商談で断られた時の切り返し

伊庭正康氏:どうも、伊庭正康です。本物のビジネスセオリーを紹介することで、サクッとスマートに結果を出すヒントを紹介していきます。今日は「商談での切り返し」がテーマになります。「忙しいよ」「要らないよ」なんてことを言われて、追い返されたことはありませんか? 僕はかつて営業していたことがあるので、日常茶飯事でした。ここで下手に粘ると良くないです。

僕の同期で水をかけられたなんていう人もいたんですね。中には、魚屋に営業に行った時に、魚を投げつけられた。これはよっぽどだと思うんですよね。こんな失敗談をいくつか聞いたことがあるんですが、共通点があります。

それは、お客さまが「忙しい」と言っているのに、「ちょっとだけお話を聞いてくれ」と、2回、3回言ってしまっているということです。忙しい時に粘ると、当然お客さまはムカっとこられます。

じゃあどうすればいいのか? 10秒後に、「あ、この人の話は聞いてみたいな」と思ってもらえる魔法の切り返しトークを今日はご紹介していきます。なので、営業をしている人はもちろん、プライベートでも使える技かなと僕は思っています。

お客さまの本音は、ほんの少し「粘ってほしい」

例えば、デートの誘いをした時に断られてしまった。これは切り返しトークが使えそうな気がしません? あと、子育てでも使えると思います。「こうしたほうがいいよ」って言いたいのに反発をされてしまった。その時に切り返しトークがあれば、使えるんじゃないかなと思います。

断られた時に、しつこい粘りではダメと言いました。だからといって、「わかりました。では」と言って帰ってしまうようでは営業になりませんし、そればかりか、「なんだあの人は。やる気がないのかな?」と思われかねないですよね。お客さまには、ほんの少し「粘ってほしい」という心理があることを見逃さないでください。

例えば飲み会の1次会が終わって2次会に行こうかという時に、「ごめん、ちょっと今日、用事があるんで」と言ったら、「わかった。じゃあね」と言われた。「え? 1回ぐらい引き止めてよ」と、ちょっと寂しい気持ちになったりしませんか?

あれと一緒なので、少しは粘ったほうがいい。これをまさにマインドセットで持っていただくと、楽になるんじゃないかなと思います。では、どうすればいいのか。この3つのパターンになります。

NOを言われた時の3つの切り返しパターン

1つ目が、「だからこそ」パターン。2つ目が、「みなさまも」パターン。3つ目が、「怖いもの見たさ」パターン。

まず1つ目、「だからこそ」パターン。これはお客さまが「要らないよ」とおっしゃった時でも、反発をすることなく「そうですよね」と、そのお相手の流れに完全に乗り切ってしまう。するとお客さまは「え、どういうこと?」となるんです。

「今は興味がないかな」とお客さまに言われたら、営業はこう言います。「お答えいただきまして、ありがとうございます。そうですよね。僭越ではございますが、『興味がない』とおっしゃると思っていました」。

「だからこそ、お耳に入れたいサービスでございまして、決してご損はないお話だと思っています。特にヤマダ商事さまだからこそ、フィットするんじゃないかなと思っています。どうでしょう、1分だけお話を聞いていただくわけにはまいりませんでしょうか?」。

綱引きで例えるならばこんな感じです。一生懸命「よいしょ、よいしょ」と引っ張っている時に営業が来て、「忙しいから邪魔するなよ」という時に、「すみません、そういうことじゃなくて、私もまったく同じことを思っているんです」という流れでいくと、反発のしようがない。これが「だからこそ」パターンになります。

“損をしたくない”という心理を突く作戦

では2つ目は、「みなさまも」パターン。「バンドワゴン効果」といって、他の誰もがやっているならば、自分もやらないとちょっと損した気分になる心理を使ったものです。

お客さまが、「今は忙しいからけっこうです」と言ったとしたら、営業はこう言います。「お答えいただきまして、誠にありがとうございます。僭越ではございますが、やはり人事のみなさまは、どなたもお忙しくて。ただ、この話を聞くと、どなたさまも最後は『あ、この情報を知って良かった』とおっしゃっていただきます。

「もしよろしければ、その情報だけでもご覧いただけませんか? ご損は決してないと思います。特にヤマダ商事さまほどお忙しい企業さまであるなら、きっとお役に立つお話だと思います。1分だけお話を聞いていただくわけにはまいりませんでしょうか?」。

これは、「他のみなさまも『忙しい』とはおっしゃっているんだけど、聞いてみると実は『聞いて良かった』とおっしゃっているけど、どうですか?」という流れですね。これをバンドワゴン効果といいます。

