我々が稼いでも、国がザルなら意味が無い

本田宗一郎氏:紹介にあずかりました本田でございます。この埼玉県に工場も持ちまして、皆さんからいろいろお世話を願っております。また、ご迷惑をかけたことも多々あると思いますが、ひとつこのはげ頭に免じて、ぜひお許しを願いたいと思います。

私にしゃべれと言っておりますが、実は私はご覧のとおり小さいときから手だけを動かして、口のほうは非常に不調法、ご飯を食べるくらいが関の山でございます。

そのくらいの口でございますから、皆さんのお気にさわることがたくさんあろうかと思いますが、その点は「本田のやつ、教育のないやつだから仕方がない」ということでお許しを願えれば、本当に幸せと思っております。

今日は、皆さんが行革の推進フォーラムを結成されまして、そしていろいろこれから国というものを単位に、よりよい、住みよい、しかも豊かな我々の暮らしを保証する行革をやろうということでございます。私としても、国民の一員として本当に嬉しいことでございます。

このフォーラムはご承知のように、どうしてもやらなければいけない、避けては通れないひとつのプロセスでございまして、我々が経営しております(本田技研工業は)、実は海外全部合わせまして4万人以上の人間がいるわけでございます。

我々のところでも、それをやることによってのみ現代のホンダがあり、そして世界に進出することができたわけでございまして、それがないということは、世界の一員としてこれからの責任を果たすのにも非常に困るわけでございます。

日本人があの戦争で負けてから現在に至っているのは、本当に皆さんのたゆまない進歩と努力によってのみ、これが可能であったわけでございます。可能になった途端に行革をしなきゃならんということ、これは我々にとっては大変なことでございます。

今までは働けばいいというだけであったが、働くだけではなくて、後始末をちゃんとして帳尻を合わせなければならないということが、ここで大きく持ち上がってきたんです。

皆さんがいくらご商売をして儲かろうとも、出るほうが出て行ったらどうです。出るほうが先にたくさん出て行って、入るほうが少なかったら、いくら働いたってこれはもう企業として成り立ちません。それと同じように、皆さんが成り立たないのと同じように、国でも同じことでございます。

ここからご出身の先生……ご承知のとおり飯島先生でございますが、「先生、一番簡単に言ったらどうなんだ?」って言ったら「それは帳尻を合わせることだよ。簡単だよ、国だって個人だって同じことだよ。もしこれができなかったら、家庭がつぶれるように国がつぶれるんだ」というようなことを簡単に言ってくださって、なるほどそのとおりです。

しかしその簡単というのが、我々個人でやっておりますと、おやじさんとかお母さんとかこういう人たちが帳尻を合わせるように家庭ではやっておるわけでございますが、国となるとそう簡単にはいきません。

上は総理大臣から我々まで、いろんな階級、階級というか役割があるわけでございます。今度の問題は、上のほうの役割に完全に実施してもらわなければ、我々がいくら稼いだところでザルに水を入れるようなもんでございます。ですから国自体が徹頭徹尾、国民の働き、要請に応えてやってくれるということを、まず国自体が我々に保証してもらいたいんです。

このままでは借金で国が機能しなくなる

今まで、ただ単に働けばいいんだということでやってきました。どうです皆さん、国がやったことでこれだけは良かった、本当に上手くいった、感心するというようなことはありますかね? 実は、私は不平分子じゃないけれど、やったことがどうも気に食わんですね。

まあ私は技術屋ですから、経営のことはよく知りません。しかしながら、経営者として(ここまで)私はいた。そのことから見ますと、不満が非常に多いんです。皆さんだって不満だと思います。これを解消しなければ、不満だ不満だって言ったってどうにもならない。

現実にこれを解消すること、政府に意義ある経営をしていただかなければ、何らこれは解消できない。そういうふうな意味で、このフォーラムが生まれてきたわけです。土光(敏夫)さんが説いたのも、これでございます。

去年、一週間にわたるボーイスカウトの大きな会合がございました。子供連れで、群馬でやったんですが、そのとき土光さんがお見えになって「本田君、ちょっと山に遊びに行こうじゃないか」ということで、「お伴します」ということで行ったら、

「本田君、どう思うんだ。このまま放っておいたんじゃ大変だよ。子どものこれからの将来を担っているお父さん連中、本当に教育できるんであろうか。もっとしっかりしてもらわなければと思っても、国はやろうと思っても金がなくてできない。そういういろいろな問題があるのではなかろうか。ひとつ、きみ手伝わんか」

というような誘いがありました。「そういうことなら、私もちょうどホンダの経営を5年ばかり前に首切られちゃって何も仕事がないから、子守りよりはそのほうが意義があるでしょう」と冗談言いながら歩いたわけでございます。土光さんは本当に素晴らしい。

あの年配で……これは歳じゃございませんね。しっかりした土台のもとに物を考える力が、ある人はあるんですね。それで私も感慨無量、「お手伝いさせていただきます」ということで、足を持っておりますが、ほうぼう出て歩いて、皆さんとお会いしてお願いをしているわけでございます。

中でも一番お願いしたいと思うのが……もちろん日本の方々には全部お願いしたいんですが、ことに若い人たちにお願いしたいのでございます。というのは、(明治)維新の改革はいったい誰がやったんだろうね、これ。そりゃ国民全部の意思であったにしても、本当に行動してくれたのは、あの若い情熱がたぎる人たちでございます。

その人たちが、この日本を、日本刀を差してちょんまげをしていた時代から現代にしてくれた原動力であるわけなんです。どうかもう一遍、幕末の時代、明治維新の時代を(改革すべく)、私は若い人たちに大きな期待を持っている者でございます。

それではどういうわけでお前はそう言うんだと。今、国自体が、ひとりオギャアと生まれますと83万円の借金を背負っているんです。皆さん、この方々も、全員83万円借金あるんですよ! ないと思ったら大間違いです。

国自体が借金をしちゃった。それを一人頭で割ってみると83万円です。もう3年経ちますと、これが100万円になるという。これはねずみ算的に増えていきますから。10年も20年も経って私が死んでからなら、私は構わないけどね。

(会場笑)

まあ生きてる人に気の毒ですから私が払えと言うこともないだろうが、国として機能できなくなる。というのは老人医療の問題、非常にご不幸な人の問題、いろいろな問題がございます。これができなくなってしまうのです。

それでもいいんだって言やあ、これは話が別です。これからもっともっと我々は……私も年寄りです。年寄りは年寄るほど、いろいろな問題がある。それをやはり国自体が面倒を見ていただく。そのために今、行革をやる。

私たちはまだいいにしても孫、子のほうが私は可愛いんです。皆さんだってそうでしょう。孫、子を持ってるお年寄りの方々。自分もそうだけど子どもも可愛い。その子どもがお年寄りになって、もし(補助等が)出なくなったらどうなりますか、これ。もしそれを無理して出したら、働いてる人に働きがいがありますか。