「売却は疲れる」 シリアルアントレプレナーならではの悩み

藤田:柴田さんはシリアルアントレプレナーとして本物だと思いますけど、そういう意味では楽天とのロックアップが終わり、次に何やるんだというのが気になるところだと思うんです。次は何をやっていくつもりなんですか?

柴田:(笑)。いつになるかって話はおいといて、次は新しい、世の中になかったものを作っていきたいなっていうのは思いとしてずっと(あります)。そういう人生でありたいなと間違いなく思っています。

藤田さんに言っていただいたように、コツをつかむというか、起業家として(起業を)やるだけ成長すると思っているので、次にやるのはもっと世の中に与えるインパクトが大きいとか、時価総額が大きいとかいうところに挑戦したいなと思ってます。そういう自分が何かできそうなエリアというのは、慎重に選びたいなと思っているので、今すぐに何かするということではなく、ちゃんと見たいなと思います。

藤田:「継続性がある会社をやっていこう」みたいな気は、まだ全然起きないということですか。

柴田:どこかの時点で思うかもしれないんですけど、僕の頭の中ではひとつの製品なりサービスなりにつき、ひとつの組織というのがわかりやすいなと思います。もしかしたら、それをポートフォリオ的に事業部をたくさん持ってということもできるのかもしれないんですけども、僕自身は事業に携わってるほうが好きなので、そういうポートフォリオを管理するみたいな仕事だと、今はあんまりやりたくないなと思います。

藤田:参考までになんですけど、ネットエイジの創業者の西川(潔)さんが……ネットエイジはインキュベーター、つまり孵化器で、どんどん事業を売っていったわけですけど、ある日ゴルフしながら「本当、売ってたら疲れるよ。なくなっちゃうから」って言ってたんです。ネットエイジは上場してたしね。やがて疲れるのかなと思ったんですけど、そんな感じは今はないということですね?

柴田:まあ、今のところ……でもエネルギーはすごく要りますよね。今いる人をそっくりそのまま全員さらって新しいプロダクトを作れたら、どんなに簡単だろうとは思います。

藤田:疲れてくるってこと?(笑)

柴田:人を集めるのはすごく疲れます。

サイバーエージェントは何故ピッチコンテストを止めたか

藤田:わかりました。じゃあ平尾さん。さっきのスライドにも出てきましたけど、社内制度がウチの会社並みに多いというか。ZOOでしたっけ?

平尾:「ZIGExN ZOO」ですね。

藤田:上手くいっているものを教えてもらってもいいですか?

平尾:実は、さっきスライドに出た50の制度は上手くいっているものを中心に出しておりまして。ZOOっていうのは動物園の雰囲気なんですけど、わたくしどもの組織の考え方として一番大事なのは、「当事者意識をどう出していくのか」ということです。

これは前職のリクルートの影響も大きいのかなと思ってまして、いかに自分のことだと思えるかというところで、目線を上げていく組織を作っていかなきゃいけないと思っていて。ZOOはどちらかというと管理者のいない動物園を目指していくんだという意味合いが強いんですけど、イノベーションを起こすためには多様性のある人材がいないと厳しいっていうダイバーシティの仮説があったので、多様な動物が勝手に暮らしていけるような大きな動物園を作りたい。

もうひとつは「ZIGExIN(じげイン)」というちょっと栄養ドリンクっぽい名前の制度があるんですが(笑)、これは委員会制度で、どちらかというと学校の組織みたいなところを混ぜて作ってるものです。

「Znow(ずのう)」という、首脳会議というか生徒会みたいなものがあって。あとは「いきものがかり」という……ちょっと名前が危ないですね(笑)。社内で亀を飼っておりますので、亀をお世話するような子たちがいたり、立候補とか推薦をしながら回していったりしてます。

どうやってみんなをボトムアップで経営に巻き込んでいくのか、みたいなところは割と上手くいってるんじゃないかなと思ってます。

藤田:事業家集団を標榜してらっしゃいますけど、結構育ってきてるんですか? 事業家は。

平尾:事業家の定義(もある)かなと思ってます。我々の社名の英語表記は「ZIGExN」とかくのですが、「ExN」(イーかけるエヌ)は、、「N個のEntrepreneurship」という意味合いもあります。

アントレプレナーシップを中心に据えながらも、その外側にはMOT(Management Of Technology)みたいなテクノロジーが強い人がいていいと思いますし、クリエイティブが強いデザイナーもいていいと思いますし、いろんな考え方を混ぜていったときに、CxO(Chief x Officer)を含めて起業家だと思ってます。

