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人的資本経営時代のこれからの人事とは?(全3記事)

8割の企業で、人事部門は管理業務に追われている 「戦略人事」の重要性と経営課題に関与できない現場のギャップ

一般社団法人プロティアン・キャリア協会が主催したプロティアン・フォーラム2024。本セッションでは、「人的資本経営時代のこれからの人事とは?」と題して、ソニーグループ株式会社・安部執行役専務室付組織開発アドバイザーの望月賢一氏、トイトイ合同会社代表の永島寛之氏、一般社団法人プロティアン・キャリア協会 代表理事/4designs株式会社 代表取締役CEOの有山徹氏が登壇。本記事では、「経営戦略のフレームワーク」を使える人の優位性についてお話しします。

人的資本経営時代の人事のあり方を議論

有山徹氏(以下、有山):よろしくお願いします。

望月賢一氏(以下、望月):よろしくお願いします。

有山:では、当セッションのテーマということで、今回、2つ挙げさせていただいております。「人的資本経営時代の人事って何が変わったのか?」「変わらないものは何だ?」が1つです。

もう1つは「人的資本経営において重要性が高まる“社会関係資本”」ですね。プロティアン・キャリアのキャリア資本でも重要な資本の1つとなっておりますけども、社会関係資本(の蓄積)は「これからの組織との関係性においてどう変わっていくのか」。

今日はこんな2つのテーマで、(プロティアン・キャリア)協会の顧問のお二人をお迎えして、セッションを進めていきたいと思っております。では、さっそくですが、望月さんから先に自己紹介をお願いします。

望月:みなさん、こんにちは。望月です。2024年の4月からプロティアン・キャリア協会の顧問を務めさせていただいております。

(スライドを指して)私の略歴はこんな感じなんですけども。現在はソニーグループ株式会社の人事、総務、ダイバーシティといったところを幅広く総括している安部執行役専務室付で、主に組織開発方面でのアドバイザー的な役割に従事しています。

経歴は、私の大半の経験は現場の人事で、今で言うとHRBP(HRビジネスパートナー)みたいなところの役割が長く、2016年に機能系人事組織を束ねる組織のセンター長を務めることになりました。

その組織が現在のソニーピープルソリューションズという、人事総務機能のプラットフォームを提供する子会社になった時に、そこの代表取締役社長に加えてグローバルHRプラットフォーム部門長とDE&I推進部統括部長を兼ねていました。

2022年の3月末にその役職を退任してから今の役割りの組織開発アドバイザーとして現場の人事のみなさんを支援する役割をしています。よろしくお願いします。

トイトイ合同会社の永島寛之氏が登壇

有山:では、永島さん、よろしくお願いします。

永島寛之氏(以下、永島):永島です。どうぞよろしくお願いします。私は、キャリアはここ(スライド)に書いてあるとおりですかね。2013年にニトリに入ってから人事の仕事をするようになりました。それまではマーケティングやセールスをやっています。2023年くらいから少しずつ動いていたんですけれども、独立というかたちを取らせていただいて。

いろんな組織の中でがっつりコミットしてきたので、いろんな会社さんを見て回り、どんな価値を提供できるかを考えながら、今トイトイ合同会社を設立して活動しております。

5社ほど人事の顧問をやらせていただいています。会社さんによっては1ヶ月に4〜5回、リアルでお伺いするところもあれば、月1回人事のみなさんと視点を少しずつ上げていったり、広げていったりするワークショップをやらせてもらっているケースもあります。

今日、ちょっと関係あるところで言うと、最近、中央大学のビジネススクールの犬飼(知徳)教授の研究室で「(企業)アルムナイ研究会」というのを作りまして。企業側から見た退職者の価値、本人にとっては過去に退職した会社で得たものの価値を最大化していく。実は人的資本経営の中においてはすごく大事なことなんじゃないかなと思って、そのへんの研究をさせていただいております。

「トイトイ合同会社って何なんだ?」とよく言われます。麻雀が好きな方は勝手な解釈をしたがる人が多いみたいで、それはそれでいいんですけれども。

人事や組織の課題って、「問い」と「対話」でほとんどのことは解決するんじゃないかなと。よく、人事制度を変えるなんていう話があったりするんですけれども、やはり変える前の運用の部分に問題がありますよね。

みなさんこんなことはたぶんおわかりなのかなと思うんですけれども、組織の問いと対話という部分が直されないまま新しいものを作ってしまうと、またそこも機能しないものが出てきてしまう。

その前にこれに(スライドに)一部書いてあるんですけど、ビジョンにしても評価にしても、問い、対話がそこに実装されていなければ、どんなものが入ってもうまくいかないよ、といろんな顧問先の会社さんで活動させていただいております。今日も有山さんに出していただく問いに対して、望月さんと一緒にいろんな対話ができればと思っています。よろしくお願いします。

人的資本経営時代の人事は何が変わったのか?

