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変化するビジネス現場で通用する人材育成の勘所 ~セールス/マーケティングの垣根を超えた現場力とは?~(全6記事)

営業とマーケティング間の人事異動で生まれる確執 「あいつは変わった」と言われるパターンの背景

ビジネスの複雑性が増している今、自身の担当する領域を超えて業務を遂行できる人材が求められています。本イベントでは、『グローバルで通用する「日本式」マーケティング 元・味の素マーケティングマネージャー直伝の仕事術』著者の中島広数氏、『TOP営業を育てる自社オリジナル教科書の作り方』著者の加藤じゅういち氏が登壇。セールス/マーケティングの垣根を超えて、クライアントのニーズに応えられる人材を育てるためのヒントをお届けします。本記事では、営業とマーケティング部の異動で「あいつは変わった」と言われるパターンの背景や、部署の垣根を越えた「翻訳者」の必要性について解説します。

前回の記事はこちら

営業とマーケティングの部署異動で起きる問題

中島広数氏(以下、中島):実は自分がしゃべっている時にコメント欄を見てなかったので、さっき見させてもらったら「しまった! 確執という言葉で引っ掛かっている」と思って(笑)。人事異動の話で質問がきています。「人事異動で営業からマーケティングに行くと、どうして意思疎通が難しくなるのか」というのは、すごく意味深い質問だなと思いました。

西舘聖哉氏(以下、西舘):せっかくなので、そこから入りましょうか。第2部はこのメンバーでパネルディスカッションをやっていきたいと思います。「これからの時代に対応し、ビジネス現場を牽引できる人材を育成するための育成の勘所」ですね。

もちろんマーケティングやセールスの話が中心にはなるんですが、それとは別に変化している今の世の中を見た時に、「ここは今はもう通用しないよね」ということもあるかと思います。これまでお二人が壊してきたものもたくさんあると思うので、そこについてもおうかがいできればと思っています。

そこで最初のテーマとして、人事異動を取り上げたいと思います。組織だと人事異動があります。実は僕も昔、勤めていた会社で、プロモーションの現場からエンジニアの現場に移りまして。「なんでそんな異動があるんだろう」という、大企業あるあるな経験をしたんですけど。

その時、自分は「じゃあ、そこと話しておきますよ」と元の部署との橋渡し的な働き方をしていました。確かに営業からマーケターとしての転職や人事異動、逆に、マーケティングから「より顧客に近いセールス現場に行ってよ」ということもあると思います。でも(営業とマーケティングは)近い部門に見えて、実は遠い部分もあるのかなと思うんです。

実際にお二人は「この意思疎通をどう見てきたのか」をお聞きしたいと思います。もし(マーケターとセールスの意思疎通が)難しいとしたら何が難しくさせているのか。そこを打破していくためにはどうしたらいいのか。ビジネスサイド目線、セールスマーケット目線、担当者目線とそこをフォローする人たちの目線で、お話をうかがえたらなと思います。どうでしょうか? 

部署異動で「あいつは変わった」と言われてしまうパターン

中島:僕は営業からマーケティングに行ったので、営業の気持ちもマーケティングの難しさも両方わかっている。その上でどっちの目線でどう仕事すればいいのかを使い分けるのも得意なんです。だから僕は営業と仲のいいマーケターだったと思うんですけど。

そうじゃないマーケターの場合は2つのパターンがあって、1つは営業現場ではめちゃくちゃ優秀だったタイプ。その人がなぜそんなに優秀だったかは周りはわからないんだけど、とにかく営業時代に名を馳せていた人が、事業部に来て(今までと)同じように「こうでしょう」と人間力突破型でやるんだけど壁にぶつかるという。

それで結局溶け込もうとしてマーケティング側についちゃう。営業パーソンから「あいつ、事業部に行ってちょっと変わったよな」となるパターンです。逆に営業の時はそんなに目立っていなかったんだけど、着実にすごくいい仕事をしていたタイプ。その子たちが事業部に来ると、イチからちゃんと勉強しようとするんですね。

研修でもすごくまじめに質問して体系化していって、「営業の時にはわかっていなかったけど、マーケティングのすごさはここなんだ」とわかり、「私が営業部に話に行きます」と、すごく意思疎通ができるパターンがあります。

逆に営業に長くいすぎて極めすぎちゃった人が多くなると、営業部は営業部でちょっと固まるし、事業部だけが長い人がいると確執が起きたりするのかなと思います。(営業部と事業部は)ぜんぜん違う仕事だから。

