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AIが創るHRの新時代 人が活躍することの変化とは(全3記事)

山口周氏「これからは『人間の優秀さの定義』が変わっていく」 AI研究者・松原仁氏と語る、AI時代に求められる能力とは

SmartHRが主催するイベント「SmartHR Connect 〜AIとHRテクノロジーが紡ぐ革新的企業への進化〜」が開催され、多様な分野のエキスパートたちがHRテクノロジーと人事戦略の未来について語りました。「AIが創るHRの新時代 人が活躍することの変化とは」と題したセッションには、松原仁氏と山口周氏の2名が登壇。“AIを使いこなせるかどうか”がカギを握るこれからの時代、人間に必要な能力とは。

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「もうダメだ」と思った瞬間に人は会社を辞める

山口周氏(以下、山口):僕が問題だと思ってるのが、エンゲージメントサーベイって年に1回しか取らないでしょ? でも人って、「もうダメだ」と思った瞬間に辞めちゃうんですよ。それって本当に1日、2日のことなんです。

極論すると、「もうダメだ」といった瞬間に会社へ行かなくなっちゃう。場合によっては、自分を傷つけるようなことをしちゃうんですね。

だから人事にとって本当に大事なのは、今この瞬間にボトムに来ていて、「この人、危ない」という人に対して救いの手を伸ばせるかどうかです。ここはもう、今はできるだけの技術が絶対にできてきているので、人間が考えなきゃいけないことだなと思います。

ですから、すでにデータになっているものをデータに変えてAIに飲ませるんじゃなくて、逆に言うと「どんなものがデータになったら、インサイトや洞察が出てくるか」というのを考える。

ここは人間にしかできないことなんですが、松原先生からトータルでご覧になられた時に、こういう時代に人間に残された仕事や、「人間がここで活躍できる」というのはどういうところになりますかね?

松原仁氏(以下、松原):そうですね。忘れないうちに今の話の延長を先に言うと、実は今の「子どもの笑い」に近いことを試しているところはあって。だいたいの職場って目の前にパソコンがあって、だいたいカメラがついているじゃないですか。あれで朝からずっと社員を見ていて、それこそ笑いというか、今のAIってすごく表情がわかるようになってきています。

簡単に言うと、眉がつり上がっていると不機嫌だとか、ここらへんが緩んでいると笑ってるとか、朝から晩までどれくらい笑って、どれくらいしかめっ面なのかがわかるわけですよね。それで日々管理すると、落ち込んでるとか、仕事がうまくいって機嫌がいいのか、プライベートでうまくいって機嫌がいいのかとか、わかんないけれど逆も(判断することができる)。

山口:漫画を読んでいる可能性もありますからね(笑)。

松原:わかんないけど、「この従業員が機嫌良くやっているか、つらいか」というのはけっこうわかるようになっていて、たぶんそれっていろんな企業で一般化するんじゃないかと思っているんですよね。

AI活用によって“空いた時間”に何をするのかが大事

松原:今だと「ちょっとやりすぎだ」っていう考え方もあると思うんですが、今ってマンションとかコンビニにカメラは当たり前じゃないですか。

山口:確かに、そうですね。

松原:でも、あれが付き始めた時は、「いつ入っていつ出たかがわかるって、個人情報として問題だ」というクレームがすごくたくさんついたんです。

山口:警察のNシステムもそうですよね。

松原:そうですね。

山口:入れた時はものすごく反対がありましたからね。

松原:データを取ることが悪いんじゃなくて、データを取って悪用することが悪いというのが、だんだんみんながわかってきたことだと思うんです。

さっきの山口さんの質問に戻ると、AIがいろんなことを標準的にできるようになってしまったので、人間はそのデータを使って大所高所でどういう判断をするのか。それは厳しいという言い方もできるけれども、細々としたことにこれまで時間を取られていて、日々の仕事に追われているから、大所高所を考える時間がない従業員がけっこう多いと思うんですよね。

追われている仕事の一部をAIがやってくれると時間が空くので、僕が一番思っているのは、将来を考えること。AIも未来予測はしてくれるんだけど、自発的に目標を持っていないし、本能みたいなものもないし、お金を儲けたいわけでもないし、楽したいわけでもない。

