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「AIが答えを出せない 問いの設定力」著者、鳥潟氏に学ぶ AFTER AI 時代に求められる能力とは(全6記事)

部下にいきなり「どう実現するの?」はNG マネージャーの「問いの設定力」を高めるフレームワーク

業界業務の経験豊富な「その道のプロ」に、1時間からピンポイントに相談できる日本最大級のスポットコンサル「ビザスク」。そのビザスク主催のセミナーに、『AIが答えを出せない 問いの設定力』の著者で、グロービス経営大学院 教員の鳥潟幸志氏が登壇。問いの設定力を高める5つのポイントや、リーダーとしての問いの向き合い方などが語られました。

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問いの設定力を高めるための5つの考え方

鳥潟幸志氏(以下、鳥潟):ここからは問いの設定力について具体的に見ていきます。書籍の中では、問いの設定力を高めるための5つの考え方を紹介しており、そのうちの2つが「視座」と「視点」です。これを(スライドの)縦軸と横軸に整理しています。

やみくもに問いを立てるのではなく、ある程度フレームや思考の枠組みを身につけた上で経験を積むことが重要です。

縦軸の「視座」について説明します。例えば、新卒1年目の営業マンがいて、「どうやったら営業スキルを上げられるか?」や「どうやったらより早く結果を出せるか?」と問いを立てたとします。そうすると、営業スキルを高めるための情報を集めたり、そのための行動を取るようになるわけです。

一方で、視座を会社全体に置くと、「我が社の戦略は正しいのか?」や「ビジョンは大丈夫か?」といった問いが出てくるでしょう。これ自体は悪いことではありませんが、ここで「間接」と書いているのは、自分が直接影響を与えられない領域に問いを立てて悩んでも、効率的ではないということです。

そうした場合、どこに問いを置くべきか、どの視座で問いを立てて考え、行動すべきかという視点が重要になります。たまには高い視座を持ち、広い観点で物事を見ていくことも大事ですが、今、目の前で答えるべき問いは何かという観点から、縦軸で整理しているわけです。

次に横軸は、問題解決の適切な順番に沿っているかどうかです。よくあるのは、問題が発生した時に、いきなり「どう解決すればいいか?」を考えてしまうことです。私もつい考えてしまいますが、要因がわからなければ解決はできません。まずは問題をきちんと定義しなければならない、ということです。

つまり、「どこに問いを置くか」をフレームに基づいて意識し、経験を積んでいくことで、適切な思考と行動が促されるようになるのです。

どの順番で、どう問いを設定すべきか

鳥潟:具体的な事例を挙げます。今日はリーダーの方(の参加)も多いとうかがっていますので、あえてネガティブな状況を例にしてみます。例えば、メンバーが退職を申し出てきた時、リーダーとしては「うっ」と思いますよね。この時に、まずどのような問いを頭に浮かべるかが大事です。

よく出る問いとしては、「どうすれば引き留められるのか?」というものがあります。これは「How」に近い問いですね。あるいは「なぜこの人は退職を申し出たのか?」とか、「そもそもこの人が辞めることは、会社や組織にとって本当に問題なのか?」という問いも考えられます。

例えば、「この人が辞めることはそれほど問題ではないかもしれない」という結論に至った場合、その後に続く問いはまったく変わってくるでしょう。引き留める必要がないならば、そのための行動は取らないことになります。

このように、問いをどこに置くかによって、その後の行動が大きく変わるというわかりやすい例です。また、視座を会社全体に広げれば、「会社の制度に問題があったのか?」や「チーム内での問題はなかったのか?」といった問いを立てることもできるでしょう。

しかし、ここで難しいのが、どの順番で、どのように問いを設定すべきかということです。これが非常に重要であり、能力開発にもつながるポイントです。グロービスや書籍でお勧めしているのは、まず「自分」と「問題」の定義から始めることです。

例えば、誰かが退職を申し出た時、「Aさんの退職は自分にとってどのような意味があるのか?」と問いを立ててみることが有効です。リーダーとして、まず自分の立場を考え、そこから動き出すというアプローチです。

さらに、「自分にも要因があったのかもしれない」と考え、次に何を変えてどう対処するのが良いかを問い、その後にチームや組織に原因を求めていくという順番が効果的だと考えています。

よく、常に組織側に問題を置いてしまうリーダーもいます。しかし、それではリーダーとしての成長が阻まれ、本質的な問題を見失う可能性があります。だからこそ、まずは自分に問いを置くことが重要だと定義しています。

リーダーとして問いにどう向き合うか

鳥潟:このような問いのフレームワークを意識した上で、「リーダーとして問いにどう向き合えば良いのか?」という点について、4つに整理しています。「方向付け」「解釈」「進化」「背景探索」と書いていますね。

「方向付け」とは、リーダーが答えるべき問いを設定し、思考を進めることです。これは、先ほど説明したように、自分がどこに問いを置くかという話です。「解釈」については、メンバーが発言したことの裏にある問いを読み取り、適切に軌道修正してあげることがリーダーとして重要だと思います。

