誰もがAppleはMicrosoftに勝てないと思っていた

ウォルト・モスバーグ氏(以下、ウォルト):1997年のMacworldの出来事には後で触れたいのですが、1995年以前のWindowsはMacに対してGUI機能的に追いついてなかったにも関わらず、Windows 95で挽回しましたね。

ビル・ゲイツ氏(以下、ビル):Windows 95はGUIが基本になった時でした。業界がアプリケーションの在り方に気づいたんです。数年前までは退けられていたコンセプトだったのが、数年で一変しました。そうなったことには、ハードとソフトの成長が関係しています。

ウォルト:スティーブ、あなたが戻ってきた時の話を全部掘り上げるつもりはないのですが……。

スティーブ・ジョブズ氏(以下、スティーブ):ありがとう。

ウォルト: Microsoftと争うのは危ないと言っていましたね。Appleの状態も良くなかったし、お人好しだからという理由以外にも戦略的な判断もあったのかと思いますが?

スティーブ:Appleは本当に窮地に立たされていました。Appleが勝ち、Microsoftが負ける、という状況は明らかにありえませんでした。周りの人たちもそう思っていました。

カラ・スウィッシャー氏(以下、カラ):それはなぜ?

スティーブ:Apple社内にも、顧客たちにも、そういうスタンスの人たちがたくさんいました。Appleは業界の発展に様々な基準を作ったとか、会社同士の嫉妬など色々なことがあったと思われていますが、それは関係ないんです。

結論としては、Appleの中に、Microsoftには勝てないというスタンスの人たちが多すぎたんだと思います。別にMicrosoftに勝つ必要はないし、そもそも戦う必要もないのだと思います。Appleがどういう会社なのかを思い出せばいい話です。

Microsoftが世界一のソフトウェア開発会社だという、その考え方から抜け出す必要がありました。当時起こっていたことは今考えるととてもおかしなものでした。だからビルに電話して、関係を修復しようとしたんです。

ビル:その時から、当社にもMac用アプリケーションの開発に特化したチームができて、Appleとも他には無い関係性を保ちながら開発に取り組んでいます。数年ごとにMacで新しいことができるようになって、とてもいい関係ができています。

スティーブ:Microsoftのデベロッパーとの関係は、他にはないデベロッパー関係を保てています。

比較広告を打つのは、仲が良いから

カラ:インターネットの普及などで業界の方向性が変わりつつある今、お互いをライバル視していますか?

ウォルト:色んな意味で競合していると思いますし。

カラ:そういうコマーシャルもやってますしね。私はあのコンピュータの男性がお気に入りです。

スティーブ:いいですよね。あのCMは別に喧嘩を売ってるわけじゃなくて、お互い仲が良いということを言ってるんです。

スティーブ:コンピュータの人、いいですよね、彼。

カラ:とても気に入ってます。

スティーブ:コンピュータの彼がいるから、あのCMが成功したんです。

ウォルト:ビル、Microsoftは当然とても大きな会社で、比較しても様々な方向に携わっていますよね。あなたやスティーブ・バルマーが会社を動かしている時、GoogleやLinux、ゲーム業界としてはSonyなどがありますが、Appleはどれくらい競合として視野に入るのですか?

ビル:敵対視するというか、可能性を見出すようにしています。Zuneのチームは、もちろん競合としてAppleを見ていますよ。Appleが市場を広げて、頑張ってくれたらいいな、と言っていますよ。

スティーブ:うちもZuneチームの人たちがお客様だからうれしいです。

ウォルト:以前ジェイ・ハワードが教えてくれたんですが、Xbox 360のデベロップメントプラットフォームのプロセッサがMacと似ていたから、開発用に当時のMacのタワーを大量注文したんだとか?

ビル:そう、Macが使ってたプロセッサをXbox 360で使おうとしてたんです。面白いことに、Macがそのプロセッサを使うのをやめようとしていた時期に、Xbox 360にそのプロセッサを搭載しようと試みてたんです。そのプロセッサがポータブル展開しないというのがお互いの理由です。実用主義です。Xbox 360の開発用に大量導入しました。

スティーブ:その広告は作りませんでしたよ。

ウォルト:自制はさぞかし難しかったことでしょう!

