「意図的に小さく始めること。無視されるくらい」BoxのアーロンCEOが語る“スタートアップの戦い方”

Lecture 12 - Building for the Enterprise #2/2

1月25日にニューヨーク証券取引所への上場を果たし、初日にして時価総額28億ドルをマークした企業向けクラウドサービス「Box」。事業が急成長を遂げた裏には、創業者でありCEOのアーロン・レヴィ氏の確かなビジネス理念と成功哲学がありました。CEO本人が登壇した「How to Start a Startup」からの書き起こしです。(How to Start a Startup より/この動画は2014年10月に公開されたものです)

エンタープライズ系ソフトウェアの世界が変わりつつある理由

アーロン・レヴィ氏:ここからはエンタープライズがどのように変化して、参入しやすくなったかをお話します。この5年の間にそれは大きく変化しました。今がエンタープライズ系ソフトウェアビジネスを立ち上げるのに最も良い時期でしょう。組織の中でも様々なことが変化していますから。まず、ほとんどすべてのアプリケーションカテゴリーがクラウドに移行しています。

数年前まではどんなビジネスにおいても、そのビジネスの物理的ロケーションがデータセンターでしか出来ませんでした。社内運用しかできなかった。これがエンタープライズ系ソフトウェアを構築するのにものすごく時間がかかっていた理由です。

それが突如クラウドが誕生したことで、社内のサーバやネットワークだけでやるのは効率が悪すぎる、という流れが生まれました。いつでもどこでも必要な時に使えるように何千何万ものサーバーを一緒にしてオンデマンドにすればいいじゃないか、それならやれると私達は考えました。

この部屋に今いる皆さんは、自分でサーバを購入して自分のコンピュータを構築するなどということはしないでしょうから、当然の話に聞こえることでしょう。

エンタープライズは、何十年にも渡って構築されてきたインフラをクラウドに移行している。これが物事が劇的に変わりつつあるひとつの要因です。今世界はコストのかかるコンピューティングから、より安い、オンデマンド・コンピューティングへと変化をしています。

コンピューティングが安くなればなるほど、カスタマーは新しいソリューションをアドプトしやすくなります。つまりエンタープライズに参入する敷居が低くなるのです。そしてエンタープライズへの参入はスタートアップにとって大きなチャンスです。

これまではエンタープライズ系ソフトウェア会社を始めると、数千の世界トップ企業にしか売ることが出来ませんでした。なぜなら資金や人材を豊富に持つ企業しか、優れたテクノロジーを買うことが出来なかったからです。

今日では社員が二人しかいない会社でもBoxにサインアップすることができる。世界中のスモールビジネスにも大企業にもサービスを提供することが出来るということは、狙える市場が広がったということです。

プラットフォームもグローバル化しています。立ち上げてから最初の数週間で、世界各地から顧客が集まりました。既存のやり方でやっていたら、そのように世界から顧客を集めるのに何年もかかったことでしょう。

最後に、最も大きな変化の要因はモバイル、iPhone、タブレット等の普及によりリードユーザがより大切になってきたことです。これがとても大きな要因です。

リードユーザモデルの中では、ユーザー自身が彼ら自身で自らのニーズに対するテクノロジーソリューションを獲得します。つまり、より物事をコントロールしたいと考えるエンタープライズにプロダクトを売りやすくなるのです。これまでのビジネス・ソフトウェア会社のビジネスモデルを残しながらも、エンドユーザを通じてその企業に入り込みます。

変化は数字にも表れています。世界でスマートフォンを使っている人の数は20億人です。これがITモデルを大きく変えました。10年前であれば、エンタープライズのテクノロジーをマネージするのに、そのビル内のコンピュータとネットワークだけを管理していたのが、モバイル、スマートフォンの普及でいつどこにいてもどこからでも管理出来るようになったのですから。

これがソフトウェア会社にとって大いに有利に働きます。なぜならまだどこもエンタープライズのデータ管理に対する完全なソリューションを提供し、独占的な力を得ていないからです。これがスタートアップが介入できるチャンスであるというわけです。

