話が盛り上がらない人は「抽象化」が苦手

久保:荒木さんはよく著者の方と対談されますけれども、本を1回ばーっと読んでおいた上で、「ここを聞きたいな」というポイントをあらかじめ定めている問いもあるし。もし相手の方の問いがおもしろかったら、設計した問いは捨てて、その方の話をぐっと深掘りするみたいな柔軟性を持っていますね。

荒木:僕は問いすら用意していないですね(笑)。

久保:そうなんだ。もうそれは習熟ですね(笑)。

荒木:その人の自己紹介とか、「この本についてちょっと軽く話してもらえますか?」という話をして、「なるほど。この点はめっちゃおもしろかったです」と、最初の5分くらいでラポールを築く。その上で、「でも、今おっしゃったところですごくおもしろい予想外のポイントがあったんですけど、そこからいきましょうか」という感じでやっていく。

久保:へぇ。なるほど。

荒木:けっこう大事なのは、質問を用意しておくと、「今ここ」に集中できなくなるんですよね。今その人がどういう表情をして、何を語っているかに意識が向かなくなって、「えっと、この次は何を聞いて、何を聞けばいいんだろうか?」という過去のことに意識が向き始めちゃう。

久保:確かに。

荒木:その場の空気をベースに何かを生み出せれば、最高です。ただ、いきなりそれができるかっていうと、そんなことではないので。ファシリテーションの行為というのは、広げる・深める・展開するみたいなことがある。

問いを固定しながら意見を広げるとか、意見を深めるとか、問いをもうちょっとずらしていくとか、いろいろやり方がある。あと、けっこう大事なのが、問いの「抽象度」みたいなこと。これは講座の中でもやっていくんですけど、スキルとしてはめちゃくちゃ重要で、これがないとたぶんファシリテーションというか、普通の対話で苦しみます。

「話がうまくつながらない、続かない」とか「雑談ができないんです」という人の基本的な症状は、抽象化ができないということにあると僕は思っています。

「イヌです」「ネコです」「ロボットです」と出てきた時に、「なるほど! 動くものですね!」とかで括れるかどうか。別にこういう括りじゃなくてもいいんですけど、「目があるものなんですね」とか、何でもいいんですけれども、抽象化がぱっとできるかどうかによって、話の盛り上がり方は変わってきます。

バラバラな意見が出てきた時のテクニック

久保:確かに。荒木さんがいろんな方のお話を聞いて、聞いている私たちにすごく合わせた抽象化をしてくださる。そこがすごくフィット感があるのは、ここを見極めているからなんですね。

荒木:そうですね。これは実は思考訓練としてけっこう重要なので、ぜひみなさんにもトレーニング期間にやってもらいたいんですけれども。先ほどの「イヌ」に対して、ある程度考えられていないと、共通項がなかなか見い出せないんですよね。

だから、これは「動くもの」と抽象化をしていますけど、そこまで抽象化しない、具体のレイヤーで共通項が見つかったら、それはそれでおもしろいものになっていくわけです。だから、そういうところをギリギリまで探っていくこと。

あと、一見バラバラな意見が出てきた時、「なにこれ、意味ないじゃん」と(思いますよね)。「我々は動くものについて議論していたわけで、めっちゃ大事なことだよね」と(なりますが)、その抽象度で終わらせずに、今度はまた問いを展開していく。「動くものが動かなかった時、私たちに求められることって何だと思います?」とか。

久保:おもしろい問いですね。

荒木:「今までは同じ議論をしていたよね。それを(角度を変えて)ちょっと深めていこうよ」と問いを変えていくのもスキル、テクニックです。

この後、いくつかばーっと話して、もうフリーにやっていきたいんですけど。比喩とか引用も、実はファシリテーターにとってめちゃくちゃ大事なスキルです。「比喩ってどういうふうに作るの?」という話とか、具体的に「ファシリテーターとしてどういうふうに働き掛けていくの?」という話です。