そういう意味では、我々の会社はかなり……藤田さんのところが事業コンテストをやめられたのが衝撃的だったんですが(笑)、我々はコンテストなんかは社員数の3倍の案件が出るくらい熱気が出ておりまして。

まだまだ歴史が浅い会社ですが辞めた子たちも何人か出てきまして、それはやっぱり起業家が多いですね。辞める(理由として)7割から8割くらいの確率で「起業します」と。そういう組織ができてるんじゃないかなと思ってます。

藤田:僕は「社内事業コンテストは必ず失敗する」というタイトルでブログを書いて、(事業プランコンテストを)やめました。最近ブログがバズるのが病みつきになっちゃって(笑)、「辞めた社員を罵倒した」とか過激なタイトルを付けたくなっちゃうんですよね。もちろん、明日にあるピッチコンテスト(Launch Pad)はすごい実績をあげているので、すばらしいものもあると知っています。

平尾:ありがとうございます(笑)。

社会起業家としての戦略

藤田:じゃあ長谷川さん。いろんな事業を多角化されてますけど、我々が考える「この分野が伸びそうだ、儲かりそう」という感覚と……さっき「こういう場所で(落ち着いて)話を聞けないのは何かの病気」って話があったじゃないですか。僕、そうなんですよね。ずっとしゃべってなきゃいけないからモデレーターをやらせてくれって話になったんですけど。何の病気でしたっけ?

長谷川:ADHD、注意欠陥多動症っていうんですけど、注意が1箇所にもたなくてすぐいろんなことに(飛ぶ)。会話しながらも、違う方向にどんどん気が取られていっちゃう。

藤田:それです。

長谷川:(笑)。

藤田:どういうふうに事業を決めていくんですか?

長谷川:テーマとして「障害者の問題・教育という領域で根本的に問題解決」という軸はあるんですけど、その中においては戦略的に選んでいくことが多いです。例えば、単純に障害者の分野でいうと、一番伸びるところで勝つべきだと思ってるので。精神障害者というところが一番伸びてるんですよね。

かつ一番社会問題にもなってるので、そこの勝ちやすいところで勝って、戦力を蓄えてから次のより難しいフィールドにチャレンジしていく。そういうのは基本的な戦略としては考えてます。子どもの領域も同じで、発達障害分野って大きな課題であると同時にすごく伸びてるんですね。

藤田:なんか、普通の経営者っぽいですね。

長谷川:そうですね(笑)。そういうテーマとか軸は、ITの会社さんほどフレキシブルにはできないですね。社会問題の解決、障害者の問題の解決というのが優先なので、縛られる軸はすごく多いんですけど、その縛られた範囲内でどう戦略的・合理的にやっていくのかというのはあまり変わらないかなと思ってます。

同族意識が強すぎるとスケールしない?

藤田:わかりました。仲さんから趣きを変えまして。さっき人事制度は藤田さんに(聞く)みたいな話をしましたけど、客観的にサイバーエージェントを見て……皆さんにも聞きたいんですけど、良いところと悪いところを教えてほしいんですけど。

:(笑)。

藤田:「急にお前の話かよ」って感じになりましたけど(笑)。

(会場笑)

藤田:思い付いたほうからで。

:良いところは、藤田さんもおっしゃってたと思うんですけど、違う事業、例えばうどん屋とかに突然なっても、組織力がすごく強いのでそのまま結果を出せそう、みたいな。

藤田:みんな会社が好きだから「やろうよ」みたいに。だから、柴田さんのグランドデザインとは真逆だけど、一応そういうふうに作ってる。

:そうですよね。逆に悪いところは、もしかしたら同族意識がすごく強くて、今(サイバーエージェント)出身の起業家とか結構いますよね。

藤田:その辺を結構うろうろしてます。同族意識が強く見えますか。

:最近、組織構造が変わってきてるじゃないですか。昔は営業中心で労働集約的なモデルだったのが最近変わってきてると思うので、そこは時代の要請によって変わってきてるのかなって気はするんです。昔は労働集約的な感じだったから、スケールしづらいモデルだったのかなと。組織とか事業ですけど。率直に言うとそんな感じです。

藤田:柴田さんからも聞いていいですか。

柴田:採用力、新卒をちゃんと育てるっていうのとか、会社愛をゆとり世代に対して持たせるというところがすごいと思ってます。反面、例えば中途ですごく能力の高いエンジニアの人が入ってきたときに……新卒で3年目とかの方にプロデューサーとか事業長みたいなのを任せるじゃないですか。

で、スポットライトはそっちに当たりがちじゃないですか。そこって、そのスペシャリストのエンジニアからすると「おいおい、あいつ何もわかってないのに。俺がやってやったんだろ」みたいなふうにならないんですか?

