~8,000人の町っていうのは「遅れた街」なのではなくて、「最先端」。先ほど私は「あの場所が最先端なんですよ」って言いましたが、開発現場から一番遠いところにあるニーズっていうのは最先端の課題だと思っています。

実際私たちがあの町でずっと活動をしていると、例えばイギリスのオックスフォードとかから、これからの高齢化社会とか人口減少社会でどういうことをして何をやっていけるのかっていうことを研究しに人が来たりします。

なので、ああいう場所にいるということが大事なのであり、次の世代を作るために限界集落へ行きましょうという意味ではありません。いろんな場所で課題を見つけることっていうのが大事だなと思っています。

“あふれる思い”が社会を変える

最初のお話に戻ります。これからの時代のキーワードっていうのは、何が求められるのかあまりに多様化しすぎて会社ももうわからなくなってきている。

わからなくなって、「ああかもしれない、こうかも知れない」って企業の中で、それこそ22歳から60歳の男性社会みたいなところでモノを作っているよりは市場に出ましょうと。

市場とかニーズがわかる場所に出て、そこで共感される物を共に作っていきましょうと。そして問題解決をしていきましょうという会社が伸びてくると思っています。そういうふうな思いがあれば、どんどん経済って成り立ってくるんですね。

どういう意味かというと、私が最初徳島のあんな田舎の町で、「おじいちゃん、おばあちゃんたちの知識やニーズが役に立って経済に影響を及ぼします」みたいなことをずっと言っていたら、東京から次々と人が来るわけです。それで産業が成り立っていくと。

これは徳島の街に東京からある会社の社長が来た時の写真です。

実をいうと、私は22歳から25歳までインドのボンベイ大学、修士を卒業しています。何をやっていたかというと、社会福祉。特にマザー・テレサの研究であるとか、社会を変える、変革するということを2年間学んで日本に帰ってきて。

じゃ、なんでITなのっていわれたら、1989年に日本に帰ってきたんですけども、その時にITが普及すれば世界がすごい速度で幸せに変えられるような人たちとたくさん出会ったからです。

理想を本気で信じて世界を変えるっていう人たちが、私にはマザー・テレサが言っていた「世界を変える」とか「コツコツと社会を変える」事と同じように映りましたし、さすがにガンジーは同世代ではないので会ってはいないんですが(笑)。

やっぱり流れてくる思いってあるわけです。なので、自分が生きてきた中で、マザー・テレサのリアルな世界にいたところと、日本に帰ってきてウェブの世界を作ってきたティム・バーナーズ=リーとかスティーヴ・ジョブズ、ビル・ゲイツみたいな人たちが私の世界とリアルにつながったというところに、私は使命感というのを強く感じています。

自分が学んできた教育や福祉とか、昔は全部ムダにしたものと思ってたんですね。学校の先生にもならなかったし、社会福祉の世界にも行かなかったしでムダに生き散らかしてきたものの、ITの力でスーッとひとつの軸が見えてきたところから、私の人生が始まった気がします。

ガンジーの「あなたが見たいと思う世界の変化そのものに身を置いて、あなた自身がその変化になりなさい」という言葉を、私は単なる名言じゃなく、そう実際に受け止めて活動しています。

豊かな時代に必要なリーダーシップとは

ここでFacebookでつながっている方とかは特にご存じかと思うんですが、私はただ言葉を伝えているんじゃなくて、どちらかというと「私の日々を見てください、行動だけが私を物語っているので、私の今日言っている言葉は忘れていただいても構わないですから、明日からの私の行動を見てください」って。

人間って良いことを言おうとか、そういった類の本はいくらでも書けるわけです。でも、どうやって行動するか、どうやって本当に世界の変化にあなたがなろうとするのかっていう、そういう現実のことのほうが大事だなと思っています。

「会社を辞めないという選択」という話にまた戻ります。そうはいっても、会社ってやっぱり「自分が必要とされていなければ残っていられないよね。辞めずにいられないよね」って時には、今までに知っている、統率された中でのリーダーシップしか思い浮かばないかもしれません。