また綱引きで例えるならば、こんな感じ。「よいしょ、よいしょ」とやっているお客さまのところに営業が来て「邪魔しないでよ」と言っている時に、「実はお客さまがお疲れとのことで、あちらですでにコーヒーを召し上がられていますので、もしよかったらコーヒーを召し上がられるのはいかがですか?」。

「え、みんなコーヒーを飲んでいるの? (綱引きをしてるのは)私だけ?」という構造に近いと思ってください。みんながいい目にあっているなら、自分もいい目にあいたいという心理を突いた作戦だと思ってください。

「怖いもの見たさ」で好奇心をくすぐる

では3つ目は、「怖いもの見たさ」パターンで好奇心をくすぐる方法です。本当は必要じゃないんだけども、「え? ちょっとそれ、見てみたい」という心理を使ったものになります。

お客さまが「いやぁ、値段がちょっと高いよね。けっこうです」とおっしゃったとしたら、営業はこう答えます。「ご検討いただきましてありがとうございます。おっしゃるとおり、お値段は決してお安くないと存じます」。

「ご利用いただくお客さまも、『値段は安くない』と確かにおっしゃります。ただ、9割のお客さまがご満足されて、そのほとんどはリピートしてお使いいただいております。そこのポイントだけでもお話しをさせていただけませんでしょうか?」。

「特にコスト対効果にこだわるヤマダ商事さまにおかれては、決してご損はないお話だと私は考えています。どうでしょう、1分だけでも」という流れですね。

これも他のお客さまが、「高いのに良い」と言っているわけですね。「どんなに良いものがあるの?」という「怖いもの見たさ」パターンです。例えば綱引きをしていて営業が来て「邪魔しないで」と。「いや、実はこの軍手を使ったら、9割のお客さまはものすごく楽になって、手放せないとおっしゃっています。もしよかったら、これを使ってみます?」。

「もっといい方法がありますよ」という伝え方になりますので、ぜひ使っていただくとおもしろいと思います。

まとめます。今回は「切り返しのコツ」を紹介しました。しつこく粘る必要も、あっさりと引き下がる必要もまったくありません。この3つのパターンに共通しているのは、「聞いてください」と別にお願いをしているわけではありません。

「聞いたほうが得じゃないかな」と思ってもらうワンフレーズを持っておくんですね。まずは1つでもいいのでやってみてください。1つができれば2つ目、そして3つをやっていただくと、自分のものになるんじゃないかなと思います。

反発するものには、説得ではなく「流れに乗る」こと

また、営業だけじゃなく、デートなどいろんなシーンで使えるというお話をしました。あとは高校生の時の話ですが、高校生は当然、タバコを吸っちゃダメですよね。先に言っておきますと、僕はタバコを1本も吸ったことがないです。でも、別に真面目だったからじゃないんですね。親父が「正康、タバコを吸うてみたいと思ったことはあるか?」と聞いてきて、僕は「いやぁ、まだないかな」と。

「そうか。お前は歯がきれいなほうやと思うねん。だからタバコを吸うたら、すぐに真っ黄っ黄になってしもうて、口が臭うなんのやわ。わしはタバコを吸うからようわかる。タバコを吸うと、体もしんどなるし、歯も黄色なるし、臭うなるし、あんなものをやってもうたら大変やぞ。やめられへんのが困ったものやねん」。

「あとな、この壁を見てみ」と。当時、(父は)喫茶店を経営していたんですが、白い壁に、ちょっとタバコの煙でヤニが付いていたりするわけです。額を取った時に、白とクリーム色のグラデーションがしっかり分かれていました。

「これがお前の歯や。これがタバコを吸う人の歯や。絶対吸わんほうが俺はええと思うで」というのを聞いた時に、「親父、うまいな」と思いました。

実は私は、タバコだけじゃなく、親から「勉強しろ」と言われた覚えもありませんし、「学校へ行け」と言われたことも、「就職しろ」と言われた覚えもありません。ただ、後から「うまく導かれたな」と思うのは、ここのうまく相手の流れに乗るトークを、(親が)うまく使っていたからなんじゃないかなと。

反発するものに対して、説得するんじゃなくて、うまく流れに乗ることをやっていたんじゃないかなと思います。これはトークを勉強してから、僕もそれを感じるようになりましたし、実際プライベートでもよく使ったりします。

さて、一瞬で人の気持ちを変えるセオリーは一緒で、どこでも使えると思います。今日は営業のシーンでお話しをしましたので、営業の話ということで締めさせてください。

営業の場合、お客さまから「要らないよ」と言われた時に、しつこく粘るでもなく、すぐに引き下がるなんてことをしたら仕事にもなりません。また、「不誠実だ」とも言われます。真面目とも思われません。なので、「きちんと対抗トークを用意しておく」だけで十分です。