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組織と個の成長基盤を創る『体験資産経営』(全3記事)

出向の経験を持ち帰っても、所属部署は無関心… イノベーションを阻む「もったいない」組織にありがちなこと

一般社団法人プロティアン・キャリア協会が主催したプロティアン・フォーラム2024。「組織と個の成長基盤を創る『体験資産経営』」と題した本セッションでは、組織変革の専門家・沢渡あまね氏が登壇。本記事では、イノベーションを阻む「もったいない」組織にありがちなことをお伝えします。

組織と個の成長基盤を創る経営

中田誠氏(以下、中田):ではここからは、「組織と個の成長基盤を創る『体験資産経営』」というテーマでセッションを進めてまいります。私、当セッションの進行を務めますプロティアン認定ファシリテーターの中田と申します。みなさま、どうぞよろしくお願いいたします。

さっそくではございますが、当セッションの登壇者のご紹介をいたします。まずは、メインのゲストスピーカー、登壇者のご紹介となります。

時には作家、時には企業顧問、そして時にはワークスタイル変革や組織開発、越境学習など、さまざまなフィールドで変幻自在に専門性を発揮されていらっしゃり、かつ、2024年3月にプロティアン・キャリア協会のアンバサダーにも就任いたしました、沢渡あまねさんです。沢渡さん、本日はよろしくお願いいたします。

沢渡あまね氏(以下、沢渡):沢渡です。みなさんよろしくお願いします。

中田:よろしくお願いいたします。それではもう1名、私と一緒にこの体験資産経営の検討ワーキンググループのメンバーとして推進をしております、プロティアン認定ファシリテーターの岩本里視さんにもご登壇いただきまして、一緒にダイアローグを展開していきたいと思います。岩本さん、よろしくお願いいたします。

岩本里視氏(以下、岩本):岩本です。よろしくお願いします。

中田:このセッションがどういった経緯で企画されたかを、簡単にご紹介いたします。プロティアン・キャリア協会の中で、2023年の11月に発足した「組織開発ラボ」というコミュニティがございます。人材開発と組織開発、この両分野で活躍できる専門家を育成していきましょうという目的で発足したコミュニティでございます。

さらにそのコミュニティから分科会というかたちで、今回ご紹介します「体験資産経営ワーキンググループ」というものを作りまして、そこに岩本さんと私、それから沢渡あまねさんが中心となっていろいろ検討を進めてきました。

この組織開発ラボでは、非公式スローガンで「組織をWorkWorkさせよう Be Protean!!」という標語があります。

沢渡:いいですね(笑)。

中田:ありがとうございます。この「WorkWorkさせよう」ってすごくいい言葉だと私も気に入っております。この後ご紹介します体験資産経営もすごくワクワクするお話だと思いますので、ぜひみなさまも楽しんでお聞きになっていただければと思います。

組織変革の専門家・沢渡あまね氏が登壇

中田:それでは、今日のセッションの流れを簡単にご紹介いたします。この後、沢渡さんより「そもそも体験資産経営とはどういうものか?」というお話や、狙いや効果とか、どういった悩みが解消できるのかを簡単にご説明いただきます。

そこからはダイアローグということで、岩本さんにも入っていただきまして、いろいろ質疑応答を含め、どんどん体験資産経営の理解を深めていただきたいなと思っております。

それでは、お待たせいたしました。沢渡さん、まずはこの体験資産経営につきましてご説明いただければと思います。よろしくお願いいたします。

沢渡:はい、承知しました。では、ここから10分〜15分ぐらい、「体験資産経営とは何か?」という話をしていきたいと思います。この直前の古屋(星斗)さんと松井(正徳)さんのセッションをお聞きになられた方は、「寄り道がいいキャリアを作る」という合意形成ができたと思います。

このセッションでも、寄り道のようなものをきちんと民主化していく(ことをお話しします)。組織も個も前向きに認めて、そこにきちんと時間やお金を投資していく、あるいは人を出すという合意形成を、どうしていったらいいか。これらも含めてで聞いていただければなと思います。よろしくお願いします。

私、沢渡あまねの自己紹介をします。1975年、神奈川県横浜市に生まれた人間でございます。日産自動車、NTTデータ、大手製薬会社と、ともすればJTC、Japanese Traditional Companiesと揶揄されるところではあるんですけども。

そこで大きく社内・お客さま向けのIT、広報、主にインターナルコミュニケーション、グローバルを含めてどう組織のエンゲージメントを高めていくかに向き合ってきた人間でございます。

そこから現在では、静岡県浜松市に身を移し、あまねキャリアの代表取締役。ほか、さまざまな企業の組織開発の顧問等々をしております。

物書きもしておりまして、最新作は9月11日に発売になる『組織の体質を現場から変える100の方法』、ダイヤモンド社から組織開発の本も出していますので、ぜひお手に取ってください。そしてこの下にある『「推される部署」になろう』というのは、中田さんも登場いただいています。「みんなで一緒にいい景色を作っていこう」というのを大切にして、組織開発に力を入れています。

