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袴田弁護団会見(2024年9月26日)(全6記事)

【全文4/6】袴田事件、判断を誤った裁判所の責任をどう見るか? 偏見がおかしな審理を招く…弁護団が根本の問題を指摘

1966年6月、静岡県で一家4人殺害事件で死刑が確定した袴田巌氏の再審=やり直しの裁判で、静岡地裁は「無罪」判決を言い渡しました。2024年9月26日に行われた、姉・袴田ひで子氏と弁護団が出席した会見の模様を全文でお届けします。

無罪判決、58年の苦労が吹っ飛ぶくらいうれしかった

質問者9:読売新聞のヨシダです。ひで子さんにおうかがいします。今の質問とちょっと似ているんですけれども、「被告人は無罪」という言葉を聞いて、まさに神々しく聞こえたと。これまでの58年に及ぶ戦いで、何か思い出す特につらかった場面というか、特に印象的に思い出した場面はあったでしょうか?

袴田ひで子氏(以下、袴田):58年は、知らないうちに過ぎましたね。再審開始になった時に、昔の苦労をすっかり忘れちゃったんですよ。そのぐらいの気持ちがありましてね。

今回はまたそれにも増して、無罪という判決をもらいましてね、本当に58年なんか吹っ飛んじゃったみたいな気がするんですよ。58年というのは長い歳月です。そんな忘れるわけはないですが、ともかく吹っ飛んじゃったぐらいうれしく思っています。

(会場拍手)

質問者9:ありがとうございます。もう1点。以前に取材で、ひで子さんが「巌さんは今、最も華やかなりし頃だった23歳で時間が止まってしまっている」というお話をされたことがあったと思います。今回の無罪判決で、巌さんが止まった時間は動き出すとお考えですか?

袴田:やっぱり自分でね、袴田巌は年を取ると何とかと言っておりますのでね、来年(2025年)の3月になって誕生日が来てみないとわかりません。あくまでも23歳って言い張ると思います。

質問者9:ありがとうございます。

ひで子氏が着用している「ベージュのジャケット」の意味

質問者9:最後にすみません。今日はお召し物がベージュのジャケットで、白いブラウスが非常にすてきだと思うんですが、10年前のベージュ色のジャケットをお召しなっていたかなと思います。それも、験を担いで同じジャケットにされたということはあったんでしょうか?

袴田:ベージュのジャケット。いつでも再審開始になったら、あまり黒っぽい服装はしないように白で通そうと思っていたんです。だから、ちょっと白を混ぜて着ております。黒は着ないようにしております。

質問者9:それは無罪の白ということですよね。ありがとうございます。

司会者:申し訳ないですが、あと2人ぐらいで終わりたいと思います。先ほどから(手を)挙げられている、毎日新聞のアラキさんでしたっけ。

質問者10:毎日新聞のアラキです。ひで子さんに2つと、小川先生に2つ、それぞれ質問があります。まずひで子さんに質問をさせていただきたいんですが、先ほど「お母さまに無罪を勝ち取ったと言いたい」とおっしゃっていましたが、もしそういうふうに伝えられたとしたら、お母さまはどのように答えられると思われますか?

袴田:それはね、死んだ人ですのでね、何とでも言えるんですよ。だけど、そういうことはあんまり私は信用しないと言うとおかしいが、生きている者でないと信用いたしませんので、ご想像にお任せします。

質問者10:ありがとうございます。

(会場拍手)

拘禁症を患う巌氏の今後について

質問者10:あともう1つ。「巌さんに目を見て伝えたい」とおっしゃっておりましたが、巌さんにお伝えしたことで、巌さんが今後どういうふうになってほしいなとか、巌さんの今後についてどういうふうにお考えでしょうか?

袴田:拘禁症(拘束された状況下でおきる独特の異常な反応のこと)はなかなか治らないというので。「コロッと治る」ってみなさんはおっしゃってくださいましたけどね、コロッと治るどころじゃなくて、後遺症で「ちょっとひどいな」と思うぐらいになっているんです。出てきた当時は「案外まともかな」と思っていたんです。それが、だんだん「どうも変だなぁ」と思うようになりましてね。

だから、急に治せるとは思っていません。だけど、徐々に良くなってはいると思う。だから、何年生きるかわかりませんが、元通りにはちょっとなりかねると思うけど、少しずつでも良くなってくれればいいと思っております。

質問者10:ありがとうございました。あと、小川弁護士に2つほどおうかがいしたいんですけれども。

今回の裁判が始まる時にも、ひで子さんが「真実が知りたい」と、よく記者会見などでおっしゃっていると思うんですけれども。今回の裁判でいろいろと真実が見えてきたのか、それともまだまだ見えないところがあるのか、弁護団としてどういうふうにお考えでしょうか?

