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注目若手経営者が語る成長企業の組織作り、経営者の仕事(全5記事)

会社の売却後、創業者は“ロックアップ期間”のモチベーションをどう維持する? --若手経営者に質問

近年増加傾向にある社会起業家と、ソーシャルビジネスの現場。その内情はあまり知られてきませんでした。しかし、障害者支援を理念に掲げるLITALICO長谷川敦弥氏は「清濁併せ呑みます」などと、経営者としての立場からソーシャルビジネスに向き合う姿勢を語りました。(IVS 2014 Fallより)

楽天に買収されてもカルチャーは染まらない?

藤田:じゃあ、柴田さんに戻りまして。さっき、ウチの会社を売却したら社内がショックに見舞われるみたいに言いましたけど、スポットライトが楽天に売却が決まったときの社内の反応はどんな感じだったんですか?

柴田:事前に知ってたのは一緒にやってる経営陣だけだったので、ほとんどの社員にとってはサプライズだったと思うんですけど。我々はB to B to Cで、小売店さんからお金をいただいてユーザーさんに使ってもらうというサービスなので、小売店さんとユーザーさんにとってのベネフィットは、楽天とか楽天ポイントの力で確実に上がるというストーリーは描けていたので。

そこに関しては、例えば営業の人たちにとっては売りやすくなるというのはすごく大事なことだと思いますし、プロダクトのほうにとってもたくさんのユーザーに使ってもらうというのは大事なことだと思うので、成長のステージを一気に上げるという意味ではなんとかなったかなと思っています。

そのとき(の社員数)が20人強くらい、今は35人くらいで、買収されてからここまで1年2ヶ月くらい経っていて、その間に辞めた人が4人しかいないんです。

4人のうち3人はありがたいことに「柴田さんの経営を見ていて自分でもやりたくなったから、自分でやります」ということでスタートアップの取締役になったり、自分で始めたり。そういう形の3/4なので、まあいいんじゃないかなと。僕は(そのような辞め方を)すごくありだと思っているので。おかげさまで割と上手くいっているというのが、現時点での経過です。

藤田:柴田さんが次に向かわないのはおそらくロックアップとかがあると思うんですけど、どのように今の自分の仕事をモチベートしているのか。

(会場笑)

柴田:いや、僕は結構すごく働いていると思っていて、たぶん平均してみると会社でも一番最初に来て一番最後に帰ってると思うんです。プロダクトはどんどん成長していくので、そこは(モチベーションでは)あるかなと思っていて。

経営者の仕事って、プロダクトオーナーとしての立場と、組織のリーダーとしての立場と、あとは資本回りというか台所事情を面倒見るっていう3つの役割があると思うんですけど、3番目に関しては(楽天グループの)社内調整ということになるので、今までよりは負荷が下がっているかなと。

ただ、前の2つについては変わらずの役割を担っていますし、あとは今いるメンバーたちのリーダーシップをより上げていくという意味でもすごく楽しいチャレンジをしているので、僕自身は楽しくやっています。

藤田:これはあくまで聞きにこられた方の、「売却先としてはどうか」という検討材料として聞くんですけど、楽天はどうですか。

柴田:(笑)。やっぱりサービスのユーザー、トラフィックがすごく多いです。あと皆さん、楽天ってすごくカルチャーが強くてあっという間に飲み込まれちゃうんじゃないかというイメージがあると思うんですけど、スポットライトがたまたまなのかもしれないですけど、オフィスも別で、人事制度も別で自分で採用はしてて、給料体系も別で、英語もなくて。「英語がなくて」って言うと人事が出てくるかもしれないんですけど(笑)。

藤田:ちなみに場所は(楽天本社のある)品川でやってるんですか?