そもそも新規事業を生む「体質」ができていない

沢渡:ふだんはこのような講演とか、企業の組織開発顧問ですね。今週、おとといは大手IT企業の企画でSX、Sustainability Transformation(企業がサステナビリティを重視した経営に転換すること)の講演もしていました。そういった、組織とか地域をより良くしていくための取り組みをしております。

我々がおります静岡県浜松市は地方都市ということで、「越境学習の聖地・浜松」というものも、浜松の企業連合で立ち上げています。お隣の愛知県豊橋市で「あいしずHR」、「愛知と静岡に、より良い仕事を作っていこう」というコミュニティをやっていたり。

あと、なんと言ってもワーケーションですね。私はダムが大好きなので、ダム際で新しいことをやろうと、「ダム際ワーキング」みたいなものも、国土交通省とか行政とか企業と一緒にやっています。みなさんもよくご存じの島田由香さんも巻き込んで、一緒に毎年和歌山県で、ウェルビーイングを高める目的でダム際ワーキングとか、とにかくあらゆる景色を変えていく取り組みに力を入れています。

今回、「体験資産経営って何ぞや?」という前に、個々の多様な体験をリスペクトする組織を作っていきたい、地域を作っていきたいという思いで、この取り組みをしています。

先ほども寄り道という話もありましたけども、思わぬ寄り道が結局近道だったりして、寄り道って決して無駄ではないんですね。それこそ今、「サバティカル研修」ってコメントが来ましたけども、こういうものが非常に視野を広げたり視座を高めて、それが結果として組織全体のイノベーション体質、共創体質になっていく。

最近、猫も杓子もイノベーションだとかDX、スタートアップって言っています。それはもちろんいいんですけれども、肝心の体質がイノベーション体質、新規事業体質になっていない、共創体質になっていないってところをたくさん見ているわけです。

それはすなわち目先の成果だけを見て、出ごりごりとスピーディにやる、いわゆるポジティブ・ケイパビリティだけでは駄目で。ネガティブ・ケイパビリティ、さまざまな寄り道も許容しながらそれを資産として育てていく、リスペクトしていくことが大事だと思います。

「体験資産経営」とは何か?

沢渡:まず「体験資産経営とは何か?」という話ですけども、もうずばり、この円の世界なんですね。これはデータベースのようなものをイメージしていただきたいと思うんですけれども。一人ひとりの体験、多様な立場とか多様なライフステージとか多様な行動とかパターンとかを、きちんと一人ひとりが意味付けして言語化していく。

あるいは逆に、何かイノベーションが起こった時に、「その原体験って何だろう?」と振り返ると、例えば5年前、10年前のプライベートな体験かもしれない、仕事の体験かもしれない。それをきちんとナラティブに説明可能にしていく。

これは、多様な生き方を自分ごと化できたり、他者理解を深めていったり、いわゆるデザイン思考を高めていったりする。そうすると個としてのキャリア自律、キャリアの可能性も広がる。さらには組織として課題解決、イノベーションを起こしていけるようになります。

体験を資産としてきちんと育てていく考え方を、みなさんと一緒にやっていきたい。これを社会実装していきたいと思っています。私たちは中田さんと岩本さんと一緒に、「価値=能力×体験」という話をしています。

昨今、リスキリング、リスキリングってうるさく言われています。もちろん能力を上げるのも大事なんですが、一方で、例えば従来のタレントマネジメントシステムだとか、それこそ履歴書、職務経歴書だけでは可視化されないけれど大事なものって、けっこうこの個人の体験、経験の部分であると思うんですね。ここ(スキルだけでない部分)もきちんと育てていこう、きちんとリスペクトしていこうと、思っています。

中田さんも岩本さんも私もさまざまなところで、最近この体験資産経営の対話をしています。私ごとで言えば、先々週は霞が関、経産省とか、内閣官房とか、新しい資本主義とか人的資本経営の施策を作っているところに、話をしてきてフィードバックをもらっているんですけれども、いろいろご質問をいただいています。

数年の出向経験も「役に立たない」と思いがち

沢渡:ご質問にお答えすべく2つのポイントをお話ししたいと思いますけども、1つ目、「なぜ、経験ではなく体験なのか?」、これはよくご質問をいただきますので、ずばり2つ示しておきたいと思います。

1つ目が、ハードルを下げたかったんです。経験っていうと、例えば3年間就業したとか、あるいはそこに出向したとか、わりとけっこう大げさなことじゃないと、「自分なんて役に立たない」とか、「それでは意味がない」って意味付けされてしまうきらいもあると感じたんですね。

体験ってハードルが低いと思うんですよ。例えば身体に特性のある方と対話をしたと。フラットな対話で、「耳が不自由な方ってこういうところに困っているんだ」と理解した。これは経験ではなくて体験なんですね。その体験であっても、あるとないとではまったく違ってきます。

いわゆる小さな疑似体験も含む体験に、よりフォーカスしていきたい。そこから作る未来や多様性をきちんと尊重していきたいと。2つ目が、1つ目に被っているんですけども、言葉の使い方ですね。疑似体験って言うけど、疑似経験って言わないですよね(笑)。こういった意味で、体験をきちんと評価していきたいと。