なにかひとつ革命が起きれば、すべてのあり方が変わる

約30億人の人がインターネットを使っています。それはすべてのエンタープライズが、顧客へのプロダクトの提供の仕方を変えなくてはならないことを意味します。つまりすべての業界のあり方が変わります。エンタープライズでテクノロジーに革命が起きると二つのチャンスが生まれます。

第一に、原価が変わる。コストが低下することによってすべてを集中させることが可能となり、それがオンデマンド化に繋がります。第二に、エンタープライズが狙う顧客はエンタープライズのプロダクトに新たなエクスペリエンスを求めます。

例を挙げましょう。皆さんはUber等を使っていると思います。皆さんがタクシーサービスをやっていたとしても、シッピングビジネスも、ロジスティックビジネスでも、Uberはそれらすべての業界のあり方を変えます。Uberとは何なのか、どんな影響を自分のビジネスに与えるのかをしっかりと理解しなくてはなりません。

世界のエンタープライズは同じように変化していますので、彼らが変化する為に必要なテクノロジーを私達は提供できるようにならねばなりません。そしてこれがバーティカルなソフトウェア会社をつくる最高の時期である理由でもあります。

現在、どの業界も変わりゆく時代に合わせたビジネスモデルやテクノロジーを構築しようと試行錯誤しています。つまりスタートアップが提供する新しいテクノロジーの力を必要としているのです。

例をあげましょう。小売業界には、オムニチャネルとマルチチャネルコマースの考え方があります。人はオンラインで携帯から、または店舗で買い物をするし、そして注文をしたならしっかりと商品が自分のところに届くことを期待します。リテール業界の既存のテクノロジーは、マルチチャネルコマースをサポートするようには出来ていません。

リテール業界は消費者の新たなニーズに応える為に新しいテクノロジーを必要としています。ヘルスケアでも同じです。どんな医療期間も、患者ひとりひとりに合わせたサービスを提供したいと考えています。手術費用や再診費用を請求することに集中するのではなく、個人の健康を守る為のビジネスモデルへと変わろうとしています。

するとすべての医療機関は、新しいテクノロジーを必要とします。遠隔医療を提供したい、病院内だけの医療ではなく地域の様々なロケーションでサービスを提供したい等々、今後医療のあり方が変わろうとしています。

すべての電子カルテを全ての医師が共有出来るようにすれば、治療により良い医学的判断を下すことが出来るようになるかもしれない。エンタープライズ系ソフトウェアが、このようにあらゆる業界を変える手助けをすることとなるのです。

昨日私はLAでメディア会社とミーティングをしました。彼らは30億の人がインターネットを使っている中で、何人の人が実際に映画館に足を運んで映画を見ているのかを予測分析しています。30億の人がインターネットユーザになったので、映画配給会社はより多くのデータを必要とするようになり、より良いマーケティング効果が出る新しいスマートなビジネスのやり方を模索しています。

つまり様々な業界が相互に作用し合うので、新しいソフトウェアが必要とされるのです。すべての業界がこのように変化の時を迎えています。どの業界を取っても「この業界のビジネスモデルを数年で変えることになるテクノロジー的要因は何だろうか?」と考えることが可能です。そして変化を可能とするのが新しいソフトウェアです。

パロアルト市、そしてスタンフォード大学はテクノロジーに物凄くフォーカスしていますよね。そして私達は、テクノロジーをやるのはテクノロジー業界であろうと考えがちですが、現実にはどんな会社も今後はテクノロジー技術を持つことでしょう。つまりエンタープライズは、テクノロジーに明るくなければ将来生き延びることが出来ないのです。

そしてエンタープライズはそれを私達が考える「テクノロジー業界」の力を借りて成し遂げます。今後5年、10年でたくさんのパートナーシップが生まれることでしょう。会社はテクノロジーの力でより早くより賢い働き方を模索していきます。個人の働き方を変えるのみならず、最終的には多くの会社のビジネスモデルが変わることでしょう。ここまでが、これまでに変化したことについての話でした。

