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大企業の組織風土改革〜イノベーティブな機運づくり(全6記事)

“絶対にうまくいかなくなる新規事業の進め方”とは 大企業の組織風土を変えるためのはじめの一歩

「Cross the Boundaries」を旗印に、日本最大級のスタートアップカンファレンスIVS(インフィニティ・ベンチャーズ・サミット)が2024年も昨年に続いて京都で開催されました。本セッション「大企業の組織風土改革〜イノベーティブな機運づくり」には、渡瀬ひろみ氏、椿奈緒子氏、原田未来氏、麻生要一氏の4名が登壇し、トークセッションが行われました。大企業で新規事業を成功させるため“第一歩”について語ります。

前回の記事はこちら

イノベーティブな会社は“役員のフットワークが軽い”?

渡瀬ひろみ氏(以下、渡瀬):みなさんが実際にいろんなお客さまと接していて、「この会社はなかなかイノベーティブだな」ってお思いになられる会社はどんな会社ですか? 差し支えなければ、社名を言っていただいてもけっこうです。どのようにしてそういう会社が出来上がったとお思いになられますか? じゃあ原田さん、どうぞ。

原田未来氏(以下、原田):いやぁ……会社にイノベーティブってないなと思っていて。確かに部署として、新規事業部門がめちゃくちゃ活発だねっていうところはあるけど、「いい会社ですね」ってほかの人に言うと、「いや、あそこ(の部署)だけですよ」みたいな話がやっぱりあるので。全部がイノベーティブって、正直見たことないなと思います。

ただその中でも、部署単位で「この会社は」と思うのは、役員の人がフットワーク軽いというのはあるかもしれない。勝手に現場に降りていって、現場の人と話し込んでいるみたいな人がいると、なんか素敵だなって。

ある会社の新規事業部の部長さんが、メンバーがレンタル移籍しているベンチャーのマンションの一室にたい焼きを持って遊びに行ってたんですね。「がんばれよ」って。そういうことを自然とやれちゃう会社は素敵だなって。

渡瀬:それは素敵ですね。椿さん、いかがですか?

椿奈緒子氏(以下、椿):会社によって、良いところのパターンが違うことが多いなって思っていて。例えばすごくいい人が多い会社で、新規事業をやる上でヒアリングをすると、たくさん協力者が生まれてくる。特にメーカーさんが多いですね。

消費材系メーカーさんはマーケ人材が多いからなのか、すごく協力してくれる社員さんが多い。そこはすごくいいなって思います。

あとやはり速いのは、原田さんが言ったように理解がある役員がいる会社。実行力のある、フットワークが軽い役員がいると、事が起きやすい。サイバーエージェントもそうだと思うんですが、動くというのは大きな特徴かなと思います。

渡瀬:ありがとうございます。椿さんは「役員のフットワークが軽い会社」ということで、原田さんもおっしゃっていましたが、役員が自らあちこち動いてらっしゃるって本当にそうだなと思っていて。

社内でイノベーションを起こすためには

渡瀬:下手すると役員の方々って、役員専用のエレベーターで下に降りると、地下1階の車寄せに車が来て、運転手がガチャッと降りてきて、ドアを開けて乗って帰っちゃったり。もう電車に乗らないから、今、電車の中がどういう状態かをご存知なかったりします。

当然、自分でUber Eatsを頼んだこともないし、「ギグワーカーって働いてる人はどんなやつなんだ?」というのも見たことがない、みたいな。そういう人たちが新規事業の審査をすると何が起こるかというと、「そんなやつはおるんか」「そんなこと、みんなしたいんか?」みたいな感じになりがちなんですよね(笑)。

椿:あるある(笑)。

渡瀬:なのですごく大事なのは、新規事業の審査を社内の役員会だけでディスカッションするのではなくて、ここにいるような人たちをぜひ呼んでいただいて、ちゃんと外から「この事業は良い。なぜなら……」という声を届けると、すごく雰囲気が変わってくると思います。

私もよく役員会に呼ばれて、一緒に審査に参加することがあるんですが、「〇」「×」「△」をつけるんです。役員全員が「×」をつけてるんですが、私だけ1人「◎」をつけてる事業があって。私にしか見えてない風景と背景の情報があるんですよね。

なぜ私が「◎」にしたかというお話をして差し上げると、「×」つけてた役員の方々が「そうか!」と言って、パタパタっとオセロみたいにみんな「〇」「〇」「〇」になって、それで「じゃあ二次審査を通過しよう」みたいなこともあったりしますからね。

椿:(外の意見は)本当にすごく大事ですよね。ただ、それこそ社外取締役の役割というか、『虎に翼』の寅ちゃんじゃないですが、おかしいことを「はて?」と言って、なぜおかしいのかとちゃんと説明できる人が外から入ることで、新しい発見と理解のスタートになる。これ、イノベーション的にもけっこう重要です。

