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堀埜一成氏インタビュー (全3記事)

一見超多忙でも余裕がある人がやっていること サイゼリヤ元社長が語る、周囲に「助けてもらう」仕事術

各業界で活躍しているトップランナーは今までどのような人生を送ってきたのか。「トップランナーの人生の折れ線グラフ」は、インタビュイーにこれまでの人生を折れ線グラフで振り返っていただき、その人の仕事観や人生観を深掘りしていく企画です。 今回は、サイゼリヤ元社長の堀埜一成氏に、今までの人生を振り返っていただき、経営者として大事なことやセカンドキャリアの考え方についておうかがいしました。本記事では、味の素時代に課長をしながら係長を3つ兼務していたという堀埜氏が、一見激務でも仕事がうまく回る秘訣を語ります。

人に頼る「図々しさ」を持つ

——経営者はとても多忙だと思いますが、著書『サイゼリヤ元社長がおすすめする図々しさ リミティングビリーフ 自分の限界を破壊する』を拝読し、堀埜さんは人に任せたり頼ったりするのがとても上手な印象を受けました。何か意識されていることはありますか?

堀埜一成氏(以下、堀埜):助けてもらうことはめちゃくちゃあります。わんぱくだとみんなが面倒を見てくれるんですよ。

——部下に仕事を任せられないとか、「嫌な顔をされるんじゃないか」と思って、仕事を頼めない上司も多いと思うのですが、何かアドバイスはありますか?

堀埜:これは大学で学んだことなのですが、自分の考え方を人に当てはめたら、だめなんです。体育の授業は5回休んだら落とされるんですけど、僕は6回休んでしまって(笑)。先生にお願いに行ったら、「人間がどこまで走れるかのデータを取りたいから、死ぬまで走るやつを連れてきたら合格させてやる」って言われたんです。

そんなやついると思わないでしょう。でも、部室で隣にいた先輩にこの話をしたら「俺が行くわ」って言ってくれて、「そんな人がいるんだ」と思いました。だから自分で判断したらだめで、とにかく誰にでも言ってみる。そうしたら「やる」という人がいるんです(笑)。

——「他人が自分と同じ考え方だとは限らない」と思えれば、人に頼ることもできそうです。

堀埜:自分が楽するためにどうするかを考えて(笑)、「俺はできないな」と思った時に「ちょっとこれやってくれる?」と、とにかく頼むんです。

味の素時代は課長をしながら係長を3つ兼務

——堀楚さんのご経歴を振り返ると、38歳の時に味の素で課長をされながら係長を3つ兼務していらっしゃいますが、ものすごく激務ですよね。この状況にどんなふうに対応されていたんでしょうか?

堀埜:ぜんぜん楽なんですよ。人を通して仕事をするより、自分でやったほうが早いじゃないですか。とにかく自分でやってみたいところだけやっていれば、周りが必ず助けてくれるんです。あるいは班長ががんばり始めるので、下が育っていく。

あとは「今、俺が目立てるタイミングだ」と、僕に恩を売りにくるやつがいっぱいいるんです(笑)。本当に僕を助けようとしてくれる殊勝なやつと、自分を売り込みに来るやつが必ずいるので、うまく回るんです。

良かったのは、(人事が)「お前が忙しそうだから」と言って、エース級の人間を送ってくれたこと。専門の分野の中から僕が一番欲しかった人間を送ってくれたので、そいつを(自分が課長をやっている部署の)係長にしたんです。

——なるほど。優秀な人材を直属の部下にできたことで、仕事がやりやすくなったんですね。

堀埜:工場はランクを下に見られがちだったので、僕が普通にやってたら、研究所で使えない人間を送ってくるんですよね。それが腹立つからエースをよこせと。実際は激務じゃないんですけど、係長を3つもやっていたらみんなが激務だと思ってくれるので、こっちの要求が通るようになる(笑)。

誰もやっていない領域を見つけて、自分で制度を作る

——「そうなるだろう」と計算して係長に立候補されたんですか?

堀埜:いや、好きでやってみたんですけど、結果的には全部うまく回っていきました。計算すると見透かされてしまうんですが、本心から自分のやりたいことをやっていくと、意外とうまくいくんです。

働くのは基本的には好きなので、どこに行っても僕が最後に帰るんです。現場の課長と技術部の課長も兼務してたので、働こうと思えばやることは山ほどあって、いつも帰るのは最終電車とか、あるいは守衛さんが回ってきて「早く帰りなさい」っていうパターン。これは研究所の時代も工場の時代も、海外でもそうでしたね。

サイゼリヤの社長になっても最後まで残っていて、「社長、お先に」ってみんな帰っていくんです。

——「がんばって働く」という意識でもないのでしょうか。

堀埜:嫌なことはやらずに人に頼んだりしますけど、自分の好きなことは自分でやります。なのでつらいとか、がんばってるという意識はありません。(組織には)とにかく誰もやっていない領域が必ずあるので、そのシステム作りをして何かを残していくんです。

よくやったのが、30年構想ぐらいの人事システムを残していくこと。「ここに入ってきたこの新人を数年で見極めて、こっちにいったらこう、こっちにいったらこう」という実名入りの人事異動マップを、毎年作っていました。味の素の場合は10年構想を残してきましたけど、しばらくはそのとおり動いてました。

システムや制度の“まだ決まっていない部分”をうまく使う

堀埜:もう1つは(サイゼリヤで)「店長から地区長(地区全体のバランスをとる責務のある職位)を出し、5年したらエリアマネージャーになれるかどうかを判断しなさい」というスキームを作ったんですが、それは味の素の仕組みを持ってきました。

だから味の素の時も、人事制度は僕が一番使いこなしてたと思っています(笑)。5年ごとに変わるんですけど、それを一番うまく使ってやろうといつも思ってました。システムや仕組みって、実は決まってないことが山ほどあるので、うまく使ってやるんです。

——いろいろなパターンを想定して、制度で決まっていない部分を自分で決めていったんですね。

堀埜:そうです。あるいは人事制度の変更について、「人事部の意図は何なんだろう」と読み込んで、「自分の組織をどう変えていくか」とか「誰がいつどこに行くか」という人事異動を10年間ぶん決めていったんです。

この時は部下だけじゃなくて、「⚪︎⚪︎さん、僕のプログラムでは取締役にしておきましたから、数年後に取締役になってください」とか言って、上も全部動かしていました。上司に嫌な顔をされたこともありましたが、技術屋って専門性が必要だから、人事部がコントロールできないんですよ。だから僕らが作って、それを人事部が認めてくれるんですが、人事部から文句を言われたことは1回もありません。

——なるほど。人事だけでは判断できない分野だから、ご自分で決めていったと。誰もやらない仕事に目をつけたのはなぜですか?

堀埜:そういうのを考えるのが好きなんですよね。人が考えてないことをやると自分の足跡が明確に残りますからね。

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