どこで混乱が起きているのかを見つけ出せ

ここからは、始める為の実践で役立つアドバイスです。今から話すことは私の経験に基づいていますので、必ず皆さんがそうなるとは限りません。「こうやって会社はつくるべきだ」と言うことは出来ませんが、知っていて役に立つだろうというパターンについてお話します。

まず第一にテクノロジーの混乱がどこで起きているか探しましょう。これは個人消費者向けのビジネスでもエンタープライズでも同じことです。これはテクノロジー会社を立ち上げるにおいての基本です。

今のトレンドを掴み、求められているテクノロジーは何かを見出す。今まではどのような風にされてきて、これからどのようにそれを改善することが出来るかを考えます。私達の場合、ストレージが安値になってきて、インターネットの速度が上がった、ブラウザも改善されてきた、にも関わらずファイルをシェアする方法がとても複雑であったことです。

今までどのようにそれが行われてきたか、そしてそれをどのように改善できるか、この間にあるギャップが大きければ大きいほどチャンスです。

80年代、90年代のテクノロジーに関する記事を読んでみると良いでしょう。10年、20年、30年前に試みたけれども、コストがかかりすぎる、またはそれを可能にする他の技術がなかったから当時は実現しなかった、ということがとても多いことがわかります。5年、10年前には不可能であったことが後に実現可能な現実的なテクノロジーになる、というパターンの繰り返しです。

PlanGridという会社があります。建設のプロジェクトや設計図、データを管理することが出来るモバイルアプリをやっています。彼らは、毎年、建設業界が10億ドルをかけて設計図を印刷していることを知りました。建設中に何か変更が起きる度に再度プリントアウトし、コントラクターや現場の人々に配っているということを。どんなに小さな変更でもです。

そこで、これを簡単にできる方法を考えたわけです。建設業界は昔からのやり方でずっとやってきているところが多いですから。彼らのビジネスは新しい技術と既存の問題、この二つをどのように合わせて新たなソリューションを提供できるか、これを発見した素晴らしいスタートアップの例です。彼らは建設業界に多大な影響を与えました。

小さく始めて大きく勝つ

次に、意図的に小さく始めることです。これがどういうことかと言うと、存在する他の多くのプロダクトのギャップを埋める隙間を見つけましょう。そしてそれが最初は小さく始めても後に大きく成長できるようなものを。

この小さな部分に収集して、ユーザー・エクスペリエンスを最高にしよう、今後のビジネスモデルを変えてやる、これまで問題であったことをこのテクノロジーでシンプルに変えてやる、という意気込みで始めるのです。

小さな市場を狙うことで、始めてすぐは小さなことをやっているなと感じるかもしれません。しかし、意図的に小さく始めるのです。なぜなら、既存のプロダクトは同じ問題に対して完全なソリューションを提供することが出来、すぐに競争に持ち込むことは得策ではないからです。

皆さんがすべきことは、完全なソリューションとは言えない慎重なソリューションとの間の溝を見つけることです。時間をかけてだんだんと拡大していけます。

Zenpayrollがとても良い例です。スタンフォードの卒業生が数年前に始めました。

簡単に言えば、スモールビジネスの給与支払プロセスがものすごく複雑で面倒である、という点をつきました。そしてその理由が何十年も同じベンダーを使っていてデジタル化されていない、給与支払のお知らせがメールで来ない、給与のグラフを見ることができない、給与がデータ化されていない、という現実に対し、彼らは最も面倒な人を雇い給与を支払うという点にフォーカスして始めました。

つまり給与支払管理だけにフォーカスしたのです。複合的に色々出来るとは思うが、まずはこれを完全にシンプルにしてやる、と。現在彼らの市場は広がると共に、新しいサービスも提供し続けています。