“役員の好き嫌いで審査が起こらない場作り”に有効な手段

麻生要一氏(以下、麻生):その観点でうちがやってるのが審査意見書という手法で、審査会の意見をコントロールするんですよ。コントロールって言うと言葉は悪いんだけど、変な役員の好き嫌いで審査が起こらないような場作りをするために有効なんです。

渡瀬さんがおっしゃっていた、掘ってない情報量と「この評価の仕組みはこうだよ」というのを、審査会のその場で言うよりも前に、審査会を始める最初に審査意見書を書く。

これは事務局とか外部機関が評価した「外的な審査機関からはこう見えてますよ」「この項目はこの理由でも〇」「この項目はこの理由で△」というのを、先に審査員に解説するんです。そうすると「そのロジックで評価されたのね」という情報を持って審査するから、変なことを言えなくなるんです。

渡瀬:それはナイスアイデアですね。みなさんも、そういうのをぜひ使ってみてくださいね。

麻生:先にしゃべらせないというパターン(笑)。

渡瀬:ありがとうございます。

大手企業とスタートアップのアライアンス成功のカギ

渡瀬:そろそろ締めの時間も近くなってきてるんですが、会場から「これを質問してみたい」という方はいらっしゃいますか? なかなかこういうところで質問する勇気は……。

(会場挙手)

渡瀬:あっ、どうぞ。

参加者1:お話ありがとうございました。僕は今、スタートアップのHRでアライアンスを担当してるんです。先ほど椿さんから「新規事業をする上でアライアンスをする」とうかがったんですが、アライアンスを組んでも、結局そのあとあんまり成果出ないことが多いと思っていて。

そのためにいつも重視してるポイントで、僕はふだんなるべくWin-Win-Winみたいな関係を作ることを意識してるんですが、それ以外であればうかがいたいです。

椿:ありがとうございます。大手企業とスタートアップのアライアンスの成功のキーで言うと、最初のキックオフとマイルストーンと数字的なKPIを、大手企業とスタートアップで一緒にちゃんと持つこと。

当たり前な話かもしれないんですが、意外になあなあになっちゃってやらないんですよ。たぶんほとんどが、立ち上げて終わり、リリースして終わりなんですよね。

ちゃんとお互いに責任者を作ってキックオフして、中間の報告会をやるという仕組みを最初にマイルストーンで作っちゃう。これをやれば、ほぼうまくいきます。スタートアップ側から提案してみてください。

参加者1:わかりました、ありがとうございます。

渡瀬:ありがとうございます。

絶対にうまくいかなくなる新規事業の進め方とは

渡瀬:ほかにご質問がある方はいらっしゃいますか?

(会場挙手)

渡瀬:はい、どうぞ。

参加者2:ありがとうございます。新規事業セクションじゃなくて、大企業の事業部の中でミニマムの新しいことを始めようとした時に、「チームでやれ」「組織でやれ」という話がよく出るんです。でもそれって、人を巻き込んで、その人にバッテンをつけちゃうかもしれないじゃないですか。

だからイノベーティブな人がある程度1人でやって、結果をちょっと出して、だんだん巻き込んでいったほうがいいと、やってるほうは思うんだけど、上の人から見ると「組織で」と思ったりするところもあるので、そのへんはどんな塩梅がいいと思います?

渡瀬:(その話は)麻生さんが強そうですね。

麻生:完全にそのとおりじゃないですかね。「チームでやれ」ありきで始めたら、絶対にうまくいかないから、1人でやるのがいいと思うんです。

めちゃくちゃ相性が良くて、考えてることが同じCEOとCTOみたいな関係になる共同創業者っぽい人が、たまたま横にいたらいいと思いますが、いないと思うので1人でやるのがいいと思います。

参加者2:がんばります。

麻生:がんばってください。

渡瀬:最近は「闇研」という言葉を知らない人が多くて、闇研がワークライフバランスの中でやれなくなってきてるのかなと、ちょっと思ったりしました。ぜひ闇研をがんばってください。

原田:(今の質問者は)レンタル移籍をして鍛えられた方です(笑)。本人が行かれたんです。

渡瀬:そうなんですか? それはそれは、ありがとうございます。

麻生:イノベーティブ人材になって帰ってきた。

原田:帰ってきて、困ってるということかなと思います(笑)。

渡瀬:ありがとうございます。

組織内で「共通言語」を探すことがポイント

渡瀬:では、ほかにご質問いかがですか? 本当にこんな機会ないよ。

(会場挙手)

渡瀬:どうぞ。

参加者3:ご発表ありがとうございます。レンタル移籍についてご質問したいんですが、私も個人的にすごくスタートアップに転籍したいなと思ってる一方で、そういった制度をやりたいと言っても、それを通すのがけっこう大変なんですよ。