「本を使う場合はどうするの?」とか、「学びの抽出はどうするの?」とか、「学びの『選球眼』ってけっこう大事なんだよ」ということを講座でやっていきます。

久保:チラ見せだけど、すごいですね。

メンバーが白けてしまうファシリテーターの行動

荒木:ここからは、久保さんなり参加者の方が、どのへんに興味があるのか。

久保:参加者の方が適宜質問を入れてくださっているので、まずはそこをスッキリさせていくのがいい気がしますね。質問で「ファシリはあらかじめ落としどころを想定するのでしょうか? それとも参加者の顔によって、行き当たりバッチリ(それほど計画せずに 成り行きにまかせて意思決定することで、想定外の良い経験を得ること)ですか?」というのもありますね。

荒木:これは先ほどの話と近いんですけど、要するに会議の目的次第ですよね。もしくは対話の目的によります。やはり、「こうでなくてはならない」「この場でこう決めなければならない」という使命を帯びた場を、ファシリテーション的に実現することもあるんですよ。

本来はそういうのって「プレゼンでやればいいじゃん」という感じなんだけど、「みんなの意見を汲み上げながら、最終的に共通合意に至りたい」と、経営者の方からお題をいただくこともあるんですね。

「こういうメッセージを伝えたいんだけど、『みんなが生み出した』というかたちでやりたいんだ」みたいな。めちゃくちゃ難しいお題なんですけど、それには問いの順序(を考える)。そこはけっこうしっかり設計します。

ただ、これは諸刃の剣で、あまり意図を感じられちゃうと、白けてしまうわけです。なので、そこのやり方はすごく工夫します。一方で、まさに「行き当たりバッチリ」でやる場合も多いし、僕はどっちかというとそっちのほうが多いんですけどね。

ぬるっと論点が変わっていく会議

久保:先ほど「意見を広げる」「掘る」という図もありましたけど、良いご意見に対して深く掘るのか、横に展開するのかというのは、どのポイントで見極めているんでしょうか。

荒木:まずは意見に着目する前に、問いに着目するんです。「その問いに価値があるのか?」を考えます。その問いに価値があるんだったら、まずその答えにちゃんと向き合う。その答えの抽象度が高ければ、「それっていい意見ですね。でも具体的にどういうことをやっていくんでしょうか?」みたいな。

久保:なるほど。

荒木:「だいたい意見が飽和しちゃっている感があるな。でも、なんかまだ言い足りなそうな顔の人がいる」という時は、「他の意見はありますか? タナカさん、ご意見はどんな感じですか?」と振ってみると、「いや、実は言いにくいんですけど、私はあんまりそこに納得いっていないんですよね」という話になったりして、「お、きたきた」という感じになったり。

その時、その場を見極めた上で、問いをずらさないことが大事です。タナカさんに急に振った時に、タナカさんの勢いがありすぎて、問いがずれちゃうことってあるんですよ。

久保:あります、あります。

荒木:問いがずれちゃった時に「もうそっちの問いにいっちゃっていいかな」と思ったら、別にいいんです。「問いが変わりましたね」と確認しながら、その問いに対して「タナカさんの意見はこうですね」と整理をしてあげるのがファシリテーターの大事な役割です。それを、問いがずれているにもかかわらず……。

久保:ぬるっといっちゃ、ダメなんですね。気持ち悪いですよね。

荒木:問いが変わったのに「タナカさんも同じ議論をしているよね」という感じになると、「何を話しているんだっけ?」となっちゃう場合があるので。ファシリテーター不在の会議では、それがけっこうよくあるんですよ。だから、ぬるっといかせない。「なるほど。タナカさんはそういうご意見なんですね。まず、今問いそのものが変わったので、ちょっと確認しておきましょうか」とか。

「今これをやるべきかどうかって話をしているんですけど、そもそもタナカさんが持っている問いはそうではなくて、こういう問いですよね。それに対してこういうご意見だったんですけど、じゃあここはもういいですかね?」みたいな。

「議事録を取りづらい会議」の原因

久保:それをやってくれると本当に気持ちいいですね。議事録を取れない会議ってあるじゃないですか。それは問いがたぶんクリアじゃないということなんですね。ぬるっと、どんどん次の論点にいっちゃっている。

荒木:だから「問いが違います。この問いとこの問いの関係は、こういう関係です」と。「並列の関係です」とか「順列の関係です」とか、そういうのまで整理できるといい。「これをやったから、我々はこの問いにいけるんだよね。オッケー、オッケー」と関係を示します。

久保:なるほど。もう1個、参加者の方からの質問です。「学びを生み出す場所の典型的なシーンとして、学校がありますよね。今の学校は不登校が増え続けている空間へと化しています。学びを生み出すことが難しくなっているなと感じます。子どもたちが積極的に楽しく学べる学校へと作り出すために、大人はどんな取り組みが必要でしょうか」と。

ちょっと広めの問いかけではありますけど。荒木さんは子ども向けのセッションをされたり、今は大学生に対しての授業もやっていらっしゃいますが、ここで考えていることはありますか?

