2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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「Cross the Boundaries」を旗印に、日本最大級のスタートアップカンファレンスIVS(インフィニティ・ベンチャーズ・サミット)が2024年も昨年に続いて京都で開催されました。本セッション「大企業の組織風土改革〜イノベーティブな機運づくり」には、渡瀬ひろみ氏、椿奈緒子氏、原田未来氏、麻生要一氏の4名が登壇し、トークセッションが行われました。本記事では、役員を納得させ、新規事業の提案を通すためのコツについて語ります。
麻生要一氏(以下、麻生):せっかく「機運」という話なので、僕の持っている情報をみなさんに共有してもいいですか?
渡瀬ひろみ氏(以下、渡瀬):どうぞ、お願いします。
麻生:「機運ができている状態」って、KPIにすると何だと思います?
渡瀬:例えば、新規事業コンテストの応募数。
麻生:そうそう、そうなんですよ。何件だったら盛り上がっていると思いますか? めちゃくちゃやっているから、これは相場感があるんです。
渡瀬:相場感は、例えば1,000人の会社だと……。
麻生:じゃあ、1万人の大企業の場合。
渡瀬:1万人の会社だったら、1万人もいたら100件は提案してほしいですよね。
麻生:ですよね。正解は1パーセント、3パーセント、5パーセントなんですね。1パーセント以下だったらさすがに少なすぎるので何かがおかしい。1万人いて100エントリー来ないわけがない。何かあったら手が挙がるはずなのに、挙がってないということは、何かがおかしいから仕組みを変えたほうがいいので会社の問題。
3パーセントぐらい、300エントリーぐらいあると、ちょっと変わった新規事業をやりたいという人はちゃんとエントリーできる仕組みにはなっているが、そうじゃない人に火が付いてない状態。5パーセントを超えたあたりから、相当盛り上がっています。
渡瀬:相当ですね。
麻生:1万人の会社で500エントリー来るぐらいの状況からは、空気としても会社全体が「新規事業をやろうよ」となっている。10パーセントを超えることはほとんどないんですよ。どれだけ盛り上げても1,000エントリー以上にはならないんですが、それはそうで、90パーセント以上は既存事業をやっていないと(会社が)回らないから。
今の話でわかるんですが、どれだけ盛り上げて新規事業をやろうと思ったって、最大値が10パーセントなんですよ。だからほとんどの既存事業の人は、機運といった時に主体者じゃなくて、「俺は既存事業をがんばるから、お前は新規事業をやれよ」という合意者の場合が90パーセントなんです。
だけど、1パーセント、3パーセント、5パーセント、10パーセントとか、このあたりの状態でかなり機運が関わってくるというのが、持っている相場感です。それに照らし合わせていただけると、自社の状態を診断できるかと思います。
渡瀬:新規事業コンテストを1人で提案するんじゃなくて、「みんなでやろうよ」というふうにチームで提案するのもなかなかいいですよね、麻生さん。
麻生:そうですね。
渡瀬:新入社員の子にも「おう、お前もチームに入れや」と言って、先輩たちがどういうディスカッションをしているのかをシャワーのように経験した時に、「来年は自分がリーダーをやろう」になるんですよ。そういう意味ではシャワー効果がありますので、新規事業コンテストはチーム制が良かったりしますよ。
椿奈緒子氏(以下、椿):役員がメンバーをピックアップしてやるような会議形式だと、案も質もすごく上がる。「そこに入れるようにがんばる」みたいになる。
麻生:確かに。
椿:でも、やろうとしてもできないじゃないですか。「うちの役員、これをできるか?」みたいな(笑)。
渡瀬:そうですね。
渡瀬:今、椿さんから「役員」という言葉が出たんですが、イノベーティブな機運づくりに、役員という偉い人たちがどういうムードで、どういう価値観を持っていらっしゃるかって非常に大事かなと思うんです。
大手企業なんかの役員の中には、石橋を叩いて叩いて割ってしまうような人たちが、わりと多かったりするんですよ。そういう役員の方に「挑戦してもいいな」「挑戦っていいな」と思ってもらうには、どんな仕掛けをしていくといいでしょうか? 麻生さんからお願いします。
麻生:でも、時代はだいぶ変わっている感覚です。5~6年前は本当にそういう感じだったんですが、2024年現在は、大企業のちゃんとした人に「ちゃんとイノベーションが重要だ」「社員から事業を生んでいったほうがいい。仕組みを作ったほうがいい」という話をして、否定されることはほとんどなくなりましたね。
渡瀬:ほう。
麻生:「そうだね」とは言います。理解はしてくれるし、なんだったら「重要だね」と理屈ではそこまではいくけど、じゃあそこにお金が出たり、体制を張るかというと、その人は自分自身ではよくわからないから「うーん」とはなるんですが、だいぶ理解まではしてくれる。