ビル:スティーブの自制心はみんな知ってますからね!

iPodが存在する理由は、日本企業がソフトウェアをつくれなかったから

カラ:AppleとしてMicrosoftをどう見ていますか?

ウォルト:競合とは言わずとも、潜在的にもやっぱり敵対視しているのでは?

スティーブ:以前にもお話しましたが、iPodが存在する理由は、ポータブルミュージックプレイヤーの市場を造って独占していた日本の企業が、ソフトウェアを作れなかったからです。iPodはただのソフトウェアですから。

それをつなげるコンピュータもMacもソフトウェアだし、クラウドストアもソフトです。MacもOS Xが美しい器に入ったものですし、iPhoneもそうなるはずです。Appleは自身をソフトウェア会社と思っています。

Microsoftみたいなソフトウェア会社は今ではほとんど残っていないから、Microsoftから色々学ばせてもらってます。別に将来的にコンピュータのマーケットシェアが80%になるとも思っていないです。むしろ1ポイント上がるだけで大喜びです。Appleは根本的にはソフトウェア会社で、その仲間としてMicrosoftが居ると思っています。

ウォルト:Appleの基本がソフトウェア会社だとしても、顧客やジャーナリストは、ソフトウェアとハードウェアの融合に力を入れている会社だと認識しているはずです。Microsoftも最近Xbox、ZuneやSurfaceなどでその方向に行こうとしていますが、2社の考え方が似てきていると言えるのでしょうか?

スティーブ:アラン・ケイが70年代に、「ソフトウェアが好きな人はハードウェアも自分でやりたがる」と言っていました。

ビル:僕はそうでもないなぁ。まあ、そこでイノベーションが起きた後に勝算があるかどうかだと思います。初期はやはり、プロトタイピングなど、どっちもやったほうがいいと思います。携帯電話市場としては、140種類のハードウェアに入ってることを考えると、我々はあまり価値が見えなかったのです。

例えば、まだ発達しきれていないロボティックス産業も、今Microsoftのソフトウェアを使っているものが140ほどありますし、そこから生まれつつある経済システムは当社にとって価値あるものだと思います。Microsoftは視野を広く、様々な方向に進んでいきたいと思っています。

Appleは今やっていることがとても上手ですし、とてもいいと思います。我々はXboxなど新しいジャンルをどんどん進めています、Surfaceと会議室用のテーブルなど。実際は子会社が動かしているものですが、リスクと損益的にはMicrosoftのプロジェクトです。

ウォルト:その会議室テーブル、もう発表されたんですか?

ビル:プロトタイプを何回か見せてます、真ん中に360度のカメラがついてる。

ウォルト:CiscoやHPもそういうのやっていますよね?

ビル:HPのはすごい高性能のものを作ってます。ちょっとそれに似ているかな。

Appleに戻ったとき、昔のマシンを会社から処分した

ウォルト:今までMacに取り組んで、「こうすればマーケットシェアが広がったのに」と思ったことはありますか?

スティーブ:その前に、さっきビルが言ったことに一言。消費者市場とエンタープライズ市場は全然違うベクトルに在るんです。消費者市場では、Windowsとコンピュータ以外でソフトウェアとハードウェアがうまく一緒に機能している例がないんです。

将来的には携帯電話でそうなるかもしれませんが、まだ明確じゃないんです。我々が毎日仕事をするのは、その答えを探しているからかもしれませんね。

ビル:ミュージックプレイヤーの市場ではデザインはひとつのほうが良かったかもしれないですが、コンピュータでは種々であったほうがシェアが高くなるのです。

ウォルト:それはそうでしょうね。

ビル:ミュージックプレイヤーではその真逆になってますからね。

ウォルト:話を戻しますが、過去に変えたほうが良かったことは?