藤田:なんでそんなによく知ってるんですか(笑)。

柴田:(笑)。そうなるんじゃないのかなと思って。たまたま違うグランドデザインなので。

藤田:おっしゃるとおりですね。「スポットライト」という社名は、そういう意味なんですか?

柴田:違います(笑)。「小売店にスポットライトを当てよう」っていう。僕が当たるってことじゃないです。

藤田:まあ、それは確かに痛いところを突かれてます。なるべく中途で入ってきてもスポットライトを当てようと頑張ってますけど、どうしてもそうなりがちですね。じゃあ平尾さんもいいですか?

サイバーエージェントがキラキラ女子を採用する理由

平尾:わたくしは藤田さんの『起業家』という本を5冊買っておりますので、1時間半くらいサイバーエージェントについて語れると思ってるんですけども。すごいですよね、やっぱり。尊敬しております(笑)。尊敬している中で、いろいろと申し上げたいと思っているんですが……やっぱり勝負強いというか、まさにアントレプレナーとして「勝負どころがここだ」とか(わかっている)。

麻雀が強いというのは皆さんご存知だと思うんですが、サイバーエージェントの社員の方に「藤田さんはどういう方ですか」と聞いたら「勝負強い」というのが絶対一番目に出てくるんです。あといろんな話も出てきましたけど。

もうひとつ、採用のところ。IT企業はたぶん、ほとんどの会社がサイバーさんの本や藤田さんが書かれた本を参考にして組織を作ってると思いますし、礎になっている。そういう意味では、21世紀を代表する企業を作るというところは達成しちゃったんじゃないかと勝手に思っております。

あと、やっぱり「キラキラ女子」ですか。これはちょっと言っちゃいけないやつかもしれませんが、私はなぜそういう(女子が)採用されてらっしゃるのかみたいなところをずっと追いかけてたんですけども……。

藤田:さっきも(僕が)女優と結婚してるときを追いかけてみたり、キラキラ女子を追いかけてみたり、意外とそういう野心がおありなんですか?

平尾:すいません(笑)。なかなかインタビューで発言されないので。私がリクルートにいたときに1回だけ(発言)されてたのを拝読したことがありまして、それは「女性でキャリアを積んでいかれる方はどんどん男性化していく」というお話で、確かになと思ったんです。

(藤田さんの話では)「どんどん男性化されている方が出世していくのを見ていると、どうしても下の女子たちは『あの人はすごいけど、ああなりたくない』と思ってしまうんだ」みたいな。そういう洞察力というか、ものの見方みたいなところが優れてらっしゃるんじゃないかと思ってまして……上から(の評価)じゃないですよ? 下から見てます。

藤田:いやいや、ありがとうございます。

平尾:ただその一方で、キラキラ女子のブランディングが強くて、そこがお好きな方たちはいいんでしょうけど……我々は助かるんですけど、ビジデブ志向というかビジネス&ディベロップメント系は、逆にサイバーエージェントさんを受けたあと(合わないと思って)ウチに来たりとかもされるので、割とポジショニングのところからのいろんな弊害があるのかなと思ってます。

こんなことを言うと後で反省部屋に……すいません(笑)。

藤田:ありがとうございます。「勝負強い」「洞察」「キラキラ」と(笑)。今はVOYAGE GROUPの宇佐美(進典)さんは昔役員だったんだけど、離れてからしゃあしゃあと「サイバーの役員って頭良い系の人いないですよね」みたいに言われて。

(会場笑)

会場にいた宇佐美氏:そこまで言ってないですよ!(笑)

藤田:言った(笑)。それね、みんなに役員会で話したから。「あの野郎!(笑)」みたいになってたんで。まあ、いいんですけど。長谷川さんはあんまり知らないかもしれないですけど……。

長谷川:サイバーさんは独自の一貫性をずっと保たれているのがすごいなと思っていて。独自の一貫性をより強化し続けるような具体的な仕組みだったりとかを、ずっとブレずにやってきてるというのが、今の大きな流れを作りつつある要因なのかなと思ってますね。ネット系の経営者の方、起業家の方って新しいものが好きじゃないですか。

新しい流行があるとすぐ取り入れたくなったりとか目移りされる方も多いと思いますし、そこを気にされる方も多い中で、自分たちの独自の一貫性にドーンと構えてらっしゃるのはなかなかできることじゃないなと思いますね。起業家的な経営者の方には苦手なところかなと思うので、そのあたりは本当に素晴らしいなと思います。

藤田:ありがとうございます。長谷川さんに言われると本当にほめられた感じで(笑)。