個人の「体験資産」をタレントマネジメントシステムに格納していく

中田誠氏(以下、中田):みなさんからの質問にいきましょうか。「タレントマネジメントシステムに格納されるのは、誰がどんな体験をしているのか、体験によって組織にどんな能力が蓄積されているのか、というデータですか?」というご質問がございます。

沢渡あまね氏(以下、沢渡):そうですね、答えから言うとパーシャリー(partially:部分的に)・イエスですね。中田さんのすばらしいリーディング能力で、実はもう体験資産データベース項目は設計済みで、我々もいろいろ試しながら、あるいは、「これをやりたいよ」という方には開示しながら、議論をしているんですけれども。組織として個々の体験をきちんと見える化していったり、あるいは集計してける、報告ができるようにしていくのが1つと。

2つ目が、個としてもどんな体験が貯まったかとか、あるいは何か課題解決した時に振り返りをして、ワークショップとかで、「そういえば過去にこういう体験があったからだよね」と、過去に蓄積した体験を逆引きで入れていく、あるいは参照していくことを考えています。

ただ、1つ気をつけたいのが、個によってはこの体験を組織に知られたくない、開示したくないというものもあると思うので。とはいえ自分の振り返りに使いたい、記録しておきたい方がいらっしゃると思うので、それを開示する、開示しないって選択肢も、データベース項目に入れたりだとか。そのへんは今我々が進めているところです。

中田:今お話しいただいたものは、まだまだ我々も設計中のものですので、みなさまの企業として、どういったかたちで体験資産に取り組みたいかというお話も、ぜひしていただきながら、我々の設計も、もっとしっかりとしたものに固めていければなと思っています。

沢渡:あと1ついいですか? 「タレントマネジメントをすでに導入しているところは不要なんじゃない?」というご質問もいただくことがあるので、お答えしておきますと、たぶん役割が違うと思っています。

けっこうタレントマネジメントシステム導入企業でよくお話を聞くのが、いわゆるハイクラス人材だけにフォーカスしているところが多い。そういう人だけではなくて、あらゆる人の資産を、きちんと個人も組織も使えるようにするということなので。まずスコープが若干ずれているかなってところと。

あとタレントマネジメントって、どちらかというと体験というよりは、やはりスキルとか経験重視の部分があって。そこはお互い補っていく関係がいいのかなと思っています。実はある企業のタレントマネジメントのプロダクトマネージャーの方ともディスカッションをして、「確かにいい連携ができそうだね、住み分けできそうだね」みたいに、うっすら合意形成もしています。

さまざまな企業・中央省庁も巻き込んでいく

岩本里視氏(以下、岩本):ちょうどチャットにもそういったかたちの質問が増えてきたかなと思うんですけども、いわゆる社会実装の部分ですね。今後どうしていくか、いろいろとディスカッションを月に2回ぐらいさせていただいています。

もう少し具体的なお話もさせていただきたいなと思っていまして、あまねさんのイメージでもいいですし、今話せる範囲でけっこうですけども、どこまで進んでいるか。

さっきのタレマネのところもそうですし、個人の経験を引き出すところは、キャリアコンサルタントの方とか(にご参加いただいたり)、ワークショップなんかも重要になってくると思います。このあたりについて、可能な範囲で具体的にお話しいただけますでしょうか?

沢渡:ありがとうございます。大きく2つお話をしたいと思います。さまざまなところをバラバラと違う項目で立ち上げると、民主化しにくいので。

私たちが一緒に議論しているこのデータベースを、みんなが使うクラウドサービス化などをして、同じ項目で……もちろん、クラウドを使わずに「Excel」でやりたいというのでも、僕はぜんぜんオーケーだと思うんですけども。

基本的にこの体験資産経営という同じ項目でやっていきたいと、共通言語にしていきたいと思っています。

2つ目が、そうすべく今、仲間になり得る人との対話をひたすらやっています。エールの櫻井(将)さんも体験資産の考え方には興味を持ってくださっていて、今月お話しすることになっています。

あとは、原田(未来)さんが代表をやっている、ローンディールという会社があります。目指す世界は一緒で、レンタル移籍でまさに人の越境とか、出向を盛り上げていこうと。出向者の体験資産を、これを使いながら可視化できないかっていう議論を始めたりしています。

すなわち、我々はぜんぜん独り占めするつもりはまったくなくて。この体験資産を活用していく、登録、参照、あるいは経営レポートだとかをやっているプレイヤーの方は世の中にたくさんいるので、その人たちと今ひたすら対話をして、「一緒にやりましょう」とやっています。