柴田:いや、渋谷でやってます。まだ変わらずです。

藤田:じゃあ、独立してた頃と割と変わらない。

柴田:はい。今のところ独立してやらせていただいています。

手堅い起業家でも、突然タガが外れることがある 堀江氏のように

藤田:なるほど、わかりました。じゃあ平尾さん。平尾さんとは一昨日ランチさせてもらって。本当に思ったんですけど、非常に化けそうな可能性を持ってるなと僭越ながら思ったんです。

平尾:ありがとうございます。

藤田:さっき仲さんにも言いましたけど、悲しいほどネット業界の経営者は注目されてないと難しい面があって。女優と結婚してみたりとか、いろいろあるじゃないですか(笑)。

(会場笑)

藤田:そういう注目はともかくとしても、なんか「出続けないと」みたいなのはあるんですけど。そういう意味でいうと、じげんは一般的に事業内容がちょっとわかりづらいというか、わかりやすいものに突出してる感じが出ていない。あと、社長の露出の仕方もまだ甘いんじゃないかみたいな感じがするんですけど、その辺についてどう考えてらっしゃるんですか。

平尾:(笑)。ありがとうございます。だいぶ素敵な質問をいただいたなと思っております。事業内容については、我々は基本的に「メディア企業のプラットフォーマーの方々のさらなるプラットフォームを作る」、platform on platformという構造を作っておりますので、どちらかというとB側のほうを向きながらこれまでやってきたというのが強かったんです。

我々もB to B to Cの事業モデルではあるんですが、企業の方々のソリューション解決とユーザーの方のソリューション解決の天秤でいうと、直接的には企業の方のインパクトのほうが強かったんじゃないかと思ったりはします。結果、まだまだ露出が少ないというところもあると思います。

ただ、人材業界だったり不動産業界だったり、衣食住・遊学働の分野でいろいろやらせていただいておりますので、基本的にはそういうライフイベントの業界の中での認知度であったり、そこのプレゼンスは、この3~4年でかなり上がってきてるんじゃないかなと勝手ながら思っております。

藤田:なるほど。僕は平尾さんみたいに、でかいことを言って実はやってることはしっかり手堅いという起業家は結構好きなんです。堀江さんとかも昔そうだったんですよ。あるときタガが外れたようにファイナンスをしはじめて、かなりリスクを負いはじめた。手堅くなくなったんです。

そんなに大きなリスクには見えないですけど、株を使ったファイナンスではなく、借り入れで50億円の買収をしている。会社の売上規模がまだ30億円くらい?

平尾:はい。

藤田:要は売り上げを大きく超える借り入れを起こして、買収という非常にリスキーなことをやってるのはどういうことなんですか。

平尾:我々はやっぱり、事業のつくり方、会社のつくり方といったとき、B to B to CのBを向いていたというのはあったんです。今いろいろご一緒させていただいている会社って、さらにB to Bのところが強い……ピュアなB to Bの会社さんだったり、クライアントの接点が強い会社さんだったり、もしくは異業種で証券会社やってる会社を、上場からまだ1年ちょっとなんですが4社買収させていただきました。

藤田社長からご指摘いただきましたが、50億円の調達もしておりまして、普通だったらスタートアップの方々はエクイティ(株式を使った資金調達)を使うと思うんですが、ちょっと戦い方を変えていこうかなと考えております。ひとつは、じげんという会社は上場する前に借り入れは1回もしたことがなかったんです。

通常はたぶん2000万円とか3000万円くらい借りてから、ガーンと借りていったりすると思うんですけど、財務も非常に良い会社だと思っていただいたので、そこに関してはここで申し上げづらい金利だったりとか、そういったところでかなり面倒をみていただけたというのが大きかったと思ってます。資本コストの考え方からしても、そういう意味ではかなり優先順位を設計して頑張っているという形でございます。

インデックス破産から学ぶ借り入れのリスク

藤田:老婆心ながらというか、業界の古い者として……「ここで言うなよ」と思うかもしれないけど。かつて株式市場がすごく良かったとき、まあ今はアベノミクスですごく良いわけですけど、例えば(旧)インデックスとかは(有利子負債の)借り入れを駆使して買収をしてたんですよ。

ライブドアとかは株をどんどん増資して、堀江さんも希薄化して持ち分比率がずいぶん下がっていたので「どうでもいい」みたいな感じがしたんだけど、要は市場が悪くなったとき。株を駆使したところは会社自体がなくなるわけじゃないんだけど、(旧)インデックスみたいなのは借金が残っちゃうんで。USENとかはなんとか生き残りましたけど、借金で買収したところは株式市場が崩れたときにかなり厳しい状況になる。それは覚悟してますか。