個人もしくは会社が「どっちに向かっていきたいのか」というのを、あんまり考える暇がない。経営陣はそういうのを考えるのが仕事だと思うんだけど、本来は人事の人も含めた従業員も勤務時間の一部はそれに充てているのが、会社全体としての正しい姿。

それの総和として、会社がそっちの方向に動いていくのが望ましい姿だと思うので、(AIの活用で)そういうことを考える時間ができる。少なくともそういうことを考える能力は今のAIにはないので、(人間に残される仕事は)そこかなと思いますけどね。

山口:なるほど。ありがとうございます。

これからの時代は“優秀な人”の定義が変わる

山口:ぼちぼち質問を受ける時間ですかね? ……まだ大丈夫ということなので、松原先生は何かつけ加えておきたいことってありますか?

松原:そうですね。

山口:僕がよく言ってるのは、これからは「人間の優秀さの定義」が変わっていくよなと思っていて。典型的に言うと、麻布や開成に入れるような子が優秀と言われていた。でも何のことはなくて、これは「正解を出せます」ということなんですよね。

(AIのように)正解を出す機械が出てきて、このコストが10年で100分の1とか恐ろしい下がり方をしてる。これは人事にも関わる話で、未だに人事部の人に聞くと「優秀な学生が欲しい」と言う。優秀な学生とはどういう学生かというと、やはり東大や京大を出ている学生が欲しいって話なんです。

人工知能がこれだけ安く手に入って、正解を出す機械がこれだけ低価格になっている中で「正解を出す人」を雇っても、日本の企業の場合は40年間、よほどのことがない限りクビにできないんです。

現在価値でいうと、だいたい1人当たり4億円とか5億円ぐらいの投資をすることになります。100人になったら500億円の投資なんですが、この人間の優秀さの変化については(どうですか)。

松原:ありがとうございます。それは非常に大事な問題です。僕自身もそっち系で、東大を出たので言いにくいところはあるけど、山口さんがおっしゃったとおりです。限られた時間で正解のある問題の正解を見つけましょうというタイプが、優秀だと言われる典型ですよね。

これまでの学校教育でされていた“洗脳”とは

松原:僕は将棋のAIの研究もしていて、藤井(聡太)さんは相変わらず強いですが、もはやAIのほうが圧倒的に将棋が強いんですよね。だから、あの天才の藤井さんよりも(AIの能力が)上ぐらいなんだから、そういう能力であんまり人を評価してもしょうがないというか、AIに任せりゃいいので。

よくわからないもわもわとした前例のない状況で、「さあ、どっちに行きましょうか?」というのは一番難しい問題ですが、会社もそういうことが得意な人を採用したり、経営陣にもいたりしないとしょうがないというか。だからそういう意味では、多くの学生というか、これからの人にとってはチャンスだと思うんです。

これまでは大学の入試試験とか入社試験も含めて、限られた正解のある勉強が得意な人だけを選別するということが、人間の評価になってきた。AIのほうがそういうことが得意になってきた今や、それで選別してもしょうがない。

それで選別された人よりも、AIのほうがさらにできる。AIは誰でも使えるようになるんだから、そうじゃない能力を持っている人(の採用)をやらなきゃ。

山口:なるほどね。

松原:それは、子どもの頃から教育を変えなきゃいけないという大問題です。

山口:そうなんです。世の中の評価もそうですよね。

松原:小学生の時から、限られた時間でテスト問題でいい点を取るっていうのを目指す教育。

山口:洗脳されてますからね。

松原:洗脳されています。そこから脱却するのはそんなに易しいことではないと思うけど、人類の未来を考えると、極端に言うと、それをしていかないと我々人間の意味はない気がしますけどね。

AIをうまく使いこなす能力が必要

山口:AIに関して言うと、「人間対AI」という単純な構図でのリプレイス、要するに「人間がAIに代わるか、AIに代えられないか」という観点があります。

例えば、将棋の場合でもチェスの場合でも、人間とAIの組み合わせで単純なAIに勝てるかどうかというフリースタイルの競技のやり方がありますよね。今のところ、一番強いのは人間とAIの組み合わせです。

