2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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業界業務の経験豊富な「その道のプロ」に、1時間からピンポイントに相談できる日本最大級のスポットコンサル「ビザスク」。そのビザスク主催のセミナーに、『AIが答えを出せない 問いの設定力』の著者で、グロービス経営大学院 教員の鳥潟幸志氏が登壇。今回は講演後の質疑応答パートをお届けします。
司会者:では、質疑応答に移らせていただきます。まず1つ目のご質問です。
「AIを使っていると、あたかも正しいかのように自信を持って嘘をつくことがあると感じます。すべての判断を人間がすべきとは思いませんが、AIに委ねてもよい判断や、参考意見としてAIを活用する、あるいは判断に必要な要素を抽出させるなど、うまい付き合い方があれば教えていただきたいです」というご質問です。こちらの質問について、いかがでしょうか?
鳥潟幸志氏(以下、鳥潟):AIを使っていると、AIが設問を誤ることもありますし、自信を持って嘘をつくというケースもありますよね。その点については非常に興味深い問いだと思います。
どういった判断をAIに委ねて良いのか、という点について、私が1つ明確に言えるのは、効率化やリスクが低い場合、そして結果がある程度予測できる内容については、AIをどんどん活用すべきだと思います。
例えば、「業務を進める時、どのプロセスを取ると早く進むのか?」とか、「どうやったら効率的に進められるのか?」といった問いに対して、AIから「このプロセスが最も効率的です」という答えが返ってきた場合、それを試してみる価値は大いにあると思います。
一方で、「事業戦略はAかBかCのどれを取るべきか?」というような大きな意思決定に関しては、AIにすべてを委ねるのではなく、自分自身で背景や状況を理解した上で判断し、人を巻き込んで説明していく必要があります。こういった類の判断は、自分で決めるべきだと考えます。
AIは確かに「ハルシネーション」(最もらしい嘘)をつくことがあります。ですから、リスクがある場合や人を巻き込む必要がある意思決定においては、AIに頼りすぎることは危険です。逆に、自分の中で完結できること、自分で試して「違うな」と感じたら調べ直すことが容易な領域では、AIを使ってどんどん試していくのが良いと思います。そういった基準でAIの役割を決めると、うまく活用できるのではないかと考えています。
司会者:続いての質問に移らせていただきます。「AIの登場以前から、質問力の重要性は指摘されてきたと思いますが、AI登場前と後で質問力のあり方にはどのような違いがありますか?」というご質問です。
鳥潟:AI前後で質問力、問いの重要性がどう変わったかという点については、おっしゃる通り、AIが登場する以前から問いの設定やイシューの見極め方は非常に重要だと言われてきました。今回、生成AIが登場したことで、私が最も大きな変化だと感じているのは、不確実性がさらに高まっているという点です。
さらに、簡単な問いに関してはAIが答えを出してくれるようになったので、人間が問いを立てて答えていく機会そのものが減ってきています。つまり、AIが解決できる問題はAIに任せられる一方で、人間が関わるべき問いは、人間にしか解決できない難しい問題に集中するようになったという感覚があります。
したがって、問いの設定力自体は引き続き重要なのですが、AIの登場後は特に「人間にしかできない問い」がより重視されて、その重要性がさらに高まっているということです。これが、AI前後での質問力の違いとして挙げられるのではないかと思います。
司会者:続いてのご質問です。「生成AI等を活用し続ける場合、どの範囲まで社員をトレーニングすべきか、どこまで内製し、どこを外注するのが良いでしょうか。ケースバイケースではあると思いますが、企業の規模感などを例に挙げていただけるとありがたいです」というご質問です。
鳥潟:まず、会社で生成AIを導入してトレーニングをする際には、会社としての目的定義が一番重要だと思います。生成AIを業務効率化のために使うのか、あるいは顧客に対する価値提供の一環として使うのかによって、トレーニングの内容や対象が変わってきます。
例えば、業務効率化のために使うのであれば、シンプルにAIをセキュアな環境で利用できるようにし、AIのアカウントを社員に配布し、具体的なユースケースを共有するのが効果的です。