西舘:うんうん、なるほど。

営業とマーケティング部をつなぐ「翻訳者」になる

加藤じゅういち氏(以下、加藤):翻訳者が必要というか。どっち出身でもいいんですけど、ある程度どっちの視界も理解している人がいないと困ると思います。先ほど中島さんがおっしゃられたように、片方だけの超トップ実力者だと、そっちの視界がすべてになっちゃうから。

お互いに同じ商材や同じマーケットでやっているはずなのに、見ている視界の広さと深さが違うと思うんですよね。深さで言ったら営業は対顧客からの声は拾えるけれど、広さだと逆に自分の担当エリアや担当している相手に限られ、狭くなってしまう。

マーケターは見ている広さは確実に広いし、深さもビックデータからの分析だったりと、営業とは違う部分が深い。だから本当は双方が連携するべきなんだけど、翻訳者がいないと連携にならなくなっちゃうと思います。

中島:僕は営業が大好きだし得意なんです。だから営業代表として事業部に行って、事業部の人間になっても、その志を忘れないでいればいいのかなと思っています。「こういう言い方をすると営業部では通用しない」と翻訳しながら、どっちでも生きていける二刀流になっていく。

翻訳をやろうとしなかったり、もしくはもともとはピッチャーだったんだけど、バッターだけに専念したりすると、完全にピッチャーだった頃の自分を忘れてしまうのかと。

今、質問やコメントもありましたけど、工場と事業部とか、工場と開発とか、似ている隣地で働いているんだけど実は違う仕事をしている。間のつなぎがうまくいかないことは、けっこうあると思います。

加藤:そうですね。マーケティングと営業だけにかかわらず、本社と現場とか、審査部門と営業とか、意外とセクションが縦割りになるほど発生するというか。すごくわかりやすい例だとファミレスのフロアとキッチンとか。フロアはキッチンに「早く出せ」と言うけど、「キッチンはキッチンで大変なんだよ」という。

だからやはり組織全体、会社全体、事業部がどこに向かっていて、どういう役割分担になっているのかという共有を意図して時々やっていかないと、バラバラになっちゃうのかなと思いました。

「あいつは裏切り者」という確執が生まれる背景

西舘:「ハブ」というのが大きなキーワードなんだなと思いますね。お二人のお話を聞いていてすごく納得もしたし、「あぁ、難しいな」と思いました。僕も組織をまたいで仕事をすることが多いんですね。初志貫徹じゃないけど、新しいほうを学びすぎると前の部分を忘れていったり、ついついそっちの人になっていっちゃったりするんですよね。

中島:そう。そっちの人になってしまって「あいつは裏切り者」という確執がよく生まれる。

西舘:わかってくれていたはずなのに、あっちに行ったらそうじゃなくなってしまったと。より(確執が)深くなっちゃいますよね。要は味方が1人減って敵が1人増えたように感じて、より裏切られた感につながるのかなと思います。

先ほどの「できる人とできない人がいるよね」という話にも通ずる部分かなと思ったんですが、元の部分を持ちつつ、ちゃんと(その差を)積める人が必要。すごくレベルの高い話だなと思いました。

中島:先ほどちょっと「人間力ですよね」という話をして、誤解があるといけないなと思ったんですけど。人間力とは、いい・悪いじゃなくて、持って生まれた魅力だったりする。その人の個性なので、良くも悪くもあまり変わっていかないというか。

やはり「優しいよね」という人はずっと優しいし、「すごく我が強いよね」という人はずっと我が強いと思うんです。社会人は思考力だったり、スキル・ノウハウだったり、どう人と接したらいいかを学んでいくじゃないですか。

それが積み重なっていくように営業部門でわかった営業のノウハウに、マーケティングのノウハウが積み重なっていく。でもベースは同じ人。ここをやってきたんだけど、こっちに行ったら全部なくなっちゃうような話ではないと思うんですよね。

そのためには研修を含め、上の人たちが「そういう仲違いがあるんだよ」という前提で、融合させる仕掛けをどうやって作るのかが、けっこう大事かもしれない。

若手の育成環境をどう作っていくか?

西舘:うーん、なるほど。これは僕が聞きたいと思っていたことで、まさに今日のテーマ「勘所」の核心を突くところなのかなと思うんですけど。

例えばノウハウやメソッドを学ぶのは大前提として、「どう接するか」も学ぶべきところなのかなと。それをどう伝えていったらいいのかを、次のテーマにさせてもらいたいと思います。ちょっと抽象的で申し訳ないんですけど、お互いのサイドから「育成環境をどう改善していったらいいのか」ということについてはどうですか?

