2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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中村修二教授(以下、中村教授):今日はアジェンダを用意してきていません。今日はここでの会見の誘いに、「いいよ!」と言って気軽に来てしまったので。今日は皆さんの質問にQ&A形式でお答えしたいと思います。
記者A:教授は、科学の発展における個人の貢献を認識しない日本社会と日本企業を、過去に批判されています。これについて、最近状況は変わってきたとお考えですか? もうひとつの質問は、LEDテクノロジーの今後はどうなるとお考えですか? どんなことを期待されていて、消費者の生活、そしで業界にどんな影響を与えるとお考えですか?
中村教授:過去に在籍していた会社と、特許対価について争った時のことですね。東京地裁は会社が私に200億の支払いをするよう判決を下しました。その出来事があってから、日本の大企業が技術者に支払う対価が変わり始めました。私が訴訟を起こすまで、技術者への支払はボーナスとして大抵約100万円ほどでした。それだけです。
しかし、私の訴訟の後、東京地裁の判決が出た後、ほとんどすべての日本企業が変わったと思います。
最も良いケースでは、何パーセントかのロイヤルティー、またはライセンスフィーが技術者のものとなり、ある製薬会社では巨額の支払いが技術者に成されたと記憶しています。つまり、多くの日本企業が変わったのです。
それは良いことなのですが、今の問題は日本政府です。安倍首相は特許目録の承認について、アメリカのように全ての特許は会社に帰属するという特許法改正案を提出するそうです。それではいけません。
全ての日本企業は発明者から訴えられることを恐れ、その結果発明者に支払われる研究結果に対する対価が変わり始めたのです。それを見た日本政府はその状況を変えようとしています。社員が業務として発明した特許を、発明者個人ではなく会社のものにしようとしています。従業員、発明者は会社を訴えることが出来なくなります。
これはとても悪い状況です。日本社会の問題は、社員が「サラリーマン」にしかなれないということ。ただ言われた通りの給料を得るしかない。
アメリカは違います。社員全員がストックオプションを保持することが出来る。日本ではそんなことは出来ません。ゼロです。アメリカでは、社員のインセンティブは給料ではなくストックオプションです。
アメリカにはたくさんのスタートアップがありますが、日本で起業するのはほとんどムリだと言ってもよいでしょう。なぜなら日本ではベンチャーキャピタルシステムが確立していないからです。安倍首相の意図はよくわかりませんが、とても悪い状況だと思います。
中村教授:次の質問、LEDの未来について。LEDは、小さなチップに電圧を加え、とても明るい光を発光するのですが、問題は電圧を上げるとLEDの効用がだんだんと下降することです。加える電圧に限界がある。とても小さなチップであり、その発光力に限界がある。
しかし、レーザーダイオードの場合、電圧の限界はありません。最近の研究では加えられる電圧において、LEDよりもレーザーダイオードの方が優れていると言われています。近い将来、すべてのライトはレーザーダイオードに切り替わると思います。レーザーダイオードの方がLEDに比べてはるかに効率が良いからです。
現在ではLEDライトが広く普及していますが、すぐにレーザーダイオードがLEDに取って変わることとなるはずです。LEDの効率が約50%であるのに対し、レーザーダイオードは70か80か90%か。加えることが出来る電圧に制限がありませんから。
記者B:広い質問になりますが、現在の日本のイノベーションのあり方について、大企業内とそれ以外のスタートアップや起業家のシーンについて教えてください。二番目の質問は、日本のイノベーションが発展する為に必要な変化を三つ挙げるとしたら、それはなんでしょうか?
中村教授:最初の質問はとても広いですね。とても広い意味の質問でどう答えたらいいのかわかりません。二年前に、山中教授がiPS細胞を発見しましたね。彼の発見は医療、バイオテクノロジーの現場に影響を与えるとても素晴らしいイノベーションだと思います。
日本はイノベーション、そして電化製品等のプロダクトづくりにおいては優れた技術を持っています。しかし国内市場に対してしか売ることが出来ないのです。海外市場は海外企業、サムソンだとか中国の企業等に独占されている。日本は国内市場にしか目を向けないことが問題だと思います。
中村教授:日本人はよく働きますが、グローバリゼーションが進んだ現在、日本は弱いです。日本が国際進出できかねていることの理由のひとつは、言葉の問題でしょう。世界全体において、日本は最も英語が苦手な国のうちのひとつです。そこで海外に行くことを躊躇します。昨日文科大臣にお会いしました。そこでも、英語能力の低さが日本の発展を妨げていると話をしました。
ノーベル賞をこれまでに受賞した日本人はたしか22人だったと思います。イノベーションもできるし、素晴らしい製品もつくることが出来る。私は日本人が世界に進出できない唯一の理由は、英語だと思っています。
アジア圏で経済状況が良い香港やシンガポール等の国は、英語が出来るから発展しているのだと思います。政治の場でも、国際サミットで日本人は議論の蚊帳の外です。英語が出来ないからです。
日本政府は今後、日本人の英語教育を真剣に考えるべきです。世界の公用語は英語なのですから、日本も公用語を英語にすれば良いと思いますが、政府は「私達は日本人だ!」と主張するでしょうね(笑)。でも、このままでは日本経済は衰退していくことでしょう。
記者C:日本人でも英語をきちんと話せる人はいます。しかし、メンタル面で国際化に順応できないのではないでしょうか? 日本人の特徴として、文化的に良い部分を保ちながらも、国際社会に適応していくにはどうしたら良いとお考えですか?