これは、急な環境変化やトラブルが起きた時に、頭に浮かぶ解決策に飛び込むのではなく、一度俯瞰して、今どの視座で問いを立てるべきか、どこから思考を深めるべきかを考えるということです。

例えば、部下が「こういうふうに対処したらどうでしょう?」と聞いてきた時に、「今、この人は解決策のことを考えているな」と感じたら、「ちょっと待とう。まずは『問題って何だろう?』から考えよう」とナビゲートすることができます。また、「あなただけの問題ではなく、会社全体の問題としても考えられるよね。だから会社の視座で一度考えてみよう」と導いていくことも大切です。

AIが苦手なのは「広げる」と「反論」

鳥潟:「進化」というのは、メンバーやステークホルダーの発言を基にして、問いを進化させていくことです。これについても書籍で紹介しています。

例えば自分が思いついたことや部下の意見を「初期回答」として、真ん中に置くイメージです。そこから「1.広げる」「2.深める」「3.反論」「4.抽象化」というプロセスを通して、問いを使って意見を広げたり深めたりすることができます。

私が大学院でインタラクティブな授業を行う時も、同じように活用しています。例えば「これについてどう思いますか?」と聞くと、「Aです」と答えが返ってきた時に、「なるほど、Aはわかった。他に意見はありますか?」と問いかけると、他の受講生からもいろいろな意見が出てきます。また、「なぜAだと思うんですか?」と質問することで、その理由をさらに深掘りできます。

さらに、A寄りの意見が多いと感じた時には、「Aは理解しましたが、あえて反対の意見や反論はありますか?」と問いを立てることで、異なる視点が生まれ、結果としてより良い意見が引き出されることがあります。

最後に「抽象化」というのは、具体的な意見がたくさん出た時に、「今出た意見に共通するものは何か?」「つまり、何が言えるのか?」「この状況をどう解釈するべきか?」と問いかけることです。抽象化を促すことで、議論を整理し、全体の本質を見つけることができます。これは少し難しいですが、問いをうまくコントロールすることで、多様な意見や思考を引き出せる良い例です。

このようなプロセスは、AIにはまだ難しい部分が多いと感じます。私が英会話をAIで練習している時や、ベンチャーマネジメントの授業でAIに質問してみると、AIは深掘りする問いには強いのですが、「広げる」や「反論を促す」といった部分ではまだ弱いと感じます。もちろん、プロンプトを工夫すれば改善できるかもしれませんが、現状ではAIにとってはまだ不得意な領域だと感じています。

部下にいきなり「どう実現するの?」はNG

鳥潟:次に「背景探索」についてですが、これは非常に重要だと思っています。部下から突拍子もない意見が出た時に、「それはダメだ」とすぐに切り捨てるのではなく、その意見の裏にある背景を探り、発展させていくようなアプローチです。この点については書籍でも例として挙げています。

例えば、私が実際に経験したことですが、「理想のオフィスは何か?」という議論を上司と部下でしている時に、部下の1人が半分冗談で「オフィスにドラえもんがいたらいいよね、楽ができるから」と発言した場面がありました。

1人目の上司は「How型」の問い、「それをどう実現するの?」と返しました。「ドラえもんをどうやって実現するのか?」と聞かれると、現実には不可能なため、場がチーンとなり、他の部下たちも発言しづらくなってしまいました。このように、実現可能性に焦点を当てた問いが前提になると、意見が出にくくなります。

一方で、2人目の上司は「Why型」の問いを使いました。「なるほど、ドラえもんね。おもしろいね。なぜドラえもんがいいと思うの? その背景を聞かせて」という具合です。そうすると部下は、「私たちの仕事には専門性が必要で、困った時にドラえもんのように専門知識をすぐに教えてくれる存在があれば助かるんですよね」と答えました。

そこで上司は、「なるほど、わかった。ドラえもん自体は実現できないけど、言っている目的は、困った時に専門知識を教えてくれる存在が欲しいということだよね。じゃあ、ドラえもんじゃなくても、その目的を達成できるアイデアはないかな?」と、議論を発展させました。

このように、背景にある意図や目的を掘り下げることで、意見をさらに引き出し、具体的な解決策に導くことができるわけです。

例えば、「クラウドソーシングのようなサービスを契約したらどうか?」とか、「ビザスクさんのような専門家にいつでも相談できるように契約しておけば、ドラえもんがいなくても目的は達成できるんじゃない?」といった具合に、議論がさらに派生していきます。そこから具体的な手段についての議論が進むわけです。

こうしたプロセスを踏むことで、部下は非常にモチベーションが高まります。「自分のちょっとした意見が、ちゃんと理解されて発展させてもらえた」と感じるからです。

ここで気をつけなければならないのは、議論のフェーズです。初期フェーズでは、特にWhy型の問いが有効です。しかし、最終的に議論をまとめて決定するフェーズでは、当然How型に移行する必要があります。最初からHow型でいくと、意見が出てこなくなってしまうということです。

このような流れを理解していただけると良いかと思います。実際、多くの上司はHow型の問いに偏りがちです。ここまでが「問い」に関する話になります。

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