株主としてジェフ・ベゾス氏に質問

ヘンリー・ブロジェット氏(以下、ヘンリー):多くのCEOたちがあなたから学びたいことだと思うのですが、事業が全く利益を出していないのに、株価が高値で取引されている場合、どういうふうにアドバイスしますか? 何年もかけて、結局一銭も儲からなかったけど再投資します、と説明するのですか?

ジェフ・ベゾス氏(以下、ジェフ):会社にとって、株主をなだめつつ方針を変更することは非常に困難です。今までロックコンサートをやってきたのに、バレエ公演をやらなければいけなくなった。その変更はとても難しいものになります。でもその変更を初期段階で行っていれば、そこまで大変なことにはならないと思います。

ヘンリー:私は長年に渡ってアマゾンに投資している株主です。バブルの浮き沈みがあり、我慢の時期が7年ほどあり、そしていきなり株価が急上昇した。長期的サイクルでの投資、大胆な賭けなど、様々な要因も理解しています。そんな私でも、直近の四半期レポートを見た時には息を呑みました。

収支がブレイクイーブンですらなく、かなりの金額を損失していたのです。実際のところ、損する可能性があるけれどもそのうち値打ちが上がる、とあなたが言って投資家から袋だたきにされていた金額よりも、さらに悪い結果でした。いつになったら、「よし、利益が出て来たぞ」と言うつもりですか?

ジェフ:君の「優しい人」の部分はどこへ行ってしまったの? 投資家と株主の部分しか表れてこないみたいだけど……

(会場笑)

ヘンリー:株主として訊いているんですよ!(笑)

アウトプットよりもインプットに注目してほしい

ジェフ:あらゆる数字がすべてのレベルで順調に表れてくれば素晴らしいですが、それは不可能です。市場はそんなふうにできていません。それらの数字は、アウトプットを基準にしています。もちろん、四半期の収益を細かく管理しようとすればできるかもしれませんが、それらは個人的には過ちだと思います。

四半期の結果として表れて来る事業は、1年前に行ったものなのです。四半期で何が何でも数字を上げようとすれば、自陣のゴールを守るだけの、非常に鈍い動きになってしまいます。次に蒔かなければならない種まで、食べてしまうわけにはいきません。

私は、アウトプットよりもインプットのやり方に注目してもらいたいと思います。長い時間をかければ、良い結果を手にすることができます。ベンジャミン・グレアムの言葉を借りれば、「短期的な株式市場は自動票数計算機のようなもので、長期的株式市場は秤のようなもの」なのです。

会社を設立しようとする賢明な人たちは、人気投票をされるのではなく、じっくりと価値を見極めてもらいたいと思っています。それは、充分な資本と選択肢があり、フリーキャッシュフローが潤沢にあることを意味します。

もし誰かが私のところへやってきて、「ジェフ、君にして欲しい仕事はアマゾンの株価を上げることだ。君に直接指揮してもらいたい」と言ったとしたら、私は断ります。ばかげた話のように聞こえるかもしれませんが、実は多くの企業がこれをやっています。

株の売却目的で事業をやるな

ジェフ:実際、株を売るために事業をやっている企業がたくさんあるのです。それが最終的なアウトプットになっているのです。それよりも、「いや、やめておこう。それじゃ長く続かない、下手なアプローチだ」と言いたいです。

「インプットのうち何が株価を上げているのか?」「フリーキャッシュフローと、リターン投資資本が値上がりをもたらすインプットになっているのか、なるほど」というふうに、株価を上げる要因になるインプットを探して遡っていけば、そのうちコントロールできるインプットにたどりつきます。

そしてフリーキャッシュをコントロールできるインプットというのは、実はジェットコースターのような構造をしています。そこから、「よし、フルフィルメントセンターにおけるピッキングの効率を改善すれば、弱点を減らすことができるんだな」とわかります。

ビジネスにおける弱点というのはとてもコストがかかります。弱点を減らすことが、ジェットコースターを制するルールのひとつです。

そういう仕事なのであれば、私もやらないことはありません。あなたがまともな人であれば、「株価を変動させる方法なんて全くわからないよ、コントロールできるインプットじゃない。ただ、ピッキングアルゴリズムをより効率的にすることはできる」と言うことでしょう。

