2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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「Cross the Boundaries」を旗印に、日本最大級のスタートアップカンファレンスIVS(インフィニティ・ベンチャーズ・サミット)が2024年も昨年に続いて京都で開催されました。今回のセッション「次世代エンターテインメントの勝ち筋 」には、鈴木おさむ氏、元AKB48で起業家の小嶋陽菜氏、アソビシステム代表の中川悠介氏、クリエイティブディレクターの小橋賢児氏が登壇。「経営者とクリエイター、どう両輪を回すか」というテーマのもと、六本木ヒルズでアイスクリームショップを運営した小嶋氏が、原価率よりも重視したものを語りました。
鈴木おさむ氏(以下、鈴木):こじはるさんに聞きたいんですけど、自分のブランドをやっていく中で、ヒットしている商品もあるけど、売れない商品もあるんですか?
小嶋陽菜氏(以下、小嶋):たくさんあります(笑)。
鈴木:やはりあるんですね。次のトレンドや売れる商品は、自分で考えていくわけじゃないですか。そこでは何を大事にしているんですか?
小嶋:そうですね。自分自身が立つブランドなので、自分が好きかどうかになりますね。それがお客さまにもリアルに伝わる時代だと思うので。自分が作ったものや買ったものを、友だちにめっちゃお薦めできるかを、1つの軸にしています。
鈴木:(こじはるさんは)発信者でもあるじゃないですか。今の時代は会社の社長でもベンチャーの社長でも、自分の発信力がめちゃくちゃ大事だと思うんですよ。発信者として大切にしていることは、自分の熱量?
小嶋:熱量ですね。
鈴木:あとは何ですか?
小嶋:今、たくさんの情報があふれている中だからこそ、「自分でフォローする」感覚があまりないんじゃないかなと思うんですね。だからフォローしてくれた人を大事にする、濃いファンをずっと大事にしています。
鈴木:そうだよね。今、自分で本当に探してフォローしないじゃないですか。
小嶋:何でも出てくるから、(自分から)しないですね。
鈴木:お薦めにどう入っていくかを狙っていく。
小嶋:そうです。でも、そっちばっかりやり過ぎると……。目立つことはいくらでもできるというか。どういう人なのか、本物かどうかも、これからもっと明るみになってくるかなと思うので、誠実にいいものを届けるというのは、根本で意識していますね。
鈴木:中川さんも売れるものもあれば、売れなかったものもあると思いますけど、世の中で跳ねていくものと、跳ねないものの違いは何ですかね?
中川悠介氏(以下、中川):こじはるさんの話と一緒ですけど、フォロワーの数じゃなくて熱量だと思っているんですよね。AIがどんどん薦めてくるから似たような情報はくるんですけど、ファンの熱量とは違うので、その熱量を作れる子はすごく売れる子だなと思いますね。
鈴木:僕はこの間、石垣島の近くの竹富島に行ったんです。(水牛の)牛車の近くにあったそば屋に入って、そば屋のおじさんは僕より年上なんですけど、お店に出る時に「おさむさん、昨日『ReHacQ』を見ました」と言われたんですよ(笑)。
中川:(笑)。
鈴木:竹富島のおそばを作っているお兄さんから「『ReHacQ』を見た」と言われた時に、僕は衝撃を受けたんです。どんな衝撃かというと、昔の日本では情報を得るためのテレビやラジオには、地方格差があったじゃないですか。
中川:ありましたね。
鈴木:でも今、SNSで情報をメインで取ろうとしたら、日本には情報の格差がないんですよ。みんながほぼ平等に情報を得ることができるのはすごいなと思ったんです。
ただ逆に言うと、これだけ情報格差がない時代に、体験の格差はエグいなと思って。田舎だと花火大会はあるけど、そんな(大きな)花火大会はないし、アイドルのコンサートは来ないし、行きたい洋服屋さんがないという。
だから僕はこれからは体験させることがかなり大事かなと思っています。コロナが明け、いろいろなビジネスの中で体験をさせる。しかも海外は高いから国内で……というのがすごく大きいと思うんですけど、中川さんはどう思いますか?