松原:そうです。

山口:AIのプログラムも微妙に書き換える。しかもそれは、必ずしもプロの棋士じゃなかったりするケースもありますよね。

松原:そうです。人間と強いAIがペアを組んで、仲間で相談して手を決めて、お互いに差す。そうすると一番強い人間よりも強いし、一番強いAIよりも強い。僕の知識だと、人間で優勝したのは大学生かなんかでしたよ。

山口:そうなんです。アマチュアなんですよ。

松原:チェスのプロはAIをうまく使いこなせないので。

山口:プログラムを書き換えていくんですよね。

松原:「この局面でAIが言ったことは信じていいか、あんまり信じちゃいけないか」という考えを、チェスがそこそこ強いその大学生が一番やった。AIも万能ではないので。それはチェスですが、これからの社会はすべてそうなっていく。

何か問題に当たる時にAIをここに置いておいて、「AI、お前はどう考える?」と聞いて、AIは「こう考えます」「そうか、お前はそう言うか」って考える。

「じゃあ、ここはAIの言うことを採用しよう」、もしくは「ここはお前の言うことより俺の言うことのほうが正しそうだから、俺の言うことでやろう」っていう。(優勝した大学生にあったのは)その能力だったと思うんですよ

山口:なるほど。

松原:それをどうやって身に着ければいいかというのは、正直よくわからないけれども、我々人間にこれから求められる能力はそこになってくるんだと思います。

山口:つまり、「AI対人間」ではなくて、AIが人間によって武装される。人間がAIによって武装して、それでもっていろんな価値生産を出していく。

AI付き合いが上手い人・下手な人の差

山口:それでいうと、「AIに武装させることで、最も価値を出せる人は誰なのかな?」という採用基準も1つの考え方になる。そうすると、面接の時にAIをどれぐらいうまく使ってくるかというのも、それ自体が実は1つのコンピテンシーなんじゃないかというのも考えられますよね。

松原:そうです。「こいつ、生成AIを使ってこれを書いたんだけど、うまく使ってるじゃないか」というのはプラス要因かもしれないですね。

山口:なるほど。今日の感想ということなんですが、おそらくこの先は、ますますいろいろな混乱が起こると思います。その混乱の過程の中から、ある種のcode of conduct(行動規範)みたいなものも出てきて、一回落ち着くところに落ち着くんだと思うんです。

ただ、おそらく今回の第三次AIブームは、1996年にIBMのディープ・ブルー(Deep Blue)がガルリ・カスパロフ(元チェス選手)に勝ったことが発端でしたが、そこから20年経ってもまだ勢いが止まらない。

ここから先、おそらくこの勢いが止まらずにどんどん進化し続けていくということでいうと、人事に利用できる範囲も増えていくでしょうし、いろんな可能性が広がると同時にいろんな混乱も起きてくる。

その中で、これから先は人事の人たちの「考える力」がすごく求められる時代になってくるだろうなというのが、まずは直感的な感想なんですけど、松原先生はいかがでしょうか?

松原:山口さんおっしゃったことはそのとおりだと思うので、ちょっと言わなかった話でいうと、これからは人間はAIともう切り離せないというか、AIが横にいるのが必然になっていくと思います。

組織の観点で言うと、これまでは人事の人から見ると、採用の時の1つの要素が「この人、他の人とうまくやっていけるか?」という人付き合いの良さみたいなものだったと思うんですよね。変な話、AIとうまくやっていけるかというのはなかなか難しい(笑)。でも、AI付き合いが上手い・下手もあると思うんですね。

AIを極端にも敵視する人もいる。ただ、さっき言ったようにAI是々非々で、AIが言ったことがいいと思えば採用するし、AIが変なこと言ったと思うと排除するみたいに、AIに従属してもいけないから、AIとうまい距離をとる。

それを会社に入ってから教育するという考え方はもちろんあると思いますが、これからの人間社会は「AIとうまく付き合う能力」がけっこう求められるのかなと、今日、話をしていて思いました。

山口:ありがとうございます。僕もそれなりに追いかけている領域ではあったんですが、こういう機会をいただけて、「ここまで来てるのか」ということで、引き続き勉強をやっていかなくちゃいけないなということで引き締まる思いがしました。みなさん、今日はご来場どうもありがとうございました。松原先生、ありがとうございました。

松原:ありがとうございました。

(会場拍手)

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