渡瀬:だいぶ。
麻生:だって、国全体がこういう感じですからね。スタートアップ5か年計画だって、もう偉い人の耳に入ってるわけです。「イノベーションだ、スタートアップだ」ってなっているというのは、さすがに理解されるまではきてると思いますけどね。次の段階な気がします。
渡瀬:なるほど。そういうお客さまが、麻生さんのところに頼もうって来てらっしゃるかもしれませんね。
麻生:そうですし、伝統的な企業であっても、まったくわからないで理解できなかったであろう偉い人が、ちゃんとしゃべったらわかる感じになってる。昔はちゃんとしゃべってもわかってくれなかったので、リテラシーが全体的に上がってるというか、全体の空気がちょっと変わってる感じがします。
渡瀬:原田さん、いかがですか?
原田未来氏(以下、原田):もちろん役員の方っていろんな方がいるので、役員を変えるって大変じゃないですか。だからやはり、理解してくれる役員が誰なのかっていうのを見極めることも(大事)。麻生さんが言ってるように、企業の中に(理解してくれる人が1人も)いないわけはない、というのは思います。
一方で、話しに行く側が腰が引けちゃっているなって思うことが多いですよね。ちゃんと話せば伝わるはずなんだけど、役員さんに話すからって、パッと5分、10分で話しちゃうとかじゃなくて。
ちゃんと話を聞いてほしいならば理論武装して、「最近、両利きの経営が大事ですよね」みたいなところから、いろんな経営学者の話やバズワードとかもちゃんと散りばめる。
話を持って行く側が、ちゃんと「これはプレゼンなんだよ」ということを努力することも、ちゃんとやったほうがいいのかなと思います。
麻生:ちなみに今のを聞いて思ったんですが、下からいかないのも手ですね。横から入れるほうが強い。だから僕とかを呼んでもらえるといいんですが、僕を呼ぶと「なんか言わせようとしてるな」っていう怪しい感じにもなるので、1歩目は大学の先生とかがいいです。
入山(章栄)先生とかを呼んで、「大学の先生の話を聞きましょう」といってインプットしてもらって、ちょっとその気になったら、僕みたいな人を呼んでもらう。いろんなところから攻めて(役員の)気分ができてきたら、自分からプランを上げるという感じです。自分で言わないほうがいい。
渡瀬:自分で言わないほうがいい。
椿:確かに、下から上げるとすごく難しいというか無理なので。私もけっこうそういう機会が多いんですよ。だいたい役員の1名の方が新規事業担当役員になって、「これからやります」みたいな企画がけっこう多いんですよね。
そのまま何もしないで進めると、どこかでストップがかかっちゃうんですよ。なので初めに「ここの枠でここまではOK」みたいなステージゲート型というか、まだ導入されてなかったらまずはそれを入れることをおすすめします。
渡瀬:ありがとうございます。
渡瀬:じゃあ次のテーマなんですが、新規事業は見事に人を育てる。原田さんのところですと、越境させることで見事に人が成長するということがあると思います。
「人が成長する」ということが期待値になって、新規事業に挑戦していくケースもあると思うんですね。みなさんにおうかがいしたいのは、どのように成長されるかという、その成長ぶりをお話しいただきたい。
もう1つは、「ほら、こんなに成長したじゃないですか」って、どうやったらその成長ぶりを言えるかなって。私はいつもそれをテーマに思っていたりするんですが、何かヒントやアイデアがあればお願いします。じゃあ、まず原田さんから。
原田:僕らの場合には新規事業を作るベンチャー企業に行くということで、それで言うと、さっき渡瀬さんのスライドにあった「シミュレーションやってるんじゃなくて、リアリティをちゃんと持ってる」みたいなところです。
5人、10人のスタートアップに行ったら、もうなんでもやらなきゃいけないんですよね。下手したら、ゴミ捨ても掃除もみんなでやるわけですよね。そういう中で「お客さんからのクレームの電話が鳴ったら誰が取る?」という話をやりながら、なんでもやる中でリアリティが出てくるのは、やはり圧倒的なものがあると思っています。
それを、どうやって大企業の中に持ち帰って伝えていくかということになるんですが、気持ち的には「目を見てください。もうぜんぜん違うじゃないですか」って言いたい(笑)。だけどそれはすごく難しいので、とにかく行ってるプロセスから常に見ていくということを僕らはやってます。
すごく具体の話をしちゃうと、スタートアップに移籍をしてる期間中、毎週「週報」というお便りを書いてもらって、それに例えば椿さんというメンターからお返事が来る、みたいな。
このやり取りを、下手したら役員の方にもずっと転送し続けて、「何が起こるのか、1年間見ててください」と、プロセスを感じてもらう。本当は定量化できればいいんですが、人の成長を定量化するのは正直無理だと思うので、やはりプロセスを感じていただくことはすごく大事だと思います。
渡瀬:椿さん、いかがですか?