中川:リアルな熱量も大切だなと日々感じています。SNSを見ているだけの人はたくさんいるんですけど、そこからライブに来る、体験するところまでもってこれると、ファンの拡大はすごく早いなと思いますね。
鈴木:今日のIVSではVC(ベンチャーキャピタル)の方と起業の方がいろいろ話し合って、ここでバーンとすごいのが決まったりするというね。
小橋賢児氏(以下、小橋):もちろんメタバース上で交流して会話できたりもあるけど、今日ここに足を運んでくる。自分の肉体を使った体験の先にある交流は、やはりちょっと違う熱量になりますよね。それを繰り返していくんじゃないのかなと思います。
僕は鎌倉に引っ越したんですけど、子どもは学校が終わった後、昔みたいに家の近くで遊んだりできないから、家でiPadを開いてゲーム上で(友だちと)会話をしている。でもそのつながりは、もしかしたらリアルのつながりより、もっと深くなっているんじゃないかなと思うんです。
鈴木:なるほど。
小橋:特に日本人は顔色をうかがいながら、本音が言えないところがある。でもアバターやメタバースを通して体験していくと、年上のお兄さんとも普通に話せたりとリアルがもっと近くなる。これから、そういう両方の行き来が新しい体験になっていくんじゃないのかなと、子どもたちを見ていて思います。
鈴木:俺もそれはわかる。うちの息子はSwitchをやっていて、家でやっていると、友だちが「今、YouTubeを見た」とか全部表示されるじゃないですか。友だちの行動記録が全部出てくるんですよ。
学校で会っている友だちが、今、何をしているのか。昔だったら、知りようがなかったですよね。それを知ることができるから、より深くなるというか。
小橋:そうですね。だからWeb3はまさに中央集権じゃなくて多拠点を作ることによって、本当の自分がいろいろなところでいろいろなアイデンティティを持っていく。実際、自分自身はそうやって作られているじゃないですか。(これから)そうなっていくんじゃないのかなと感じますよね。
鈴木:こじはるさんは、洋服という体験ですごく大事にしていることはありますか。お客さんも変わってきていますか?
小嶋:そうですね。やはりリアルのお客さんも大事にしようというのはすごく思っています。ECサイトもあって旗艦店もあるんですけど、春・夏・秋・冬で頻繁にイベントをやっています。お店とはまったく違う箱を借りると場所代やコストもかかるんですけど、違うところにわざわざ来てもらうイベントを作って、私もその日にお店に行く機会を作っています。
鈴木:今日はちょっと見ていただきたいものがあるんです。うちのファンドにも入ってくれているTWIN PLANETさんと、新しい渋谷発のIP(知的財産)を作れないかなと考えたものがあって。今日ここで発表するんですけど、いいですか?
これは僕が超大好きな漫画家さんと作ったんですけど。実は若い起業家と「インスピレーションは何?」と話していたら、まさに新しい学校のリーダーズもそうですが、今、外国人の間でも「JK」という言葉が世界共通語になっていると。
そこで「JKゾンビ」というキャラクターを作ったんです。これね、IPキャラクターを作ることでやったんですけど、漫画もアニメも作ってないんですよ。先に話しますと、『約束のネバーランド』の作画をしている出水ぽすかさんと僕とTWIN PLANETさんで、JKゾンビというキャラクター(女子高生のゾンビ)の絵を作ったんです。
実は渋谷に行きたかった女子高生が渋谷に行く前にテロに遭って、身体がバラバラになっちゃって。天国にあるマルチバースの渋谷で暮らしている設定でJKゾンビというキャラクターを作って、TGCと組んでキャラクターを発表したんです。
これがポイントなんですけど、キャラクターを先に作っただけで漫画もアニメもまだやってないんです。よくありがちなんですけど、漫画を作ると2年、アニメを作ると4年かかるんです。
今、みんなが「新しいIPを作ろう」と簡単に言うんですけど、僕はIPの作り方を根本的に変えたほうがいいんじゃないかと思っていて。強いキャラクターと強い作画力とバックグラウンドがあれば、アニメや漫画は後でいいんじゃないかなと思っています。
鈴木:アニメを4年作っている間に時代が変わっちゃうから、去年思いついたことは今、発表しようと。それでJKゾンビというキャラクターを作って発表することにしたんです。その後に渋谷とどんどん絡めて、物を売ったりアパレルを作ったりしていくんですけど、『約束のネバーランド』の監督で海外ファンもいる出水ぽすかさんの強烈なキャラクターで。
(映像の)キャラクターはなかなかぶっ飛んでいるんですけど。(これが)先ほど説明したJKゾンビですね。なかなかすごくないですか? 身体に穴が空いちゃっているんですよ。
中川:すごいですね。
鈴木:ファンドを始めたのでLPの方にも協力してもらっていろいろ展開していったりしたいなと思っています。うちが今後投資していくベンチャー、スタートアップの方とも、このキャラクターを一緒に育てていくプロジェクトをやりたいなと思っているんです。
漫画やアニメをやろうとすると、すぐに2年、3年経つじゃないですか。
中川:そうですね。お金もかかるしね(笑)。
鈴木:お金は一番の悩みですよね。みんながIPを作ると言いません?