中村教授:日本人はとても真面目です。日本製品のクオリティは世界トップクラスです。日本人の勤勉さは英語を話そうが日本語を話そうが、変わることはないと思います。身体に染みついているので。
問題は日本経済が毎年悪くなっていることです。日本人が素晴らしい製品をつくることが出来ても、外資企業がそれを真似し、彼らが世界市場にそれを売っています。そこで日本企業は日本国内市場だけに製品を提供することになります。それが経済的に最も深刻な問題だと思います。日本人のメンタリティが変わることはないでしょう。日本人の遺伝子に入っているものなので。
記者D:遺伝子の話、日本人の勤勉という特徴が日本社会を築いているというお話がありましたが、他の国でも日本のカイゼンというコンセプトを使った仕組みをつくることができると思いますか?
中村教授:私はアメリカに住んでいます。中国を始め多くの国を訪れました。日本人は誠実で嘘をつかない。彼らに何か機器を注文し、彼らが「3ヶ月で出来ます」と言えば、必ずそれは3ヶ月で完成する。そして届いた機器は完璧で何の支障もない。
それがアメリカでは3ヶ月で出来ますと言われても、大抵6ヶ月ほどかかります。そして届く機器には、ほとんどいつも何らかの問題がある。中国も同じです。ヨーロッパはその中間くらいでしょうか。このような国民性が多くのノーベル賞受賞者を生み出し、素晴らしい製品をつくりだす技術に繋がっているのだと思います。これが日本が優れていてる点ですが、問題はやはり英語です。
記者D:アメリカもまた、イノベイティブな国です。他の国でも日本のカイゼンのコンセプトを適用することができると思いますか?
中村教授:カイゼンは日本が優れている点だと思います。カイゼンとは皆で力を合わせて製品を改良・改善していくことです。私は日本以外の企業はカイゼンのコンセプトを真似できないと思います。先ほども言った通り、それは日本人のDNAに組み込まれていることです。
日本人は嘘をつきません。アメリカでは毎日誰かが嘘をつきます。生徒が試験当日やってこなかった。後日、「体調が悪かったんです」とその生徒は言うものの、調子が悪そうには見えない、というようなことです(笑)。カイゼンは日本人のDNAに組み込まれている、それが素晴らしい高品質な製品を生み出すことに繋がるのだと考えます。
記者E:新しいライトの適用について教えてください。レーザーダイオードについて触れられていました。未来のライトのあり方はどう変わるとお考えですか? 例えば車のヘッドライトがレーザーダイオードになるとか、家庭の照明だとか、世の中のライトのあり方にどんな変化が訪れるとお考えですか?
中村教授:アウディの人達と会いました。彼らはすでにレーザーダイオードをヘッドライトに使っています。レーザーダイオードは他にも、レーザープロジェクターに使われています。一週間前にラスベガスでコンシューマー・ショーがありましたが、レーザープロジェクターはほとんど100インチ、200インチテレビの画面のようなものです。画面もとても綺麗です。アウディの車のヘッドライトも同じです。
ヘッドライトがプロジェクターと同じ働きをします。対向車線に向こうから車がやってくる。通常ハイビームをされると、対向車の運転手は明るすぎて前が見えなくなりますね。しかし、レーザーダイオードヘッドライトはプロジェクターのようなものなので、ある一定の距離までを明るく照らし、それ以降の距離には光が届かないのです。光をコントロールすることが出来るのです。
他にも、例えば誰かが道を渡ろうとしている。レーザーヘッドライトは、暗闇でもすぐに人を認識し、すると車は自動的に停止します。レーザーライトは「インテリジェント・ライト」です。
室内でも同じことです。室内の照明をレーザーライトにする。iPhoneを操作しているとして、レーザーライトがプロジェクターとなり、iPhoneの画面が大きくテーブルの上に照らし出されます。小さなディスプレイではなく、卓上でタッチパネル操作もできるのです。
レーザーダイオードの技術はコミュニケーションの分野でも活躍します。LEDライトを経由しWi-fiに接続、インターネットに接続することが可能です。しかしレーザーライトはLEDよりも優れています。LEDよりもレーザーのモジュレーションスピードのほうが約1000倍速いです。つまりインターネットのスピードがより速くなるということです。
記者F:日本の特許改革が状況を悪化させるというお話について、もう少し広げて話して頂けますか?
中村教授:日本にはストックオプションがなく、もし日本政府が特許改革をするのであれば、昔の状況に逆戻りです。研究者には何のインセンティブがない状況に。そうなった場合には、企業で働くすべての人に、国外へ出よ! と言いたいですね(笑)。
例えば台湾は、ほとんどアメリカと同じシステムです。多くのベンチャースタートアップがあり、ベンチャーキャピタルがある。ストックオプションもある。
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