これからの時代に買われる上司・捨てられる上司

井上和幸氏(以下、井上):今日はコミュニケーションがベースですから、その観点からになると思うんですが、曽和さんとしてはどういう方が求められて、どういう方が求められないのか。

曽和利光氏(以下、曽和):昔はすごく良くて今はダメなので言うと、「一将功成りて万骨枯るタイプ」というか。

井上:なるほど(笑)。

曽和:人を使い捨てにして成果を上げる人っていたじゃないですか。僕らみたいな氷河期世代や団塊ジュニアは(出生数が)200万人とかいたので、まあまあ使い捨てにしても、死屍累々でも、なんか結果は良かったというか。

育成の仕方も、獅子は千尋の谷に子を突き落として上がってきた者を育てるみたいな。育成というよりは、選抜の論理でやってもいけていた時代もあったと思うんですよね。

ただ、今は大事なものがいったい何なのかで言ったら、人が足りなくて困っているわけですよね。昔から人は重要なリソースなんですが、僕らの時代ははっきり言うと、今と比べて相対的に見れば大事じゃなかったと思うんですよね。

だから、選抜の論理で上がってきたやつを使い潰して、ダメになっていくやつは「あいつらは負け犬だ」みたいな。そこまで言わなかったかもしれないですが、なんとなくそんな雰囲気が昔はあったような気がするんです。

短期的な成果を出しても組織を潰す“ダメなリーダー”

曽和:今は、短期的な成果を出しても組織を潰しちゃう人やリーダーは、むしろダメなリーダーというか、すごく問題リーダー・マネージャーとして扱われていて、排除の対象になっているぐらいの会社が多いように思います。だから、もちろん短期の成果も大事なんですが、むしろ人材育成のほうが大事というか。

三隅二不二さんのPM理論では、「パフォーマンスとメンテナンス、両方あったほうがいい」という話だったけど、PMの「P」が強いマネージャーが昔は多かったような気もするし、そういう人たちがけっこうガンガン出世していた気もするんです。

(今の時代は)どっちかと言うとメンテナンスと言うか、Mタイプの人が求められてもいるし、実際にそういう人じゃないと組織がどんどん潰れていっておっつかないし、人も入ってこなくなる。

これは極めて外部環境によるものだと思うんですが、今のような人手不足と言いますか。リクルートワークス研究所のやつでは「2040年には1,100万人の労働者不足だ」と。

2030年でも341万人ぐらいいなくなる。2030年なんてすぐですよね。もうあと5、6年先なんですが、それでも300万人が足りないという時代においては、人を使い潰していくような「一将功成りて万骨枯るタイプ」はダメなんだろうなと思いますね。

井上:おっしゃるとおりですね。特に今日は(参加者が)リーダー、幹部、経営者の方たちなので、なおさらその部分は強いかもしれないですね。

曽和:転職とか昇進のことなんですが、例えばマネージャークラスの人を採用する時に、もちろん「どんな実績を出したか」も、ヒアリングするべきだとは思うんですが、採る時には「どんな人を育てたか」が実績というか、そういったことを見てくことが重要。

経営者の方が「誰を管理職や幹部に上げていくのか」とか「マネージャークラスの人たちを採っていく」といった時に、人を潰しながら実績を上げていく昔ながらのような人を採っちゃうと、下手すると組織がぐちゃぐちゃにされてしまうこともあったりすると思うので。

井上:きっとそれはおっしゃるとおりですね。そういったところに気をつけていただいたほうがいい会社さまや経営者、採用の方もいると思います。

なぜかリーダーに抜擢されない人の特徴

井上:全部じゃないんですが、感覚的にはわりと……言い方がアレかもしれないんですが、非常にいいサービスを展開してるとか、伸びていらっしゃる会社の採用で見ていると、無意識的なところも含めて、その部分は昔に比べても最近はよく見てらっしゃるようにはなってるなと、僕はお手伝いしていて感じますね。

なので、典型的な言い方を少しデフォルメして言ってると理解してほしいんですが、内資・外資議論も本当はあんまり好きじゃないんですけど、外資だと、例えば曽和さんが言うところの「万骨枯るタイプ」みたいな。

1つの傭兵部隊みたいなところで、セールス、マーケ、ファイナンスが短期決戦的に動き回ってかたちにはするとか、数字は出すみたいな感じの人は、マネジメントだろうが若手だろうが、実は傭兵的に採られてるんですね。