椿:さっきも出ましたけど“総合格闘技”なので、初めて事業立ち上げをするのってすごく難しいんですよ。なので途中で失敗することもあると思うんですが、「ここまで行ったよね」というフェーズがあって、「ここまでは行った」ということが残るようなかたちにしておく。
あと、失敗をちゃんと共有すること。これはすごく重要だけど、あんまりみなさんやらないんですよね。失敗をポジティブに語れると、みんなめちゃくちゃ共感してくれるんです。そうすると仲間が増えるので、ぜひみなさんやっていただきたいんですよ。
あとは私が積極的にやってるのは、社内もそうですが、社外にも仲間を作る。「ここに行くといいよ」「ここに聞きに行くといいよ」って、私はけっこうお誘いするんですが、そうするとその人がまた社内を誘ったりするんですよ。
それと、1回失敗したら次の事業立ち上げの時にメンターにつく。そもそも想定しながらやったりしてるので、ファシリテーション力を次につなげることはかなり効くので、ぜひやっていただきたいですね。
渡瀬:ありがとうございます。麻生さんはどうですか?
麻生:「新規事業をやると人が育つ」と、会社側の偉い人がどう実感するかっていう話なんですが、僕たちがこだわってるのは、新規事業を作ったプロセスの最終審査が来て、事業化が決定する審査会で、必ず感動的なプレゼンを1件出すというのをやっていて。プレゼン一発で会社の空気が変わるんですよね。
どう変わるかというと、マクロなシミュレーションで事業計画(を立てる)ということしかやってないので、そういう会議しかやってない偉い人に対して、1件でいいから死ぬほど顧客の声を持ってきた感動的なやつを出すんですよ。そうすると変わるんです。
麻生:例えば、この間僕も感動しちゃったのが……ちょっと言えないですが、とある食品メーカーの新規事業です。テーマは超よくあるやつで、「妊婦が」「お母さんが」とか、日本中でやっている新規事業で、「あぁ、よくあるやつだな」っていうテーマで聞いてたんだけど。
ちなみに僕は書籍の中で「新規事業は顧客の所に300回行ったら出てくる」ってよく言っていて、「300件ぐらい声をかけてこい」みたいなことを言ってるんですが、この間見たのは過去最高で、生の声を7,000件持ってきたんですよ。本当にどうやってやったんだろう? って。
生の声を7,000件持ってきて、その7,000件の声を元に「こういうふうにやると、ここに相関性と理論性があるから、こういう商品作って実証実験したら、この声がこう変わった」って、その物量で生声を持ち込まれた時に感動したんですよね。
テーマはよくあるやつで、しかもアイデアもよくあるやつなんだけど、その物量で声を持ち込まれた時に「すごいな」って話になって。「うちの社員がそんなことになるのか」「こうやって事業を作るのか」みたいになっていく。それを1件出せるかどうかが、セレモニー的には重要かなと思います。
渡瀬:「感動」、いいですね。感動を役員会に持ち込む。
麻生:役員会を感動させる。
渡瀬:「役員会を感動させる」。ちょっと私が感動してますが、なんとなくシーンが思い浮かびました。ありがとうございます。
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