例えば「この議事録作成にはこういうプロンプトが有効だった」など、社内で具体的な活用事例を共有できる環境が理想です。セキュリティと基本的なルールを定めれば、専門知識がなくてもMicrosoft 365を使う感覚で活用できると思います。
一方、生成AIを事業や顧客提供価値として活用する場合は、話が変わってきます。例えば、生成AIのリスクや法的な問題、各生成AI(ChatGPT、Gemini、Cloudeなど)の強みを理解し、それぞれの事業に最適なものを選ぶ必要があります。
知識を深める範囲が広がるため、この場合は一部の人に絞って徹底的なトレーニングやインプットに予算をかけるのが良いと思います。もう1つ大切なのは、エンジニアや開発者だけでなく、ビジネスや企画に関わる人にも生成AIの専門知識を身につけさせることです。そうしないと、顧客に刺さる企画が生まれにくくなると思います。
司会者:では、続いてのご質問に移ります。「問いを生み出すには、まず問題意識が必要だと感じています。その問題意識は、興味を持つことが根底にあると思います。したがって、興味の幅を広げることが問題意識や問いにつながるという考え方は間違っていませんでしょうか?」というご質問です。
鳥潟:まったくそのとおりだと思いますね。やはり、興味を持つことが、その領域での疑問や問いにつながりますので、基本的にその論理は正しいと私は思います。
さらに関連してお話ししたいのですが、セミナーの中では触れられなかった「問い」と「疑問」の違いがあります。生きていると、頭の中にふっと浮かぶ疑問がたくさんありますよね。ある本では、人間は1日に何千個、何万個の疑問が浮かんでは消えていると書かれていました。
ただ、私の考えでは、これらは「問い」ではなく、単なる「疑問」です。つまり、「なんでだろう?」という一時的なものです。一方、問いというのは、主体的に設定して、それについて考え、解決を目指すものです。
ですから、興味や関心がある領域においては、自然と問いを設定して、それに取り組むという流れになります。一方で、興味がない領域では、疑問が浮かんでもそれは問いには発展しにくい。これが興味と問いのつながりだと思います。
司会者:続いてのご質問です。「起業家にとって正しい問いを持つことが重要だと考えていますが、この『問い』という観点で、起業する上で何が大切だと思いますか?」というご質問です。
鳥潟:この質問は非常に重要かつ難しい問いですね。起業する上でどんな問いを持つべきか、逆に言うと、起業において問いこそがすべてだと思っています。起業を通じて世の中の何を解決したいのか、起業を通じて自分が何を得たいのか、そしてなぜ起業するのか、こうした問いがすべて重要だからです。
グロービス経営大学院で「ベンチャー」という科目の教員をしていますので、その観点からも少し補足させていただくと、起業する際の問いには、自分の内側から生まれてくる問いと、外部からの課題に焦点を当てた問いの両方があると思います。
例えば、「自分はどうしても起業したい、成功したい」という内発的な問いと、「世の中には解決すべき大きな課題がある」という外向的な問いです。どちらも大事だと思いますが、私が見てきた多くの成功している起業家は、外部の社会課題に焦点を当てた問いを持っている場合が多いです。
ですので、起業に際しては、その問いが世の中の課題にどうつながっているか、その課題が大きなものかどうか、あるいは小さいが成長していくものか。そして、その問いが他者から応援され、共感を得られるものかをしっかり考えることが重要です。
中途半端な問いで中途半端に起業するのではなく、信念を持った問いを立て、それを仮説として検証していくことが大切です。専門家にぶつけ、批判を受けながら問いを洗練させていく。その過程で、問いがクリアになり、ビジネスプランもより具体的になっていくと思います。
そうしたプロセスを経て起業するのが、最も良いアプローチではないかと思います。質問に対する直接的な回答になっているか心配ですが、こういったかたちでお答えさせていただきます。
司会者:それでは、続いてのご質問です。「問いの設定力、決める力、リーダーシップ。これらは今後重要なタレントであると感じました。しかし、これらの力は、好奇心、洞察力、共鳴力、胆力など、個人のポテンシャルに依存する部分が大きく、後天的な指導によって伸びにくいと考えています。次世代リーダーを選出する際、どのように見極めればよいでしょうか?」というご質問です。
鳥潟:まず私は「問いの設定力」「決める力」「リーダーシップ」は後天的に身につけられるものだと考えています。もちろん、洞察力や共鳴力、胆力などのポテンシャルも重要ですが、適切なトレーニングや環境、マインドセットがあれば、これらの能力も十分に伸ばせると思います。