小川秀世氏(以下、小川):残念なところではありますが、私はまだ、この事件の本当の問題は十分に解明されたとは言えないと思っています。ですからそういう意味では、先ほど申し上げた国家賠償という方法も考えなきゃいけないのかなと思っています。

質問者10:ありがとうございます。

今回の裁判所の対応で評価している点

質問者10:最後の質問です。本日の説諭の部分なんですが、裁判所からの検察への不信といいますか、なんとなく控訴へのけん制にも聞こえるような部分があったかなと思います。そういった点について、説諭についてはどのように評価されていらっしゃいますでしょうか?

笹森学氏(以下、笹森):私たちの理解では、「『真の自由を与えてくれ』とあなたは言ったけども、私たちは判断をすることしかできなくて無罪判決を出した。無罪判決は確定しなければダメなんだ」ということを言ったので、「あとは検事がどうするかだ」ということを言外に含んでいると、理解をしました。

だから、「あなたに真の自由を与えなかったら、そいつは検事のせいだ」っていう。

(会場笑)

笹森:あと、ついでに言いますけど、みなさんに判決をよく読んでもらいたいんです。この裁判所は、なぜ捜査機関が証拠をねつ造したのかを裁判所なりに分析しています。今までも静岡地裁と東京高裁が「ねつ造の疑いが強い」と言ったけれども、その理由までは言っていないです。

裁判の進行とか、彼らが持っている証拠の内容からして、彼らはここまでやるしかなかったんだということを、43ページ以下できちんと説明していることはとても評価できる。だから、単に口先だけで「ねつ造かな?」みたいなことを言うと検察官も怒るので、「確定一審の裁判の流れで、第13回で、吉村(英三)検事がこうしていたのに、これに飛びついてやりました」とか。

そういうようなことを判断しているのは、今までの2つの裁判所とはぜんぜん違っているので、そこをよく読んであげてほしいかなと。私は読んで、すごく評価できることじゃないかなと思っています。

質問者10:ありがとうございました。

判断を誤った裁判所の責任をどう見るか?

司会者:すみません。あとは女性の方と、こちらの方だけで切りたいと思います。あとで弁護人に1人ずつ話してもらいますので。なんか同じ質問が繰り返されているような気がしてならないので、もうちょっと具体的に、今までの方と違う質問をしていただきたいんです。

質問者11:共同通信のヤナギサワです。小川先生におうかがいしたいんですが、今回、確定審で有罪立証とされた証拠が「ねつ造」と言及されて、ある意味、有罪立証が覆りました。そういった裁判所の責任に対しては、小川先生はどのように考えておりますでしょうか。

小川:確定審が判断を誤っていたという、そういう意味での責任ということですか?

質問者11:そういうのもそうですし、その証拠で1人の人間を死刑と判断を下してしまった裁判所の責任。捜査機関も含むんですが、それ以上にも、やはり裁判所にも責任があるのかなと私は個人的に考えているんですが、小川先生はどのように考えていますか?

小川:その点に関しては特に……特にというか、自白についてもそうですよね。検察官の当日の45通の自白調書があって、私はこれは日付が変更されたと思っていますが、9月9日の検面調書だけを証拠採用したというのは、あまりにおかしな証拠採用の仕方ですよね。

そういう意味では、これは熊本(典道)元裁判官も言っていたことですけれども。9月9日の調書がなければ認定ができない部分があったから、そういう技巧的な、おかしな認定をした。他の自白調書はすべて自白の強要ということを言っているのに、検察官の調書だけを採用したというのは、まったくおかしなことだったと思います。

それから5点の衣類に関しては、もともと1年2ヶ月も経ってから発見された衣類が、その当時、きちっと「ねつ造の可能性がある」と普通に審理をしていれば、決して衣類が犯行着衣であって、袴田さんのものだなんていう認定には至らなかったと思いますので。

そういう意味では裁判所も含めてですが、非常に私が思うのは、本当に血液が付いていただけの、あるいはあそこから見つかったというだけで偏見を持ってしまって、おかしな審理、おかしな認定をしてしまったことは、本当に重大なことだとは思っています。

質問者11:ありがとうございます。

法律にきちんとした規定がないことが大きな問題

質問者11:すみません。あともう1点おうかがいしたいんですけれども。説諭の際に、國井(恒志)裁判長が「裁判所として審理に時間がかかってしまったことは、本当に申し訳ない」と言っていたと思うんですが、審理の長期化に関して國井裁判長がこのように言及したことに対して、どのように評価されていますでしょうか。

小川:実際、58年かかっているわけですから、それは本当に長期すぎると思いますけれども。僕はどちらかと言えば、裁判所の責任というよりは、法律にきちんとした手続き、規定がないことが1つ大きな問題だとは思います。

やはり何と言っても、証拠が隠されていた。実際に証拠が出てきてからは、どんどん審理が進行したわけですから。1次再審の時にはまったく証拠開示がなされないまま審理が停滞していたわけです。そういう意味では、証拠開示が認められていなかったことの影響が大きいと思います。

そういう意味では國井裁判官は、僕の理解では、本当に最後に判断をする立場の方として、そういうことを含めたかたちでおっしゃったんだろうと思っています。

質問者11:ありがとうございます。

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