私は公的機関にいるんですが、特に公的機関はそのあたりに厳しいと思うんです。農水省さんと警察庁さんにそういう取り組みをされたのって、どうやって説得されたのかなというのがすごく気になっております。

原田:ありがとうございます。うちの場合はぜんぜんそういうコネもなく起業したので、本当に「現場から上げていく」ということの連続だったんですね。

だけど人事とか、行きたいと思う個人が熱量を持って周りに話をしてくれて上げていくわけですが、実は今の役員クラスの方々ってそれに近い経験をしてる方が多いと思うんですよ。

まさに渡瀬さんもおっしゃってましたが、今の役員クラスの方が30歳ぐらいの時で、海外の子会社を作るとか、新規事業の調子がいい時だからガンガンやって、「自分も1人で買収した会社に乗り込んでいったこともあるんだよね」とか、「あの時のあれ」を持ってる人はけっこうたくさんいると思います。

それとひもづけてあげると「あぁ、そういうことね。あれは俺にとっても良い機会だったわ」っていうつなげ方ができるので。共通言語を探すのがポイントかなと。

参加者3:ありがとうございます。

渡瀬:ありがとうございます。

新規事業は「失敗しても成功」

渡瀬:では、そろそろフィナーレに近づいてまいりました。ここにいらっしゃる、新しい機運を巻き上げたいと思ってらっしゃるみなさんに、一言ずつ応援のメッセージをいただきたいと思います。椿さんからお願いします。

椿:ありがとうございます。とにかく打席に立たせること、自分が立つことを増やして、小さく始めてとにかくやることが、新規事業の成功……というか、失敗しても成功なので(笑)。

「やる」ということがキーワードだと思うので、じゃあ今日から何しようか? というのを持って帰っていただければいいかなと思います。どうもありがとうございました。

(会場拍手)

渡瀬:ありがとうございました。原田さん、お願いします。

原田:ありがとうございました。風土を変えるとか、文化を変えるとか、めちゃくちゃ大変だと思うんですよね。だから、時間がかかるところが本当に多いなとは思っていて。でも、それだけ価値があることだし、きっと周りにそういうことをやってくれる仲間がいるはずなので、そう思ってるということをいっぱい話すことじゃないかなと思います。

「いろんな挑戦するんだけど、ちょっと潰されちゃって」という話をすると、「何人に話したの?」「上司のラインの2人です」「え、それしか話してないの?」となったりするんですが、みんなに話すと「こういうことをやって、こういう会社にしていこうよ」という人が絶対に周りにいるので、それが大事じゃないかなと思ってます。今日はありがとうございました。

(会場拍手)

渡瀬:ありがとうございました。

大企業の変革は「たった1人」の行動から始まる

渡瀬:麻生さん、お願いします。

麻生:大きな組織の機運を変えるって、本当にめちゃくちゃ大変だと思うんですが、変えられるんですね。もう何回もやって変えてきてるので、変えられるということは確信めいてます。

出発点はいつだって、たった1人が変えようと思ったところから始まるんです。だから今は絶望されてる方がいらっしゃったとしても、今この場でみなさんが立ち上がって、いろんな力を得て「変えよう」ってやり始めれば、何年かはかかるかもしれないけど、必ず変えることができるので。

ぜひ立ち上がっていただきたいなと思いますし、その際に新規事業の立ち上げ方がわからないという方は、『新規事業の実践論』というすばらしい本がありますから、買って読んでいただいて。

(一同笑)

「勇気が出ないよ」という方は、 yoasoPが勇気の出る曲をYouTubeで流してますので聞いていただき、具体的に応援してほしいという方は、アルファドライブまでご相談いただければと思うので、よろしくお願いします。がんばってください。

(会場拍手)

渡瀬:ありがとうございました。では、私がラップアップさせていただきます。本当に素敵な方たちで、会社は変えられるし、当然世の中も変えられるって私も信じてます。信じてるし、その映像が思い浮かぶから、その映像を共有することで共感してくれる人が1人、2人、3人って増えてくるんですよね。

1つだけ、みなさんがすぐできることをお教えします。「勉強会を企画する」です。いいですか。勉強会をやりたいから広報をしたい、その勉強会に来たいという人は、きっとみなさんの同志になる可能性が高い。

「勉強会をやりたい」という社員の反対をする会社ってあんまりないんですよ。なので、小さくてもいいから勉強会からスタートする。そして1年後、2年後、3年後、僕たちが作ったこの流れ、機運。

今はなかったビジネスプランコンテストができるようになったら、「あの2024年7月に始めた『勉強会やろっか』から始まったね」と言えるように、ぜひみなさんも明日から仲間と一緒に小さなアクションをしてみてください。このセッションは以上で終わりとさせていただきます。ありがとうございました。

(会場拍手)

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