人的資本経営で言うと、今Uniposの田中弦さんが、人的資本経営のレポートを読みまくっていますけれども。田中弦さんとも話をしたりして味方を見つけることをやっていて。

それこそ経産省、内閣府にもお話をして、非常に良い取り組みであると一定ご評価をいただいています。まだいろんな人と対話をしていく必要がありますけど、まず民間で実績を作りながら、そこに中央省庁に左手を添えてもらうところも、世の中の議論を民主化していく上では非常に大事だと思うので。中央省庁も巻き込みながら、これをうねりにしていきたいと思っています。

多様な体験をリスペクトする社会に

岩本:ありがとうございます。そうですね、チャットにもいろいろとコメントをいただいていますね。AIとかテクノロジーも活用しながらというところではあります。

一方で、私もこういった体験資産フレーム活用の方法をいろんな企業さまともお話しさせていただくんですが、例えば営業職の方々が、こういった自分の体験を棚卸ししてお客さまと対話をすると、今度はお客さまの体験にも興味が湧いてきて、そこにもアンテナが立つということですのです。まだまだ、我々も気づいていないメリットがたくさんあるんじゃないかなと思います。

沢渡:おっしゃるとおりですね。

岩本:あまねさん、個人の成長や組織との関係性も含めて、期待できるところはありますか?

沢渡:そういう意味ではやはり、自分と他者との接点を見つけてほしいんですよね。多様な体験の話をすると、それこそお客さんとの距離が近くなったり、地域が違う人の距離が近くなったり、さまざま(な効果が)あると思うんです。そこをきちんと、多様な体験をリスペクトする社会にしていきたいなと思います。そういう使い方をしていきたいですね。

私も地方の浜松に来てもう5年目になるんですけども、やはり5年もいると「東京とまったく違うな」とか。あるいは中央省庁は地方が見えていないなってことがよくわかりました(笑)。

だから、少しでもいいから我々も地方で事を起こして、中央省庁の人に体験に来てもらうとかすると、より地方もリスペクトした良い政策につながったり。これはたぶん企業でも一緒だと思うんですよ。

そういう意味で、今まで地方って、どちらかというと東京中心でマイノリティだったと思うんですけども、マイノリティがマイノリティでない社会を作っていくためにも、体験をリスペクトしていく。地方に来るという行動の体験に投資していくようなうねりを作っていけたらいいなと思います。真のダイバーシティ&インクルージョンをこの国で実現していくためにも、これはやりきりたい。

ただ、私たちだけではできないので、みなさんとぜひ一緒にやりたい。あるいは先ほどの人的資本経営だとかイノベーションマネジメントの権威がある方とか、この話をつなげられるよって方が声を上げてくれたら、すごくうれしいです。

個人や組織の成長に向けて

中田:ありがとうございます。残り3分となりましたので、最後のクロージングの質問を私からさせていただきます。「沢渡あまねさんとしまして、個人または組織の成長に向けてどんな社会にしていきたいですか?」。

沢渡:もう一言で言いますと、「Be colorful!」。さまざまなカラーがあっていいし、それを組み合わせて課題を解決し、より良い未来を作っていく。

中田:ありがとうございます。みなさん、覚えましたでしょうか? 今日はチャットでもコメントをたくさんいただきまして、本当にみなさまと対話したいぐらいですね。

沢渡:そうですね。人材版伊藤レポートにも、これを接続させていきたいんですよ。

中田:そうですよね。ですので、まだまだこれからいろんな方と対話を重ねながら、この体験資産経営をしっかり作っていこうと思います。体験資産経営について興味を持っていただいた方は、ぜひ我々と一緒に実装していくところを、試行運用でもいいと思うんですけども、やっていきたいと思っております。

沢渡:うちの会社でやってみたい、試してみたいというのもウェルカムです。その仲間を探しています。

中田:ということで、我々はこの体験資産経営を国内にどんどん広めていきたいと思っておりますので、ぜひともよろしくお願いいたします。それではちょうど時間になりましたので、こちらのセッションについては以上で終了とさせていただきます。それでは、今井さんにお戻しいたします。

沢渡、岩本、中田:ありがとうございました。

司会者:沢渡さん、岩本さん、そして中田さん、組織開発ラボのみなさま、ありがとうございました。体験資産って、私は初めて聞いた言葉だったんですけども、今一度自分が持っている体験資産の価値をしっかりと感じることとともに、他者が持っている体験資産に興味を持って関わることがことが、両面ですごく大事なんだなと痛感させられました。みなさま、あらためて、ありがとうございました。