荒木:こういう時も、「この問いは、今のこの全体の中でどういうふうに位置づけられるのか」をまず考えて、答えるか・答えないのか。答えるんだとしたら、時間配分をどれくらい深めていくのかを考える必要があるわけなんですね。

「子どもと大人」という話になった時に、習熟度が合わない人たちに対してどうやって向き合っていくかみたいな抽象度に変えれば、大人の会議の話でも盛り上がる議論になる。

久保:確かに。

荒木:ただ、子どもの教育にあんまり問題意識がない人が今日集まっていたとしたら。僕がそこで「子どもに働き掛けるには、この3つが大事なんです」と言うのは、時間のロスになったり、その人だけの対話になっちゃう可能性がある。その問いの抽象化の可能性と、今ここで答える価値を考えるのが、ファシリテーターの大事な役割だと思います。

久保:なるほど。

荒木:ちょっとだけ今のご質問にお答えするならば、大人の働き掛けが大事なんです。やはりラポール、共感を築くところが極端に欠けている。つまり、何かを言える空間であることが大事なんですが、それができていない場合が多いですよね。

どちらかというと、子どもが聞く場であるみたいな。そういうふうになってしまっていると、「対話」を覚えられない子どもたちが出てきている可能性がある。僕は、子どもの教育はぜんぜん知らないので適当なことを感覚論で今話していますけれど、そんな気はしています。

ファシリテーターの「唯一の失敗」とは

久保:「『ファシリに失敗したな』と思うのはどんな時ですか」という質問もあります。荒木さんご自身も「失敗したな」と思う時はあるんでしょうか。

荒木:いっぱいありますよ。

久保:最近では、どういう時に難しさや失敗を感じますか?

荒木:僕は最近、ある種Voicyの対談とか、コメンテーターや何かで呼ばれて対話役とか、「企業の社長と何かやってくれ」みたいな場が多いんですが、ファシリテーターの失敗というのは、唯一「その場の目的を達成できなかった」という時。

つまり、これもけっこう大事な問いなんですけど、ファシリテーターは「みんなが気持ち良く会話をしたかどうか」は、あんまり重要じゃないんですよ。ファシリテーターはミッションを持っていますから。

「答えをみんなで出し切るのがこの会議の目的です」というミッションがあったとして、それがお通夜みたいな状態で楽しくなくても、みんなで議論して答えを出せたら合格なんです。だから、「その場の目的はいったい何なのか」ということですよね。

ちなみに、うまくいかないっていうのは、例えばVoicyの対談でいくと、やはり「その人の魅力を伝え、そこから学びを生み出していく」というのが、僕にとっての大事なことなんですよね。「はじめまして」「今度、こういう本を書きました」「ああ、おもしろそうですね」と言って。

初めて出会った人と1時間くらい対話する中で、「その人の魅力やメッセージを十分引き出せたかどうか?」「その上で、そこでしか出せない学びをちゃんと引き出せたか? 見つけられたか?」。

この2つの問いが、僕のVoicyのチャレンジなんですけど、これがうまくいかなかった場合はあります。だから、相手の人はめっちゃ朗々と楽しげに話しているんだけど、「なんか話に学びがないな」という状態の場合もあるかもしれない。もしくは、その人の魅力がすごくあるのに、自分が違う方向にいっちゃって引き出せなかったというのが失敗。

なので、オールマイティな失敗があるわけではなく、その目的をしっかりできたかどうかがポイントですね。

久保:なるほど。随分クリアになってきました。他にもご質問をいただきましたが、時間もクロージングに迫ってきました。荒木さん、ありがとうございました。