スティーブ:やはりやり方を変えたほうが良かったこともあったかもしれないし、会社を去った後に起きたことで賛成できないこともありましたが、別に関係ないんです。

忘れて、前を向くことが大事なんです。Appleに戻った時、昔使ってたマシンや書類は全部スタンフォード大学に寄付したんです。未来を見よう、ということです。「クビにならなければ」とか、過去の後悔をしても仕方がないので、将来に向けて進むことが大事です。

振り返ると、今の時代は「発明」の時代になる

カラ:今の業界に新しい物や人々が日々参入していますが、成長し続ける業界の中で大手として動いているお二人の会社から見て、業界はどのように変化してきていますか?

スティーブ:僕はすごい良い方向に行っていると思います。若い人たちが新しい会社を立ち上げて、営利目的ではなく、次の世代につながるようなことをやっていると思います。我々も追いついていなかったり、タッグを組みたくなったりします。どう思う?

ビル:僕もそう思います。デバイスフォルム、ナチュラルインターフェース、クラウドがローカルシステムと共存する仕組みなど新しいアプローチがどんどん発明されています。振り返って、この時期を「発明」の時期と見返すでしょう。

スティーブ:僕もそう思います。今はリスクが沢山あるんです。まだ誰もやったことがないことを、これは革命的だとしてやるリスクをとるのはとてもいいことです。

カラ:その例は?

スティーブ:あるけど言えないよ。だた、それはすごい良い気持ちで、仕事するモチベーションになるんです。

ウォルト:お二人はiTunesやMacなどのインターネット関連に携わっている上に、コンピュータやOSを作る名人とも言えるような存在です。会場内でも賛成する人がいると思いますが、全てクラウドに移行してハード的には従来よりもっと軽いものになるのではないかと思います。一般的にはライバルと言われつつ、言い換えると……。

スティーブ:太古の恐竜のようだって?(笑)

ウォルト:私も恐竜みたいなものですから(笑)。

パーソナルコンピュータはいずれ消滅する

ウォルト:真面目に話すと、5年後、パーソナルコンピュータはまだ動いているのでしょうか?

ビル:多分そうはいかないでしょうね。ネットワークコンピューティングが5年ほど前にいきなり来ていきなり去りましたよね。単一機能マイコンも当時はバカにされて終わりましたしね。その時代に主要的な存在のものは常に比較され、疑問視されるものなのです。

人々が気づかないのが、スピーチなどのローカル機能は発達し続けるのですが、それがクラウドなど他のところと同時活用されるかどうかはわからないのです。テレビや車につながるデバイスを見ると、ハードウェアやネットワークが軽量化されているんです。その反面、フルデバイスを強く、早くするのにはまだ時間が必要だと思います。

スティーブ:例を挙げると、Google Mapsです。僕もブラウザで使います。iPhoneを作っている時、地図機能が欲しいともちろん思いました。GoogleもJavaとかでアプリケーションを作ったりしてたので、連絡を取って、APIを使ってクライアントアプリケーションの開発を始めたんです。Googleにはバックエンドをお願いしてね。

作ったアプリは、結局他のクライアントより断然よかったんです。同じデータを使っているのにも関わらず、コンピュータで見るよりよかったんですよ。過去に電話に搭載したものよりも、遥かに時代を超えていて、クライアント側の技術によって実現されたのです。

それを見せた時、彼らはびっくりしてました。ブラウザではできないんです。今では、オフライン状態でのデータ維持やローカルでアプリを起動するなど、ネットワークの接続状態を問わず使えるシステムの開発を進めている人たちが沢山います。

ただ、すごく進みが遅いのが現状です。同時に、リッチなクライアントを低価格のハードで作動させることができるほどハードウェアが進んできています。

ウォルト:高性能クライアントは大事だけど、デスクトップ以外でも使えるようにするっていうこと?

スティーブ:言いたいことは、良いクライアントアプリケーションとクラウドサービスの融合はとても魅力的なことで、クライアントにブラウザがあるだけの状態より強力な存在だと思います。

カラ:ソフトウェア会社がソフトウェア・サービス会社になるということ?

スティーブ:サービスとクライアントの融合は強力な存在だということです。