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宇野常寛のオールナイトニッポン0(全1記事)

名曲「太宰治を読んだか」に綴られた秋元康の考える〈文化〉の本質とは?

AKBの真の魅力は作品そのものではない。評論家の宇野常寛氏が、AKBと読書が生み出す文化的価値の共通点について語りました。

宇野常寛:宇野常寛のオールナイトニッポン0(ZERO)本日の2曲目は、NMB48で『太宰治を読んだか?』でした。この曲は秋元さんの歌詞がいいと思うんですよ。この歌詞の物語というのは、多分思春期くらいの生きる意味とかについて、思わず悩んじゃうような主人公、多分男の子だと思うんですけど。彼がある日、おそらく知り合ったばかりの友達に「太宰治を読んだか?」っていう風に薦められるんですよね。

歌詞にははっきり書いてないんだけど、この主人公って多分ちょっと見栄を張ったと思うんですよ。そして、「自分は読んだよ」って嘘をついたと思うんですよ。で、その友達っていうのは彼にとってすごく魅力的でこれから仲良くなりたいと思ってる。そして、彼にあまり本を読んでないと思われたくなかったんだと思うんですよね、この主人公は。

だから読んだって嘘をついて、その日の夜に近くの本屋で何冊か買って、夢中になって読んだっていう。そういう流れなんですよね。でも、この曲の後半、特に2番の歌詞がいいんですよ。2番聞いてるとびっくりするんだけど、結局この主人公っていうのは、太宰治から何も受け取らないんですよね。「残念なことに本に答えはなかった。目からうろこが落ちるようなそんな奇跡もなかった」とか言うんですよ。

これびっくりですよね。読んだのに何も受け取ってないのかよ、みたいなね。でもここからがいいんですよ。その代わり、人生とは何かを語れる友が出来たっていうんですよね。だから、その友達とは結局仲良くなることが出来たってことなんですよね。親友が出来たってことなんですよね。

これね、僕秋元さんの文化への考え方ってものがものすごくよく出てる詩だと思いますね。AKB48って歌とかダンスが魅力的というかパフォーマンスが洗練されていくのと同じくらい、AKBという文化を通じて、人と人が繋がることを重視してると思うんですよ。AKBの面白さって、歌や踊りが与える快楽と同じぐらいかあるいはそれ以上に、握手会とか総選挙とかのイベントの参加とか、ファンコミュニティで盛り上がる楽しさだと思うんですよね。人と人とが繋がるコミュニケーションの楽しさがすごく大きいと思うんですよ。そもそもAKB48グループっていうもの自体が、歌や踊りとか作品を提供するグループというよりは、AKBという一つの団体、コミュニティそれ自体の魅力というものを打ち出してる団体だと僕は思うんですよね。

だから、まさにこの歌詞のように「太宰治の人生観やメッセージに共感出来なくてもいい。本に答えはなくてもいい。その結果本当の友達が出来ればそれでいいんじゃないのか」っていうのは、秋元さんの文化に対する思想だと思うんですよ。作品それ自体の魅力よりも、作品を通じて発生するコミュニケーションの魅力の方が本質的なんじゃないか? という世界観がこの歌では表現されてるんですよね。

実際僕らがAKBのCD買う時に、曲はYouTubeでいくらでも聴けちゃうわけだし、実際に『恋するフォーチュンクッキー』も発売前にみんな知って踊ってるわけですよ。それよりも、曲の楽しさよりも、もちろん曲もいいんだけれども、フォーチュンクッキーをみんなで踊る楽しさとか、CDを買ってそこに付いてる握手券でメンバーと握手をして、その握手会の会場でみんなで語り合う楽しさとかね。そういったものの快楽とか楽しさっていうものを、大事にしたいっていうのが多分AKB48なんですよね。

こっからが僕のこの話のミソというか、この曲の1番好きなところなんですけど、この歌の主人公は「だから太宰治なんて別にどうだっていい」とは考えないんですよ。「作品なんてどうでもいい」とは言わないんですよ。この少年は。むしろ主人公はこれから出会った人には必ず、「太宰治を読んだか? って尋ねるんだ」って。こう宣言するんですよね。これは小説とか音楽とか文化を通じてしか繋がらないものがあるんだと。文化を通じてしか発生しないコミュニケーションがあるんだ、という確信が描かれてると思うんですよね。それも作者の人生観とか世界観とかメッセージとは別のところに、人と人とを繋げる文化の魅力があるんだと。そんな魅力を追及しているのが、秋元さんにとってのAKB48グループなんだなって僕はこの曲を聴いてすごく思うんですよね。(画像は『てっぺんとったんで! 通常盤Type-B』

※この続きは、PLANETSチャンネルにてお読みいただけます!

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