日経企業は総じて言うと、やはり曽和さんが言うとおり、そういう人は組織的な観点で非常にハレーションを起こしたりするので、そもそも採らない。

マネジメントでなので自分はそれをやらせてほしいと思ってるんだけど、中核の業務や1つ上のポジションにアサインをしてくれないということで、転職を考える方がいらっしゃるんです。

全部がそうじゃないんだけど、わりとちゃんとした方なのに、なぜかマネージャーから部長に抜擢されないとか、部長から役員に抜擢されないというタイプの中には、今言ったところがすごく含まれてるんですよ。

曽和:西郷隆盛の「功ある者には禄を与えよ、徳ある者には地位を与えよ」という話と同じ。

井上:さかのぼると、徳川家康は一応そうしたらしいですけどね。

曽和:そうなんですね。でも、サイバーの藤田(晋)さんも似たようなことをおっしゃっていて、時代が変われども同じなのかなっていう気はします。

井上:昔だとそういうふうに使っていたものが、もしかしたら「碌禄で遇する」みたいなものに対しては、社内という意味で言うと、昔に比べてハードルが高くなってるような気はしますね。

人事制度を設計する際によくある課題

井上:逆に言うと、仮にそういうタイプを機能的に使うんだったら、外部の人として契約するとか、コンサルというかたちで関わってもらうとか、今はそうなっていってる気がします。

曽和:いわゆる普通の派遣じゃなくて、スペシャリストの専門家の派遣とかも出てきてますもんね。

井上:増えてますね。そういう組み合わせでお互いにちゃんと成り立つのであれば、そのこと自体は別に悪いことだとは思わないですけどね。ただ、そういうことだけで物事を動かしたり、みんなで作ったりすることができるかと言うと、なかなか難しいかもしれないですよね。

曽和:そうですね。実際に人事制度を作る時にもよく出てくる課題としては、プレイヤーとしてはすごいんだけど、管理職適性で言うとどうか? という人たちをどう遇するか。それを制度に反映したいというニーズって、もうあるあるですよね。

井上:あるあるですよね。

曽和:だから、それも今言ったようなことを表してるというか、そこから出て来てる現象なのかなとは思っています。

井上:ちなみに、曽和さんはそういう場合にはどう設計されるんですか? あまり一言で言えるものじゃないかもしれないですが。

曽和:例えば禄の話で言ったら、素朴に考えて「上のグレードのほうが給料が高い」という感じがあるじゃないですか。ブロードバンドにして重なってるというか、上から下の幅がありますよね。それをけっこう長めに取っておくと、グレードや職位は上がらないんだけれども、報酬は上がり続けることはできるというやり方。

これはテクニカルな話ですが、例えばそんなふうに解決するようなこともあったり、ダブル・ラダーでグレードを定義してやってくというのもあったりもします。

井上:成果は成果で見るっていうことですね。

360度評価によって隠れた問題点があぶり出されることも

井上:でも、成果を出した結果、まさしくチームが崩壊しちゃったりとか。これは難しいですが、あるあるで、成果を出したふうなんだけど実はフリーライドしたり、本当は後始末があるのにそこはやらずで食い逃げしていくとか。けっこうありますが、そういうことに対してはどう設計すればいいですか?

曽和:本当はトップが見ておかないと難しいなと思うのと、昔からある評価方法なんですが、360度評価を導入している会社がまた増えてる気がするんですよね。

井上:確かにそうですね。

曽和:調査はちょっとわからないので、僕が見てる限りなんですが。さっきのと少し矛盾するようですけど、上から見ていると、上向きのリーダーシップがある人だけが出世したり、あるいは人は育てないんだけど、わかりやすい成果を残す人だけがやるということなんです。

「お天道様は見ている」みたいな感じで、360度でやれば、上からだとすごく成果を出していて「すげぇな」としか見えない人の問題点や欠陥が炙り出されることもあって。

だから、360度を直接的に報酬に結びつけるかどうかは別としても、特に昇進・昇格の時の判定基準で使ってるところや、育成で使ってるようなところは本当に増えてる気がします。リクルートって、もう死ぬほど360度をやる会社だったじゃないですか。

井上:そうですね。

曽和:なので、僕らにとってみたらもう何十年も前からあるし、方法としては昔からあるんです。だけど、若いベンチャー企業でもよくやりますし、増えてますよね。

井上:全員が、なるべくちゃんと正しい姿を理解できているような状況にする。だから360度がいいと思うし、平素の業務の進め方がなるべくオープンで、変な1on1でそこだけしか見えない中で、もしかしたら捻じ曲がったことが行われてることがないようにするのが大事な気がしますよね。

曽和:そうですね。

井上:わかりました。