平尾:そういう先輩方の事例は、実はかなり注目して調べ尽くしております。基本的にウチの会社が金融機関さんの評価が高いっていうのは、事業モデルとか、利益率が高い、キャッシュフローがかなり順調であるというところを見ていただいているので。

もちろん、時価もPRという点では評価していただいていると思うんですが、今の時価総額うんぬんよりは事業内容・成長性というところでご融資いただいているんじゃないかと勝手に思ってます。あとは純資産だったりBS(バランスシート)もきちんと見て、そこは反省しながらやると。

藤田:そこまで言うほど無理な借り入れだとは思ってないんですけど。

平尾:ありがとうございます。

藤田:ちなみに先輩の事例研究がてらですけど、「時価総額1兆円を超えて、次元を超えていく」という目標を掲げてらっしゃるじゃないですか。昔、僕も「時価総額10兆円を目指す」って言って、株価下がったときにそれをめちゃくちゃ叩かれたんですけど、その覚悟はお有りですか?

(会場笑)

平尾:(笑)。すでにいろんな方々からご指摘もいただくんですが、時価総額というのは結果でしかないので、そこだけを目標にしていくというのではまったくないんです。規模感としてはそこは軽く超えていくくらいの感覚でないと厳しいと思っておりまして、時価数十兆規模の世界中の起業家と戦っていかなきゃいけない中でいうと、1兆円は超えていかないと厳しいんじゃないかなと勝手に思っております。

藤田:なぜ時価総額目標にしたんですか。

平尾:もちろんKPI(キー・パフォーマンス・インディケーター)としては営業利益額だったりいろんなものがあるんですが、我々の規模感でいうとまだまだインパクトが薄いと思っていました。「利益○百億」という表現もあったと思うんですが、兆を超える規模感というところで、ITだけでなく異業種混合で、世界基準の指標の中でひとつ出させていただいたと思っております。

実績がないとなにも始まらない

藤田:わかりました。じゃあ長谷川さん。仕事にやりがいが感じられるような事業内容であると思いますし、社会の問題点も解決するという、すごく精神衛生上も良いものをやってらっしゃると思うんですけど、事業内容的にどうしても……例えば、大会社は(全社員数の)2%、障害者を雇用するというルールがあるんですよね?

長谷川:はい。

藤田:そういうことを定めて促進するのはどっちかというと国の仕事という感じがするので、民間でやってると政治家との関わりとか、立法との関わりみたいなのが増えそうじゃないかと思うんです。ウチの会社の事業はほとんどそういう絡みがないんですけど、最近新経連とかに参加して本当に大変だなと感じていて。そういうものはあるんですか?

長谷川:いっとき、ルールを自分たちで作っていこうというときに、かなり行政の方とか政治家の方と接点を持ったことはありましたね。当時は25歳とかだったので、途中から半分ケンカみたいになってしまって(笑)、なかなか上手くいかなかったので。そのときに感じたのは、若い人が実績なく理想を掲げてもなかなかルールは動いてくれないなと思って。

僕らができる最短の社会の変え方って、わかりやすい既成事実……「こういうやり方をしたらお客さんが実際に幸せになる」「保護者の方からのニーズを満たせる」「社会は変わる」という具体例を作って、それを見てもらわないとなかなか社会は動かないなと思ったんですね。だから、今はスタイルを結構変えて、とにかく「こういうものを制度化したほうがいいよ」という既成事実を僕らでガンガン作っていくほうに注力してますね。

藤田:会社を一見すると「NPOかな」と。僕も最初はNPOなのかなと思ったことが(あって)、社会的な問題解決というか、そういった仕事をしてると思うんですけど、就職してくる社員はどういう人が集まって、何をやりがいにしていくという感じなんですか。

長谷川:実は、社員はあんまり障害者支援に興味ないっていう人たちっていう人たちも少なくないです。新卒も今は毎年40~50人くらい採用してるんですね。そうすると、DeNAさんとかサイバーさんとかと比較して(笑)、ウチに来るとかそういう方も多くいらっしゃいます。

