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AI時代に求められる従業員エンゲージメント(全4記事)

小さい会社なのに縦割りの「大企業病」に… LOVOT創業者が1つの会社に3つの組織形態を導入したわけ

SmartHRが主催するイベント「SmartHR Connect 〜AIとHRテクノロジーが紡ぐ革新的企業への進化〜」が開催され、多様な分野のエキスパートたちがHRテクノロジーと人事戦略の未来について語りました。「AI時代に求められる従業員エンゲージメント」と題したセッションには、篠田真貴子氏、山口周氏、林要氏の3名が登壇。本記事では、LOVOT創業者の林氏が、部署ごとに3つの組織形態を導入して気づいたことを語りました。

AI時代に求められる従業員エンゲージメント

篠田真貴子氏(以下、篠田):みなさん、こんにちは。「AI時代に求められる従業員エンゲージメント」と題しまして、セッションを進めてまいります。

まず簡単に自己紹介をいたします。私、エール株式会社の篠田真貴子と申します。私どもエールのサービスとして、社外から1on1で企業の方々にご提供しているんですが、これをやるとエンゲージメントスコアが上がるという実績がございまして。そこからひもといた内容を中心にモデレーターをさせていただきます。よろしくお願いいたします。

(会場拍手)

じゃあ山口さん、自己紹介をお願いします。

山口周氏(以下、山口):山口です。私は大学で哲学や美術史を学んでいたんですけれども、そちらの方向にはいかずにビジネスの方向にいきました。20代を広告会社で、30代、40代はずっとアメリカのコンサルティング会社におりまして、中でも後半の10年は主に組織や人材に関する仕事をやっていました。

実際にエンゲージメントの調査も売り物として売っていた時期がありますので(笑)、今日はそういう経験も踏まえてお話しさせていただければと思います。どうぞよろしくお願いします。

(会場拍手)

篠田:じゃあ林さん、お願いいたします。

林要氏(以下、林):GROOVE Xの林と申します。(林氏の隣を指して)こちらにある「LOVOT(らぼっと)」というロボットの開発をしている会社の創業者です。

AIと言われればAIも使っているし、実はウェルビーイングの向上などに非常に役に立つロボットだったりするので、そのへんを踏まえてお話しをさせていただけたらと思います。よろしくお願いします。

(会場拍手)

篠田:あらためまして、AIの時代に人ができること・やるべきことが変わっていこうとしています。ということは、企業と働く人の関係性、エンゲージメントも変わっていく部分があると考えられるわけですよね。

企業は先んじてどういう変化なのかを理解し、可能であるならばその姿を示していけるといいなと。こういう状況に直面しているのが、このセッションの問題意識です。「AI時代なのか?」というところも含めて、従業員エンゲージメントのあり方について、お二方を交えてディスカッションを進めてまいります。

山口周氏が解説する「エンゲージメント」の定義

篠田:まずそもそも「エンゲージメントって何だっけ?」というところから、主に山口さんにうかがっていきたいんですが。

2年前の2022年5月に、経産省から「人材版伊藤レポート2.0」が出ました。私、実はあちらの検討委員に入っておりました。そこでは従業員エンゲージメントは、「人的資本の価値を高めていく上で測り方、そして施策として重要ですよね」という位置づけをしています。

まず前提として「企業と働く人が、選び選ばれる関係であるべきですよね」というコンセプト。言ってみれば「『選ばれているんですかね?』ということをある程度見える化するのに、これがいいんじゃないの」という打ち出しだったと理解をしています。

具体的に言うならば「経営戦略の実現に向けて、働く人の能力が十分発揮されていますか?」と。「やりがいを感じているか」「主体的に業務に取り組んでいるか」「そんな環境が整備できているんですか」という問いに、答えというか、現状が見えるものが従業員エンゲージメントである。

こんな整理をしていたんですけども、実際にそのサービスを開発し、各社に導入されていたご経験も踏まえると、このあたりはどうなんですかね?