同じ市場を狙う既存の会社は、彼らがやっていることを見て、「まだまだ小さい。スモールビジネスだけだし、彼らに負けることはない」と考えたようですが、それは始まりに過ぎませんでした。市場の隙間を見つけて、それを埋め始めると、繰り返しになりますが最終的に大きく成長します。Zenpayrollは素晴らしいビジネスの始め方をしました。

Zenefits、SkyCatchに見る新しいビジネスモデルの模索

次に、不均整を見つけましょう。つまり、既存の企業では経済的に辻褄が合わないので出来ないこと、またはただ単にやらないことをするのです。二つ例を挙げましょう。皆さんが、既存の市場を狙うエンタープライズ向けにソフトウェアをつくるとしたら、皆さんはプラットフォームに依存するものをつくるのです。

スーツを着たおカタい人達は、すべてをバーティカルに統合したがります。しかし皆さんはそうではなく、すべてのプラットフォームにアクセスできるようなテクノロジーをつくりましょう。そうすることによって、多様なカスタマーと仕事をすることができるようになります。これは既存のやりかたを続けていては出来ないことです。そして経済的に実現可能そうなことに挑戦しましょう。

ZenefitsはHRマネジメントソフトウェアで、ベネフィット、すべてのHRに関する情報を管理できます。彼らはスタートアップに利用料金を請求するのではなく、保険会社からのコミッションで利益を得ています。つまりカスタマー自身に発生する費用はありません。これは他のどんな会社もしなかった事であり、既存のあり方を変えました。

次に、クレイジーでありながらも合理的なアウトライヤーをカスタマーエコシステムの中に見つけましょう。業界の中でもクレイジーなことをやっている、新しいことをやっているカスタマーを見つけるのです。彼らをレバレッジにするのです。

(Yコンビネータ創業者の)ポール・グラハムが、「未来に生きて、その未来に欠けているものを生み出すのだ」と語っていた素晴らしい記事がありました。それはトレンドを掴むのに良い方法です。未来を見ながら仕事をするカスタマーを探すことが出来れば、彼らと一緒に未来に必要不可欠なものを探し、取り組むことができます。

SkyCatchという会社があります。エンタープライズ向けの無人航空機、ドローンビジネスをしています。建築や農業の場で、彼らは無人航空機を使ってデータを集め、土地の環境を調べます。彼らは他の多くのユニークなことをやっている会社を多数見つけることが出来ましたので、協力して新しいプラットフォームを構築することに成功しました。

彼らは初めてのエンタープライズ・ドローンビジネスです。まずは市場を見て、誰が新しいことをやっているか知る。そして彼らと一緒に仕事をしながら、プロダクトを成長させていきます。

カスタマーの声を聞きましょう。しかし言われたことを全て取り入れてプロダクトづくりをしてはなりません。カスタマーからはたくさんのリクエストがきます。皆さんの仕事はそれをどんどん絞っていき、プロダクトに反映させることです。

つまりこれは、彼らに言われた通りのプロダクトをつくることではありません。皆さんのやるべきことは、彼らがどんな問題を抱えているかを傾聴し、彼らの抱える問題をもっともシンプルに解決できるように策を練ることです。

そして皆さんのプロダクトは自然と広まっていくべきですが、だからと言ってセールス担当者が必要ではないということではありません。あらゆることをレバレッジにするべきですが、カスタマーを先導する為にセールスは必要です。カスタマーとしっかり関係性を築くことが出来る人が必要です。しかしあくまでメインフォーカスは、良いプロダクトをつくることです。

最後に、エンタープライズ系ソフトウェア会社を始めるのに今ほど適した時期はありません。皆さんが成功することを願って、今日を終わりにしたいと思います。

しかし、もし上手くいかなかったら、私達が人材募集中であることを思い出してください(笑)。私と競争しようとしてほしくはありません。すでにたくさんの競合がいますから。なので私達と一緒に働くか、皆さん自身の会社をつくってください。ありがとうございます。

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How to Start a Startup

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1 クラウドストレージ「Box」が、個人消費者を切り捨てた理由--創業者が悩ましい二者択一を振り返る
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