加藤:私の場合、営業育成に視界が偏っちゃうんですけど、いろいろな企業さんとかかわって思うのは、前は行動変容をベースにしたスキルや知識だったのが、最近は青臭いかもしれないんですけど、その手前のマインド部分がけっこう重要なんだなと認識しています。ちょっと偉そうですけど「もっと誇りをもって仕事をしてほしいな」と思っていて。

西舘:おお(笑)。

加藤:クライアントさんの商材が世の中にどう役に立っているのか。社長は語れても社員は語り切れていない。「1日何十本電話をかけなきゃいけないから、かけている」というように、どうしても仕事が作業になってしまう。

「わざわざこれを探して提案してあげるんだよ」と偉そうになる必要はないんですが、もっとやっている価値を感じてほしいなと思うことがけっこうあります。

ただ「感じろ」「見ろ」は通じない時代なので、育成指導者は今の若者にしっかりと通じるコミュニケーションをとる必要があると思います。みなさんも、うすうす感じているとは思うんですが、(今の若者は)「じゃあどうすればいいの?」というのがわからない。

それをがんばって言語化して、階段を上ったり下りたりしながら何度かインストールし直すことが必要なんじゃないかなと思っています。

「人間力」が圧倒的に高い営業パーソンが部下育成でぶつかる壁

西舘:なるほど。中島さんはどうですか?

中島:仕事ができる営業パーソンは人間力が圧倒的に強かったりするんですね。「なぜうまくいっているのか」を言語化しないまま、部下に「お前も、とりあえず100件行ってこい」と言うタイプは、昔の野球で言うと長嶋茂雄タイプ。「ピューっと来たら、カーンと打って、ホームランだ」という。これでは再現性がない。

だからこそ、どうやって人にブレイクダウンして教えるかを、マネージャー自身がすごく考えないといけなくて。「俺はできたのに、お前はできない」だとすると、マネージャーとしては部下を育てられない。今はそれではだめだと思うので、「どうやったら自分がやったことを再現できるか」を分解していかなくてはいけない。

思考力は抜群だが人間力が弱い部下

中島:僕は自分がマーケターであり、マーケティングマネージャーとして部下の育成をしていく中で「思考力×対人力×人間力」という分解を作ったんです。この3つはそれぞれ教え方が違うし学び方も違う。「今日は人間力の話をするよ」「今日は思考力の話をするよ」としないと、相手に入りにくいなと感じたんですよね。

具体例を挙げると、僕の元部下で今は某南米でバリバリのマーケティングマネージャーをやっている優秀なやつがいて、すごく頭がいいんです。思考力がずば抜けていて、彼が書くプランはとにかくすごい。

でも人間力のところがちょっと……。みんなからは、「頭が良すぎて、なんとなく斜にかまえているよね」と思われていた。だから僕は彼が結婚した時に、「もし子どもが生まれたら、マーケターとして絶対に子どもの世話をしたほうがいい」と言ったんです。

「なぜですか?」と聞かれて、「お前は頭がいいから、人間は全部自分でコントロールできると思っているじゃん。でも子育ては本当にそうじゃないから。奥さんがすごく大変な中で、お前だけが仕事をがんばっていてもだめ。すごくいいチャンスだから、保育園の送り迎えは君がやったらいいよ」と。

彼の思考力には問題はないんだけど、もっと高みに行くためには人間力をもうちょっと足してあげるといいと思っていて。(当時)マネージャーだった僕は、研修じゃなく徹底的に彼に向き合ってOJTをやったんです。

マーケターは部下の数がそんなに多くないからできるけど、営業だと100人全員に「それをやれ」と言われてもできないかもしれない。でも「育てよう」という意志をマネージャー側が持つ要素はあるのかなと思います。

西舘:ありがとうございます。加藤さん、どうぞ。

いきなり未経験の部下育成を任されるマネージャー

加藤:例えば営業職だったら、営業ができる人がリーダーや課長、なんなら部長になったりします。営業力があったとしても、(人を)育成をするスキルと営業スキルとはまた違うんだなと痛感しています。

似ている部分もあるんですけど、マネジメントの育成スキルとは「入り口は別のものだよ」と捉えたほうが良いなと思っていて。マネージャーになると、急に人を育てなきゃいけない立場になるんだけど、実は育て方は誰にも教わってないという。

西舘:めちゃくちゃあるあるですね。

加藤:でも職務要件定義や等級定義でも人材育成や後輩の育成を「やらなきゃいけない」と書かれてしまっているので、がんばってやるんだけどエラーが起きる。育成の仕方を指導する人が必要なんですよね。