山口:あんまりそういうことを考えずに、当時はパートナーでしたから「やべぇ、売上が足りねえ」というのでとにかく売っていたんですけど(笑)。今あらためて考えると、フランスの哲学者のジャン=ポール・サルトルが唱えたキーワードに「アンガージュマン」というのがあります。

要するに「アンガージュせよ」と。世の中で起こっているすべてのことに対して、我々は責任がある。ウクライナで戦争が起こっているのも、ガザがあんなことになっているのも、カンボジアがあんなことになっているのも、自分のせい。

世界のありとあらゆる問題について「アンガージュせよ」と言っています。当時の1960年代から1970年代にかけて、世界の若者にとって「アンガージュマン」はものすごくかっこいいキーワードだったんです。これはフランス語で「エンゲージメント」のことなんですよね。

人生の充足感を感じられる人の特徴

篠田:なるほど、同じ言葉をフランス語で発音すると「アンガージュマン」。

山口:はい。エンゲージメントを日本語にしろって言われた時に、「夢中になっている」とか「コミットしている」とか、いろいろな定義があると思うんですけども……。

「夢中になっていないアンガージュマン」というのもあり得ると思っています。ひっくるめて言うと、やはり「自分ごととしてちゃんと引き受けてやっている」ということが、ニュアンスとして一番強いのかなと。

これが資本主義とかビジネスの可能性というか、ポジティブな側面とすごくつながっている。一生で一番かける時間が長いものって仕事なんです。だから「仕事を通じて幸せになりたい」とみんなが思っているわけです。じゃあその鍵は何かっていうと、これはチクセントミハイという心理学者が研究して明らかにしたことで、自分ごととしてその仕事をやっている人。

論語の言葉に「之を楽しむ者に如かず」という言葉がありますけれども、自分ごととしてそれを引き受けてやっている人のほうが、やはり仕事を通じて充足感を感じたり、自分の人生に意味があったと感じられる。これは仕事が与えてくれる、個人にとっての良い点ですよね。

エンゲージメントの高い人が多い組織は、やはり業績も良いし、企業価値も中長期的に高まることはわかっているんです。

ですから、個人が仕事を通じてハッピーになっていくことと、その会社が成長するのは、ともすればマルクス的に言うと、搾取が行われたり、人を使い倒していくという考え方につながりかねない中で、「いや、そうじゃないんだ」と。

本当に強くて成長していく会社は、みんな働くことを通じて自己実現しているんだっていうのは、すごくポジティブなパースペクティブ。

このエンゲージメントという言葉をあらためて考えた時に、ビジネスとか資本主義はいろいろな問題を持っていますけれども、それでもやはり明るいパースペクティブを持っているんだと思いますよね。

LOVOTを生み出した林要氏

篠田:ありがとうございます。今のお話を整理をすると、あくまで働く人、一人ひとりがそこに主体的に関わろうとしているっていうのは、主観ですよね。ある意味、傍から見たら「篠田さん、やる気あるように見えない」って見えているかもしれないが、本人はめっちゃ主体的ってこともあり得ますよね。

山口:いますよね、そういう人(笑)。

篠田:要は、ご本人が「私は主体的に関わっている」と思っていることが大事、という理解でよろしいんでしょうか。

山口:はい、そう思います。

篠田:ありがとうございます。林さんはご自身も会社を創業して、今LOVOTを開発しているGROOVE Xの経営に関わっていらっしゃいますが、今のを聞かれていかがですか? 実際にチームを動かしていく中で気にされたことはありますか?

:僕、前はエンジニアだったので、人事とかぶっちゃけあんまり興味なかったんです。

篠田:「人事系のイベントに出ることはほとんどない」って、先ほど楽屋でもおうかがいしました。みなさん、これは貴重な機会ですよ。

:(笑)。ただ、経営してみるとそこしかないわけですよね。そこがうまくいっていれば、あとは勝手にうまくいく。

篠田:なるほど。

小さい会社なのに縦割りの「大企業病」になっていた

:僕はエンジニアなので、どうやっても「システム的にどう会社が回るのか」で考えがちなんですよね。私どもの会社で1つユニークな点があるとすると、製品開発という部分では他社にはないようなゼロからイチの部分を作る。そのゼロからイチを作る研究開発要素の強い会社はほかにもいっぱいあるんですが、同時に販売も、そのあとの運用もするんです。

なので、研究開発から日頃の運用まで、ずっと全部横串で一貫でやるっていうと、実はびっくりするくらい幅が広いです。幅が広いと何が起きるかというと、関係する人が多いんですね。

組織の形態って普通、1個の会社に1つ。ヒエラルキー型だったらヒエラルキー型を極めるし、フラットに近いものだったらフラットに近いもので統一することが多いんです。でも僕らはそのどれか1個ではあまりうまくいかなくて、議論が発散しがちで進まないところがあったり、縦割りになってしまって、会社が小さいにもかかわらず大企業病みたいになっていた。

