Sales Markerが爆速成長できた要因

萩谷聡氏(以下、萩谷):みなさんも聞いていていろいろと質問したいことがあるだろうなと思いながらも、ちょっと先に進めていきますね。「PMFのスピード感を持って成長できるポイント」ということで、「これに投資してきた」「いい課題を見つけて、いいソリューションにはまったな」とかあると思うんですけど、ちょっと伸び悩むこともあると思っていて。

実際にMRR(月次経常収益)が100万円までいっても、そこから1,000万円まではちょっと遅いとか、スタートアップの中でもけっこう差が出るんですよ。この差はなんなんだろうと思っていて、ざっくばらんにディスカッションできればと思うんですけど。まずSales Markerはすごいスピード感でそこまで成長した気がしますが、何が良かったんでしょうか。

小笠原羽恭氏(以下、小笠原):そうですね。例えば、提案内容の中でお客さまから「この点がないと契約できません」と言われた場合、翌日にはその機能を開発して「できました」と持っていくぐらいのスピード感で対応し、営業力を強化していた点が一因だと考えています。

これはシリーズAぐらいまでは通用すると思っていて。シリーズA後からはチャネルを見つけられるかが大事かなと思います。

これは『トラクション スタートアップが顧客をつかむ19のチャネル(ガブリエル・ワインバーグ/ジャスティン・メアーズ著)』という本に書かれている内容です。ある方に薦められて読んだのですが、とても良くて、「誰も見つけてない自分たちだけのチャネルを見つければ勝てる」と書いていて、さらに「あなたの業界で、周辺の企業が手をつけていないチャネルを1個だけ見つけて、そこで1位になることが重要だ」と書いてあります。

「自分たちだけのチャネルを見つける」重要性

小笠原:そこで我々は、PIVOTというプラットフォームを選びました。BtoB SaaS企業がそこで発信しているケースは、たぶんゼロだったと思いますね。

萩谷:メディアのPIVOTですね。

小笠原:PIVOTはビジネスニュースのプラットフォームで、元NewsPicksの佐々木紀彦さんがやっているメディアです。現時点でのYouTubeの視聴者数は把握していませんが、BtoB SaaS企業がYouTube広告を出すのは、一般的には賢明な選択だとはされてないんです。

それでもあえて挑戦したことで、「おもしろいBtoB SaaSが出てきたぞ」と注目され、結果的に「インテントセールス」という言葉が広がるきっかけにもなりました。そこで一気にPIVOTを公開して、最初の5日間で通常の3ヶ月分に相当する反響でインバウンドリードが生まれ、さらに5日くらいの内に約90件の商談を生み出すことができました。かなり反応が良かったです。

これが『『トラクション スタートアップが顧客をつかむ19のチャネル』に書いてあった「自分たちだけのチャネルを見つける」ということなんだなと。それ以来、この手法はずっと続けていて、どの媒体に出す時も必ずPIVOTの動画を使うことにしています。

試しにインフォグラフィックを使ったアニメーションを作って送ったこともありますが、ぜんぜんROI(投資収益率)が合わないんです。でも、PIVOTに出すと、ROIがだいたい5倍、6倍に向上してくる。

けっこう、そういった独自のやり方はあみ出していますね。これらの手法を見つけ出し、実践できたことが、スピード感を持って成長できた大きな要因の1つだと思っています。

成長し始めた時の落とし穴

萩谷:いや、おもしろいですね。その本を買います! 今の話だと、まずはプロダクトのフィードバックされたものをスピーディにどんどん開発して要求に応えていくこと。それとチャネルを見つけるという話ですね。

ちょっと守屋さんにもお聞きします。このあたりは何が差になってきてるかとか、今の話の延長でもいいですし。

守屋実氏(以下、守屋):はい。まず聞いているみなさんは「複合合併症なんだな」ぐらいに思った上で聞いてくださいね。そうじゃないと「いや、これだよ」と言って「そうなんだ」と思われちゃうと「そんな単純じゃないから」という話なんで。