中川:最近めちゃめちゃ多いですね。IPを作りたいという相談も多いし。
鈴木:でも年数やお金もかかりすぎるから、それを抜本的に新しく変えていかなきゃいけないんじゃないかと。こじはるさん、どうでしょう?
小嶋:めっちゃかわいいですね。90年代みたいなロゴがすごく刺さりました(笑)。
鈴木:昔のロゴの感じでいいですよね。
鈴木:さて残り10分なので「経営者とクリエイターの両輪をどう回す?」ということについて。お金の計算もして物を作るのは一番しんどいことですけど、どうでしょうか?
小橋:そうですね。クリエイティブは、何かを超える、作り出す、生み出すので、本当に合理的な経営を考えちゃうと、相反するところがある。
古くはゴッホの時代の芸術からそうですけど、芸術の創造も、時には一見するとムダなことの繰り返しの中で、ある時に跳ねることもあったと思うんですよね。
特にVCなどいろいろな投資をする中で、とにかくスピーディーに結果を出していかなきゃいけないとなると、本当の意味で良いクリエイティブが生み出されているのか。今、一瞬跳ねているけど(それは)サステナブルなのか。あるいは時代を変えているのかと考えると、常に悩ましいですね。
例えばLVMH(モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン)は、世界ではファッションブランドを束ねたすごいブランドですけど、昔はデザイナーが経営もやってしまっていたんです。ちゃんと経営ができる人間とアーティストが一緒にタッグを組むことが、もう少し日本でも広がっていくといいなと思います。
そういう意味でエンターテインメント業界はまだまだ少ないんですよ。こじはるさんや僕もそうですし、自分が立って経営もやっていくのは、やはり限界があるかなと感じています。
小橋:ただ「知る」という意味では大事なんです。僕らみたいなクリエイティブを作っている人間に、経営できるパートナーがいて、より広げていく、最大化していくことが、もっと日本でスタンダードになっていくといいなと思っています。
鈴木:さらに万博がありますが、うっすら言える範囲でいいんですけど、新しくやろうと思っていることはあるんですか?
小橋:そうですね。今はイベントをイメージされていると思うんですけど、もともと別にイベントをやりたいわけじゃなくて、クリエイティブを通じて、気づきのきっかけを作りたい。つまり自分が気づくことで、本当の自分の人生を歩んでほしいと思ってやっているので、イベントにこだわっていないんです。
イベントという非日常も大事ですけど、ちゃんとしたサステナブルなまちづくりをしていく、地方創生をしていく、都市開発をしていくところにすごく興味があって。
今、2032年の都市開発のプロデューサーをやっていたり、地方創生をやっていたりするので、そうやって街の中で人々が変わっていく姿を見たい。その中でみんなが1つの祭りを作っていくような寄り合いしていく環境づくりに、今めちゃくちゃ興味があって、実際にやっているところです。
鈴木:いいですね。
小橋:ラスベガスのSphere(スフィア:球形の2万人収容の大型アリーナ)が有名ですけど、最近は当たり前に「イマーシブ(没入感の意)」と言われる時代になったじゃないですか。僕も「STAR ISLAND」を含めて、イマ―シブ体験はずっとやってきたんですね。
日本人は特に、根源的に自然と人間は切り離せない。生物としての記憶は忘れちゃっているんだけど、その魂の記憶みたいなものは(人間の)どこかには残っているわけですよ。だからインターネットもそうですし、一緒につながり合う、細胞と細胞がつながり合うことはそこからきている。未来はそっちに向かっているんじゃないかと思っています。
じゃあ、街をどう一体にしていくか。実は万博でもみんなでつながり合う時間にチャレンジするんですよ。「One World, One Planet」といって、1日に3分間くらい万博会場やメタバース上が世界中とつながる、願いのモーメントというのがあるんです。3分間みんなで願掛けの時間を作るんです。
鈴木:へえ、おもしろい。
小橋:音響や照明、みんなの言葉がつながり合うものを作っていきたくて、それが世界中で当たり前になっていく。言ったらポジティブな黙祷であり、新しい5時の鐘のようなものを作っていきたいなと思っています。
鈴木:さあ、こじはるさん。一番悩むと思いますけど、経営者とクリエイター、どう両輪を回していきますか?