山口:セクショナリズムだ。

:セクショナリズム。いろんなことが起きる中で「これも誰かが悪いんじゃないよね」と。「きっとその仕組みの中に人を放り込んだら、そうやって振る舞うものなんだよね」という仮説のもとで、どういう企業形態があるんだろうって素人なりに見る。

1つの会社で2つの組織形態を運用するAmazon

:(すると)1つ非常におもしろかったのがAmazonで、小売は完全にヒエラルキー。Amazonのクラウド側、AWS側は比較的フラットに近い。1つの会社で2つの組織形態を運用していて、確かに適材適所だなと。

じゃあそれを真似しようといって、3つの組織形態を今入れているんですよね(笑)。開発側はどちらかというとフラットに近いですし、セールス側はヒエラルキーに近い。

どちらかというとタイムスパンで変わってくるんですけれども、計画を立てて実行するのを比較的ソリッドにできるウォーターフォール型だと、ヒエラルキー型がやはり強いんです。

篠田:ある種、予見可能な世界ってことでしょうかね。

:そうですね。予見可能で、右って言う人もいれば左って言う人もいるけど、そこで右往左往するくらいだったら右もしくは左で統一したほうがマシっていう世界ですね。そういう世界だとヒエラルキー型がけっこう合っています。

「この問題をどうやって解けばいいのか誰もわからないけど、みんなでなんとか解こう」という世界だと予見ができないので、どっちかというとフラット型のほうが適している。

で、その中間にいるようなところ。数値目標は持ちにくいんだけれども、あんまり右往左往はしたくないみたいなところはサーバントリーダーシップ型。(この)3つの組織形態を今運用しています。スタートアップなのでいろいろ試してみようという感じなんですけど。

バックオフィスで「サーバントリーダーシップ型」を採用したわけ

篠田:ちなみに3つ目の、サーバントリーダーシップ型の組織形態を入れている組織機能でいうと、どういった領域ですか?

:バックオフィスですね。セールスは数値目標があるので意外とヒエラルキーが相性良いですし、未知なるものを開発していくところはフラット型のほうが相性が良いんです。数値目標を持ちにくいんだけれども、彼らががんばるとみんなが助かる。そういう領域を僕らは今、サーバントリーダーシップ型でやっています。

その中でも組織課題をあぶり出そうというので、まさにエンゲージメントで「Q12」(エンゲージメントを測るための調査方法の1つで、12個の質問がある)を使わせていただいて、僕らの組織課題を見つけてみたんですね。

そうすると、Q4の「この1週間のうちに、よい仕事をしたと認められたり、褒められたりした」。それからQ11の「この6ヶ月のうちに、職場の誰かが自分の進歩について話してくれた」。これがフラット型組織では弱いんですね。

山口:褒めるっていうのは上下関係で行われることだから、フラットだと褒めてもらえない。おもしろい(笑)。

フラット型組織のデメリットを解消するために

:それ以外の評価は平均よりも圧倒的に高い。やはり各機能に合わせた組織を作ると、自ずと活き活きするんだなというのはわかるんですけれども。その組織形態にもやはりデメリットがあって、僕らは今そこに切り込むべく、とにかくまずはポジティブフィードバックをしようとしています。

フラットが難しいのは、海外はまあまあ言いたいことを言うじゃないですか。ヒエラルキーになると上から下には言うじゃないですか。でもフラットでコミュニケーションが不足すると、何もなくなっちゃうんですよね。

で、とにかくポジティブフィードバックを増やすことによって、今ここ(Q4とQ11)の2つの数字が徐々に上がっているという感じです。

篠田:すごい、おもしろい。ちょっと技術的な解説をお願いしたいんですが、「Q12って何ですか?」というのを簡単にお願いします。

:はい。組織の健康状態を見るもので、「この組織はエンゲージメントが高いですか」とかがたった12個の質問でわかる魔法のツールなんですが。

これが長すぎる質問だとみんなやらない。短すぎると精度が悪い。しかも定期的にやらないとあんまり意味がない。12問といえども毎月やっていたりすると、まあまあ文句が出るわけですよね。それでもやっていくと、やはりすごくいろんな組織の健康状態がわかるので、僕らとしては今活用させていただいています。

篠田:ありがとうございます。確かQ12ってギャラップ社が公開もしている、エンゲージメントを測るベーシックな質問12個。

時々新聞で「日本は全体的にエンゲージメントが低いです」というような記事が出ますが、ああいった国際比較はこのQ12の12問を使って調査をしている。わりとベーシックなものを使っていらっしゃるということですね。

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