有山:よろしくお願いします。では、私は本当にシンプルに自己紹介をさせていただきます。

協会の代表と4designsの代表をしております。経歴もこちら(スライド)にあるとおりで、人事畑というよりかは、どちらかというと経営企画畑が長くて、10年くらいやっていました。

5年ほど前に起業しまして、4designsを立ち上げました。翌年、タナケン(田中研之輔)先生と出会って、人的資本経営といったところで協会を立ち上げました。私も今まで経営企画がキャリアとしては一番長かったので、経営とキャリアが非常に結びついたところで、今、自分自身のパーパスを実現できるよう取り組ませていただいています。

では、本日も積極的なチャットでの参加をお待ちしております。人事の方も多いですし、人事じゃない方も、対外支援の方も、やはり人的資本経営も重要なテーマかなと思いますし。もちろん営業や経営者の方、もしくはエンジニアの方なんかも、ぜひその観点からチャットをいただけたらなと思っております。

では、さっそく1点目のテーマに入りたいと思います。「人的資本経営時代の人事って何が変わった? 変わらないものは何?」ということで、さっそくなんですが、チャットに入れていただいてもよろしいでしょうか? 

みなさんにチャットを入れていただく中で、少し進めさせていただこうと思いますけれども、「人材版伊藤レポート」ですよね。ここがやはり一番、人的資本経営の契機になったと思います。

人事の役割が大きく変わったところが、6つのテーマごとにこれからの人的資本経営というところで表現されていたかなと思います。そんな中で、労政時報さんのアンケートでは人事部門の未来ということで、管理型から戦略/企画型へと。左側の図ですと、「今後10年間の人事部門の業務量に対する認識」が増えると。

今後10年間で増加すると考えられる業務

有山:右側ですが、「10年間の人事部門において中心となる業務として最も近いもの」ということで、アンケートベースではありますが、創造的な仕事が48パーセント、分析的な仕事が25パーセント、人に寄り添う仕事は24パーセントとなっております。ですので、約半分が創造的な仕事になっています。

これも「今後10年間で人事部門の業務が増えると予想する企業において、具体的に増加すると考えられる業務」ということで、アンケートで出てきているのが、「人事戦略の構築」「人事制度の企画・立案」。そして「教育・研修、能力開発」と続いています。ですので、従来の管理型の業務から、企画・立案的な戦略的な業務の比重が増すと示唆されているといます。

じゃあ、「そこに対して現状はどうなんだ?」といったところなんですけども。「人事部門が管理業務に追われていると考える企業」が78パーセント、約8割ですね。「人事部門が『戦略人事』として機能する企業」が3割弱です。「人事部門が経営戦略の意思決定に関与している企業」が約4割。これから増える業務と、現状のギャップがあると見受けられます。

このあたりも同様のデータで、人事課題、事業部課題、経営課題と記載されていますけれども。やはり人事課題のところでは人事部門が主体的に取り組んでいるものの、事業部の課題、経営課題には人事部門がなかなか関与できていないのが実態ですね。

人的資本経営ということで言うと、昨今HRBPなども言われていますけれども。今、そういう機能をなかなか果たせていないところがこのデータからも見えてきているかなと、まずみなさんと共有したい現在地として挙げました。

ここで、またみなさんにもう1個チャットで答えていただきたいなと思いますし、お二人の登壇者の方にお聞きしたいなと思うんですが。

「人的資本経営時代になって、変化・成長が求められる人事機能」ということで、「そんな中で、今までの人事と変わったことと、変わらないことは何だろう?」。ここの問いに対して少しディスカッションをしていきたいなと思っております。

変わらない人事の役割

有山:簡単ですが、頭出しをさせていただきます。さっそくですが、永島さん。抽象度が高い問いなんですが、変わったこと、変わらないことを、どう捉えていらっしゃいますでしょうか?