小嶋:めちゃめちゃ悩みますね。私はこれにプラス、表に出て発信するビジュアル面も足されるので、ずっと課題ですね。経営者だと利益を生まなきゃいけないので、クリエイターとぜんぜん違う。
私は自分でめちゃめちゃ計算して「これは当たる」と出したものがウケるのが、すごく好きなんです。でもそれだけだと利益を重視しすぎることになるので、そこまで利益を生まないイベントをたまにやって、ブランドのアクセントにしています。
今年も六本木ヒルズの一部でアイスクリームショップも運営していて、それはめちゃめちゃ原価率が悪くてほぼ利益にならないんです。でもお客さまに楽しんでいただいて話題性が広がったりもするので、そういうポイントを意識的に作っています。
鈴木:この5年、10年で、ちょっと新しく一歩を踏み出してみたい、チャレンジしてみたいことはありますか?
小嶋:今まではもともと自分のファンでいてくれる方が、ブランドのお客さまになってくれたり、周りの社員や自分の周りの人をまず幸せにしたいなというフェーズでした。
今日みなさんのお話を聞いて、国のお仕事をされていたりグローバルな話を聞いたりすごく刺激になったので、5年後、10年後は「自分ができることは何かな?」と考えてやっていきたいなと思いました。
鈴木:さあ、中川さん。どうでしょう?
中川:経営者とクリエイターをどう両輪にするかは、すごく難しいことだと思うんです。でも時代が変わってきていて、IVSのようなスタートアップイベントに僕らみたいな芸能事務所が参加できる時代になってきた。
小橋くんが言ったとおり、今まで芸能界でコンテンツを作る時は、自分たちのお金で作っていたんですよね。それはもう限界があるなと思っています。
鈴木:そうですね。
中川:これじゃあK-POPに勝てないから、そこに対して出資を集めたり、スタートアップと組んで何か新しいサービスを作ったりしていきたいなと思っています。
鈴木:中川さんは、けっこう新しいものがポン、ポンと当たって風が吹いているからチャンスじゃないですか。この時に新しく踏み出す一歩は?
中川:僕はもう10年間ブレずにやってきましたが、海外で日本のコンテンツを売りたいので、海外へ行くことは今のうちに投資しまくろうと思っています。アメリカで会社を作るために投資を集めることにチャレンジしようと思っています。
鈴木:へえ。
中川:今日もアメリカに行っていて思ったんですけど、マジで日本のコンテンツは勝てると思うんですよ。食も、エンタメも、クリエイティブも、(日本は)マジですごいので。
鈴木:今、すごいですよね。韓国からついに来ましたよね。
小橋:本当にそう思う。今まで日本は、世界から大きく離れているのに、変に内需で成り立っていたがゆえに外側を向いていなかった。でもいよいよ外側を向いてきた。
中川:めちゃくちゃチャンスが来ていますね。
鈴木:相当来ていますよね。韓国からいよいよ、日本に矢印が向いたなと。
中川:日本のクリエイティビティがすごく評価されているので、チャンスは今しかないと思っています。
鈴木:アパレルもイベントもそうだけど、日本のものがいよいよ来ましたよね。海外の人たちは、日本のものに対してすごく興味を持っていますよね。
小橋:単純にコンテンツだけじゃなくて、日本人の心の部分、精神的な部分も大事で。向こうはスケールがすごく大きいじゃないですか。でも要は見えない演出面の部分に日本人の心が入っていくと、もっとすばらしいものができるんじゃないかなと思います。
鈴木:ということで、最後にここに今日来てくれたみなさんに一言ずつお願いします。中川さんからどうぞ。
中川:とても楽しかったです。おさむさんのファンドで一緒にやりたいと思うので、みなさん、ぜひよろしくお願いします。
鈴木:ぜひお願いします。
小嶋:今日はすごく刺激的な時間で楽しかったです。10年前だったら、きっとテレビ局で会っていただろう方たちとこの場所で話せるのは、自分にとってはすごい経験でした。みなさん、この後も楽しんでください。ありがとうございました。
小橋:今日はみなさんの熱量を見て、「本当に新しい時代が始まっているんだな」と思いました。おさむさんも1つのメディアに終止符を打って新しいものを生み出していて、僕もものすごく刺激を受けました。未来で「僕の右腕になりたい」という経営者の人がいたら、ぜひ、ご連絡いただければ。
一緒に未来を、日本から世界へ、世界から日本へを作っていきたいなと思います。よろしくお願いします。ありがとうございました。
鈴木:みなさん、今日はありがとうございました。
(会場拍手)
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