次に、次世代リーダーを見極める際の観点についてですが、私が特に重視しているのは「マインドセット」です。リーダーとして成長したいという意欲や、フィードバックや指摘をしっかり受け入れ、学びに変える姿勢があるかどうか、こうしたコンピテンシーにひもづく部分が重要です。
また、その人が持っている特性と事業が求めるスキルのマッチングも大切ですが、これは状況によって変わるため、あまり固定的に考える必要はないと思います。むしろ、成長意欲を持っているか、成長の余力があるかという点が、リーダーを見極める際に大きなポイントだと考えています。もちろん、地頭の良さや頭の回転の速さなど、特定のスキルを求める場合もありますので、その場合はアセスメントを活用するのも1つの手段です。
ただし、基本的な前提としては、これらの能力は後天的に身につけられるものであり、多くの人に機会を与え、その成長を見守ることが大切だと思います。
司会者:ありがとうございます。続いてのご質問です。「能力開発の中で、決断する機会が少ないポジションにいる場合、どのようにしてその機会を得るべきでしょうか。アドバイスをいただけると幸いです」というご質問です。
鳥潟:この質問は、先ほども少し触れましたが、疑似的に意思決定を行うことで補うことが可能です。自分が意思決定する立場でなくても、意思決定する人の立場に立ち、自分だったらこう決めるという仮説を立てるのが良いアプローチです。
その上で、上司が実際に意思決定をした後に、関係性が許すなら「自分はこう考えたんですが、どうしてこう決められたのですか」と背景を聞いてみるといいですね。そうすることで、意思決定の裏にあるロジックや情報が自分に蓄積されていきます。
このように、他者の意思決定プロセスを追体験することで、自分も次回、同じような状況で意思決定をする際に役立てることができると思います。これが、一番効果的な方法の1つだと私は考えています。
司会者:それでは、続いてのご質問です。「人間が考える際、思考の整理においてフレームワークの重要性に共感しています。ただ、人間が選択や決定を行う際には、その人の人間性や人間力も重要だと思います。これらが、先ほどのモノサシの概念にも通じると考えていますが、鳥潟さんが考える『モノサシ』を定める際に重要な要素は何でしょうか?」というご質問です。
鳥潟:ありがとうございます。非常に重要な質問ですね。お話すると少し長くなりそうですが、私が自分の価値観やモノサシを定める際に大切にしていることをお伝えします。
まず1つ目は、私はよく古典を読みます。たとえば『論語』や哲学書、宗教書など、古くから読み継がれている本です。なぜかというと、こういった古典は、何千年も前から人間の本質を捉えているものが多いからです。『論語』などは約2,500年前に書かれていますが、いまだに読まれているということは、そこに人間の本質的な教えがあるからだと感じます。
こういった古典を読むと、「あ、これだよな」というように、人間としての根本的な部分が自分の中に抽出されてくるんですね。当たり前のことかもしれませんが、そこから自分が大切だと感じるキーワードをピックアップして、自分のモノサシとして定めています。
もう1つ大切にしているのは、自分の過去の経験や意思決定を振り返ることです。たとえば、自分が「これは正しい決断だった」と強く感じた瞬間や、「これは絶対に間違っていなかった」と確信できる出来事。逆に、すごく怒りを感じた瞬間などもそうです。
その時に自分がどう感じ、なぜそう思ったのかを振り返って言語化すると、自分の中で「人の可能性を信じること」が非常に大事な価値観だと気づきました。だからこそ、誰かが人の可能性を否定するような発言をすると、すごくイラッとするんですね。これが、自分のモノサシの1つだと感じています。
私はこのように、先人の知恵や自分の過去の経験から得たキーワードを定めています。実は今、自分の中で13個ぐらいキーワードを持っていて、毎朝それを確認し、自分がちゃんと意識できたかどうかを振り返っています。少しマニアックかもしれませんが、そうすることで自分のモノサシを日々再確認しているんです。もちろん、できない日も多いですが、意識することが大事だと思っています。
司会者:ありがとうございます。多くのご質問をいただいてる中、大変恐縮ではございますが、お時間となりましたので、Q&Aのお時間は以上とさせていただきます。多数のご質問をいただき誠にありがとうございました。
鳥潟:ありがとうございました。
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