ちょうどここに写真がありますが、なんでこれを選んだかというと、若くて面白い男性たちに担がれて「やっほぅ!」と言っているものだからです。つまり、そういうリーダーのあり方があってもいいし、逆にこれから求められるような、後ろから羊飼いのように「あなたもはぐれちゃダメよ、あなたもはぐれちゃダメよ」って導いてくれるような(リーダーがいてもいい)。

リーダーシップの形ってどんどん多様になっていくと思います。上からピラミッド型で「アレやれ、コレやれ、俺の背中について来い」っていうリーダーシップから、「あなたたちが好きなように行った先でみんなが求める未来に向かってっていいわよ」というリーダーシップの形への移り変わりがとても貴重になる時代が来ます。

それはどうしてかというと、今までは「背中について来い! 攻め入るぞ!」ってやらないとダメな世界、戦争の世界だったからですね。戦う場合は、どうやっても「覚悟」とか「統率」とか。

だけれども、今のように豊かな時代は「あなたたちが思うように幸せな世界に行きなさい」っていうリーダーシップが唯一求められるのではないかなと。いろいろ世界では起きてますけども、人類の過去の歴史の中では比較的平和な時代だと私は思っているんです。

そういう時にはそういうリーダーシップもある。逆に、「あなたたち、好きなように未来へ向かっていきなさい」って戦時中に言ったらどうなると思います? 誰も戦争行かないですよね。だから、戦うための仕組みが今までずっと続いていたんだけども、戦うんじゃなくてみんなで作り上げて共有し合おうって社会におけるリーダーシップがあってもいいですよね。

生き延びるために必要なことは「変化」

そして、会社の中、起業家、学生、そして管理職や新人さんにも言ってる言葉があるんですけども、人間が会社の中であろうが、社会の中であろうが、ちゃんと生き延びていくためには「素直であること」と「他人に頼れること」と「変われること」、この3つしかないんじゃないかなと。

これは結婚生活も多分そうだと思います。この3つがあれば、大体のことはどうにかなる。特に企業経営者とかそうですね。

やっぱり会社がダメになる時って、企業経営者は自分を押し通したいけれども、「それじゃダメだよ」って言ってくれる人の意見を素直に聞けなきゃいけませんし、他人に頼れなきゃいけませんし、変わることができなきゃいけない。

これ、親子の関係もそうだと思います。だから、どういう立場だろうが、大切な3つだと感じています。

さっきから時代、時代といってますけれども、これからの時代のキーワードはどんどん変わってきているので、異なる視線の組み合わせがどれだけできる人かってことがこれからの時代、一番大切ではないでしょうか。

私は幸い、こういうカメの経験がありましたが、そうじゃなくても皆さん、会社の中でカメの卵を食べる食べないレベルにとどまらない、とんでもない戦いをしてるんじゃないかと思うので(笑)。

その立場で「こっちもありだよね、こっちもありだよね」っていうような考え方を、自分の頭の中でカメの卵に置きかえて考えればいいんじゃないかなと。

最後です。私は『会社を辞めないという選択』という本を書きましたけれども、どういう場所にいても社会は変えられるし、いろんな人とつながれます。

私がずっと言い続けてきた「社会の価値観が変わる時代」はこれからではなく、もう来ました。皆さんの会社によってはまだうっすらかもしれないし、まだ見えてないかもしれないし、「もうとっくにそうですよ! これ読んで全然新しいことないし!」ってところもあるはずです。実際、そういう会社さんと私は付き合っています。なので、舞台はどこでもいいです。

いろんなところの端と端を行ったり来たりしながら、いろんな選択をしていただければいいと思います。

ちょうどいい時間になったと思うので、私のトークはここでいったん終了にします。ありがとうございます。

会社を辞めないという選択 会社員として戦略的に生きていく