2つ目、大事なポイントが、こういうのってフローではなくストックだよねと。「なんかいい体験した。以上」ではなくて、きちんと個として組織として引き出せるようにしておく。この2つの思いを込めています。

「目先の成果につながらないから」と無関心な組織

沢渡:ここから駆け足で8つほど、「じゃあ、体験資産経営をどう活かしていくのか?」という想定のユースケースを説明していきたいと思います。

1つ目、出向したり副業している人が、その外での体験がなかったことにされたり、組織に関心を持たれない。これは非常によくあるもったいない話ですね。

せっかく出向先で、あるいは副業でいい体験をして、それを本業に接続させればお客さまも自分も組織もハッピーなのに、所属組織は無関心だと。これは本当に、越境体験者のエンゲージメントを下げるし、組織としてももったいないですね。これをなんとかしたいのが1つ。

2つ目が、私もワーケーションをして、ワーケーション先で出会った人と仕事の関係になる体験をわんさかしています。そこだけをメインに求めると、これまたおかしな話になるんですけども。あるいは、「外部研修を受けたいです」って言った時に所属組織側から、「いや、それ、何になるの? 目先の成果につながらないから、手を動かせ」みたいな(笑)、話ってあると思うんですけども。

短期成果につながらない活動が一切認められない。寄り道したら許されない。「これでいいんだっけ?」という話が2つ目ですね。

ケース3。ちょっと景色を変えて新規事業の話をしましょうか。さまざまな企業が新規事業推進室を立ち上げたりしていて、私も新規事業担当者、責任者から連日悩みを聞くんですけれども、「新規事業を立ち上げろ、イノベーションせよ。しかしながら、目先の成果をばんばん出せ」と、マイクロマネジメントを上がしてくると(笑)。

これは「そんな目先の成果だけを追っていて、目先の成果を出させるやり方でイノベーションが起こるんですか?」という話なんですね。それこそさまざまな寄り道をしながら、「ああでもない、こうでもない」をしていく。ネガティブ・ケイパビリティが求められる領域です。

ケース4。シニアの方のお話をしましょうか。それこそシニアの方は、その組織で学んできた、あるいは社会関係資本も含めていろんなネットワークがあったりする。

しかしながらそういうものを一切無視して、組織が「いや、もうあなたの能力は賞味期限切れだから、リスキリングしてくれ」と言われて、やる気になりますかって話なんですよ。これは非常にもったいない話。ですから、シニアの方々もきちんとリスペクトしていく。

「ジョブ型雇用」における個人の体験を可視化する重要性

沢渡:ケース5、ジョブ型雇用の話です。最近、ジョブ型雇用を始める組織が増えていますけれども、人事とか部門長側、プロマネ側が新たなジョブを創設したいと。でも、「やれる人はどこにいるんだっけ?」という話。

個の体験の話は、実はそのジョブに活かせるんだけれども、振り返ったことがない、言語化したことがないから、悲しい織姫・彦星状態で社内で出会えない状態になっている。新規プロジェクトとか新たなジョブをアサインしていく上でも、体験を可視化する、見つけられるようにするのが大事じゃない?という話が5つ目です。

6つ目。さらに景色が変わって、スタートアップにいきましょうか。最近は若いスタートアップ企業が出てきて、これ自体はすごくいいことだと思うんです。一方で、投資家とかベンチャーキャピタルから見れば、「まぁ、あなたたちの熱い思いはわかったんだけども、でも体験がまだ足りなくない?」っていうモヤモヤは、どこかしらあるんじゃないかと。

ということで、足りているもの、足りないものをきちんと双方明確にしながら、例えばVCとか投資家も、「あなた方の目指したい未来はわかったけども、この体験が足りないからこの経験のある人、例えば大企業のシニアの方とうまく引き合わせてやっていきませんか?」と。こういうマッチングも可能になっていくんじゃないかなと思います。

ケース7は、地方創生、地域活性の話ですね。さまざまな行政が、例えば地域の就業体験を走らせるとか、越境学習みたいなものを走らせていますけれども。これもまた、地域側がそれによってどんな体験が得られるかを説明できない。

説明できないものですから、言われた企業側も、「忙しいのに人を出せません」みたいな話になるわけです。私も浜松や豊橋で地域の学習をいろいろやっていますけれども、そのメリットを体験資産のあの絵でもって、「ここに赤がつきます、ここが埋まります」みたいなところを説明していけるといいなという話ですね。

そして8つ目。最後のユースケースですけれども、企業が人的資本経営、あるいはイノベーションマネジメントの文脈で、「当社は多様な従業員の体験、こういうところに投資しています」と。

あるいは例えば、「ここの体験がある人を採用を増やしています」とか、統合報告書などで、人的資本経営の枠組みの中で体験資産の投資や獲得、リスペクトの進捗とか現状を、社会とコミュニケーションをしていく。ここまでやっていきたいなと思っています。

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