小笠原さんとは違うところにちょっと触れてみようかなと思います。例えばうまくいって成長し始めるじゃないですか。その時何かが変わったりすると思うんです。その変わっていることが、いいほうに行くか悪いほうに行くかによって違うんですけど、時々悪いほうに行くと、売上天井になっちゃうことがあると思うんです。

なぜ悪いほうに行くのかと言うと、例えば客が変わっちゃうとかね。当初はいわゆるイノベーター(革新者)のような客だったんだけど、売上がどんどん増えてくると、それがアーリーアダプター(初期採用者)になってアーリーマジョリティ(前期追随者)……、いろいろなカタカナの呼び名があると思うんですけど。

そう変わっていった時に、我々は客が変わっていることに気づかず、当初のノリだけでずーっと売っていると「それは違いますよね」という話になる。

あとは内部の話ですよね。最初のうちはお客さまの顔が見えていて、社内でも「○○さんがどうしたんだけど」「いや、それはやばいだろ」「お礼を言いに行かなきゃ」という、顧客に対するリアルな息遣いがわかるほどだったのに、気づいてみたら、客の呼び名がYOY(Year Over Year)という言い方に変わっていたり。

そういう「n(サンプル数)」みたいな感じになってくるわけですよ。もはや客の顔が見えなくなってくる。そうなると、この手は刺さるか刺さらないかという話ばかりになるという。どこかつまずき始めることがあるんですね。これは落とし穴の話になっちゃうけど……。

客が変わる、我々が変わる、そういうところも履き違えちゃう何かがあると思います。いかに、そこに気づけるのかということは、けっこう大事だと思いますね。

自然と熱量が下がっている時こそ要注意

萩谷:なるほど。気づくのが大事ですね。それを反映していく柔軟性が大事だと思います。

守屋:ふだん動いていると、何かの兆しや予兆みたいなものを、なんとなく察知するはずなんですよ。例えばお客さまがありがたい行動をした時に、最初は「ありがとうございました」と自然に体が動いてお礼を言いに行っちゃうパターンですよ。

それがだんだん景色になってきて、「あー注文が取れたんだ、よかった」という。「いやいや、熱量が下がりすぎだろ」という話。そういうところに落とし穴があるんだと思いますね。

萩谷:その視点はあまり聞いたことなかったんだけど、確かにそうなっている可能性はありますね。

守屋:そうなっちゃうのもしょうがないと言えばしょうがないじゃないですか。例えばさっきのラクスルの話で言うと、公表している数字では200万社を超えるお客さまがいるわけですね。そうなってくると個別には当然わからないですよね。だから、やむを得ない我が社の成長に応じて「自然とそうなるもんだよね」という話でもある。

ただ自然とそうなった時には反作用は起きているはずで、なにかのけつまずきがあるかもしれないから、ぜひそこは注意してもらえるといいんじゃないかなと思います。

萩谷:なるほど。初期だと僕ら投資家もシードの投資家さんもけっこう言っちゃうんですけど、「ターゲットはどうだ」「ターゲット解像度を上げろ」という感じでフォーカスさせようとはしていて。でも一概に思い込みすぎないで柔軟に見る目も大事なんですよね。

営業で重視すべきは質よりも「レスポンスの速さ」

萩谷:川崎さんもいろいろな事業を見てきていると思うので、この辺りについてお願いします。

川崎裕一氏(以下、川崎):せっかくお二人が話しているので、逆にそれにのっていこうと思って。まず『トラクション スタートアップが顧客をつかむ19のチャネル』を、今、僕も買いました。

(一同笑)

でもAmazonのKindleにはないので、みなさん、本しかないから気をつけてください。それはいいとして、僕もけっこうやっていました。僕は営業が好きだから営業しに行きます。当然自分が考えたストーリーのままいくことなんて、ほとんどないわけですよね。