中島:そう。本当におっしゃるとおりです。僕がいる一般消費財のFMCG(日用消費財)というカテゴリーの中で、人を育てることですごく定評があるのはP&G(ジャパン)さんなんですよね。自分のジョブディスクリプションのうち半分以上が「部下を育てられたか」「どれだけ標準化できたか」なんです。

でも当然、個人個人のスキルはバラバラなので、標準化されているものをまとめる人材育成のプログラムを作る担当がいます。その担当がコンセプトディベロップメントやリーダーシップなど、いろいろなプログラムを作っていって、みんなが引き出しからそれを引っ張って使うという。

OJTで教えながら、自分で研修コンテンツを作るのはなかなか厳しいと思います。まず会社の中にそういう体系を作り、いきなり教えなきゃいけなくなった人に、どうやって教えればいいかを教えてあげる。その制度は必要かもしれないです。

今、コメントで「メンター制度」と書かれていますけど、まさにそうですね。私はけっこうグループ長のメンターを仕事としてやっているんですが、上司側がすごく悩んでいますね(笑)。

経営方針で「人材育成」をどのくらい重視しているか

加藤:私が感じるのは課長や部長になって急にやらなきゃいけないのは、ちょっといきなりすぎると。

西舘:あるあるですね。

加藤:(入社)2年目から、1年目の後輩を指導・サポートするメンターの先輩役になるのもありますよね。自分のスキルを鍛えることもそうだし、人のスキルを育てるサポートをするのも、少しずつトレーニングしていったほうがスムーズなんだろうなと、ちょっと思いました。

中島:いずれにしろ人材育成が大事であることを意識する。経営方針とかあるじゃないですか。年度の方針に「人材育成」という言葉が入っているかどうかは、けっこう大きいと思うんですよね。

加藤:そうですね。これは多くの人事部の悪口ではないですが、(その方針を)人事部しか知らないと、かつ、現場を理解していない人事部からのアウトプットということになり、等級別の研修やリーダー研修をやっているだけになってしまう。もちろんリーダー研修も必要なんですけど。

人事部が「この研修には効果があるんだっけ?」と思いながらやっていると、なかなか(結果に)つながらないので、人事部にも現場がわかる人が必要だと思います。

中島:加藤さんは仕事で研修の仕事を受けると思うんですけど、依頼主は人事部が多いんですか?

加藤:私の場合、最近は中小企業さんが多いので、依頼オーナーは社長や専務が多いですね。

人事と事業部の連携の重要性

中島:私の場合、例えば一部上場している大手企業で、みなさんも名前をよく知っているような会社さんは、けっこう組織が大きいじゃないですか。人事部は人事部でベーシック研修はやっていると思うんです。ロジカルシンキングや海外赴任前研修、リーダーシップなどもありますけど、職能別・スキル別研修の依頼主は、だいたい事業部か営業の戦略部が多いんですよ。

その会社さんの場合は、人事部から事業部門の育成担当の課長さんや部長さんにちゃんと話ができている。

加藤:それは一番美しい。

中島:突然課長になって、いきなり「リーダーになれ」と言われてもできないのは人事部も事業部も共通だと。

ベーシックなことは人事としてやるとしても、コンセプトを作るとか「いったいどうやったら売れる?」という話は、さすがに人事は関係ないから、そこはもう自分たちでやる。予算は人事予算をちょっとつけ替えて……という会社さんからの仕事が多いですね。

加藤:なるほど。それは望ましい状態ですね。しっかり事業部判断の予算もあって、人事部との話し合いも事業部のトップで……。

中島:そうですね。そもそも事業部の中に人事部担当、HR担当を置くのは大変で。「いやいや、そもそも人が足らないのに無理だよ」というのがあるんですね。マーケ系からも営業系からも外注研修で、「中島さん、こういう感じでカスタマイズ研修をやってもらえませんか?」という依頼がけっこう多い。「助けて」というやつですね。

西舘:ありがとうございます。「やはりプレイングマネージャーの問題はありますよね。特に「プレイング」とついちゃっているから、そっちで成果を出すことに注力してしまうマネージャー層以上の人たちもたくさんいますし。

マネージャーや管理職になって初めて、部下を教育する方法を習う人もまだまだ多いんだろうなと思っています。そこが大事なところで「どういう目的をもって仕事をすればいいのか」というモチベーションを上げるところにつながるのかなと。そして組織に寄り添うというのがコアな課題だなと思います。

マーケターとセールスの担当者を育てる話から、今、人事のほうにも話がいっているんですけど。まさに今回は育成担当者向けにテーマを組ませてもらったので、すごく納得できる話だったなと思いました。

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