藤田:そういうベンチャー企業みたいなくくりということでしょうか。

長谷川:本当に多様な人が集まってますね。ベンチャーと比較して来る人もいれば、学校の先生と比較して入ってくる人もいて。

藤田:入ってからは、どういうものにモチベーションというかやりがいを持って仕事してる感じですか。

長谷川:やっぱり、社会を変えていくというところにまっすぐ向かえるというのが、一番のモチベーションになってますね。

藤田:とはいえ、NPOじゃなくて営利団体なわけじゃないですか。上場ももしかしたら考え得るっていう。そうすると、どうしても理想だけじゃなくて「清濁併せ呑まなきゃ」みたいなときが来ると思うんですけど、それはどういうときがあるんですか。長谷川さんは結構呑んでるんですか? 清濁。

長谷川:結構呑めるタイプだと思います(笑)。ウチの社員は、バランスが結構良いですね。自己犠牲で社会を変えたいっていうだけじゃなくて、自分の幸せと社会を変えるっていうところのバランスが良い人が集まってくるので。その分、矛盾とか葛藤があったりするんですけど。

藤田:特に教育産業なんかは、割と理想を掲げてても、すごく販売力のある会社なんかが伸びて、収益をあげて、その収益を再投資して、やれることも増えて大きくなっていくという傾向が強いと思うんですけど、教育に入ってからの難しさみたいなのってあるんですかね。

長谷川:正直、難しいとは思ってませんね。今のところ。既存の大手さんたちも、わかりやすく儲かることとか受験産業に対してとかしかやっていかないので、新しい市場を作りやすいんですね。新しい市場を作るチャレンジをしていたときも、(他社の)皆さんは動きが速くはないので。そうすると、勝ちやすい領域だなと今は思ってますね。

「人材・プロダクト・資金」 ウォンテッドリーが今一番欲しいものは?

藤田:なるほど。わかりました。じゃあ仲さん。仲さん自身もゴールドマンサックス出身だし、結構上層部に外資系金融出身者とかそうそうたる人が多いじゃないですか。

どういうモチベーションで彼らは頑張ってるんですか。仲さんはこんなところに出てきてしゃべって、(逃げ場がなく)どうしようもないと思うんですけど。やるしかないみたいな。

:(笑)。モチベーションとしては、vision-oriented(ビジョン指向)な会社なので、結構みんな心の底からピュアに「仕事で心躍る人を増やす」というのを信じてやってるんですよね。

あと「プロダクトが大事だよね」みたいなコンセンサスが社内にあるので、平尾さんが「1兆円が目的!」とか「売上利益○○円が目的!」みたいに言ってましたけど、目的は良いプロダクトで世の中にインパクトを与えるみたいな感じなんで、そのスタイルに共感してくれる人が入ってるという感じです。

藤田:一番仲さんが悩んでるところは、組織づくりみたいなところですよね。

:藤田さんに結構相談させていただいてるのは、たまたまフェーズ的に……。

藤田:「お前はそこ強いだろ」みたいな。

:(笑)。いやいや、フェーズ的に組織づくりにフォーカスしはじめた時期だったってことですね。もともとリーダータイプの人間でもないので、最初の1年か2年くらいはずっとプロダクトばっかりやってきたんで。

最近になってやっと「組織作らなきゃ」みたいになってきて、見よう見まねだったり、先輩のアドバイスを聞いたりしながらやってきてるとこなので、そこでいろいろ相談がいってるんじゃないかと思います。

藤田:今、人のお金ですごく良い人材を誰でもいいから採用できるか、もしくはウォンテッドリーよりももっとすごい求人サイトが買収できるか、もしくは何十億円の資金をもらえるか、どれか1個選べと言われたらどれがいい?

:最高の人が入ってくれるなら、そのほうがいいです。エンジニアがいいです。最高のエンジニアがほしいです。

藤田:エンジニアはウォンテッドリーだそうです。

:(笑)。お金は今後コモディティ化していくと思うので、一番貴重なのは人、特にエンジニアリングができる人だと思うんですよね。

藤田:ちなみに、採用はウォンテッドリーを使ってやってるんですか?

:はい。ウチはほとんどそうですね。6~7割はウォンテッドリー経由で、ウチのCTOもそうですね。

藤田:最近、学生が増えてる?

:学生インターンが結構増えてますね。元々インターンとかあんまりいなかったんですけど、そういうチームを作って。この場にはいないと思うんですけど、学生さんもインターンとして募集してますので。

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