だけど、お客さんにたくさんお話いただいてフィードバックをいただくと。フィードバックをいただいたら、電車の中でスマホでGoogleスライドをいじって帰社する前に送っておく。

GoogleスライドのいいところはURLで送れるところだから、URLを送ってコメント機能をオンにしておく。「今日おうかがいしたこの内容ですけれども、それを踏まえて提案書を書き直してみたので、これについてもう1コメント・2コメントあるようでしたら、コメントください」と。これは僕の肌感だけど、コメントを追加してくれた場合の受注率はたぶん2倍以上。

萩谷:なるほど。

川崎:だから「営業は質」とよく言うけど、僕はそれはみんながすでにできていると思う。どっちかと言うと、レスポンスの速さ。営業はコミュニケーションというか、ピンポンゲームみたいなものなんで。ポンポンと早くやれれば、往復の回数によって受注率が大きく変わってくるはずだから。

お客さまのところに行ったその日に(対応)する営業がいなければ、その日にコメントを返すお客さまもいらっしゃらない。ということは営業したその日にコメントしてくるお客さまは、ほぼ受注している感じになるんです。だから僕はそれをすごく意識してやっていました。

萩谷:なるほど。

川崎:納品形式が添付なんていう無用なことはしなかった。「1つの提案書をみんなで作りましょう。お客さまと僕とで作るんですよ」というテンションで作っていました。

「新規営業チーム」と「既存営業チーム」に分けてはいけない理由

川崎:あともう1個は、なんでスピードが落ちるのかという話。これは守屋さんにちょっと乗っかると、やはり営業は油断しちゃうんだよね。既存のお客さんに時間をかけすぎたり、新規にかけすぎたり。だけど、それは両方やらなきゃダメなんです。

急に体育会系だけど(笑)、既存のお客さんにアップセルするのは当然で。だからといって新規を諦めたら「入ってこないに決まってるじゃないか」という話。だから既存のお客さんをアップセル分で売上何パーセント作るのか。新規のお客さんはある程度いっても、どうしても離脱しちゃうから、「その分を超えてもこれだけ」というのは絶対にやらなきゃいけないです。

しかも新規営業チームと既存営業チームなんかに分けては絶対にダメ。自分の頭の中で全部計算して、一人ひとりがレスポンスアビリティ(責任)をもってやらないと数字は積み上がってこないと、僕は思う。

最後に今度はC向けの話すると、よくTAM(企業が新規に立ち上げた事業によってリーチできる顧客層の最大の大きさ・需要の大きさ)・SAM(TAMのうち、実際に顧客としてアプローチできるターゲット層)・SOM(ある事業が実際にアプローチできる顧客の市場規模)……僕は好きな言葉じゃないんだけど(笑)。

なんでかって1,000万人のユーザー、2,000万人のユーザーと言うじゃない? でもそんな塊はこの世にないわけ。だって1個が2,000万個あるだけで、2,000万個の塊のユーザーセグメントなんて、そんなものはないです。

萩谷:なるほど。

川崎:だから一つひとつに刺すことができるように、C向けの会社はそこをがんばっているわけだから。広告だって一人ひとりに全部違う広告を出しているし、一人ひとりに違うニュースを出しているから支持をしていただけるわけですよ。

これをとりあえず1,000万人の塊で分けて、1,000万人に「これを見せときゃいいんだよ」と言って(ニュースで)「今の政権はこうだ」とか言っても、それは見ないという話で。その1,000万人の塊を1,000万個に分解できるようになったのは技術なので。そこに僕たちはチャレンジしなきゃいけないと思っています。

萩谷:確かに。それぞれのお客さんにいいものを届けるという本質的なものを、プロダクトで担保しているということですね。今の話も、フィードバックをもらったら、スピード感をもってプロダクトに落とし込んでいき、どんどん良くしていくということですね。

<続きは近日公開>