こういうやり方であれば、コスト構造も縮小できますし、それに続く様々な問題も減らせます。これこそがビジネスです。そのためには顧客第一主義、型にはまらない発想、将来的投資、忍耐強くあること、卓越したオペレーションなどが必要になります。それらが弱点を見つけ出し、修正していくのです。

市場に大切な情報は転がっていない

ヘンリー:株を売るためだけに事業をしているCEOたちについて言及されましたね。あなたがIRに割く時間は、1年間で6時間だけだと聞きましたが。

ジェフ:ええ、私たちの会社では、ふつうの会社はやらないようなことがたくさんあります。私たちは最大の投資家には会いません。ポートフォリオの取引高が低い投資家に会うのです。多くの投資家、投資ファンドはとても取引高の高いポートフォリオを持っています。でも彼らは真の意味で投資家ではありません。彼らはトレーダーなのです。

もちろん、それは何も悪いことではありません。ただ、種類が違うと言うだけのことです。何に対して時間と労力を費やすかというのは、人生において最も重要な決断です。私たちの時間は限られており、それを何にどう使うかというのは、この世界をよりいっそう高いレベルで考えるやり方です。

もし、あなたが自分の時間を会社に知ってもらうことに使いたいと思うのなら、トレーダーではなく、長期的に投資してくれる人と組むべきです。それが私たちの意見です。

ヘンリー:従業員たちには、どう説明しているのですか? 投資家たちが明らかに不満げで、株価が四半期で急激に25%ほど落ち込んでいる場合……。

ジェフ:1年に2回全社会議があるのですが、1997年からほぼ毎回、従業員全員に対してこう言うようにしています。株価が今月10%上がったからといって、自分が10%優秀になったと思わないように、と。株価が10%下がる場合もありますし、その時に自分が10%間抜けになったと思うのは良い気分ではありませんからね。

所有権に関して言えば、私たちは給与の大半を株価の報酬から得ています。所有者の仕事として、長期的視野で物事を考えるようにしています。大家は借家人が考えるよりも長い期間のことを考えるものです。

家をテナントとして貸している友人がいますが、クリスマスツリーのスタンドを床に釘で固定してしまったテナントがいたそうです。大家は絶対にそんなことはしません。ろくでもない借り手がいるものです。でも、そういうものなのです。レンタカーを洗車して返す人はいませんよね。

自分が所有しているものに関しては、人はより手をかけ、大事にするものです。所有者の責任というのは、アマゾンに深く根ざしている企業文化でもありますが、日々の株式市場の細かな変動よりも、ビジネスの原則のほうを考えるということです。市場にはそこまで大切な情報は転がっていません。

アマゾンは今なおスタートアップ

ヘンリー:私が目にして来た様々な企業よりも、アマゾンは黎明期から中身のない人、不吉な予言をする人、信用してくれない人などいろいろな人がいたと思います。1990年代のあなたはお金がないことで有名で、いつ会社がつぶれてもおかしくなかった。

今は、売上が鈍くなり、業績は頭打ちです。給料も低いことで有名ですし、従業員は他の転職先を見つけてどんどん辞めていく。株価チャートは横ばい。どうやって彼らに、「他にも900社くらい行ける企業があるけど、まぁここに留まるか」と思わせているんですか?

ジェフ:数値に基づいて話をしなくてはいけません。インターネットバブルが弾けた頃は、1株につき113ドルだったのがどれくらいになっただろう、だいたい……、

二人:(同時に)6ドル。

(会場笑)

ジェフ:当たってた(笑)。私にとっては、それが市場動向のイメージなのです。株価は現在停滞しているように見えますが、1年、2年、5年、10年単位で見るとおおむね好調です。数値をつぶさに見て話をしないといけません。それくらい、変動性の高いものなのです。

アマゾンは大きな会社ですが、多くの新規事業を抱えている点で未だにスタートアップであるとも言えます。スタートアップには変動性がつきものです。