永島:まずは「人的資本って何だ?」という話だと思うんですよね。人的資本っていうのは、いわゆる人そのものではなくて、人の持つスキルや組織、経験を扱うんですね。だから、さっき「Not This」「But This」で、「人的資源管理から人的資本のほうへ」みたいなのがあったと思うんですけども。

変わらないって意味では、僕は「And This」なんだろうなと思っています。あくまで人を扱って組織を最適化していくのは、「Not」ということはないだろうなと思っています。一方で、人単位じゃなくて、その人が持つスキルとか知識とか経験を扱うことがすごく大きな変化なんでしょうね。今までそれもやろうとはしていたんだけれども、そこに焦点を当てることが、なかなかしきれなかった。

そこを最大化して、さらに人が持っているものなので最大化しても出てくるかわからないので。エンゲージメントを上げて出していってもらうという取り組みの2つが、新たに加わってきたのかなと思います。

なので、みなさんからコメントをいただいているように、やはりそれぞれの人事の施策も人材育成の観点でやっていかなきゃいけなくなっていく。抽象度が高い問いに抽象度の高い解を出しますが、そこが大きく変わったところかなと思います。

戦略立案のフレームワークを使いこなせる人材が強い

有山:ありがとうございます。まさにそうですよね。人材版伊藤レポートでは「Not This」と言われていますけど、なくなるわけじゃなくて「さらに」なので、「And」ですよね。だからこそ、これからの人事はより難易度が高い業務になっていくと、今の話でも感じることができました。望月さん、いかがでしょうか?

望月:そういう意味で「And This」にして、戦略立案する仕事が増えるっていうんだったら、戦略立案のフレームワークをちゃんと使いこなせる人事パーソンにならないと無理ですよね。

故に、人事に携わる人は勉強しないといけない。オペレーションに長けているのは、左側のところで十分経験を積んでいます。「どうサービスデリバリーするのか?」という点でいくと、この前のセッションでお話されていた体験資産(個人の多様な体験、およびその積である組織の体験を資産ととらえ、正しく評価していく考え方)が、人事組織の中に山のように入っているんですよ。

それはどんどん共有もされるので相互利用できるんですけど、実は戦略的に考えるフレームワークを持って使いこなしている人は限られていて、組織的にはそのケイパビリティがすごく小さいのではないでしょうか。そうなると、経営層との対話に追従できなかったりするんじゃないかなと思うんですね。

有山:なるほど。

望月:「『ビジネスの課題を人事の視点でひもとくと、こういうプロットになるんです』というのを書けますか?」というイシューが、たぶんこれから問われる。それがないと、経営層や社員から見た時、現場、ビジネス組織から見て、「人事は話が通じないからな」って思われてしまって、また管理する人事部に戻っていっちゃうんですよ。

「この左側のオペレーションだけちゃんとやっておいてよ。やってほしいことは全部お願いするから」と言われちゃうんですよね。

「コミュニケーションができる人」というだけでは不十分

有山:なるほど。今戦略のフレームワークっていうキーワードが出たかなというふうに思っているんですけど、もう少しそこの解像度を上げていただくと、人事が持つ戦略フレームワークってどんなイメージですか?

望月:例えば、戦略を考える時に使えるフレームワークも、SWOTだとかいろんなのがあるじゃないですか。みなさん、経営企画に携わったらすごく使いこなす。あれを人事の人も使いこなして、それを人事版で書けるようにしないといけないんだと思うんですね。

有山:なるほど。そこで言うと、けっこう最近は人事の方でも、みずほ(みずほフィナンシャルグループ)の秋田(夏実)さんであったり、もちろん永島さんもそうなんですけどマーケティング畑出身の方も増えていますね。社内外に対する発信も含めて、社員のマーケティング的なところの要素が、求められているかなと。そのあたりは永島さん、いかがですか?

永島:本当に望月さんのおっしゃるとおりだなと思っていて、フレームワークと同時にやはり事業理解なんだと思うんですよね。最近、事業側からいらっしゃるCHRO(最高人財責任者)なんかも、本当に大手さんがすごく多いんですが、人事が事業を理解している。

今までだったらコミュニケーションができる人とかだったのが、ただのコミュニケーションでは駄目だよねと。事業に資するコミュニケーションができる人ってなった時に、「じゃあ、どんなスキルなんだ」っていうのをちゃんと作れる人じゃないといけない。

そのコミュニケーションの中にも、さっきおっしゃったようなフレームワークみたいなので、ただ関係性構築ができるとかじゃなくて、「事業を作っていけるようなコミュニケーションができる人とは?」という人事施策を打っていかなきゃいけないので、やはりより事業の理解(が重要です)。

HRBPとか人を介しているスピード感じゃなくて、やはり本人が理解をしていく必要が出てきて大変だなと思っています。

有山:なるほど。やはり「『戦略人事』として」というところで言うと、こちらのデータでも、事業部の課題になると一気に人事部門の関与が低くなる。先ほどあったように、最近大手人事の方が、HRBPの部門ができたり、そこの育成みたいなところに頭を悩ませている方が多いかなってイメージを持っています。

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